ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
翌日、ホウレンと霊夢は別々の場所で祭りの準備に勤しんでいた。
朝早くから手伝いに来ているわけではなく、だいたいお昼の少し前くらいから人里に降りてきて、軽く準備を手伝ってからそのまま人里で昼食も済ませて午後から本腰を入れる予定だ。
資料の紙に目を通しているとそこにレミリアと咲夜が日傘をさしてやってきた。
「働いてるわね。進展はどう?」
「珍しいな。おまえが里まで来るなんて。まあ見ての通り順調だよ。」
「それは何よりね。二日後の祭り……私たちも遊びに来るわ。」
「おお、そうか。そいつはいいな。それで今日はどうしたんだ?」
「どんな規模でやるのか直接見に来たのよ。この様子だとなかなか大規模な祭りになりそうね。……実はね、今回の祭りにフランを連れてきてあげるつもりなの。」
レミリアが言った言葉にホウレンは驚いた。ホウレンもスカーレット姉妹の話は霊夢たちから聞いていたからだ。
「能力の扱いが成長してるとはいえ、こういったイベントには人が多いでしょ?そういう場所ではあの子もまだ不安があるみたいなの。でもここ半年であの子は本当に成長したわ。だからそろそろあの子にもこういう楽しさを味わって欲しいのよ。」
「そうか……。きっと喜ぶと思うぜ?」
「ふふ、そうね。連れてくるなら思いっきり楽しんでもらわないと。そのときは他にも何人か連れて来ると思うわ。ってことで準備頑張ってちょうだい。咲夜行くわよ。」
「はい。ホウレン、仕事頑張りなさいよ?」
「言われなくても頑張るよ。おまえも付き添い頑張れよな。」
咲夜はそれに笑顔で答えるとレミリアと共に里の奥へ歩いて行った。
「嬉しそうな顔してたな。まあ当然か。……しかし平和だなぁ。」
ホウレンは眩しい日差しに目をつぶりながらも空を見上げた。半年前の激しい闘いが嘘のような穏やかな時間を過ごすホウレンたち。
ホウレンたちは当初の時空の歪みを戻すことよりも幻想郷に迫る敵たちを倒すことを目的として過ごしている。
と言ってもそれは敵が攻めてくるのを待つことしかできないものでただ時間だけが過ぎてしまっており、時空の歪みもまるで解決できていないのが現状であった。
しかしホウレンたちもその時間の間に更に修行を積み、半年前とは比べ物にならないほど腕を上げていた。
「……早く本当の意味で平和にしねえとな。」
「なにサボってんのよ。あんた仕事は?」
後ろから話しかけてきたのは霊夢だった。
「ああ、ちょっと今レミリアたちにあってな。少し話をしてたんだよ。」
「そう。なんでもいいけど、仕事はしっかりしなさいよね。」
「はいはい。わかってるよ。」
「ところであんた。この辺に子猿を見かけなかった?首に赤いスカーフを付けた猿なんだけど。」
「見てねえけど……その猿がどうしたんだ?」
「それがね?祭りのときに猿を使った芸をする人がいるんだけど、その人の猿がいつの間にかいなくなっちゃったらしいのよ。さっきから探してるんだけど……どこ行っちゃったのかしら?」
「心当たりはねえのか?」
「うーん……。あ、そういえば。飼い主の人がその猿を連れて寺子屋で芸を披露したことがあるって話を聞いたわね。もしかしたらそこにいるかも。」
「なるほど、俺が行ってこようか?」
「いいわ。貴方は準備の方を続けて頂戴。力仕事なら貴方の方が向いてるしね。猿は私が探しておくわ。」
「わかった。準備の方は俺に任せとけ。」
「任せた。じゃ、私は寺子屋に行ってくるわ。サボるんじゃないわよー。」
そう言って霊夢とホウレンは別々に行動を始めたのだった。
~寺子屋~
時間はお昼時、霊夢は寺子屋まで足を運び、慧音が授業を終えてくるまでの間に周辺を探してみるも猿を見つけることは出来なかった。
それから少し時間が経ち、慧音が出てくると霊夢はすぐに慧音の元へ行った。
「慧音。ちょっといいかしら。」
「霊夢?貴方がここに来るなんて珍しい。私に何か用か?」
「ちょっとね。今日ここに猿が来なかった?赤いスカーフを付けたやつ。」
「ああ、あの猿か。確かに来たな。」
「やっぱりここに来てたのね。その猿は今どこにいるの?」
「それがさっきまで子供たちに囲まれて遊んでいたんだが急に逃げるように教室を飛び出して行ってしまってな。まだ寺子屋の中にいるとは思うんだが……。」
「なるほど、じゃあ慧音。悪いんだけどその猿を探すのを手伝ってくれない?その方が早く済みそうだし。」
「そうだな……。このまま放置しておくわけにもいかんし、どのみち後で探すつもりだったんだ。協力しよう。悪いが昼休みの間だけしか手伝えないがいいか?」
「構わないわ。あと他にも手伝ってくれる人っていないかしら?」
慧音は少し考えると子供たちがいる教室を覗き込んだ。
「悟飯!ちょっといいか?」
慧音が呼んだのは悟飯だった。悟飯は教室で子供たちと一緒に授業を受けていたのだ。
悟飯は慧音に呼ばれると教科書をしまって廊下に出てきた。
「何ですか?慧音さん。ってあれ?霊夢さんどうしてここに?」
「そっか、ここには貴方もいたわね。」
「そういうことだ。悟飯、少し手伝ってもらいたいことがあるんだがいいか?」
「はい。なんでしょうか。」
「さっき赤いスカーフを付けた猿が教室に来ていただろう?あの猿を霊夢が探しているみたいでな。今から一緒に探してくれないか?」
「突然ごめんなさいね。お昼休みの間だけでいいの。お願いできるかしら?」
「なるほど、分かりました。ボクで良ければ手伝いますよ。」
「ありがと。助かるわ。それじゃ手分けして探しましょうか。私はここの内装に詳しくないし出来ればどっちかについてきて欲しいんだけど……。」
「なら悟飯を連れていくといい。私は他の先生にも協力を頼んでみよう。それでいいか?」
「わかりました。では行きましょう!霊夢さん、ボクについてきてください。」
「ええ、案内よろしくね。じゃあ慧音、そっちはお願いするわ。もし外に逃げちゃったら私に教えて頂戴。」
「ああ、わかった。じゃあまた後でな。」
霊夢は別の部屋に向かう慧音に背を向け、小走りで先に行った悟飯の元へ駆け寄った。
「悟飯。まずはどこに向かうのかしら?」
「そうですね。とりあえず教室以外の場所だから……そうだ、物置部屋から探してみましょう。こっちです!」
悟飯の案内に従ってついていく霊夢。もちろん歩きながらも猿がいないか細心の注意を払って辺りを見渡している。
「……。」
いくら隠れてしまっているとは言え、猿がずっと同じ場所にいるとは考えにくい。いつ逃げ出してしまうかもわからないのだ。
「…………。」
もし外に逃げ出してしまい、そのまま見失いでもしたら探し出すのは今よりもずっと困難なものになるであろう。
「………………。」
つまり霊夢はなるべく急いで猿を見つけ出したいわけであって……。
「……あの、悟飯?」
悟飯は霊夢に呼ばれると立ち止まり振り返った。
「なんですか?」
「その……走ったりしちゃダメなの?」
「何言ってるんですか霊夢さん。廊下は走っちゃいけないんですよ?走ったら他の人にぶつかったりして危ないですからね。」
「あ、うん。そう……ね。その考えは正しいと思うんだけど……出来れば急いでもらえると助かるかな~?」
「あ、そうですよね。すみません。じゃあちょっとだけ早歩きでいきますね!」
そう言って早足で廊下を進み始める悟飯を見て霊夢は小さくため息をついた。
「……あの子、変なところで真面目なのよね……。」
「霊夢さーん?どうしたんですかー?」
急いでいたことを忘れて呆れていた霊夢は少し離れたところからの呼びかけで我に返り、走ることは諦めて早歩きで悟飯の後を追いかけたのだった。
そして廊下を曲がったところにある小部屋の前まで来ると悟飯が立ち止まった。
「……ここが物置部屋です。」
「さて、あの猿はいるかしらね……。」
「可能性は高いと思います。見てください、扉が少しだけ開いていますよ。」
悟飯の言うとおり物置部屋の引き戸は少しだけ開いていた。単なる閉め忘れの可能性もあるが今の状況では逃げた猿が引き戸を開けて中に入ったという可能性も十分にあり得る。
「……開けるわよ。準備はいい?」
霊夢は引き戸に手をかけ悟飯に問いかける。そして悟飯が頷くのを確認するとゆっくりと引き戸を開けて二人は中に入りすぐに引き戸を閉めた。
部屋の中は薄暗く、いろいろな教材や備品、段ボールなどが所狭しと置かれていた。
「ではボクは部屋の奥を探してみます。」
「じゃあ私はこっち側ね。何かあったら教えて頂戴。」
そう言って物陰を覗き込む霊夢に手前側を任せ、悟飯は部屋の奥の方へ進んでいった。
その場所は荷物が重なっていて霊夢がいる場所からは死角になっていた。
悟飯もまた棚の上や荷物の隙間などを見て回るとシーツを被せてある箱から気配を感じた。
「もしかして……?」
悟飯はゆっくりとその箱に近づき、シーツをずらして中を覗き込んだ。するとそこには何かに怯えるように丸まって震えている猿がいた。
「よかったぁ、見つかって。さあ、出ておいで?」
悟飯が両手を広げて猿を箱から出そうとしたその時。
「キキィー!!」
「え?う、うわあ!」
猿は突然暴れだし、驚いた悟飯の股の間を潜り抜けて入口の方へ向かって走り出した。
「れ、霊夢さん!そっちに行きました!捕まえてください!」
「え!?あ、ちょ、ちょっと待って!」
悟飯の声に霊夢はどこか焦った声で答えた。しかし猿はすぐに引き戸を器用に開けるとそのまま廊下を走り去ってしまった。
「しまった逃げられた!霊夢さん、追いましょう!……霊夢さん?」
返事がないことをおかしく思った悟飯は急いで部屋の手前側に戻り、霊夢の様子を見た。
するとそこには隙間に頭を挟んで身動きが取れなくなっている霊夢がいた。
「霊夢さん、どうしたんですか!早く追わないと見失っちゃいますよ!」
「ごめん!でもちょっと待って!頭のリボンが引っかかっちゃって……っ!う…上手く抜けらんないのよ……っ!」
「ええ!?だ、大丈夫ですか!?」
「だ…大丈夫ではないわ……っ!っていうか手伝って!」
「わ、わかりました!とりあえずリボンを外しますからじっとしててください!」
「痛たた!も、もうちょっと丁寧に取ってよ~!」
「す、すみません!こういうのやったことがないもので……!」
「うう、私としたことがこんな恥ずかしいミスをするなんてぇ……。」
一方その頃、別の場所では慧音が他の先生の協力を得て、各部屋を探しながら外廊下を進んでいた。
「ん?あれは……!慧音先生!いました!スカーフを付けた猿です!」
「なに!どこですか!?」
「向こうです!こっちに向かって走ってきます!」
男性教師が指を指した先には廊下を勢いよく走ってくる猿の姿があった。
「様子が変だな……。とにかく捕まえるとしよう。先生、念のためそこに待機してください。」
「わかりました!」
慧音は後ろで男性教師に待ち構えてもらい、向かってくる猿に対してその場で腰を下ろし、両手を広げた。
すると猿はそれに気が付き、走る速度を落として慧音から少し離れた場所で止まった。
「……大丈夫だ。おいで、怖いことなんて何もないぞ?」
慧音の優しい声色に少し警戒心を緩めたのか、猿はゆっくり慧音の元へ歩き始める。
「……いい子だ。」
そしてだんだんと距離が狭まり猿は慧音の元へたどり着き、捕まえることに成功__
「けいねせんせー!お昼いっしょに食べよー!あれ?二人ともなにやってるの?あっ!さっきのおさるさんだ!!」
大きな声を出したのは年齢で言うと6~7才くらいの少女だった。少女は猿を見た途端に目を輝かせて男性教師の横を潜り抜けて慧音の元へ走り出した。
「あ、こら待ちなさい!今は行っちゃいかん!」
「けいねせんせー!私にも触らせて!」
「ひゃっ!?」
男性教師が少女を止めようとするが間に合わず、少女は慧音の背中に飛びついた。
それに驚いたのか猿は後ろに飛び退きいつでも走り出せそうな体制を取り始めた。
「こ、こら!今大事なところだから離れなさい!」
「ほら、慧音先生の言うことを聞きなさい!いい子だから…な?」
「いーやー!私もおさるさんとあそぶ―!」
「キキィー!!」
慧音たちが少女の対応をしていると突然猿は外へ向かって飛び出してしまった。
「あ!猿が外に!」
「しまった!このままでは逃げられてしまう……!」
「あ~!おさるさん待ってー!」
急いで追いかけようとする慧音と男性教師だったがすでに猿は敷地の端へ到達していまい塀を上りそのまま別の場所へ飛び出そうとした。
だがその瞬間、廊下の端から凄まじいスピードで何かが飛んでいき、猿の周りを囲った。
すると猿の周りを囲むように赤色の結界が張られ、猿はそのまま結界に当たって体勢を崩したまま落ちていった。
「あれは……!」
「悟飯!お願い!」
「はい!」
慧音が驚き振り返る間に悟飯は姿を消し、ギリギリで落ちてくる猿を受け止めて見せた。
「……よかった。怪我はなさそうです。」
「キ、キィ……?」
突然の出来事に男性教師や少女、恐らく猿も何が起きたのかわからないといった感じで目をパチクリさせていたが慧音だけは事の状況を理解しているのか肩を撫で下ろしていた。
~それから数分後~
「あはは!おさるさんかわいいー!」
「キィ!キキィ!」
「お猿さんと遊んだらちゃんとお昼を食べに行くんだぞ?」
「はーい!」
猿はすっかり落ち着き、少女と戯れていた。
そのまま猿と少女を男性教師に任せて霊夢、悟飯、慧音の三人はすぐ隣で少女が遊び終えるのを待ちつつ話し始めた。
「やれやれ、なんとか一件落着と言ったところか。二人ともさっきは助かったよ。あまり役に立てなくてすまなかったな。」
「いいのいいの、むしろあそこで猿を止めていてくれて助かったわ。おかげで私の結界も間に合ったしね。」
「そうか……ん?霊夢、随分髪が乱れているが何かあったのか?」
「うぐっ。い、いえ?別になーんにもなかったわよ?ね、悟飯?」
「え?でも霊夢さんさっき__「わー!わー!何のことだかさっぱりだわ!」」
「……?まあいい、それよりもあの猿のことなんだが。霊夢たちが何かしたのか?私たちの所に来た時ずいぶんと様子がおかしかったが。」
「いえ?別に何もしてないけれど……。悟飯あんたは?」
「ボクも特に変わったことは……。あ、でもそういえば物置部屋で見つけた時すでに様子が変でした。……なにか怯えてるような感じで。」
「ふむ。確かに私の時も随分と警戒していたな。さっき教室で遊んでいたときはそんな様子はまるでなかったんだがなぁ……?」
「でも慧音先生。確かあの猿が寺子屋に入ってきたときも随分焦っていたみたいでしたよ?」
「そうなの?」
「あぁ、確かにそうだったな。何かに追われている……と言うよりは何かを恐れて逃げて来たと言うのがしっくりくる。霊夢、あの猿の飼い主はどんな方なんだ?」
「うーん。あんまり接点がないから詳しくは知らないけど、見世物としてたまに猿を使った芸をしたりする普通のお兄さんだったわよ?ここにも前に芸を見せに来たって言ってたわ。」
「……思い出した。確かにここに昔来たことがあったな。あの猿のことも大切にしていたようだったし飼い主が原因と言うわけではないか……。」
三人が猿の様子について意見を出し合っていると少女が猿を連れて慧音のスカートをちょいちょいと引っ張った。
「おっと。どうしたんだ?」
「えっとね、おさるさんといっぱいあそんだから次はお昼食べなくちゃ!けいねせんせーもいっしょに食べよー?」
「じゃあお猿さんはもういいのか?」
「うん!楽しかったよ!また来てくれるとうれしいな!」
「そうか。じゃあ先に教室に戻ってなさい?私もすぐにいくよ。」
「はーい!おさるさん、またねー!」
少女は満面の笑みを浮かべながら猿に手を振って教室へ戻っていった。
「さて、それじゃこの子を連れて戻りますか。ほら、こっちにおいで。」
「キィー!」
霊夢が手を差し出すと猿は器用に霊夢の手を上り、肩にしがみついた。
「ん。よろしい。二人とも協力ありがとね。またお祭りの時にでも会いましょ。」
「ああ。もう逃げられないようにな?」
「霊夢さん、お祭り楽しみにしてますね。準備頑張ってください!」
「ええ、じゃあまたね。」
そう言うと霊夢はそのまま浮かび上がって里の中心の方へ飛んで行った。
「……。」
「慧音先生、どうかしたんですか?」
「ん、いやちょっとな。(あの猿の怯え方……まるで動物的な本能が危険を察知してどこかへ隠れようとしたみたいだった。……何か災害でも起こらないといいんだが……。)」
何とか逃げ出した猿を捕まえることに成功した霊夢はその後、猿を飼い主の元へ返し再び祭りの準備に取り掛かるのだった。
果たしてこのまま何も起きずに無事祭りを開催することが出来るのであろうか……。
__祭り開催まで あと 2 日