ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
ここは魔法の森。未だ氷があちこちに残った森の中をホウレンと霊夢は走り回っていた。
途中氷で足を滑らせて転んだり、いつもと違う森の様子に軽く迷ったりもしながら二人は進んでいた。
「霊夢!おまえの勘って本当にあてにしていいんだよな!?かれこれ30分くらい走ってる気がするんだが!」
「しょうがないでしょ!森の様子がいつもと違うから道がよくわかんないのよ!」
「飛んで探すのはだめなのか!?」
「そんなことして相手に見られて逃げられたら意味ないでしょ!」
「つーかもうこの森にいないんじゃねえのか!それといった気も感じねえしさあ!」
「私の勘を信用しなさい!これでも結構当たる方なんだから!」
仕方なく霊夢を信じて走り続けると森の奥から人の声が聞こえてきた。
「霊夢!今の声……聞こえたか!?」
「ええ、誰かいるわね……!早くいくわよ!」
そのまま声のする方向へ疾走するとそこには魔理沙とアリス、そしてパラガスの三人組と見知らぬ女性が話をしていた。
桃色のポニーテール、大きな目をした可愛らしい顔立ち、薄紫色のワイシャツにデニムのズボンを着ているその女性は幻想郷に住む人たちとは明らかに違った服装をしていた。
「霊夢?それにホウレンも、なんでこんな所に?」
不思議そうに尋ねてきたのは魔理沙だ。他の二人の同様に霊夢とホウレンを不思議そうに見ていた。
だが相手の女性は常に表情を崩さずにこちらの様子を笑顔で見ていた。
「あんたたちこそ……ここで何してるのよ。」
「私たちか?私たちはちょっと三人で魔法の材料を探しに来たんだけど、今あいつに声をかけられてさ。ちょっと話を聞いてたってわけだ。」
「霊夢たちはそんなに急いでどうしたの?」
「ちょっと人里から人を追ってきたのよ。」
「迷子になりながらな。」
「余計なこと言わない!」
「いで!?殴ることないだろ!ほんとのことじゃねーか!」
「ほんとのことでもわざわざ言わなくていいのよ!」
「相変わらずおまえたちは仲がいいなー。なあパラガス?」
「そうだな。微笑ましいものだ。」
「そろそろこっちの話の続きをしていいかな?」
ホウレンと霊夢が騒いでる間に謎の女性は魔理沙たちに話を振った。
「あ、わりいな。待たせちまってさ。」
「構わないよ。それでボクが聞きたい話なんだけれど__八雲紫について教えて欲しいんだ。」
考えもしなかった問いかけに一同は一斉に女性を見た。
女性は全員の視線を受けながらもニコニコと笑っていた。
「この幻想郷において八雲紫を知る者は強者だけ。そしてあなたたちから感じる力は並大抵のものじゃない。ならば八雲紫についても何か知っているんじゃないかな?」
「……私たちの力がわかるのか?」
「もちろん。いくら抑え込んでいても溢れる力はごまかしきれないもんね。あなたたちの力は間違いなく今まで話を聞いてきたやつらとは次元がちがう!とても綺麗で美しいものを感じるんだ。」
霊夢は女性の言葉を聞いて確信を持ち、魔理沙の前に出て女性と対峙した。
「お、おい霊夢?」
「……その口ぶりからすると間違いないわ。あんたが噂の女ね。」
「へえ?ボクが噂になっているのかい?」
「ええ、最近強いやつや顔が整ったやつの前にだけ現れるって噂よ。心当たりあるでしょ?」
「……ふむ、確かにそれはボクだ。あなたたちはボクを探してここまで来たってことかい?」
「そういうことになるわね。あなた名前は?」
「ボクはファトムだよ。あなたは?」
「私は博麗霊夢。貴方から話を聞かせてもらうわよ。なんで紫のことを知りたがってるわけ?」
「それは秘密だよ。今はまだ教えられないからね。」
「じゃあ他の質問。強者はともかく、なんで顔のいいやつにまで声をかけてたの?」
「美しいものを見るとつい話しかけたくなるんだ。つまりただの趣味だね。」
「趣味かよ!」
「うるさいわよホウレン、急に叫ばないでよね。……それじゃあ最後の質問。あなたは幻想郷の敵?それとも味方かしら?」
「ストレートな質問だね。でもそのまっすぐさはボク好みだ。純粋で美しい。」
「あなたの好みなんてどうでもいいわ。早く答えなさい。」
ファトムはかかった前髪を手で直しながら口元に小さな笑みを浮かべて答えた。
「……敵…といったらどうする?」
その瞬間、ファトムの体から桃色の気が溢れ出てきた。その姿を見て全員が身構えた。
「やっぱりね。男は見つからなかったけど、もう一人の方は見つけたわ!ホウレン!こいつを捕まえて神社に連れて帰るわよ!」
「おう!」
するとやる気を出して構える霊夢たちの肩に魔理沙が手を置いて後ろに下がらせた。
「お二人さんは下がってな。あいつは私たちが相手をする。」
「はあ!?」
「何が何だかわからないけど、私たちってことはとうぜん私も含まれてるのよね。」
「ちょっとアリスまでどういうつもり?」
「さあね。魔理沙に聞いて頂戴。」
そう言われて霊夢はすぐに魔理沙をじろりと睨むと魔理沙はニッと笑って答えた。
「だってさ。あいつはもともと私たちに話を聞いてきたんだぜ?だったら闘うのも私たちが先ってことでいいだろ?霊夢とホウレンはそこで私たちの闘いを見ててくれよな。ほらパラガスもいくぞ!」
「やれやれ俺もか。仕方あるまい。ホウレン、悪いが俺たちが先に闘わせてもらうぞ。」
「俺は別に構わねえけどさ。大丈夫なのか?」
「心配することはない。我々もこの間の異変で更に強くなったのだ。それを見せてやろう。」
そして魔理沙を中心にアリスとパラガスが隣に並び立ってファトムと対峙したのだった。
「ああもう、わかったわよ!あなたたちに任せるわ。絶対に殺しちゃだめだからね?」
「わかってるよ。待たせたなファトム。私たちが相手になるぜ!」
「あまり美しくないね。三人がかりでボクを倒すつもりかい?」
「お望みならば私一人で闘ってやってもいいけど、おまえ隙を見て逃げ出しそうだからな。念のために三人で逃げ場を失くさせてもらうぜ。」
「あらら、そこまでバレちゃってたか。仕方ない、あなたたちを全員倒して八雲紫の情報を聞かせてもらうとしようかな。」
「倒せるもんならな!まずは様子見をさせてもらうぜ!」
そう言うと魔理沙は無数の弾幕をファトム目掛けて放った。その弾幕の密度は大したものではないが少なくともそこいらの妖怪では受けきれない程度のものであり、普通の人間ならば避けることすらできないはずだ。
だがファトムは避けようとも防ごうともせずに棒立ちのままでいた。
「なかなか力強くて美しい弾幕だね。でもその程度の量じゃ様子見にもならないかな。」
するとファトムは魔理沙の弾幕をすべて両手で受け流して見せた。しかもその場から一切動かずにだ。それを見た魔理沙たちはファトムがただ者ではないことに気が付いた。
「手加減してるとは言え、私の弾幕を軽く受け流すなんてな。」
「まあね。ボクこんな見た目だけど結構強いと思うよ?だから全力で闘って欲しいかな。」
「この状況で相手に全力を出して欲しいなんて、変な奴だな。」
「そんなことないさ。どうせ闘うんだ、それならあなたたちの一番美しい所を見てみたい……ただそれだけだよ。」
「やっぱ変だぜおまえ。でもそれが望みなら私たちも全力を見せてやってもいいぜ……!」
そう言った魔理沙に合わせてアリスは魔力をパラガスは気を最大限まで高めて見せた。
それを見たファトムはとても嬉しそうに笑った。
「ああ……いいね!気分が高揚してきたよ!」
「おまえも力を見せたらどうだ?私たちの力がわかるなら、手加減なんかする余裕はないはずだぜ。」
「そうだね。じゃあボクも本気で闘わせてもらおうかな!」
するとファトムの気が一気に膨れ上がり、辺り一帯の落ち葉が吹き飛んだ。
魔理沙とアリスは気を探ることが出来ないため、パラガスに小声で反応をうかがう。
「パラガス。あいつの力……わかるか?」
「……ああ。強いな。正直言って俺たち三人よりも力は上かもしれん。」
「ちぇ、また格上が相手かよ。世界って広いな……。」
「でも三人でたくさん練習したじゃない。やってみましょ?それに私たちがもしやられたとしても、後ろにはあの二人もいるわけだしね。」
「ぐぬぬ、それは嫌だ。絶対に私たちだけであいつを倒してやる……!」
「その意気だ。いくぞ。」
「おう!」
「話は終わったかな?じゃあ始めよっか!あなたたちの最高の姿を見せてもらうよ!」
その言葉と同時に闘いの火蓋は切って降ろされた。最初に動いたのはパラガスだった。
パラガスはファトムに肉弾戦で挑み、激しくぶつかり合った。
「おじさん、なかなか強いね。そこいらの妖怪なんかとは比べ物にならないよ。」
「余裕で受け流しながらよく言う。だがこれでは終わらんぞ!ハァ!!」
「!!」
パラガスは攻撃の手を一瞬だけ止めて地面に向けて気弾を叩きつけた。
それによって大量の土煙が舞い上がり視界が悪くなる。
「目隠しか……。気も上手く消して姿をくらませている。闘い慣れてるね。でもこんなのすぐに振り払ってあげるよ!」
ファトムは全体に向けて気合を放ち、土煙を振り払うとファトムの周りをアリスの人形たちがぐるりと囲んでいた。
「かかりなさい!」
人形たちはアリスの掛け声と同時に全方向から一斉に突撃していった。
だがファトムはその不意の攻撃にも動揺せず、一体一体攻撃をいなしていった。
「なるほど、最初の目くらましはこのためだったんだね。でもこれじゃあボクは倒せないかな。」
「それはどうかしら?それ!」
アリスは思いっきり手を引いて見せるとファトムの体が何かに縛り付けられたように棒立ちになった。アリスは人形たちを操る糸を極限に細く強靭なものへと変えていたのだ。
それを全方向から突撃させたことによって、ファトムに気が付かせずに糸を張り巡らせていたのだ。
「これは……!」
「今よ!魔理沙!」
最初の土埃と同時に姿をくらませていた魔理沙がファトムの頭上に現れ、魔力が十分に溜まった八卦炉を向けた。
「はぁああああ!!」 星符『ドラゴンメテオ』
「っ!くっ、動けない!!うわああああ!!」
糸に縛られたファトムは身動きが取れずに真上から振ってくるマスタースパークをまともに受け止めてしまい、周囲に爆風が起こる。
これで決着かと思ったその時、煙の中からボロボロになったファトムが魔理沙に向かって飛んできた。
「なっ!?」
「たあ!!」
そしてそのままファトムは魔理沙の持っていた八卦炉を蹴り落としそのまま魔理沙を蹴りの連撃で木に叩きつけて、再び地面に降りてきた。
「あ…あれを食らってまだピンピンしてんのか?」
「ピンピンなんかしてないさ。だいぶダメージを負ってしまったよ。素晴らしい連携攻撃だった!凄く美しかったよ!でもこれ以上攻撃が当たってしまったらボクも無事じゃ済まなそうだからね。さっきの道具がなければあなたはあれを撃てないはず。ボクの勝ちだよ。」
「へっ、残念だけどまだ勝負はついてないぜ!いくぞパラガス!」
「ああ!」
「まだ諦めないんだね。やっぱりあなたたちは凄く美しい戦士だ。だからその意気に免じてボクがとどめを刺してあげるよ!」
魔理沙とパラガスは左右から遠距離の弾幕と近距離の肉弾戦でファトムを攻めていく、さきほどのマスタースパークのダメージもあってか、ファトムは攻撃を完全に受け流すことが出来なくなってきていた。
だがファトムは残った力でパラガスを蹴り飛ばし、エネルギー弾を放って魔理沙を吹き飛ばした。
「さあ、これで終わりだ__ッ!!?」
手始めにパラガスにとどめを指そうとしたファトムだったが、突然高威力の閃光がファトムを後ろから襲い、ファトムを吹き飛ばした。
ファトムは地面に倒れながらもなんとか閃光の出どころを見ると、そこには先ほど落とした八卦炉を構えたアリスが立っていた。
「な……なんであなたが……その道具を?」
困惑するファトムに魔理沙が歩み寄ってきた。
「……さっき私とパラガスがおまえに攻撃を仕掛けたときにアリスが人形を使ってこっそり自分の所に運んだんだ。そしてアリスの魔力でマスタースパークをおまえに撃った。作戦成功だな。」
「ええ。でもこれやっぱりきついわ……。魔力が一気に抜けちゃうんだもの。」
「もしもの時の作戦まで使うことになるとはな。一対一では俺たちに勝ち目はなかっただろう。だがあえて言わせてもらうとしよう。この闘い、俺たち三人の勝利だ。」
ファトムはその言葉を聞くとクスクスと笑いだした。
「……うん。降参だよ。あなたたちの美しい絆、見せてもらったよ。……ボクのことは好きにするといい。」
「だとさ。霊夢、連れてっていいぜ。」
「まったく、見ててひやひやしたわ。もうちょっと余裕で勝ってよね。」
「無茶言うなよ。この女めちゃくちゃ強かったんだかんな。」
「知らないわよ。こんな女アスイとかに比べれば弱いでしょ?」
言い合っている二人に倒れたままファトムが話しかけてきた。
「……あなたたちさっきから勘違いしているみたいだけどボクは一応『男』だよ?」
その瞬間全員がポカンとした表情でファトムを見つめた。それもそのはず、見た目はどこをどう見ても女性にしか見えない容姿をしていたからだ。
「……おまえ、男だったのかよ!ってことはあれか!?霖之助が言ってた男ってこいつのことだったのか!?」
「霖之助さん、よくこの人が男だってわかったわね……。正直驚いたわ。でもそれならそうと説明くらいしてくれればよかったのに」
「なあ霊夢、こいつを捕まえたら例の噂は解決なんじゃねーか?」
「それもそうね。あなた、悪いけど私の神社で話を聞かせてもらうからね。ホウレン、この人運んできて。」
「へいへい、よいしょっと!」
ホウレンはボロボロのファトムを背中に乗せてパラガスたちを見た。
「みんなありがとな。あとは任せといてくれ。」
「わかった。後始末は私たちがしとくからそいつは任せたぜ。」
「おう、じゃあな!」
魔理沙たちの手によって噂の人物を捕まえることに成功した霊夢とホウレンはファトムを連れて博麗神社へと戻るのだった。二人はファトムから情報を聞き出すことが出来るのであろうか?