オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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少し短めです。


9話

神会にて『青い槍兵』≪ブルーランサー≫の二つ名を得たクー・フーリン。

彼の活躍と栽培した果実達により、デメテルファミリアの名はオラリオに轟かせ、眷属をさらに増やした。

ファミリアの増員により、短い期間で中堅クラスになったデメテルファミリアは最速で上級クラスのファミリアへと上り詰め、商業系ファミリアの頂点に君臨した。

 

 

 

 

 

俺の二つ名が無難な物に決まってから数か月の時間が過ぎた。

二つ名が発表された当初は…。

 

普通……。

 

つまんね……。

 

社長にはがっかりだぜ。

 

と、ファミリアの連中には文句を言われたが俺はこれで満足している。

あれから俺達のファミリアは上級クラスへと駆け上がり、バベルに店を出すまでに成長した。

数か月でここまで上り詰めた事に嫉妬の声もあるが、ジャガ丸ファンや野菜と果実を楽しみにしてくれている消費者のお陰でトラブルもない。

ブラックだった俺の仕事も、土地にルーンを刻む事で土地が潤い、直接魔力を注ぎ込むほどではないが美味しい果実と野菜がコンスタントに栽培出来ている。

 

至高の果実は月に一度、バベルの店でオークションを行う形で販売されている。

その方が儲かると、主神と副社長の意見によってそうなったのだ。

 

お陰で俺の魔力が搾り取られるのは月に一度。

それ以外は自由に街を散策するもよし、ダンジョンに潜るもよしと、まさに順風満帆である。

 

さて、今日は何処まで潜ろうか。

 

そんな事を考え、ダンジョンの情報を仕入れにギルドに赴くと……。

 

「だからパーティーを紹介して欲しいのだ。

空きのあるパーティーの一つや二つあるだろうに」

 

「ははは…そうは申されましても……」

 

受付にで黒髪で褐色の肌。

袴に晒しを巻いただけの少女が受付嬢を困らせている光景があった。

 

「アイナ……あれは一体なんだ?」

 

「ああ、クーさん。おはようございます。

彼女はヘファイストス・ファミリアの人で自分の作品を試し切りする為にダンジョンに潜りたいと言っているのですが……。

彼女が行きたがっているのは中層なんですよ……。

彼女はレベル1だし、鍛冶師である彼女を入れてくれるパーティーもいなくて……」

 

「ああ、なるほど。」

 

確かにレベル1の鍛冶師は戦力にならないからな……。

まあ、今日はフィン達は新人の訓練で忙しいみたいで、俺一人だしな。

女の子のお守りをする程度、問題ないだろう。

それに、ヘファイストス・ファミリアの主神には今、装備している槍と鎧を作ってもらった縁があるしな。

 

「おい、お嬢ちゃん。俺でよかったら、中層まで連れて行ってやるぜ?」

 

「手前は…!?」

 

俺が少女に声を掛けると少女の瞳は獣の様な物へと変貌した。

え?

なに?俺っていきなり地雷を踏んだ?

少女はすぐさま俺に駆け出し、身構える俺に言った。

 

「今すぐ脱げ!!」

 

「は?何を言って……」

 

「いいから脱がんかぁ!!」

 

革鎧に掴みかかってくる少女。

えらく興奮しているが、ギルドでストリップをして喜ぶ性癖を持っていない俺は少女の頭部を死なない程度にぶん殴った。

 

「出来るかクソガキ!!」

 

「ぐぉおおおおお!?」」

 

殴れた頭部を両手で抑えながらのたうち回る少女。

悲鳴もリアクションもまったくもって品がない。

しばらく、床を転がり続けて冷静になったのか、ゆっくりとした動作で起き上がり少女は謝罪を口にした。

 

「す、すまぬ。主神様が本気で作った名品を再び目にするとは思わなかったので興奮してしまった」

 

「ああ、そういう事か……」

 

いわゆる職人病と言う奴だな。

本人も悪気はなかったようだし……許してやるか。

シュンとしてしまって本当に本当に反省しているようなので少女を許した俺は、少女に槍を渡した。

 

「ほら、槍なら見せてやるから二度とするなよ」

 

「おお!ありがたい!!」

 

この後、少女は周りをドン引きさせる。

具体的にはとろけた表情で槍を見つめ、頬でスリスリし始め、最終的には舌を……。

 

「やめろ!!」

 

「ああ!?」

 

舌で槍をレロレロしそうになったので、少女の腕から槍を奪取。

ロリコンにはご褒美かもしれないが、少女の唾液に濡れた槍を握りしめて戦う趣味趣向は持ち合わせていないので力ずくで阻止した。

 

自分たちの状況を察した俺は、周りを見ると名残惜しそうに槍を見ている少女を前かがみになって見つめる男達。

そして、そんな彼らをゴミのような目で見る女性冒険者と職員。

どうやらこの世界でもロリコンは居るようだ。

 

しかし、異世界のロリコンが紳士とは限らない。

俺は慌てて、パーティーの申請をした後、少女と共にダンジョンへと突撃した。

 

☆第一階層☆

 

少女…椿・コルブランドは腰に二振りの刀を確かめるように振るいゴブリンを切り刻む。

彼女の目的はダンジョン攻略やモンスターの討伐ではなく自分が作った武器の試し切り。

俺は後ろから危険がないようにサポートをしつつ、椿の周囲を警戒する。

 

「…駄目だ。十匹目で刃が鈍くなる……」

 

己の作品を見て、落胆している椿であるが、それだけではないような気がする。

以前、剣客が活躍する漫画を見て覚えていたのだが、刀は使い手の切り方によって使用期間が変わってくる。

 

「ちょっといいか?」

 

刀を眺めブツブツ言っている椿に近づいて声を掛ける。

 

「何だ?手前は今、検証結果の考察に忙しいんだ。

声を掛けるなら後にしてくれ」

 

「いいから貸してみろ」

 

「…ほう?槍使いの癖に刀が振るえるのか?」

 

「まぁな」

 

漫画を熟読し、技を再現しようと大学のアニメ研究会で頑張った俺をなめるなよ。

それに、俺も立派な日本男児。

刀には強い憧れの様な物もある。

 

椿に鞘と刀を渡された俺は刀を納刀し、ポコっという音と共に誕生したゴブリンに狙いをつけて構えをとる。

地面から這い出て、こちらに向かってくるゴブリンの首を狙い抜刀。

振り切ると共にゴブリンの首と鮮血が舞い、肉体が魔石へと変わる。

 

俺が行ったのは頬に十字傷のあるキャラクターの最終奥義である。

やっぱりいいよね、ヒテンミツルギスタイル。

 

「ま、こんな感じだな。有難うよ」

 

「……やる」

 

「ん?」

 

刀を納刀し返却すると、椿は大きな声で宣言した。

 

「おんしに合う、至高の武器を手前が作ってやる!!」

 

「お、おう」

 

本気の声に驚いた俺が思わず返事をすると、椿は走ってダンジョンから出て行った。

なんなんだ?

 

 

 

 

この後、クー・フーリンと椿・コルブランドの二人は武器の試し切りや調整、鍛冶スキルの取得の為にダンジョンに潜る事になる。

彼女、椿・コルブランドはクー・フーリンの専属鍛冶師となり、主神が打った至高の槍と鎧を超える為に邁進する。

 

彼女曰く、最高の戦士に使われてこそ武器は初めて完成し輝くのだ。

 

後に、二人っきりでダンジョンに籠る二人の関係を邪推する神達は陰でクー・フーリンをロリコンと呼ぶようになり、それを聞いた美の女神が弱小ファミリアを潰して回った。

 

そして椿・コルブランドは何故か多発した、怪物の宴を生き延びロキ・ファミリアの勇者と並ぶ冒険者であり上級鍛冶師の称号を得る。

 

 




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