オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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7話

「何時まで、不貞腐れているつもりだい?」

 

「不貞腐れてねぇよ。イラついてるだけだ」

 

一通りモンスターを駆除した俺達。

しかし、ガレスの機嫌は未だに治る事はなく、フィンが宥めている状態だ。

 

「すまんな。ダンジョンの中だと言うのに……」

 

「まあ、気持ちは分かるからな……。

しょうがねぇだろ」

 

そして、俺とリヴェリアは倒したモンスターのドロップアイテムと魔石の収集を行っていた。

 

「ほう…英雄殿も苦手な物があったと?」

 

「あのな…俺も人間だぞ?苦手な分野があって当然だろうが」

 

意外そうな表情で俺に質問してくるリヴェリアに苦手な分野があると告白する俺。

大学の経済学の講義は苦手だったし、数学も好きではない。

逆に料理のような物作りが好きだ。

 

子供の頃は害獣対策の罠を作って遊んだ事もあるしな。

スパイ大作戦みたいで面白かったのをよく覚えている。

 

「まあ、それが当然なのだがな……」

 

言いづらそうにしているリヴェリアの様子を見て何が言いたいのか察した。

悪かったな人外の化け物で。

 

「あー……それ以上は自覚しているから言わないでくれると助かる」

 

「わかった。それと言わない代わりに槍裁きを少し教えてもらえないだろうか?

私も近接戦闘が出来ないと、この先は厳しいからな」

 

「了解した。あまり参考にはならないと思うがやってやるよ」

 

魔石を取り終えた俺たちは、フィンとガレスの話が終わるまで槍術の訓練を行う事になった。

なったのだが………。

 

「つまり、こういう事だな?」

 

「あ、ああ…すごいな、お前」

 

少し教えただけで、すぐに吸収するリヴェリアに器用さに脱帽した。

何なの、この子。

俺のつたない指導と実演だけで覚えるとか、実はコピー忍者?

俺と同じチートなの?

 

「なに、お前の動きは後方からよく見えるのでな。

それなりに観察して覚えていたんだ」

 

「いやいや、それでも十分規格外だと思うぞ?

見た目も美人で頭も良くて器用とか……お前にこそ苦手なものがあるのかよ?」

 

「ん?何だ突然?もしかして、私を口説いているのか?」

 

俺の疑問に疑問で返した得意顔のリヴェリアの顔にイラっと来た俺は彼女の問をバッサリと切り捨てた。

 

「口説いていねぇよ」

 

「そ、そうか……すまん。

最近、一人で食事に行ったり、アイテムの補充に行くと口説かれる事が多くてな……つい、勘違いをした」

 

あまりにもバッサリとした答えが返って来たからか?

リヴェリアはショックを受けた表情をしており、エルフの特徴である名が耳も心なしか垂れているようにも見える。

い、言い過ぎたか?

まあ、リヴェリアはとても美人なエルフだ。

故に、自分はモテているというプライドの様な物があったかもしれない。

傷ついた様子のリヴェリアの反応に戸惑いを覚えた俺は、すぐさま彼女をフォローした。

 

「ま、まあ、お前は知的で美人でそんな感じに表情を変えると可愛いし、口説かれたと勘違いしてもしょうがねぇよ。

だから元気出せって!」

 

「な、な、な……何を言っているんだ貴様!!?」

 

女性を宥めた経験が全く皆無だったせいだろうか?

彼女は怒りからか?それとも俺のフォローが恥ずかしかったのか?

知的で冷静な彼女は、美しい顔と長い耳を真っ赤にさせて俺の顔面に杖を振るった。

 

「ぶへぇ!?」

 

彼女に教えた槍術が、俺の顔面を強打。

避けようと思えば避けれたが、自分が悪いので甘んじて彼女の一撃を受け入れた俺は後方へと鼻血を垂れ流しながら、ぶっ飛んでいく。

この一撃は……そう、野球で例えるならホームランを狙える一撃だった。

お前……魔法職だよね?

 

「……君たちは何をやっているんだい?」

 

「リヴェリア……アイツもクーと同類だったのか」

 

そして、リヴェリアの咆哮を聞いてやって来たであろうフィンとガレス。

フィンはこの光景に呆れ、ガレスはリヴェリアの実力に驚愕していた。

あの…誰かポーションか回復魔法をくれませんか?

鼻血が止まらないんです。

 

 

 

 

 

「す、すまん。やりすぎてしまったようだ。

だ、大丈夫か?」

 

「ああ、ポーションをくれたお陰様で鼻血は止まったよ」

 

「ガハハハハ!ざまぁないな、クー・フーリン!!なんだ?お前は女に弱かったのか?ん?

娼館ギルドに連れて行ってやろうか?」

 

「おい、ケンカなら買うぞ…この飲兵衛ドワーフ!!」

 

鼻血もようやく止まり、ダンジョンを出る事にした俺達は10階層へと上がっていた。

この単純ドワーフは鼻血まみれの俺を見て悩みを解消したようだ。

フィンの努力は一体なんだったのか?

 

「はは…は…。いいさ、ガレスが元気になってくれれば僕は……。

でも鼻血でなんて……」

 

俺とリヴェリアは中年の様に老け込んだフィンの後姿に同情を禁じ得ない。

こんな感じで緊迫感のないまま上層に向かう俺達の後ろから、危険はやって来た。

ダンジョンは危険地帯、何時いかなる時も注意せねばならない。

俺は後ろを振り向いてその事を思い出した。

 

「この馬鹿ボールスがぁああああ!!」

 

「すんませぇぇぇぇぇええん!!!」

 

「ひぃいいいいい!!」

 

三人の冒険者がモンスターの大軍に追われて走ってくる。

オーク、インプ、シルバーバックが混在する大軍。

だが、そいつらよりも恐ろしい巨大な存在が大軍の後ろから迫っていた

 

『グオォオオオオ!!』

 

RPGにて強大な敵として出現する長い首を持つ、四足歩行のモンスター。

 

ドラゴンだ。

 

「クー・フーリン!?後は任せたぁああああああ!!」

 

「先輩!?マジっすかぁあああ!?」

 

「後は頼んだぜぇええええ!!助けを呼んできてやるから、金をくれよなぁああああ!!」

 

「ボールス!!お前はクズすぎぃいいいい!!そこの皆さん、ごめんなさぁああああい!!」

 

ああ、これはギルドで聞いたことがある。

これは怪物進呈。

 

さすがにこれはヤバい!!

幾らチートな俺でも、ヤバすぎる!!

かつてアニメのキャラは言った。

 

『戦いは数だよ兄貴!!』

 

本当にその通りだよ!!

俺達の前を走り去る三人に怒りを覚えたがそれどころではない。

 

「撤退だぁああああ!!」

 

フィンの叫びにより上層へと駆けだす俺達。

しかし、奴らはすぐそこまで来ている。

上層への入り口の距離を考えると、フィンたちは間に合わない。

逃げ切れるのは俺だけ。

 

どうする?

ここで一人逃げ切るか?

 

うん……ないな。

 

俺は立ち止まり、後ろを振り向く。

 

目の前にはモンスターの大軍。

またも逃げ場はなし。

 

ついていないと言えばいいのか仲間を守れて運がいいと言えばいいのかわからねぇな。

 

「クーさん!!?」

 

「テメェ!何を考えてやがる!!」

 

「馬鹿な真似はよせ!!」

 

俺の後方数メートル先で、怒鳴り散らすフィン・ガレス・リヴェリア。

うむ…これはアレだな。

人生で言ってみたいセリフランキング上位のアレを言うべき場面だ。

 

「ここは、俺に任せて先に行け!!

安心しな!すぐに終わらせて追いかけてやるよ!!」

 

そう、俺の精神が未熟ではあるものの肉体そのものは神話に語り継がれる大英雄。

だから、生き残る事に特化している…はずだ。

しかし……。

 

「……悪いけどその指示には従えませんね」

 

「お前にばっかり、いい格好をさせてたまるかよ」

 

「マインドダウンは確実だが、広範囲殲滅魔法を使用する。

お前の槍による投擲と合わせたら大分削る事が出来ると思うぞ」

 

俺の言葉は一蹴され、メンバーは覚悟を決めてやる気に満ち溢れていた。

 

ならばもう、こちらからは言う事はあるまい。

 

俺は迫りくるモンスターたちに向かって投擲の構えをとる。

 

「俺の全魔力をくれてやるから、ありがたく思いな!

狙いは必中、穿つは心臓……ゲイ……」

 

勢いよく魔力を槍に注ぎ込む事でいつも以上に紅く光り出す。

俺の行動を見たフィンとガレスは俺のうち漏らしたモンスターが来た時の対処に備える。

 

モンスターと俺達の距離は残り数メートル。

 

後、三歩進めばオークの武器が俺達に届く。

 

3…。

 

まだだ。

 

2…。

 

良し!!

 

1……。

 

「ボルク!!!」

 

オークの持っていたこん棒の様な武器が振るわれる直前。

かつてない程に魔力が込められた槍は、目の前のオークとその周囲のモンスターを蹴散らしながら中心にてドーム状に爆発。

爆風と粉塵に耐えた先で俺達が見た光景は……。

 

まだまだ、こちらに向かってくるモンスターの集団であった。

 

おいおい……ほとんどの魔力を使った全力投擲だぞ?

あれでもまだ足りないのかよ……。

半分は削れたと思ったんだけどな……。

 

もはや魔力はほとんど残っていない。

マインドダウン寸前だ。

 

だが……俺達にはまだ、第二弾があるぜ!!

 

「―――焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ!!」

 

リヴェリアの詠唱魔法によりモンスターの足元に出現する巨大な魔法陣。

 

「レア・ラーヴァテイン!!!」

 

リヴェリアによって発動された広範囲殲滅魔法。

殲滅魔法と呼ばれるだけあって、その威力はすさまじいの一言だ。

 

魔法陣からいくつも出現する巨大な火柱は地面とモンスターを悉く焼き払う。

 

範囲だけなら俺の投げボルク以上だ。

 

つーか、俺の槍は無事だよね?

一応壊れないらしいけど大丈夫だよね?

 

ドサリと倒れてしまったリヴェリアの元に向かいながら、槍の心配をしていると。

真剣な顔をしたフィンが俺に声を掛ける。

 

「リヴェリアをよろしくお願いします。

ここからは僕たちの役割です」

 

「おいおい……マジでドラゴンって奴は化け物だな…」

 

フィンが視線をよこした先を見ると、翼のない白いドラゴンが片足を引きずりながらもこちらに向かっていた。

俺はドラゴンの耐久性に呆れた。

あれじゃあレベル3のパーティでも厳しいんじゃないか?

俺はドラゴンの耐久性に驚いていたがガレスの言葉で納得する。

 

「いや、奴は他のモンスターを肉の壁にして逃げやがった。

まともに食らっていたら、ほかのモンスター同様に塵となって消えているはずだ…たぶん」

 

仲間を犠牲に生き残る。

生き残った事には納得したものの胸糞悪い話だ。

 

「インファント・ドラゴン…上層の階層主とも言われているレアモンスター。

二人の攻撃でわずかながらダメージも負っているようですし、僕たちも働かないとクーさんとリヴェリアに申し訳ない」

 

「久々の冒険だな!!」

 

ニヤリと笑った二人はドラゴンに向かって炎で燻る大地を蹴りながら突き進む。

ガレスが品がなくニヤリと笑うのは違和感がないが、いつもニコニコ顔のフィンがやるとギャップが凄まじい。

ショタコンの男女が見たら、涎ものではなかろうか?

 

自身のバックパックからポーションを取り出して一気に飲み干す。

ポーションによって槍を戻すだけの魔力を回復させた俺は槍を手元に戻して周囲を警戒しつつ、二人の戦いを鑑賞する。

 

フィンがドラゴンを翻弄しつつ、ドラゴンの隙を作って、ガレスが有効打の一撃を与える。

巨大なモンスターを相手にするのには理にかなった戦略だ。

 

これなら俺が急いで加勢する必要性はないな。

 

この後、二人は同時にドラゴンの頭部に斧と槍を突き立て、見事に勝利。

俺は身長の問題でリヴェリアを背負うという役得を楽しみながら無事に地上へと帰還した。

 

 




戦闘描写についてはいつか、書き直しを考えております。

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