オラリオで槍の兄貴(偽)が頑張る話   作:ジャガボーイ

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プロローグ

「ここは何処だ?」

 

頭上には白い雲と何処までも続く青い空。

寝転がった体を起こすと周りは森……というか、ジャングルのような光景が広がっていた。

 

おいおい、なんだこれは?

 

俺は東京に上京した田舎育ちの大学生だ。

ガキの頃から山に登り虫取りや探検などして走り回っていた。

故に山を歩く事は苦にならない。

 

そんな俺でもこの状況はヤバいと思う。

学生寮で使っていた自室から森に移動した事もかなりヤバい状況であるが、一番危険なのはこのジャングルだ。

 

このジャングルには人の手が加わった痕跡が一つもない。

 

整備された道も、看板も何もない。

 

なんだ、この状況は?

 

周りを探索しても何もなく、発見するのは動植物やキノコなどの植物のみ。

この状態になる前の記憶を掘り起こそうとしても何も思い出せない。

記憶が混乱しているのか?

 

自分の名前や年齢。

現在住んでいる学生寮の住所も覚えている。

何か刺激はないかとオタクの友人からアニメやゲーム三昧の毎日を過ごしていたはずだ…。

 

しかし、ジャングルにやって来た経緯を全く思い出せない。

誰かに連れてこられたか?

 

それとも悪質なドッキリか?

 

辺りをグルブルと歩き回って考えてみても何も思い出せない。

仕方がないので、俺は自分の身体検査をすることにした。

 

肉体に外傷はなく虫刺されもない。

来ているのは上下紺色のジャージでポケットにはポケットティッシュが一つ。

 

おいおい、こんな装備でジャングルにやって来たのかよ俺。

つーか東京にジャングルとかありえないだろ?

そもそもだ、ジャングルにハイキングするくらいなら涼しい部屋でゲームしてるっての!!

思わず自分に突っ込みを入れてしまう。

 

とりあえず移動をしよう。

森に遭難して大人しくした方がいいと言うイメージがあるが、実際は動いた方がいい。

実際に遭難してその場を動かない大人と動き回る子供の生存率を比べると子供の方が高いのだ。

アメリカか、イギリスだったかは覚えていないが、森で遭難した子供が歩き回る事で川を発見し、一週間ほど生き延びて救助されたと言う話がある。

 

動き回れば確かに危険はあるだろう。

しかし、動かなくてもクマや蛇などの危険生物はやって来る。

どっちも危険なら動いた方がいいだろう。

 

こうして俺は、人工物を求めてジャングルをさまよう事になった。

 

さまよいながらもジャングルを観察しているが、このジャングルはかなりおかしい。

何がおかしいかって?

それは虫や鳥だ。

俺の顔よりも大きな緑色の蜘蛛。

サイズはカラスと同等だが、翼が四つも生えているありえない鳥。

 

ふざけるな!!

 

あんな生物が地球上に居てたまるか!!

あれか?俺は死んだのか?ここは地獄の入り口ってか!?

それとも同志でオタクな友人が大好物な異世界ってか!?

 

友人が異世界に行くために、持っていたタブレットを破壊していた光景が思い出される。

何でも新アニメでタブレットを見ていた主人公がタブレットを媒体に二次元のヒロインの世界と行き来した挙句にヒロインを現実世界にお持ち帰りしたのを見て実行したらしい。

当然、友人は異世界にいく事も二次元のヒロインもお持ち帰りする事は出来なかった。

 

タブレット(一万五千円)がお亡くなりになっただけであった。

 

つまりあれだ、俺は異世界にやって来た?

そして、テンプレな俺ツエェエエが出来ると?

 

とある漫画の主人公は異世界と地球の重力の違いによってスーパーマンのように強くなった。

 

「せい!」

 

ワクワクした気持ちで近くの木を殴ったが、拳が痛かった。

なら、ここがゲームの世界でとある主人公のようにステータスを表示してスキルを……。

 

「ステータス!!ステータスオープン!!」

 

何も出なかった。

ジャングルに俺の声が響いただけだった。

 

おい、テンプレはどうした?

やり直しを要求する。

 

なんとも言えない気持ちになった俺は探索を再開した。

 

しばらく歩き続けると、空気を伝わって音が聞こえ始めた。

これは……。

音の正体に心当たりがあった俺は、音の発信源に向かって駆けだした。

 

「ハァ…ハァ……あったーーーーーー!!」

 

目的の物を見つけた俺は歓喜の声を上げる。

俺が見つけたのは……ドドドドという音を立てて流れ落ちる水。

そう…滝であった。

 

視界に移るのは家一軒ほどの高さのある立派な滝。

 

俺は一目散にの元に駆け寄り水を見る。

水も透き通っており魚が泳いでいるのも見える。

 

釣り竿やモリがないのが実に惜しい。

 

だが、今は取れない魚よりも目の前の水だ。

俺は滝壺に頭を突っ込み水をガブガブと飲む。

 

うめぇ!まるでお高い天然水のようだ!!

しかもひんやりしており、とても気持ちいい!!

 

そして飲めば飲むほど心地よくなってくるうまい水。

お腹がたぷんたぷんになるほど水を飲んだ俺は滝壺から顔を出す。

 

「かぁー!うまかったーー!!」

 

後は、川を下って民家を探すだけ……。

 

あれ?

 

立ち上がろうとするも、体に力が入らない。

 

それどころか、体の感覚までも無くなって……。

 

もしかして毒?

 

そう思ったら毒が全身に回ったのかだろうか?やべぇ…思考も鈍く……。

 

動けなくなった俺は地面に倒れる。

このままでは間違いなく死ぬ。

 

なんてこった………。

 

 

 

 

 

何もない闇。

 

そこは、俺以外何もない暗闇。

 

『未知なる危険を潜り抜け、ドライヤドの滝まで走破し、その水を飲んだ勇者よ。

古の神と精霊が残した秘術によって、汝に報酬を与える』

 

頭に響く威厳のある男の声。

報酬?

 

『然り、汝の願いを叶えよう。

さあ、願うがいい』

 

ああ、これが転生特典と言う奴かな?

それとも夢?

 

『さあ、願いを言え』

 

そうだな……物語に出てくる英雄になりたい。

悪い奴をやっつけて美女を救い、ハーレムを築く。

そういえば…子供のころ探検していたのも冒険家の主人公に憧れての行動だったかもしれない。

まあ、今のあこがれは冒険家の主人公ではなく、クー・フーリンだがな。

槍の兄貴は俺の理想だぜ。

 

『いいだろう汝の願い…理想を叶えよう』

 

男の声は、それだけを言い残して消えてしまった。

 

 

 

 

「眩しい……」

 

不意の眩しさに目を覚ますと、そこには見知らぬ天井。

ああ、俺はまだ生きているんだな……。

 

気づけば俺は石造りの豪華な部屋で寝かされていた。

ベットはキングサイズ。

しかもふかふかでとても心地よい。

体を起こすと被っていた布団が胸元から落ち、視線を下ろしてみると俺は裸だった。

慌てて布団を脱がしてみるとパンツはなく、ジョニーが姿を現す。

 

どうやら保護された俺は、汚れたジャージを脱がされてベットに寝かされたようだ。

 

石作りの部屋か……なんか映画のお城の中を思い出すな。

辺りをキョロキョロと視線をさまよわせていると姿見の鏡を発見して驚いた。

 

何故なら、鏡に映っているのは見慣れた日本人ではなかった。

そう、青い髪に紅い瞳を持つイケメンの青年だったのだ。

思わず顔をぺたぺた触ると、鏡に映った青年も同じ動作で顔を触る。

…異世界がついに本気を出したのか?

 

そんな事を考えているとドアからノックする音が聞こえた。

どうやら救助してくれた人がやって来たようだ。

しかし、混乱しているこの状態でなんていえばいいのか……。

救助された経験が全く無い為、どうやって答えたらいいのかを考えていると、一人の女性が入って来た。

 

「あら?目を覚ましたようですね。」

 

入って来たのは緑色の髪をした外人のメイドさん。

胸が豊かで中々の美人さんだ。

 

「1000年間謎に包まれた未知の森を走破して解放した偉業を称えて、国王様が会談をしたいとおっしゃっているのですが……大丈夫でしょうか?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。問題ない」

 

「そうですか。あなたの装備は汚れていたので新しい物をベットの横に置いておきました。

お着替えが済んだら私を呼んでください。」

 

 

英雄クー・フーリン様。

 

 

「は?」

 

 

クー・フーリン?

あの槍の兄貴の?

全身青タイツ鎧の兄貴?

メイドさんの最後の言葉を咀嚼しながら再起動するのに時間が掛かった俺。

 

 

この日、軍神が居る王国にて、千年も神と妖精の試練によって閉ざされた森を解放した大英雄が誕生した。

若き青年の名前はクー・フーリン。

神の恩恵なしに試練を乗り越えた彼の名前は世界に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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