オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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5話

オラリオでダンジョンに潜って数日。

脅威的なステイタス上昇をしてランクアップを控えた若き大英雄クー・フーリンは、沢山のウォーシャドウに襲撃された。

襲撃された彼は、後に刺し穿つ死棘の槍…ゲイ・ボルクと呼ばれる槍に魔法を乗せて危機を脱出したのだったが……。

後の友人となる当時、第二級冒険者だったドワーフの女戦士と衝撃的な出会いをするのであった。

 

 

 

 

「本当にすまない」

 

「本当だよ……まったく。

次やったら斧のサビにしてやるからね」

 

「いや、本当にすまん」

 

恰幅の良い女戦士に営業のサラリーマンの様に謝り倒した俺は、事情を話すことでようやく許してもらえた。

 

「それにしてもアホみたいな威力の魔法だねぇ。

アンタ、レベルはいくつだい?」

 

「ミア団長、気になるのは分かりますが、さすがにレベルを聞くのは失礼ですよ」

 

「あー、悪いな。そういうのは家の女神もダメだって言われているから答えられねぇんだ」

 

「言ってみただけだよ。答えたら儲けもの、聞くだけなら損はないってね」

 

筋肉の鎧に包まれた女戦士は中々頭がいい印象を受ける。

どこかのドワーフにも見習わせたいものだ。

 

「じゃあ、俺はこれで帰るわ。

騒がせて悪かったな」

 

俺は腰に装備してあるバックパックから100ヴァリスを取り出し、彼女に投げ渡した。

100ヴァリス硬貨を受け取った彼女は不思議そうな顔をして俺に尋ねた。

 

「ちょっと、私はあんたを許したはずだよ?」

 

「なに、女がそんなボロイ格好してたら不味いだろ?

それで風呂にでも入ってくれや」

 

俺が彼女の疑問に答えると猛獣のようにニヤリと笑った。

 

「へぇ…アンタ、見どころがあるじゃなか。

名前は?」

 

「デメテル・ファミリア所属のクー・フーリン」

 

振り返って名前を名乗ると彼女は一瞬、呆けた表情を見せたが再びニヤリと笑い、背中に担いでいる斧の柄に手を掛ける。

 

「へぇ…あの有名な英雄様だったとはね……。

じゃあ、さっきの言葉は前言撤回だ。

あたしと戦いな…クー・フーリン」

 

「…何でだ?」

 

彼女から溢れるただならぬ圧力。

さっきまでいい感じだったのに何故だ?

俺の質問に答えた彼女の答えはとても単純なものだった。

 

「なに、英雄として有名なアンタの力にどれだけ通用するのか試してみたいっていうのと、丁度レベルの上昇に悩んでいてね。

何かランクアップのきっかけが欲しかったのさ!!」

 

そして、彼女の言葉と共に振るわれる大きな斧。

やべぇ!?

 

逃げないとヤバいと感じた俺は後方に跳ぶ事で避ける。

斧の重量によるものなのか、それとも彼女自身の力によるものなのか、斧の一撃は中々に速くて地面に直撃すると大きな破砕音と共にクレーターを作った。

 

「殺す気か!?」

 

「はっ!?魔の森と呼ばれた場所を走破した英雄様が何を言ってるんだい!?

次行くよぉー!!」

 

振り下ろした斧を棒切れの様に構え直した彼女は、必殺の一撃を俺に向かって振り下ろす。

そして、同じように避けた俺を見た彼女は下した斧を振り上げる事で追撃する。

 

「あぶねぇ!?」

 

顔面に迫りくる斧の刃を槍を水平にすることで受け止めるが、空中に居る為に踏ん張る事が出来ずにそのまま上に打ち上げられる。

 

「マジかよ!?てめぇ、一体どんな力してやがる!?」

 

「はっ!?そのあたしの一撃を受けても槍を手放さない男が何を言ってんだい!!」

 

クソが!!王国で襲撃してくるアレス並みのピンチじゃねぇか!!

体をひねり、天井の壁を足で付けて、ジャンプするように蹴る。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

「は!ようやく向かってきたのかい!?」

 

そして、向かってくる奴の斧にめがけて槍を突く!!

 

「甘いよ!!」

 

「はっ!お前もな!!」

 

突き出した槍を斧で横に弾かれた後、無理やり体をひねって蹴りを叩きこむ。

が、腕でガードされる。

 

「空中であんな動きをするとか……この、化け物め!!」

 

「うるせぇよ!!怪力女!!お前の方こそ化け物だろ!!」

 

地面に着地した後、お互いに距離をとって武器を構える。

 

「アンタ…本当におかしな奴だね……。

戦う一合一合で強くなる……まるで体のズレを修正している感じだ。

そして力の入れ具合がてんでバラバラ。

力を持て余しているようにも見える……。

ランクアップしたばかりなのかい?いや…それにしても力の使い方が下手過ぎる……。

アンタ…もったいないねぇ。

あんたが自分の力を制御出来れば、あたしなんて瞬殺もんだよ」

 

「余計なお世話だこのアマ。今日の朝にステータス更新してランクアップ申請したばかりなんだよ」

 

「なるほど。でも、それだけじゃないような気がするのはあたしの気のせいかね?」

 

「ああ、気のせいだ!!この化け物!!」

 

「うるさいね!!この化け物!!」

 

お互いが武器を構えた状態で接近を開始する。

そして……観戦していた青年から聞きづてならない一言がつぶやかれる。

 

「俺達から見たら、どっちも化け物だ」

 

「「何だとテメェ等ぁああああ!!?」」

 

俺達は同時にギョロリとつぶやいた獣人青年を睨む。

これにはヤバいと思ったのか隣にいた人種の青年が獣人の青年に慌てて謝るように促す。

 

「等って何ですか!?等って!?俺何も言ってないですよ!?

オッタル!?お前なんて事を…謝れ!!俺も確かに思ったけど、団長とクー・フーリンさんに謝れ!!

って!?凄い勢いでこっちに来てるぅぅううう!!?」

 

二人の青年をコテンパンにした俺達は、上層へと帰還してそれぞれのホームへの帰路へ着いた。

 

 

 

 

 

「残りのジャガ丸くんは30個でーす!!今からお一人様一個となります!!

購入できなかった人には整理券を渡すので明日に来てください!!」

 

「整理券はウチが特別に配ったるから、感謝して受け取って―な!!」

 

「こら、客商売でそのような事を言うな」

 

「そうだよロキ、リヴェリアの言う通りに接客しなよ」

 

「なあ…クソエルフ。

今日はロキのバイト先を見つけたらすぐにダンジョンに潜る予定だったのに……俺達なにやってるんだろうな…。」

 

「しょうがないだろうバカドワーフ……。

ファミリアの資金をためる為にもロキには働いてもらわねばならんのだ。

お世話になるバイト先に恩を一つでも二つでも売っておけば、すぐにクビになる事もないだろう」

 

 

帰り道一際目立つ行列を見ていると、デメテルとロキファミリアが屋台で働いている姿が目に見えた。

何やっているんだアイツら……。

 

 

………。

 

 

商品が全て完売し、店を畳んだデメテル達声を掛けた俺は、事の顛末を教えてもらった。

何でも神ロキが眷属であるフィン達をつれて直々に俺に対するお礼と、儲かっていると評判のデメテルにバイトの申し込みをしに来たらしい。

だが、デメテルは仕事中であり、大忙しだった。

そこで、俺へのお礼はとりあえず置いておいて、バイトの申し込みを先にしたそうで、今日の働き次第では雇ってやるという条件の元、働く事になったのだがロキは行列を見て、自分のファミリアを巻き込んだようだ。

フィン達も働き手が少しでも欲しかったので、ダンジョンに向かうのを諦めて、行列の整備などのお手伝いをしていたらしい。

 

「いやー!アンタが噂のクー・フーリン?昨日はありがとな!!

アンタのお陰で、うちの眷属達は無事にホームに帰る事が出来た上にアビリティも大幅上昇!!

感謝感激雨あられってヤツやな!!」

 

「別に感謝はいらねーぞ?むしろ、右も左も分からない俺をダンジョンに連れて行ってくれた事に感謝している」

 

「アンタ、ええ子やな……。どうや?デメテルのところを抜けてウチのところに来るか?」

 

「雇用契約書を持ってきたけど…要らないようね」

 

「嘘嘘嘘!!冗談やって!!マジで堪忍して~な!!」

 

「すまない!神デメテル!!どうか、考え直していただけないか!?」

 

神ロキの勧誘でデメテルに引き裂かれそうになる雇用契約書。

そしてそれを見て泣き出すロキとデメテルに縋りつく、リヴェリア。

やべぇ……なんか直視できねぇよ………。

 

今のリヴェリアはまるで、ニートの息子がようやく就職したのにつまらない事でクビになりそうになり、何とか許して欲しいと謝り倒す母親のようだった。

 

その後、ニートロキ…じゃなかった。

神ロキのバイトが無事に決定し、我がデメテル・ファミリアとロキ・ファミリアは今後のファミリア運営の為に同盟を組む事になった。

 

 

 

 

ちなみに、ホームに帰還した俺のステータスがオールS…俊敏に至ってはSSへと更新されただけでなく、ちょっとした魔法も発現した事によりデメテルがしばらく口を聞いてくれなくなったとさ。

 

 




新人オッタルと女主人の現役母ちゃんが登場。

GWでどれだけ更新出来るか分かりませんが、応援よろしくお願いします。

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