オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話 作:ジャガボーイ
ダンジョンが出来る千年と少し前。
娯楽に飢えた一部の神が地上に居る精霊と共に試練を作った。
走破した人間の願いを叶える究極の試練。
走破できなければ森に迷わされ命を落とす。
過去から現在までたくさんの人間が試練に挑んだがすべての人類は悉く失敗した。
しかし、一人の若き青年が走破した。
勝者となった彼の名はクー・フーリン。
恩恵もなく、自身の力で試練を乗り越えた彼は世界にその名を轟かせ、彼の物語は少年少女の胸を熱くさせた。
☆
森を解放し、王国の食料問題を解決した事になっている俺。
ただ、ジャングルをブラブラした後、水をガブガブ飲んだだけなのにな。
しかも、目が覚めたら見た目が槍の兄貴。
着ていたジャージは捨てられてしまったが、褒美として一級鍛冶師が俺のイメージの元で制作した兄貴の装備にそっくりの青タイツ……もとい、革鎧に変わり。
不破壊…デュランダルの特性を持つ紅い槍を王様直々に貰った。
そして、軍神アレスとの果し合いの日々……。
王国の頂点に存在する金髪の美丈夫はまさに脳筋であり、俺の装備が整った瞬間に剣をぶん回して来やがったのだ。
彼ら神は地上に居る限りその力を使う事はしない。
しかし、戦の神であるアレスは英雄に近い身体能力を誇っており、その強さは異常の一言である。
本当は力を解放しているのではないだろうか?
まあ、そんな怪物と戦って……いや、追いかけっこをして生き残っているのは俺の使っている装備と逃亡できるほどの体力を持つこの体のお陰だ。
防具は素材がドラゴンの被膜やアダマンタイトなどの高級素材を使っている為、対魔法防御から耐熱耐寒などの補正性能付いている…らしい。
槍には特殊合金やオリハルコンといったファンタジー金属を贅沢に使った化け物の様な性能を誇る…らしい
メイドさんに聞いた話だとこの二つの装備は鍛冶の女神が俺専用のオーダーメイドで制作した為、金額は豪華なお城を二つほど購入できるレベルらしい。
武器と防具の補正能力にはファンタジー過ぎてあまり理解が出来ていないが、防具も槍も羽のように軽く、頑丈である事は理解できる。
正直、気軽に着れる服が欲しいです。
そして、感謝の言葉と共に士官と神が営むファミリア入信のお誘いが絶えない。
英雄を部下にする事で、箔をつけたい貴族と王様。
そして、俺を眷属にして玩具にしたいらしい男神と女神。
アレスのクソ野郎は俺と毎日戦いたいと抜かしていやがる。
……本当にどうして、こうなった?
俺は、試練を走破していない。
そして英雄としての力がない。
今現在俺が英雄としての能力を持っていたら幾らでも誤魔化しが効くのだろうが、本当にないのだ。
確かに俺はクー・フーリンへと姿を変えた。
しかし、俺は大英雄のようには強くはなかった。
ゲイ・ボルクのパチものを持っているだけだし、ルーン魔術や人外の力を発揮する事も出来ない。
僅かに使えるのは鍛え抜かれた人間に毛が生えたレベルの力と体が覚えている大英雄の体術のみ、これでは詐欺だ。
いや、そもそも俺が英雄と呼ばれている時点で詐欺である。
言葉で真実を見極める神と対談なんてしたら、一発でアウトだ。
下手したら王族や貴族さらには神をだました罪人として打ち首コースまっしぐら。
罪悪感と恐怖に押しつぶされそうになった俺は、メイドさんから教えてもらったこの世界の文字で、お世話になりましたと書いた置手紙を残して、高級装備と報酬からわずかな金額を持って国から逃げ出した。
「旦那、今度からはちゃんと馬車乗り場で乗ってくださいよ。」
「ああ、わりぃなおっちゃん。今度からは気を付けるよ」
逃げ出したのはいいが目的地がなかった俺は、偶然見つけた馬車を呼び止め、便乗する事にした。
御者のおっちゃんには、途中乗車で嫌がられたが客も少なかった事もあり、乗せてもらえる事になったのだ。
おっちゃんに7000ヴァリスを支払い、布の屋根と木で作れた馬車の中に乗り込む俺。
中には椅子がなく、客と思われる少年少女と大人たちが数人隅の壁に寄りかかっていた。
「お邪魔させてもらうぜ。それと、止めちまって悪かったな」
「いえいえ、旅は道連れといいますし、大丈夫ですよ」
俺の謝罪に笑顔で許してくれる金髪の少年。
他の乗客には無視された。
まあ、急いでいるのに俺のせいで到着時間が遅れてしまったからな。
これは仕方がない。
俺は彼の近くの方が居心地がいいと思ったので、彼の横に座る
「貴方もオラリオで冒険者を目指すのですか?」
彼の横に座ると、ニコニコと話しかけてくる少年。
冒険者?
彼の言葉を聞いた後、彼の姿をよく見てみる。
少年は汚れた服の上に皮で出来た防具、両手には皮のグローブ。
そして、彼の隣には槍があった。
その姿はまさにRPG見る駆け出し冒険者。
こんな少年が冒険者か……。
この世界の事を知る為に色々と情報を収集していた俺は冒険者がどれほど過酷なものかをそれとなく知っている。
RPGのようにダンジョンに潜ってモンスターと戦い、お宝やモンスターのドロップアイテムを採取したり、クエストをうけて仕事をする何でも屋。
まさにゲームのような夢の溢れた職業。
しかし、それで生計を立てられるのは一部の強い冒険者のみ。
普通の冒険者や駆け出し冒険者は常に金欠で生活が苦しいと聞く。
老後もファミリアの仲間たちのサポートが出来ればいいのだが、弱小ファミリアではそうは行かない。
邪魔になった老人はささやかな金を渡されて放逐される。
故に、冒険者になるのは力に自信がある者、有名になりたい者、職がなく生活が厳しい者。
そして、未知の探求に命を賭ける者。
そういった考えを持つ者たちがなる職業なのである。
俺はそんなのは御免だ。
英雄の力というチートがあれば迷わず俺は冒険者になるだろう。
しかし、俺には人外の力はない。
ちょっと筋肉質で槍術と体術が上手い、一般ピープル。
そんななまっチョロイ男が冒険者になったらすぐに死んでしまう。
それに、俺の目標は前世の知識を使って、商売をして儲けてハーレムを築き、マイホームで大往生することだ。
冒険者は職に就けなかった時の最終手段だ。
「俺はのんびり商売でもするさ」
「え?そうなんですか?てっきり僕は貴族の方が冒険者になる為に乗車したのかと…。
それに、貴方の装備はどれも一級品の様に見えるのですが……」
「装備だけな。俺はちょいと槍が扱えるだけだ」
「ま、まあ、冒険者を目指すにしても商売をするにしてもオラリオに向かう目的は人それぞれですからね。
お互い頑張りましょう」
「おう!坊主、お前いい奴だな。
俺の商売が成功したらサービスするぜ」
「はは、その時はお願いします。
その代わりと言ってはなんですが、貴方の商売が失敗したら僕の所に来てください。
仲間として歓迎しますよ。」
「言うじゃねーか、坊主。」
「ははは、それと僕は坊主じゃありませんよ。
フィン・ディムナ。小人族なので、これでも19なんです」
「俺は……セタンタ。人種で21だ」
「……ではセタンタさん。よろしくお願いしますね」
「おう」
馬車の中で握手をした俺達は馬車に揺られながら雑談たのしみつつ、オラリオへと向かったのだった。
☆
何事もなく無事にオラリオにたどり着いた俺達は馬車を降りた。
「じゃあ、ここでお別れだね。セタンタさん。」
「おう、縁があったらまた会おうや」
「ははは、セタンタさんはすぐに有名になる予感がするからすぐに会えるかもね」
フィンと別れた俺は商売系のファミリアを探す為にオラリオの街をうろつく事にした。
石造りの街並みに、道には商売人や冒険者たちが居たり、ファミリアに勧誘しようと冒険者に声をかける神も見かける。
中々に活気があふれた街だ。
神々がどんなファミリアを運営しているか、気になった俺は勧誘している広場へと向かった。
すると……。
「お?そこの君!!いい筋肉をしているね!!俺のファミリアに入らないかい!?
ちなみに俺はガネーシャだ!!」
「悪いな、俺は筋肉系のファミリアには入るつもりはないんだ。」
仮面と筋肉の神様に声をかけられたり……。
「やあ、そこの君。私ほどではないが、中々に良い顔をしているね。
私のファミリアに入らないかい?」
「悪いな、顔や外見で判断するファミリアには入るつもりはないんだ」
金髪イケメン男神に声を掛けられたり……。
「そこの青い髪の兄ちゃん!!ウチのファミリアに入らん?
今ならエルフのおっぱいが揉み放題やで!!」
「ロキ、死にたいのか?」
「ガハハハハ!!いいじゃねーかエルフの貴族様よ!!ロキもついでにその貧相な胸を揉ませてやれば…ブヘェ!?」
「死ね、野蛮なセクハラドワーフ!」
「ガぁレぇスぅ…殺す…お前のサンシャインを殺したるでぇ……」
「ま、まて!さすがに洒落にならな……ッ!!」
貧乳の女神に声を掛けられたが、なぜかコントを見せられることになったりと散々だった。
もう、この広場にはめぼしいファミリアはないと思った俺は違う場所に移動しようと歩き出すのだが……。
視線の先で沢山の男達が一人の女神に群がっていた。
「デ、デメテル様!!ファミリアには入りませんが、私と付き合ってください!!」
「あの…入らないなら帰ってくれないかしら?」
「デメテル様!!俺もファミリアには入れませんが、そんな顔だけのモヤシよりも俺と今晩セ〇×スしてください!!
俺を男にしてください!!」
「デメテル様!!俺っちもファミリアには入れませんが貴女の胸の中になら喜んで入ります!!」
「「「「デメテル様!!」」」」
「もう!!あなた達は何をしに来たのよ!!」
花束を持ったイケメンに筋肉男、さらには少年と獣人の男達。
幅広い種族とタイプの男達が女神にセクハラをしていた。
やれやれ……。
日本だったら速攻で国家権力の世話になり、牢屋コースだぞ。
活気は溢れているが紳士は居ないんだな……この街は。
あまりの光景に女神が不憫に思えた俺は手助けをする事にした。
「おい、そろそろ止めてやれよ。その女神が相当困ってるぞ」
「なんだ貴様!!デメテル様は困っていない!!僕以外の醜い男達に困っているんだ!!」
「そうなんだな!!デメテル様は僕ちんと友愛する運命なんだな!他の男達が諦めないのが悪いんだな!!」
「兄ちゃんよ!そうやって俺達の邪魔をしつつ、デメテル様の好意を引こうとするなんて随分卑怯なアプローチをしてくれるじゃねぇか?」
「デメテル様の胸をチューチュー吸ってセッ〇×したいんだろ!!この変態野郎!!」
人助けをしようとしたのが間違っていたのだろうか?
声をかけた瞬間に男達に卑怯者と非難された挙句に罵倒される。
やべぇ…選択を間違えたか?
こうなったら………。
「くたばれぇえええええ!!!!」
「うおッ!?」
「なッ!?」
「あぶな!?」
男達の前で槍をぶん回して一歩引かせた俺は、ダッシュで女神の元までたどり着いた。
「あら?いい男って、きゃぁあああ!?」
「行くぞぉおおおお!!」
そしてそのまま、女神を肩に担いで離脱。
女神であるせいなのか、それとも本人の日頃の努力なのか?
彼女の体重はとても軽く、俺はそのまま人込みに紛れて、男達から見事に逃げ切って見せたのだった。