オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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3話

ジャガ丸くんのファンから『ジャガ丸の父』と呼ばれるようになる大英雄クー・フーリン。

これは、彼がオラリオで注目を集めまいと、ロキ・ファミリアの勇者達と共に幼名で活躍した初めての冒険の物語である。

 

 

ギルドから出てきた俺とフィンはギルド前で待っていた、ロキ・ファミリアのメンバーの二人と顔合わせをしていた。

俺の隣にいるフィンはニコニコとしているが目の前の男女二人はとても厳しい表情を浮かべている。

ロキ・ファミリアのメンバーはフィンを入れて三人。

目の前のドワーフの男と美しきエルフの美女。

 

大学のオタクの友人よ。

お前がタブレットを破壊してまで、出会いたかったエルフに俺は出会えたぞ。

 

「フィン…お前は確かに入団テストで俺を打ち負かした挙句にチームリーダーになった。

そして、お前の実力を認め、指示に従うと言ったな?」

 

「そうだね」

 

「なのにいきなり、何やってんだお前は!?

今日はお前がモンスターとの戦闘になれる為の実践訓練を行う予定だったのに、よそのファミリアの男を連れ込んでくるんじゃねーよ!!

しかも報酬が等分?お前が入信した事で増えた家賃と食費はどうするんだよ!!」

 

俺を指さしながら怒り狂う、盾と斧を装備したドワーフの男。

安全性を上げる為に便乗した俺が思うのは間違っているかもしれないが、彼の怒りはもっともである。

彼の言葉で、弱小ファミリアの悩みはどこも金なんだなと痛感させられた。

 

「落ち着けバカドワーフ。

フィンは頭が切れる、何か考えがあるのだろう。

あるんだよな?」

 

「もちろんさ」

 

そして、子供のころ絵本や物語に憧れたエルフが恐ろしい声でフィンに確認する。

フィンは彼女の言葉にニコニコといつもの表情で対応するが俺は内心ビビりまくりだ。

日本では美女と関わる事がなくて分からなかったが、美女が怒ると怖いって本当だったんだな。

 

「私の名前はリヴェリア・リヨス・アールヴ。エルフで君と同じ駆け出し冒険者だ。

魔法使いをしている」

 

「ほら…ガレスも何時まで怒っていないで自己紹介しなよ」

 

「ちっ…ガレス・ランドロックだ。

見ての通り戦士だ」

 

彼らの名前と職業を教えてもらった俺は自分の自己紹介をする事にした。

 

「俺の名前はセタンタ。駆け出し冒険者で戦士をやっている。

今日はよろしく頼む」

 

「じゃあ、打ち合わせをしながらダンジョンに行こうか」

 

こうして、フィン達と共に俺はダンジョンに潜る事となった。

 

……。

 

「じゃあ、セタンタさんとガレスが前衛で後衛がリヴェリア。

僕は真ん中でそれぞれをサポートする。

前衛は出来る限り二対一で戦ってほしい」

 

「おい。コイツの見た目は強そうだが、実力はそれなりにあるんだろうな?

誤ってコイツの槍に刺されて死ぬなんて、俺は御免だぜ」

 

「セタンタ。このバカドワーフなら刺してもそう簡単には死なぬことはない。

だから、遠慮なく刺してもらってもかまわんぞ。

私が許可する」

 

「何だとこのクソエルフ!!俺に一体なんの恨みがあるんだ!!乳揉むぞゴラァ!!!」

 

「いい度胸だ、セクハラ酒飲みドワーフめ!!恨みだと!?お前とロキのせいで私が節約して溜めた貯金が酒に消えたんだぞ!!この恨みは一生忘れはしない!!」

 

チームの作戦方針を決めている最中にボカスカと殴り合うドワーフとエルフ。

日本のライトノベルでも有名だが、この二種族は本当に仲が悪いようだ。

つーか、ガレスだったか?

セクハラに大酒のみはドワーフの性格的な特徴であるが…いろいろと酷過ぎる。

美女だからと言うわけではないが、俺はリヴェリアに心の底から同情した。

願わくば仮にとは言え、自分の所属しているファミリアにガレスのような人材が入信しないことを心から祈ろう。

 

「ほら、二人とも!もうダンジョンの入り口まで来たんだから騒がないでくれ!!」

 

「はぁ…はぁ…今日はこのくらいで勘弁しておいてやる。

良かったなクソエルフ」

 

「はぁ…はぁ……それはこちらのセリフだ、バカドワーフ」

 

フィンの一喝でケンカを辞めた二人だが、疲れとダメージが見てとれる。

こんなんで大丈夫か?

二人の連携もそうだが、疲れた状態でダンジョンに入るなんて俺には危険にしか思えない。

 

「大丈夫ですよ。あの二人はなんだかんだで戦う余力を残していますから」

 

「…それならいいんだがよ」

 

俺の考えが顔に出ていたのか二人のフォローをするフィン。

コイツも俺と同じでとんでもないファミリアに入ったのかもしれない。

前途多難すぎるぜ。

 

ダンジョンの入り口にある階段を降りると目の前には洞窟のような空間が広がっていた。

地面と壁と天井は微かな光を放っており、中が良く見える。

 

「へぇ、これがダンジョンか……」

 

「ここは第一階層なので主にゴブリンが出るらしいですよ」

 

「ほう……ゴブリンってどれくらいの強さなんだ?」

 

「ダンジョンで一番の雑魚だ。青いのお前はそんな事も知らずにダンジョンに来たのかよ?」

 

「ああ、そうだな」

 

フィンと話しているとようやく呼吸が落ち着いたのかガレスが馬鹿にした様子で話しかけてくる。

まあ、初歩の初歩だから知らない俺はバカにされてもしょうがない。

僅かな怒りはあるが、大人の対応で流した。

その後も、彼らとコミュニケーションを図る為に雑談を交えながらダンジョンを探索するが一体のモンスターと出会う事はなく二階層、三階層と俺達は降りてきた。

 

「ねえ、リヴェリア。

モンスターに出会わないけど、いつもこんな感じなの?」

 

「いや、一階層なら狩りつくされる事はあるが、二階層と三階層になるとチラホラとダンジョンがモンスターを生み出すはずだ。

もしかしたら一級冒険者が新人教育の為に狩りつくしたのかもしれない」

 

「やるとしたら大手のヘラか、最近勢力を伸ばしつつあるフレイヤ・ファミリアだろうな」

 

「で?これからどうする?モンスターが出現するまでここをうろうろするか?」

 

フィンの質問に答えるリヴェリアとガレス。

そして俺はこの中でダンジョン経験のある二人に質問をした。

 

「そうだな、俺もこのクソエルフも四階層より下は降りた事がねぇ。

ここは、モンスターが出てくるまでうろついた方がいいな」

 

ガレスの言葉に全員が行動方針を決めたところで、フィンの様子が変わった。

いつものにこやかな表情はなりを潜めて、フィンの表情は真剣そのもの。

一体どうしたんだ?

 

「ここから離れた方がいい…危険が迫ってきている」

 

「どうした?俺には何も感じられなかったが何か感じ取ったのか?」

 

「フィン。具体的にどんな危険が迫っているんだ?」

 

ダンジョン経験者に詰められるフィンは親指を出して俺達に答えた。

 

「僕は今までこの親指が疼く事で危険を察知して生き伸びて来た。

その経験と親指が言っている。

今まで僕が経験した事のない危険が迫ってきていると」

 

「……おい、期待させておいて変な冗談を言っている場合じゃねぇよ。」

 

「ふむ…。フィン、さすがにそれだけでは私たちは納得できないぞ」

 

フィンの言葉に否定的な二人。

俺も、今の状態でなければ彼らの言葉に同意してフィンをバカにしていただろう。

しかし、王国で軍神アレスと果し合いをして逃げ回っている時に向けられるアレス大好きな国王の妬みと殺意を含んだ視線を一身に浴びつつけた俺の経験が言っている。

俺達に殺意が向けられていると。

 

発生源が分かるような達人になったつもりはないが、ダンジョンの壁一面に嫉妬も何もない純粋な殺意の塊を肌で感じる。

そして、壁の一部が崩れて、ギョロリと光る眼が俺達を見ている。

コイツはやべぇ……。

 

「おい!!さっさとここから逃げるぞ!!走れ!!」

 

「はぁ?青いの、お前もフィンの冗談に悪乗りをしている場合じゃあ……」

 

「…不味いぞバカドワーフ。二人の言う通りここは撤退するぞ」

 

彼女たちも見たのだろう。パラパラと崩れる壁から覗かせるモンスターの体の一部を。

 

 

今日、ギルドの講義でダンジョンで一番危険な現象について学んだ。

ダンジョンは未知で出来ている。

壁は光るし、壊れた壁もいつの間にか修復されている。

その特殊な構造も理由も誰も知りはしない。

 

だが、唯一確かなのはダンジョンは生きているという事である。

 

生きて、モンスターを産む。

 

冒険者を罠に嵌め、絶望の淵へと叩き落す。

悪質なダンジョンのギミックの一つ。

 

モンスターの大量発生。

 

「やっぱりこの親指が疼くとろくなことがない!!」

 

壁の音がパラパラからビキビキという破折音に代りモンスターたちが壁から這い出てきた。

現れたのは二足歩行の犬。

コボルト。

 

「畜生!!三階層で怪物の宴なんて聞いたことないぞ!!」

 

「口を動かすよりも足を動かせ!!今の私たちにはあの数は不味い!!」

 

俺達は上層の階段を目指して走った。

しかし、壁一面から誕生するコボルトの速度には俺達の足は追いつくことが出来ず、階段までの一本道で挟まれてしまった。

 

「万事休すかよ……ちくしょう!こんなことならクソエルフの目を盗んで買った酒を飲んでおくべきだったぜ!!」

 

「よし、コボルトがお前を殺す前に私がお前を殺してやる!!」

 

「落ち着いてよ二人とも!!考えが浮かばないじゃないか!!」

 

「しかし、フィン!!落ち着いてどうなる!?これだけの数だ、私の魔法が発動出来れば何とかなるかもしれないが、詠唱している間に圧殺されるぞ!!」

 

「……」

 

三人が取り乱している中。

俺はこちらの様子を伺っているのか?三人の慌てる様をみて喜んでいるのかであろうコボルト達を見据える。

 

軍神アレスの果し合いでは逃げるという選択肢があった。

 

しかし、これには逃げるという選択肢はなく、戦うか諦めるの二つしかない。

日本にいた頃の俺だったら食われて死ぬくらいなら自決すると言っていただろう。

 

絶対絶命の絶望的な状況だ。

 

だが、あのバカのせいで死線をくぐったせいなのだろうか?それともジャングルで遭難した経験があるせいなのか?

それとも、クー・フーリンというケルト神話の頂点に君臨する大英雄の容姿と体捌きを手に入れたせいなのだろうか?

 

俺の中の何かが、熱く燃え滾る。

 

「フィン!ガレス!!幸い、ここは一本道だ!!俺は後方をお前らは前方を守れ!!

リヴェリアは俺達が時間を稼いでいる間に、魔法を詠唱しろ!!

そんで魔法が発動したら一気に逃げる!!どうだ!?分かりやすい作戦だろ!!

それともお前らのおツムには難しかったか!?」

 

「っち!?馬鹿言ってんじゃねぇぞ青いの!!誰に物を言ってやがる!!

後、これで死んだらあの世で酒を奢れや!!」

 

「このバカドワーフには難しいかもしれないが、了解した」

 

「はは、リーダーを取られてしまったよ。

でも、貴方の発破は心地がいい!!」

 

俺の叫びに正気を取り戻した三人が俺の言葉通りに動く。

フィンとガレスは階段に向かう道のコボルトに突撃し、

槍と斧を振るう。

 

リヴェリアも詠唱に入った。

 

なら、俺も仕事をしよう。

心臓を穿たれてもなお、少女を救った大英雄のように。

 

「貴様らの心臓はこの俺が貰い受ける!!

向かってくるなら……決死の覚悟を抱いてこい!!」

 

かつて無い程に四肢に力が入る。

逆境であるはずなのに、絶望はない。

日本に居た頃で例えるならば、冬コミと夏コミで欲しい同人誌が購入が確定した瞬間。

好きなラノベのアニメ放送時の視聴。

今までの人生で一番、生きているという感覚。

 

ああ……これが冒険なのか。

 

「でやぁああああ!!!」

 

今までに出したことのない獣の様な咆哮を上げながら、俺はコボルトの群れに突撃する。

走る勢いで目の前のコボルトを槍の尻で後ろにぶっ飛ばす事でドミノ倒しを誘発し、転んでいないコボルトを槍で突いては薙ぎ払う。

そして、俺の攻撃を受けた事で魔石に変わるコボルト達。

戦える!!俺は戦えるんだ!!

モンスターを屠り、戦える事を実感しながら生々しい感触を無視し続け、槍と足を振るう。

 

そして、絶える事のない爪と牙の連撃。

 

俺は、防御を捨てて攻撃にすべてを注いだ。

 

獣たちの血と己の汗に汚れながらも抗い続ける。

もっと強く!!もっと早く!!

 

「オラァアアアアアア!!!」

 

防衛線である事を忘れ、コボルト達をひたすら狩り続けた俺は最後の一匹を屠った。

もう、目の前に敵はなく立ちふさがる障害もない。

無茶な動きや頭突きなどの攻撃をしたせいだろう。

全身がズキズキと痛む。

 

痛みに構うな!

まだフィン達が戦って………。

俺が振り向くと、俺の目に映ったのは三人とも戦いを終わらせてこちらに向かっている姿だった。

こちらに向かってくる彼らの後方には氷に閉じ込められた哀れなコボルト達。

どうやら全部終わらせたようだ。

 

戦いが終わった事を知った俺は、前のめりに倒れる。

生き残った幸福と安心感によって緊張の糸が緩んだのだろう。

彼らの心配する声が聞こえるが、うまく聞き取れない。

薄れゆく意識の中、俺の中にはこの冒険で得た達成感と勝利の喜びが満ちていた。

 




もっと戦闘描写が上手くなりたいでござる

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