オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話 作:ジャガボーイ
「おい、大丈夫かよ?」
「ええ、それよりも貴方凄い体力ね?
私を抱えた上に槍を持ってここまで来れるなんて……」
街の入り口近くまで逃げた俺達は彼女を下ろして休憩をしていた。
「で?貴方は何で私を助けてくれたの?ほかの男の様に私の胸が欲しいの?」
せっかく助けたのに不貞腐れたように話しかけてくる女神にムッとしながらも俺は大人になって正直に答える。
「…ただの善意だ。
アイツらに囲まれた後だからしょうがないと思えるが、助けた後にそんな事を言われたら普通に頭を叩かれるぞ」
「…ごめんないさい。本当に善意だったみたいね。
ねぇ、私はまだ地上に降りて日が浅いのだけど地上の男も大きな胸が好きなの?
ファミリアを作りたいのだけど毎日毎日しつこくて、全然ファミリアに入ってくれそうな子がいないのよ」
おっぱいが目当てで助けたのではないと理解した彼女は柔らかい笑みを浮かべた後、困った表情で困った質問をしてくる。
男の俺にそんな質問をしないでもらいたいのだが、彼女の疲れた様子から本当に困っていることが良く分かる。
ここまで来たし、質問に答えるくらいはいいか。
ここで帰したら、なんか後味が悪い気分になりそうだし。
「男は……胸の大きな女が好きなのが多いと思う。
だが、中には貧乳や美乳が好きな男もいるし、胸の大きさに関係なく、内面で見る奴もいる。
荒くれ者で短慮な思考をする男の多い、冒険者の街に降りてきたのがまずかったんじゃないか?
まずは街の外側からファミリアに勧誘できそうな人間を探してからにしたらどうだ?」
「……」
「じゃあ、俺は今日の宿を探さないといけないからここで失礼する…ぜ?」
適度な助言をしつつ、そそくさと去ろうとしたのだが、女神に手を掴まれてしまう。
こ、これは不味いのではないだろうか?
嫌な予感がビンビンする。
「ねえ、私のファミリアに入らない?」
そして俺の予想通りに俺を勧誘してくる女神。
だが、俺はNOと言える日本人故に……。
「断る」
間髪入れずに女神の誘いを拒否した。
「「……」」
流れる沈黙。
そして、入れと目で訴えてくる女神。
しかし、彼女の勧誘は無駄だ。
俺はベテランの商業系のファミリアに入りたいのだ。
まだ地上に降りてきて日の浅い女神とメンバーが俺一人のファミリアなんてやっていける自信がない。
俺は心を鬼にして彼女の手を振り払い、逃げようとするも、神の勘のなせる業なのか、すぐに抱き着かれてしまう。
「放せ!!助けた恩を仇で返す気か!!」
「まって!!もう、勧誘する気力がないの!!もう男達の視線に蹂躙されるのは嫌なの!!」
「嫌なら女を勧誘すればいいだろ!!」
「無理よ!!みんな『男に媚びを売りやがって!』見たいな目で睨んでくるのよ!!
お願い!!見捨てないでぇ!!」
「そんなの俺が知るか!!ほかの女神に紹介してもらえばいいだろう!!」
「無理よ!!ロキなんて私が視界に入ると何故か逃げていくのよ!!
それに、他の知り合いの神も地上に降りたばかりで余裕がないのよ!!
お願いよ!!胸を好きなだけ触らせてあげるから!!何でも言う事聞いてあげるからぁああ!!」
「…お前は女神としての誇りはないのか?」
「お願いよぉおお!!」
「分かった…条件付きでファミリアに入ってやるから鼻水を俺の装備に付けないでくれ。」
俺に必死にしがみつき、とうとう泣き出した女神に負けた俺は、好きな時に出て行く事を条件に彼女のファミリアへ入信して恩恵を授かったのだがステータスは中々に優秀らしい。
まあ、冒険者にはなるつもりはないからどうでもいいがな。
後日、巨乳の女神を泣かしたクソ野郎と広場で股間を抑えたドワーフの話題が娯楽に飢えた神たちのブームとなった。
☆
デメテルは豊穣の女神。
彼女はこのデメテル・ファミリアで野菜と果実を育てて販売する商業系ファミリアにしたいようだ。
しかし、彼女にも俺にも野菜を作る為の土地も何もない。
商売をするためには金と場所と商品が必要だ。
あるのは俺とデメテルの金を合計した、50万ヴァリス。
これを元手に商売をして、増やさなければならないが……生活費とホームとして利用している借家の家賃などを考えると無駄には出来ない。
やるなら食品系…お手軽なジャンクフードかな?
売れ残ったら自分たちで食べてしまえばいい。
よし!そうと決まれば、デメテルに食材の物価などを聞いてみよう。
「デメテル。オラリオでの食材の物価を教えてくれないか?」
「いいわよ」
デメテルは意外なことにオラリオで販売されている果実と野菜に関して全てを網羅していた。
まあ、野菜と果実での商売を考えていたのだから当然と言えば当然であるのだが、昨日見せつけられた無様な姿からはとても結びつかない、その記憶力には本当に感心した。
「やっぱりジャガイモは安いな…」
「そうね。ジャガイモは簡単に栽培できるし、とても安価なのよ。
それにあまり美味しくないし、茹でて食べるくらいしかないしね」
「ほう」
なるほど、食文化も時代に合わせてだいぶ低いようだ。
これなら俺、天下取れるんじゃね?
よし!!そうと決まったら材料を買いに行くぞ!!
「デメテル!!一か月の契約で屋台を借りてきてくれ!!俺は材料を買ってくる!!」
「わかったけど、何をするつもり?」
「コロッケ…いや『ジャガ丸くん』を作るのさ!!」
ジャガ丸くん。
かつてコンビニで伝説を誇った人気食品である。
ただ、俺が幼いころに出ていた商品の為に詳細は思い出せない。
故にコロッケの名前を懐かしきジャガ丸くんに変更して、オラリオで販売しようと決めたのだ。
「作るのはいいけど、まずは私にそのジャガ丸くんを一つ食べさせなさい。
売れるか分からないのに、無駄なお金は1ヴァリスも使いたくないの」
「いいぜ、絶対旨いと言わせてやる!」
食材を調達してきた俺は、さっそく台所で調理を開始した。
まずはジャガイモの芽を取り除き皮を剥く。
三等分にスライスした後、水の入った鍋に入れて茹でる。
竹串でツンツンして柔らかくなった事を確認したらゆで汁を捨てて、芋をフライパンに移して加熱。
水分を飛ばしたらボウルの中にジャガイモを移動させて潰す。
後は小判型にして、小麦粉をまぶし、溶き卵とパン粉の順番に衣をつけて……。
油入りのフライパンの中に投入。
一分たったら取り出して、油をきって塩を振れば……。
「完成だ!」
しかし、ソースがないのが悔やまれる。
今度余裕がある時に自家製のソースを作ってみるか。
「ほれ、出来たぞ」
「あら?見た事のない料理だけど…これって本当にジャガイモで作ったの?」
「おう、間違いなくジャガイモを主体にした料理だぜ」
彼女は恐る恐る居間のテーブルに出されたジャガ丸くんをフォークとナイフで切り分け……。
一口サイズのそれを口に運んだ。
「お、美味しい!!外はサクサクして中はジャガイモの旨味があって…もう、最高!!
売れるわ!!これは売れるわよ!!」
こうして、俺達ファミリアが行う初めての商売はジャガ丸くんという名のコロッケ屋であった。
あったのだが……。
☆
「おや?セタンタさん。ギルドに何か用事ですか?受付の所に居たようですけど、クエストの発注でしょうか?」
「お…おお、フィンか……二日ぶりだな。
実はな、急に金が必要になって、ダンジョンに潜る事になっちまったんだ」
二日ぶりに偶然出会ったフィンと再会した俺は、彼の言う通りギルドの受付から離れたところだった。
そして、それは不本意ながらダンジョンに潜る為の冒険者登録と講習を済ませ為だったのだ。
ダンジョンに潜ると聞いて何かを察したのであろう。
彼は引きつった表情で俺に慰めの言葉を送ってくれた。
「……頑張ってください」
「…わりぃな、気を遣わせちまって。
二日前はあんなに威勢のいい事を言っていたのに……」
「いえいえ、しょうがないですよ。
昨日の今日で商売に失敗するとは思えないですし……。
商売の為の資金集めなんですよね?」
「まあ…そんなところだ」
俺がコロッケ屋をやらずにダンジョンに向かう事なったのは資金集めだ。
いや、正確には生活費を稼ぐためである。
―回想―
ジャガ丸くんを露店で販売する事に決めた俺達はジャガ丸くんの値段設定を決めた後、材料と屋台のレンタルを行う為にオラリオへと繰り出した。
商業ギルドで料理可能な高性能の屋台を3か月のレンタルで25万バリスを使い。
豊穣の女神であるデメテルの目利きによって最高品質のジャガイモとその他諸々を買い込んで、いざ出陣と言う所でホームである借家に大家さんが現れ……
「デメテル様!!滞納していた分と今月の家賃!!20万ヴァリスを今日こそ払ってください!!
明日までに払わなかったら出て行ってもらいますからね!!」
鬼の形相の大家にビビりながらも俺達はもしもの為に残していた20万ヴァリスを大家さんに手渡して事なきを得た。
しかし、手元には見事に1ヴァリスも残ってはいない。
もはや我がファミリアにはわずかな食料とジャガ丸くんの材料のみ。
こうなったら日雇いのアルバイトでもするか?
幸いにもこちらには二人居る。
ジャガ丸くんはデメテルに任せて、俺は日雇いのアルバイトをすればいい。
発売当初は中々売れはしないだろうがデメテルが屋台に居れば胸を目当てに男性客が寄り付くはずだ。
後はデメテルのセールストーク次第だろう。
こうして、デメテルに料理のいろはを叩き込み、意気揚々とアルバイトを探していたのだが……。
「君…その装備は冒険者だよね?悪いけど、うちは乱暴な冒険者は雇えないよ」
「うほっ!いい筋肉!!是非我が『男バー』に永久就職してくれたまえ!!」
「ウチが募集しているのは女性店員です。男性店員は受け付けていないので……」
見た目が冒険者である事と、男という理由ですべての客商売を一部を除いて断られてしまった俺は必然的に重い足取りで、ギルドへと向かったのであった。
―回想終了―
はぁ、どうしてこうなった?
一人で怪物がうろうろしているダンジョンに潜ると思うと気が重い。
心なしか装備も重い気がする。
「あの……セタンタさん。よろしかったら僕たちロキファミリアのメンバーと一時的にパーティーを組みませんか?
僕も今日が初めての冒険でちょっと不安なんですよ」
「ほ、本当か?ありがてぇ!!感謝するぜ、フィン!!」
目に見えて落ち込んでいた俺に対するフィンの申し出に喜んで飛びつく俺。
地獄に仏とはまさにこの事だぜ!!
「感謝の必要はありませんよ。正直セタンタさんの実力は気になっていたので…ね」
こうして俺はパーティ登録をすませて、フィンとその仲間達と共にダンジョンに潜る事となった。