オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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4話

ガレスに担がれダンジョンから脱出した俺達。

ギルドで目を覚ました俺は、フィン達から今回の報酬の5万ヴァリスから分け前を貰った。

 

俺が2万ヴァリスでフィンとリヴェリアが1万2500ヴァリスでガレスが5000ヴァリスだ。

 

ガレスは『納得がいかんぞ!!』と吠えていたが、ファミリアの為に貯金をしていた金で酒を購入した制裁処置であった。

俺の取り分が5割なのは、生きて帰れたことによる彼らの感謝の印らしい。

そして……。

 

「それにしてもあの大立ち回り、さすがは大英雄だな」

 

リヴェリアの一言によって、俺の事がガレスにバレた。

フィンは出会った頃からなんとなく察していたらしい。

フィンとリヴェリアからは出会った当初から、本物かそっくりな人物か半々だったようだが、今回の事で確信したようだ。

これで、この街で俺の事を知る神はデメテル、人間はこの三人とギルドの職員達のみ。

 

今後の生活の為にもこれ以上の人間と神には知られたくないものだ。

 

三人に口止めをした俺は、ガレスに背負われながらホームへと帰還した。

 

 

 

 

 

俺がダンジョンに潜って帰還した翌日。

出店を出す前に、デメテルの申し出により俺はステイタスの更新を行う事になったのだ。

 

鎧を脱いで上半身裸となりデメテルに背中を向け、彼女の指が触れて数秒後……。

 

「ねぇ……貴方みたいなのをなんて言うか知ってる?」

 

「あん?」

 

彼女は呆れた声を出しながら俺に問うた。

なんだ?筋肉痛になったのに全く成長しなかったのか?

未だに節々が痛いのに成長しないとはケチな恩恵だな。

 

「チートよ!!チート!!なに!?神が作った恩恵にケンカ売ってんの!!?」

 

「ほう…その様子だと、だいぶ成長したみたいだな?」

 

「ええ!ええ!成長しているわよ!!アビリティが色々すっ飛ばしての天元突破よ!!

俊敏に至ってはSよS!!一体何をしたの!?

しかもレベルが最大の一歩手前で発現するスキルが発現しているし!!

それに狂った魔法も発現しているわで滅茶苦茶よ!!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうよ!!こんなのが他の神連中に知られたら……!!」

 

栗色の頭を両手でかきむしり、胸をバインバインと揺らしながら混乱の境地に居るデメテルの意識が帰って来るのに十分以上の時を必要とした。

 

「はい、ステイタスの写しよ。

くれぐれもこのスキルについては神に知られないようにね」

 

「あいよ」

 

痴態を晒しまくった女神が何事もなかったかのように渡してきた紙にはぶっとんだステイタスが刻まれていた。

たしかに、これはチートだと騒がれても仕方がない。

もし、このステイタスが他人だったら人間ではないだろうと疑ってしまうだろう。

 

 

クー・フーリン。

 

LV2

 

力・B750

耐久・C683

器用・B728

俊敏・S961

魔力・ⅽ635

 

魔法

 

ゲイ・ボルク

 

・槍にのみ、使用可能

 

スキル

 

半神半人

 

・早熟する

 

・不完全なる不変を得て、神に至る可能性を得る

 

・生命力があふれる年齢で肉体が固定される

 

 

俺がランクアップしたステイタスをしげしげと眺めているとデメテルは真剣な表情で神の恩恵について語り出した。

 

「クー。神の恩恵とは人間に人を超えた身体能力と奇跡と魔法を授ける為だけではないの。

神が人に開く神に至る道でもあるわ。

実際に貴方たちに与えられた恩恵のプロトタイプを授けられた数千年前の英雄には、神による十二の試練を乗り越えて神に昇華した人間も居るの

でも、それは人間の器が限界に到達したからよ。

貴方の様にレベルが低い状態で発現するなんてもってのほか」

 

「ほう」

 

「だからスキルについては秘密になさい。怪しまれたらクー・フーリンだからで誤魔化しなさい。

幸い半神半人から神に至る前には選択が与えられるわ。

神に至りそうでもレベル9ぐらいまでは我慢なさい。

ちなみに、寿命もエルフ並みになっているはずだから焦らなくてもしばらくは大丈夫よ」

 

「まあ、今のところ神になるつもりはねぇからな……いいぜ、黙っててやるよ。

つーか、俺ってエルフ並みの寿命になったのか……もう十分人間を辞めた気がするぜ」

 

「元々、体力は普通の人間の領域ではなかったと思うけど……。

まぁいいわ。

じゃあ、この魔法についてだけど……。

魔法は詠唱を行う事で発動するものよ。

詠唱文はステイタスに表示されているものなんだけど……」

 

「書いてねぇな……ミスか?」

 

「ミスじゃないわよ。

これは恐らく速攻魔法。

名前を発音しただけで発動する魔法……ではないかしら?

しかし、槍を使っての魔法ね……。

気になるのならこの後、ダンジョンで試し打ちしてきたらどう?」

 

「なるほど……」

 

「あ!?そうそう!後、ついでにレベルアップの報告をお願いね!!

ちゃんと報告しないとペナルティで罰金を取られちゃうのよ!!」

 

「お、おう」

 

情報量が多くなりすぎて自分の中で消費しきれないでいる俺は、とりあえずペナルティを取られないように俺の担当であるギルド職員アイナの居るギルドに報告へと向かった。

金と言えば、昨日のジャガ丸くんの売り上げは3万ヴァリス。

見事百個を売り切った女神は、売上金すべてを賭けて勝負に出るらしい。

 

申請云々関係なく、俺のダンジョン入りは決定事項だったようだ。

 

鎧を装備して肩に槍を担いだ俺は、冒険を乗り越えた事によって昨日よりも軽い足取りでギルドへと向かった。

 

 

 

ギルドを訪れた俺は担当のアイナを呼んでもらい、個室でランクアップの報告をしているのだが……。

 

「嘘ですよね?」

 

「いやいや、嘘じゃねぇよ」

 

異例過ぎる出来事に全く信じてもらえなかった。

 

「クー・フーリンさん。確かに貴方は英雄で、怪物の宴に遭遇しながらも生き残るだけでは飽き足らず、全滅させた規格外の化け物です」

 

「いや…気持ちは分かるけどよ、化け物は止めてくれね?」

 

「確かにダンジョン初日のレベル1の冒険者がモンスターの集団を撃退した事はランクアップに値する偉業です。

しかし……煮え切らない何かがあるんです!!

私の常識を破壊しないでください!!」

 

結局、一時間による押し問答の末に、神聖文字がそこそこ読めるエルフの職員によって俺は無事にランクアップの報告が真実であると証明された。

アイナからはしぶしぶの謝罪と、エルフの職員からは世界記録おめでとうございますと乾いた笑いと共に祝福の言葉を頂いた。

精神的に疲れてしまった俺は、気晴らしにダンジョンへと向かうのであった。

 

……。

 

☆第6階層☆

 

ステイタスの更新によって上昇した身体能力を試しながら第6階層まで降りてきた俺。

そこで俺は実感した。

日本で培った人間の常識は早々に捨てるべきであると。

 

今の俺ならスクリーンで活躍するクモ男や蝙蝠男をまとめて相手にしつつ完全勝利を収める自信がある。

そして、そんな自分にワクワクが止まらない。

まったく、俺は商人になって大金持ちになる為にここに来たんだがな……。

 

どうしてこうなったんだ?

 

ニヤリと笑いながら、天井を見ると黒い影が俺を囲うようにして天井からズルリズルリと大量に降りて来て人型に変化する。

身長は俺より低く、全身は黒。

異様に長いその腕の先には三本のナイフのような指が生えている。

怪物の宴ほどではないが、多い数だ。

そして昨日と同様に退路なし。

 

「まったく……俺の人生はイベントが充実していて飽きないな!!」

 

体を回転させると同時に周囲の一番近いモンスターを5体ほど薙ぎ払った後、俺を襲い掛かるモンスター達を観察しながら迎撃をする。

そう、まるで某白いロボットに乗るパイロットの少年の様に敵の一挙一動が見える。

 

「おせぇ!!」

 

まるでスロー再生のビデオを見せられているかの様な速度で腕を振るって攻撃してくるモンスターの攻撃を俺は避ける動作をする事無く、胸を刺し貫いて処理していく。

避ける時間がもったいないと感じたからだ。

 

「オラァ!!」

 

今の俺はまさに無双シリーズのキャラクターのようであり、一騎当千とはこのことだろう。

心が…躍る!!

 

モンスターを半分ほど蹴散らした俺は後方にバックステップして一番近いモンスターを標的にして必殺の一撃を放つ為に槍を構える。

 

「食らえ…『ゲイ・ボルク』!!」

 

体の中で何かが消失した感覚と同時に突き出した槍から放たれる紅い閃光。

それは、黒いモンスターの左胸を確実に抉った。

消失したのはおそらく魔力だろう。

 

ゲイ・ボルク

心臓を必ず貫く、因果逆転の呪いの槍。

しかし、一説にはゲイ・ボルクとは呪いの槍の事ではなく投擲方法だと記されている。

 

恐らくこの魔法は、呪いの槍が存在しなかった故に発現したのであろうと俺は考えた。

 

さあ、刺しボルクの方は成功した。

次は投げボルクだ!!

 

突き出した槍を引き戻し、仲間がやられてもなお、気にする事無く突っ込んでくる薄情なモンスターの集団に向けて、槍投げの選手の様に構える。

 

「ゲイ……」

 

肩と腕の筋肉に力を籠めると、先ほどの刺しボルクのように魔力が消失する。

そして、魔力の消失は止まることなく俺の魔力がなくなればなくなるほど、俺の持つ赤い槍は血の様に紅い光の輝きが強くなる。

どうやら、投げボルクは作中の様にチャージングが可能なようだ。

 

俺の構える紅の光を放つ槍に構う事なく突っ込んでくるモンスターをギリギリまでに引きつけた俺は、溜めた筋力と魔力を一気に開放するように……

 

「ボルク!!!」

 

ブン投げた。

俺の全力で投げられた槍は、紅い軌跡を描きながらモンスターの集団に着弾。

 

「げ!?」

 

そのまま、大爆発を引き起こした。

爆風でふっ飛ばされそうになるのと爆心地から飛び散る石の破片と粉塵から両手を顔面の前でクロスさせる事で耐えた俺は、粉塵の晴れた目の前の光景に唖然としてしまう。

モンスターはもちろん地面・壁・天井が見事に粉砕されており、爆心地には紅の槍が威風堂々と突き刺さっており、俺はその威力に冷や汗を流していた。

 

もし、もう少しチャージングしていたら、俺も爆発に巻き込まれていたかもしれない。

それどころか、天井が崩れて生き埋めになっていた可能性がある。

投げボルクはもうちょっと場所を考えて使わないと駄目だな……。

 

最悪の想像をして金〇がヒュンとなった所で、槍を地面から引き抜いた俺は絶望した。

なんと、モンスターを魔石ごと滅却してしまったのだ。

 

つまり今回の稼ぎは……黒いモンスター以外で収集した魔石のみ。

ああ…もったいねぇ……。

 

完全に自業自得だが、なんとも言えない気持ちになった俺は重い足取りで上層に……。

 

「待ちな!!このすっとこどっこい!!」

 

「うおっ!!!?」

 

戻ろうとした所で、背後からブオンという唸りを上げながら振るわれる拳を野生の勘的な物で前転して回避する俺。

そして、何事かと後ろを振り向くと髪が乱れ、土や砂に汚れて怒りの形相をしている女戦士と俺を同情的な視線で眺める青年たちが立っていた。

あ……。

 

「すまん!!」

 

なんとなく事情を察してしまった俺は、彼女たちに誠心誠意の謝罪をしましたとさ。

 

 

 


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