オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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連続更新の為、5話から見る事を推奨します。


6話

ランクアップした俺は発展アビリティ『耐異常』と無詠唱魔法『戻る武器』≪バックウェポン≫がステイタスに追加された。

そして、ランクアップがギルドから公式に発表される事になった俺はオラリオで最も注目が集まる冒険者となった。

 

 

 

同盟を結んだ事により定期的にロキ・ファミリア友人たちとダンジョンに潜っている俺は、初めて店で働こうとデメテルとホームを出た。

遠回りしたが、本来の目的である商売に本格的に関われるぜ!!

ダンジョンで戦う時のようにワクワクした気持ちで、デメテルとホームから出た俺は絶句した。

 

「是非!デメテル・ファミリアに入れてください!!」

 

「何を抜け駆けしてやがる!!俺です!!俺を入れてください!!」

 

「黙っていろ、クソ野郎!!僕を入れてください!!決して損はさせませんよ!!」

 

「体力には自信があります!!」

 

なんと、ホームの前で沢山の入信希望者が集まっていたのだ。

その規模は軽く見ても50人を超える。

 

入信希望者は素直に嬉しい。

しかし、これは集まり過ぎだ。

そして何よりうるさい。

 

このままだと、ご近所さんからの苦情が待ったなしで、下手をすれば追い出される可能性もある。

 

こうして、俺の初めてのお店デビューは中止が決定し、俺達は入信希望者の面接を行う事になった。

 

ちきしょう!!

 

 

………。

 

 

 

俺達は、ホームに一人ずつ招き入れて入信の動機と特技を簡単に質問していたのだが……。

 

入信動機

 

「このファミリアでダンジョン探索がしたいからです」

 

「ダンジョンで一山当てたいからです」

 

特技

 

「武器は剣が得意です」

 

「魔法が使えます」

 

ふざけんな!!このファミリアは商業系ファミリアだっつーの!!

四人目あたりでキレそうになる俺だが、ダンジョン探索目的で希望する人間が多いのは俺のせいだ。

 

俺が最速でランクアップした世界記録保持者になった事で、俺の名前と共にこのファミリアは有名になった。

故にジャガ丸くんがいくら売れていようが、彼らの注目はどうしても俺に集まるわけで、デメテル・ファミリアがダンジョン探索メインのファミリアだと勘違いさせてしまったのだ。

 

この勘違いを教える為に、ホームの外で待っている連中にファミリアの目的と活動内容をしっかりと説明することにした。

 

「このファミリアは商業系のファミリアでダンジョン探索はメインとしていない!

デメテル・ファミリア目的は野菜と果物を育て販売すると共に、栽培した野菜や果物を加工した食品の販売だ!

ダンジョン探索はあくまで、俺の趣味と資金調達の為に潜っておりデメテル・ファミリアでは探索を行わない!」

 

俺の説明を理解した彼らは、「時間を無駄にした」「期待させやがって」等々の文句を垂れ流しながらホーム前から去って行った。

ぞろぞろと沢山去って行く中で、17人の男女が残った。

 

俺とデメテルはこの17人も残った事に驚きつつも喜んだ。

 

「じゃあ、面接を再開するから、順番に入って来てくれ。」

 

再開した面接…結果は全員合格。

 

彼らはジャガ丸くんのファンであり、自分たちもジャガ丸くんの様な食べ物を作りたいと思って入信を希望してくれたようだ。

故に、ファミリアの活動目標を聞いて自分たちで作る野菜で創作料理を商品として提供することに燃えている。

 

やる気に満ち溢れた彼らを諸手を上げて歓迎した俺達は、全員で住める中古の屋敷を即日購入した。

 

結果、それが俺達の財布を圧迫し、俺はまたしてもダンジョン漬けの毎日になりましたとさ。

 

 

 

 

俺とデメテルが住んでいた前ホームの荷物を古い洋館である新ホームへと移動させた。

眷属となった20人はデメテル主体で俺が考案した新メニューであるポテトチップスとフライドポテト、さらにはジャガ丸くんを作る練習を行っていた。

 

みんな、力を合わせて料理をし、少ない練習用のジャガイモで塩加減や揚げる時間について語り合い試行錯誤している。

 

その光景はかつての文化祭を思い出し、俺も浮足が立つ。

俺も仲間に加えて欲しいのだが……。

 

「じゃあ、クー。ここは私たちに任せてダンジョンで稼いできてね」

 

『社長!!いってらっしゃい!!』

 

材料費を稼ぐ為にダンジョンへと向かう事に……。

ああ、俺も参加したい。

 

ファミリアの仲間達に見送られながら、ダンジョンへと向かう俺であった。

 

………。

 

「ははは、それは贅沢な悩みですね」

 

「ああ、真面目に働いてくれる女神が居るだけでも実に羨ましい話だ。

今からでも交換しないか?」

 

「俺は商売よりも冒険だな。

いっそ、こっちに専念したらどうだ?

アンタなら相当な戦果を出せると思うぜ」

 

なんとも言えない心の内をフィンとリヴェリア…ついでにガレスに漏らすと贅沢だと言われてしまった。

まあ、彼らの財政状況をそれなりに理解しているので、言われてもしょうがない

 

「そうそう、僕らのところにも新人が入って来たんです。

今は体力づくりをしていますが、それなりに仕上がったら、ダンジョンに連れてきますんでよろしくお願いしますね」

 

「おいおい、それは団長であるお前の仕事だろ?」

 

「いやー、クーさんの近くに居れば色々と勉強になると思いまして……」

 

「…勝手にしろ。その代り、店がヤバい時はいつも以上にこき使ってやるからな」

 

「あー…死なない程度にお願いします」

 

苦い顔で了承するフィンと眉を顰めるリヴェリア、そして絶望の表情を浮かべるガレス。

彼らは同盟の規約により、俺とPTを組む代わりに店のバイトをしてもらっている。

店の忙しさが特にヤバい状態に陥った時、彼らはすべての予定をキャンセルし、店の援護に回らなければならないのだ。

勿論バイト代は正規の値段で支払われる為、収入が不確定のダンジョン探索よりは安定した収入を得られるので損はない。

ただ……終わりが見えない地獄ではあるとは、彼らの証言である。

俺はダンジョンで女戦士と戦っていたので詳しい話は知らない。

 

「では、そろそろ11階層に降りますか」

 

「おう」

 

アヴィリティが大幅に上昇した彼らは俺と組む事により11階層へ進出を許可された。

ここからは大型モンスターが出現する。

気を引き締めていかないと……。

 

―11階層―

 

階層の入り口を入ると、そこには草の生えた大地と実と葉も付けていない枯れ枝の様な木がそこら中に生えていた。

僅かに霧がかっているが、この階層は10階層と同様にとても広くて暴れやすい空間となっていた。

 

「迷宮の武器庫……あの木は全部モンスターの武器になるらしいですよ」

 

「大型モンスターに持たせたら面倒だな……さっさと破壊するか?」

 

フィンの言う天然武器ともいわれている木を破壊しようと提案するも、遅かった。

冒険者が見当たらないのか、なぜか豚の怪物…武器を持ったオークの集団が俺達の前に姿を現したのだ。

その数は……5匹。

 

「いや……どうやら、その暇は与えてはくれないらしい」

 

「上等だ!!みんなまとめて、脳天をかち割ってやるよ!!」

 

「「「「「ブフォォオオオオ!!!」」」」」

 

響き渡るオークの咆哮に怯むことなく突き進む、俺とフィンとガレス。

後方のリヴェリアは詠唱に入った

 

「オラぁ!!」

 

俺は一番左端のオークに向けて槍を投擲。

俺の腕から解き放たれた槍は吸い込まれるように脳天に直撃。

槍はオークの頭蓋を貫き、そのまま後方の地面に突き刺さる。

 

「まずは一匹!!」

 

「馬鹿やろう!!武器を手放してどうするんだ!?そっちに二匹も向かったぞ!!」

 

オークの攻撃を斧で受け止めているガレスに怒鳴られると、確かに右側からオークが二匹、こちらに向かって突進してくる。

俺はその光景に焦る事なく武器に左手をかざして念じる。

 

戻ってこい!!

 

無詠唱魔法≪戻る武器≫により、地面に突き刺さった槍が勢い良く、かざした手に戻って来た。

 

「そらぁ!!」

 

手に戻って来た槍でオークの顔を横一線に薙ぎ払う。

槍によって切断された二匹のオークの鼻から上の頭部は薙ぎ払われた方向に吹っ飛んでいった。

体は鮮血をまき散らしながら、地面に崩れ落ちて体は魔石へと姿を変える

 

「おいおい!今度は何を覚えた!?この、出鱈目野郎!!」

 

「ガレス!そろそろリヴェリアの詠唱が終わる!!さっさと引かないと巻き添えになるよ!!」

 

フィンの声掛けによって後方へと退避する俺とフィンとガレス。

俺達が魔法効果範囲外に出たのを見たリヴェリアは、オークを巨大な氷の中へと閉じ込めた。

 

あれって魔石の取り出し出来ないから困るんだよなぁ。

 

「…クーさん。

さっき槍を回収したアレって……」

 

「フィン。あれはおそらく無詠唱魔法だ。

威力や効果はあまり期待できないが、魔法名も呪文も必要としない魔法なのだが……。

武器を回収するその魔法はクーにはピッタリの魔法だな」

 

フィンの疑問に答えるリヴェリア。

彼女とフィンは感心した表情で俺を見ているが、ガレスは違った。

俺の顔を睨んでおり、その表情は不満気だ。

 

「…っち。なんでテメェばっかり」

 

「ガレス。こればかりは資質の問題だ。

人が平等でないように、彼の進む速さが我々とは違うのだ」

 

「んなことは分かってんだよ!!クソエルフ!!」

 

不貞腐れるガレスを見て思い出す。

俺も中学の時に、経験した。

どんなに頑張っても報われない、どんなに頑張っても追い越せない壁。

羨ましくて憎らしい。

そんな嫉妬の感情を。

 

そんな彼をみてリヴェリアもフィンも思う所があるのだろう。

不貞腐れるガレスに、誰も声を掛ける事はなかった。

 

 

 


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