ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
ブロリーはすでに地獄に到着して闘いを始めていた。相手はここ地獄に存在する一人の亡者であった。亡者は少し筋肉質な女性で金色の短い髪でピアスをしている。
「あっはっはっは!凄い、凄いわ!あの獄卒がワタシに手も足も出ないなんてね!」
「ちっ……!」
なんとブロリーは完全に押されていた。それもそのはず、ブロリーは映姫に出された条件によって力の半分を封印されていたからだ。
今のブロリーは超サイヤ人に変身することは出来ても伝説の超サイヤ人になることは出来ない。
それどころか超サイヤ人でさえ半分の力なのだ。
闘っているのはブロリーだけではなかった。先に闘っていた小町にたくさんの獄卒たち。そして亡者を押さえつけるために自ら出てきた映姫がいた。
だがすでに獄卒たちはほとんどがやられてしまい横たわっている。
残っている小町も映姫もボロボロの状態だった。
「調子に乗るなよ……!」
ブロリーは超サイヤ人に変身して亡者に殴り掛かった。
「それ!」
亡者はブロリーの拳に合わせて自らの拳をぶつけた。するとブロリーの拳が打ち負けて逆に吹き飛ばされてしまった。
「ブロリーの力が打ち負けた!?」
驚く小町をよそに映姫は考えていた。
(今のままでは私たちが負けて地獄がめちゃくちゃにされてしまうだけ……。だけどブロリーの封印を解いてしまったらそれこそどうなるかわからない。もしかしたら彼も私たちの敵になってしまう可能性だって……。いったいどうすれば……!)
映姫は迷っていたのだ。このまま行けば確実に負けてしまうがブロリーの封印を解けば勝てるかもしれない。しかし封印を解いてしまえばブロリーは力を完全に取り戻してしまい、相手を倒せたとしても今度はブロリーが地獄を荒らし始めるのではないかと。
「グォアアアーー!!」
ブロリーは再び亡者との打ち合いに押し負け、はるか後方の血の池まで飛ばされる。
血の池はまるで隕石が落ちたかのように血が噴きあがり辺りに血の雨が降った。
「あの男には感謝しないとねぇ?ワタシにこれほどの力を与えてくれたことにさ!」
そう言って亡者は更に自らの気を高め始めた。地獄全体に届くほどの巨大な気、その力はまるでナメック星で闘ったフリーザを越えるほどの気であった。
「さあて、四季映姫。よくもワタシを地獄に落としてくれたね?いままで散々苦しい思いをさせてもらった分、全部返させてもらうよ!」
亡者は明らかな殺気を放ちながら映姫の元へゆっくりと歩み寄ってきた。
「くっ!映姫様はやらせないよ!」
小町は大きな鎌を構えて亡者の前に立ちふさがった。
「小町やめなさい!貴方では勝てません!」
「やぁあああーー!!」
映姫の制止の声を無視して小町は亡者目掛けて弾幕を放った。だが亡者はその弾幕に対してニヤリと笑うと両手を大きく後ろに下げた。
「はぁあああーー!!」
そして亡者が下げた両手を前に突き出すと巨大なエネルギー弾が現れてそのまま小町の弾幕を飲み込んで飛んできた。
「っ……!?きゃああああーー!!」
小町はそのエネルギー弾を避けることが出来ずに吹き飛び、大爆発を起こして大きなクレーターを作った。クレーターの中心で小町の意識は途切れた。
「小町……っ!貴方……なんてことを!!」
「ふふっ。邪魔だったから片付けてあげただけよ。それよりも貴方は部下の心配なんてしてる余裕ないんじゃないの?」
「くっ!」
再び亡者が映姫に向かって歩き出したその時、血の池が再び噴き出して中からブロリーの咆哮が響き渡った。
「ブロリー……!!」
「あの獄卒まだ生きてるわけ?しぶといわね~。ま、いいわ。今度こそ殺してあげる!」
ブロリーは降り注ぐ血の雨の中をゆらゆらと歩いて亡者の前までやってきた。
「おまえ程度に殺されはしない。死ぬのはおまえだ……!」
「へえ?ワタシの力に手も足も出ないのにどうやってワタシを殺そうっての?っていうかワタシはもう死んでるんだけどね。あっはっはっは!」
「ならば地獄以上の恐怖を教えるだけだ!」
「はん!やってみなよ!!」
亡者は気を鞭のように変化させてブロリーに打ち付けてきた。
あまりの速度にブロリーは鞭を避けることが出来ず、全身を滅多打ちにされる。
「ぐっ、おのれ……っ!」
「そらそらそら!どんどんいくよっ!」
亡者の猛攻を手をクロスにして身を守り続けると無理やり手を前に突き出してエネルギー波を放った。
だが亡者は動揺するも軽々とそれをかわして見せた。
「あはは!危ない危ない__おっ?」
「ハァアアア……!!」
亡者との距離が離れた瞬間、ブロリーは連続で強力な気弾を放った。
「ふふっ!ほっ!それ!そりゃ!」
亡者はブロリーの放った気弾を鞭で弾き落とした。
弾かれた気弾は地獄のあちこちに飛び交い爆発を繰り返す。
映姫はそれを見てやはり今のブロリーでは勝ち目がないと考えるも今だ封印を解くべきかに躊躇していた。
(あの亡者の力は計り知れない……。ブロリーの力を解放したところで勝てるかどうか。でもこのままいけば確実に全員が殺されるだけ……やはり彼に賭けるしかないの……?)
葛藤を繰り返す映姫だったがそこで二人の闘いに変化が見え始めた。
「ダァアアア!!」
「っ……!くっ!」
僅かだがブロリーの気弾を亡者が弾ききれなくなってきていたのだ。
「っ……調子に乗るな!」
亡者はブロリーの気弾を掻い潜ってそのまま鞭を持っていない方の手でブロリーを地面に叩きつけた。
凄まじい勢いで叩きつけられたことによって地面は大きくひび割れて瓦解する。
だがブロリーは叩きつけられた直後にすぐ立ち上がり亡者に向かって拳を振るった。
その状態から反撃してくるはと思っていなかった亡者はその拳を避けられずに宙を舞いブロリーから離れた場所に着地した。
「やってくれるじゃない……!」
「ウォオオオオ!!」
動揺する亡者にブロリーは休む暇を与えずに攻撃を仕掛けると亡者はその攻撃を正面から鞭で叩き伏せようとした。だがブロリーはその鞭を受けながらも無理やり亡者に突進した。
「なっ!?」
そしてブロリーの拳が亡者の腹に直撃し、亡者はさすがにダメージを受けて腹を押さえた。
「ゲホッ!も…もう許さないよ!本気で片付けてやる!!」
頭に来た亡者はついに本気の力を解放し、ブロリーとぶつかり合った。
その闘いを見ていた映姫はブロリーの変化に気が付いた。
(さっきよりも実力が上がっている?)
そう、ブロリーは最初に比べて別人と言っていいほど強くなってきていたのだ。
ブロリーは力を封印されて地獄で獄卒として働きながらも悟空をそしてあの時のホウレンを超えるために修行だけは欠かさずに行っていたのだ。
そのその結果、映姫の封印では抑えきれないほどの力がブロリーの中にみなぎっていた。
(嘘……封印が解けかかって……!)
「ウォオオオオーー!!」
「「!!?」」
そしてついにブロリーの気が溢れ始め、封印が解かれた。
その瞬間ブロリーを中心に爆風が発生しとてつもない気が解放された。
「……封印が……解けた……?」
「な、なんなの?おまえ一体何をしたってんだ!そんな力どこに……っ!」
「……。」
気の奔流の中、封印が解けたことに気が付いたブロリーはニヤリと笑い更に力を上げ始めた。
「アァアアアアーー!!」
「ち、力がどんどん上がっていく……!そんな、馬鹿な!?」
迸る気がどんどん膨らんでいき一瞬次元が歪んだような感覚に陥るとブロリーの気が大きく爆発して再びブロリーの周辺から爆風が起こった。
ブロリーは幻想郷に来て初めて変身したのだ……伝説の超サイヤ人に。
「あれが……ブロリーの本当の力…なの?」
「あ…ああ……。」
「……どうした。足が震えているぞ……?」
亡者は圧倒的な気を前に全身が震えあがってしまっていたのだ。だがそれも無理もない。
ブロリーの力は三年前よりも遥かに増大していて超サイヤ人を越えた悟飯すらも上回っていたのだ。いくら力を得たとは言え亡者とは比べ物にならない。
震えて動けなくなった亡者を見て、ブロリーはゆっくりと近寄っていった。
「言ったはずだ……。」
亡者の目の前まで来たブロリーはその頭を鷲掴みにした。
「地獄以上の恐怖を教えると……!」
その言葉に亡者は青ざめて更にガタガタと体を震わせた。
「や…やめろ!」
「もう遅い……!」
ブロリーはその後、亡者を徹底的に追い詰め、まるでボロ雑巾のようになるまで攻撃をし続けた。
そして意識を失った亡者を投げ捨てると変身を解き映姫の元へ歩いてきた。
その様子を見ていた映姫は少し怯えたようにブロリーと向き合った。
「……封印。解けてしまったんですね。」
「……。」
「あの亡者を止めてくれたのは感謝します。ありがとうございました。……もう貴方の力を封印することは出来ないでしょう。どうしますか……?」
「……何がだ?」
「……力を取り戻したということは私たちの敵に回るのですか……?」
怯えるように言ったその言葉を聞くとブロリーは何も言わずに映姫の隣を通り過ぎた。
「ブロリー……?」
「その亡者は一番深い地獄にでも送っておけ。小町や獄卒共を運ぶぞ。さっさとしろ。」
「!!……ブロリー、貴方……。」
「……元の世界に戻れん以上オレに行く当てなどない。それだけだ。」
ブロリーはそう言って小町を抱えて歩き出したのだった。