ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
凍り付いた境内でホウレンの名を叫び続ける妖夢。その後ろにアスイがゆっくりと迫ってきた。
「……そう悲しむな。すぐにおまえもそうなる。」
「許せません……なにが目的でこんなことするんですか!?」
「……目的か。簡単に言えばこの幻想郷の侵略ってところか。」
何故かあっさりと話したアスイの目的に妖夢は信じられないといった表情をする。
「幻想郷の侵略……!?そんなこと貴方一人でできるわけありません!!まさか、まだ仲間がいるっていうんですか!?」
「……侵略に来たのは俺一人だ。だが俺には兵がいる。それがこの魔人……『永久氷塊魔人』だ。……すでにこいつらは幻想郷の各地に送り込んである。この世界が氷に覆われるのも時間の問題だ。」
「そんな魔人なんて……幻想郷トップクラスの実力者たちには通用しません!」
「……おまえの言うとおり、こいつらは頑丈なのが取り柄なんだがここの実力者には通用しない場合がある。……そういった輩がいる場所にはこの俺が直接向かっている。ここのようにな。……だが博麗の巫女には少し手こずらされた。厄介な技をいくつも持っていたからな。」
「博麗の巫女って……まさか貴方!霊夢さんと闘ったんですか!?」
「……闘った。というよりもすでに始末したといったほうがわかるか?」
「そんな……あの霊夢さんまで……っ!!」
「……もう話はこれまでだ。そろそろ終わらせてもらうぞ。」
「っ!!」
アスイが妖夢に向けて手を伸ばしたその時、いくつもの気弾がアスイ目掛けて飛んできた。アスイはそれを後ろに飛んで回避して気弾が飛んできた空を見上げる。
「妖夢さん、大丈夫ですか!!」
「ちっ、すでにホウレンの野郎はやられてやがる。」
現れたのはトランクスとベジータだった。二人は妖夢の前に降り、超サイヤ人に変身してアスイと対峙した。
「……その力……あの博麗の巫女とそこの男以上か。……少々分が悪いな。」
「安心しろ。貴様はオレ一人で相手をしてやる。」
「……お言葉だが、ここは引かせてもらおう。今はまだ相手をするには早いからな。」
「オレが逃がすと思うか?はぁああああ!!」
ベジータはアスイに向かって一気に加速して殴り掛かる。しかしアスイはいつの間にかただの氷像に入れ替わっており、簡単に砕け散ってしまった。
「ちぃっ!……そこだ!!」
ベジータは瞬時にアスイの居場所を把握して気弾を放った。その気弾は魔人たちによって防がれ、その間にアスイは姿を消した。
アスイが消えた後に魔人たちは砕け散ってしまい、その場に残ったのはボロボロになって凍り付いてしまった境内と全身を氷漬けにされてしまったホウレンと勇儀、そして無事だった三人だけだった。
「……逃がしたか。逃げ足の速い野郎だぜ……。」
「あの……助けていただきありがとうございました。」
妖夢は深々と頭を下げて二人にお礼の言葉を言った。
「妖夢さん。ここで何があったのか教えていただけますか?」
「はい。ご説明させていただきます。……実は。」
妖夢は博麗神社で起こったことをすべて二人に話した。
「なるほど……あの二人が簡単に敗れるなんて……。アスイとは何者なんでしょう?」
「何者であろうと関係ない。次にあったら今度こそぶっ倒してやればいいだけだ。」
「ですが、相手の力はまだ未知数。あの口ぶりだと強さの他にまだ別の何かを隠し持っているかもしれません。万が一の為にも対策を考えないと。」
「ちっ、仕方ない。それよりも貴様、たしか妖夢とか言ったな?」
「は、はい。なんでしょうか!」
「今からホウレンとあの女を永遠亭に連れて行く。永琳に見せたらもしかするとこの氷の解かし方がわかるかもしれんからな。貴様もついてこい。」
「わ、わかりました。私もご一緒します。じゃあ私はホウレンさんを運ばないと……。」
「いえ、貴方も疲れているでしょう?あの二人はオレと父さんで運ぶので貴方は一緒についてくるだけで大丈夫です。」
「そうですか?では、すみませんがお願いします……。」
三人はホウレンと勇儀を担いでベジータに案内されながら永遠亭へと飛び立った。
それから十数分後。三人は永遠亭に着いてホウレンと勇儀を永琳の元へ運ぶとすぐに治療が始まり、三人は他の部屋で待機していた。
「父さん、オレはこのあと一度地底に戻ろうかと思います。」
「なぜだ?」
「地底はまだあの魔人たちの侵略の手が回っていません。もしかしたらあの男も強者が揃っている地底まで足を運ぶ可能性があるからです。地底までやられたらそれこそあいつの思うつぼですからね。」
「なるほど。ならばオレもついていこう。あの男ともう一度闘うにはそれが一番手っ取り早い。」
「……妖夢さん。貴方はどうしますか?」
一人静かにホウレンたちの治療を待つ妖夢にトランクスが声をかける。
「私は……ここに残ります。ホウレンさんのことが心配ですし。」
「わかりました。ホウレンさんと勇儀のことよろしくお願いします。」
「ここは迷いの竹林の中とは言えやつに見つかるのも時間の問題だ。十分に警戒はしておけ。」
「はい。ありがとうございます。」
話を終えると丁度よく永琳と鈴仙が部屋に入ってきた。
「治療の結果が出たわ。残念だけどあの氷を解かすことは私には出来ないわ……ごめんなさい。」
「あの氷、とても硬くてまるで鋼鉄で出来てるんじゃないかってくらいなんですが、それ以前に普通の氷とは全然違う性質で出来ているみたいなんです。」
「違う性質?」
「そう。貴方たちがここに運んだと時、あの二人を少しでも冷たいと思ったかしら?」
「そういえば……冷たさは感じなかったような……。父さんはどうでしたか?」
「オレも同じだ。それがどうかしたのか?」
「冷たくなく強度もあり尚且つ温めても解けない氷……。ひょっとしたらあの氷は中にいる人を閉じ込めておくための特殊な氷なんじゃないかと私は見ているわ。」
「閉じ込めておくための氷って……一体何のために?」
「さすがにそこまではわからないけど、少なくとも中にいる人たちは無事よ。安心しなさい。」
「そ、そうですか!よかった……!」
ホウレンたちが死んでいないことを知って妖夢は胸を撫で下ろした。
「とにかく二人の無事がわかってよかった。じゃあオレと父さんはこれから地底へ向かいます。」
「もう行くんですか?ベジータさんまで。」
「まあな。鈴仙、せいぜい氷漬けにされないようどこかに隠れているんだな。」
「もう!私だっていざとなったら闘えますよ!」
「ふっ、そうか。永琳、そういうわけだ。ホウレンたちを頼んだぞ。」
「ええ。貴方こそ気を付けていってらっしゃい。」
トランクスとベジータは地底へと向かって、永遠亭から飛び立った。それから少し時間は過ぎて地底へとたどり着くと地底が妙に騒がしかった。
「父さん、急ぎましょう!もしかしたら魔人がすでに攻めてきているのかもしれません!」
「そいつは好都合だ。行くぞトランクス!」
「はい!」
二人は急いで騒ぎの中心となっていた旧都へと向かった。旧都に降りたつとそこには5メートルほどのサイズの氷の魔人が数体とアスイと思われる後姿が見えた。
「トランクス。おまえは魔人共をやれ。おい貴様、今度は逃がさんぞ。覚悟しやがれ!」
「……。」
「おい、聞いているのか?」
アスイは黙っているだけでまったく口を開こうとしなかった。そのままアスイは無言で振り返り、ベジータに襲い掛かってきた。
氷でできたダガーでベジータの首を狙うもベジータは首を傾けてその攻撃を軽くかわした。
「フン!!」
「……!!」
ベジータは攻撃をかわした後すぐにアスイの腹に拳で重たい一撃を入れる。その攻撃の重さにアスイはその場に膝をついた。
「……どうした?さっきのおまえはこんなものじゃなかったはずだ。本気を出せ!」
「……。」
ベジータの言葉にまるで反応がないアスイの様子に魔人の相手をしながらもトランクスは疑問を抱いた。
「(なぜさっきから何も喋らないんだ?それに魔人たちもアスイを助けにいく素振りすらない……。__っ!!まさか!!)__父さん!そのアスイは偽物です!!」
「なんだと?どういうことだ、トランクス!」
するとベジータの目の前にいたアスイはみるみる姿を変えていき、一体の氷の魔人に変わった。
「なっ!?ど、どうなってやがるんだ!!」
トランクスは超サイヤ人に変身して魔人たちを一掃するとすぐにベジータの元へ駆けつけた。
「恐らくこいつらはオレたちを地底に閉じ込めておくための罠です!急いで地上に戻らないと閉じ込められてしまうかもしれません!!」
「なんだと!!」
「父さん!早くそいつを片付けて地上へ!」
「くそったれ!チャアアア!!」
「グォオオオオオ!!」
ベジータも超サイヤ人に変身すると目の前の魔人を消し飛ばした。そして急いで地上へと向かおうとするが時すでに遅し、幾層にもなった氷によって入口がふさがり、その氷から次々と氷の魔人が生み出されて旧都を襲い始めたのだ。
「く、くそっ!まんまと罠に嵌められたってのか!!」
「父さん、とにかく今はあの魔人たちを倒しましょう!このままでは旧都が氷漬けにされてしまいます!」
「仕方ない……!やるぞ、トランクス!!」
「はい!!」
場所は変わって再びここは永遠亭。妖夢は凍り付いたホウレンをすぐそばで見守っていた。
その時、鈴仙が病室に駆け込んできた。
「お、お師匠様!大変です!!」
「騒がしいわね。そんなに慌ててどうかしたのかしら?」
「それが……地底につながる道がすべて氷漬けになってしまったみたいなんです!」
鈴仙の言葉に妖夢が椅子から立ち上がり鈴仙に問いかける。
「地底への道が塞がれたってことですか……?じゃ、じゃああの二人は!?」
「多分、地底に閉じ込められてしまったと思われます……。」
「そんな……。」
「それだけじゃありません!どうやらあの魔人たちが人里に集まり始めているみたいなんです!」
「ベジータたちはもしかしたら罠に嵌められたのかもしれないわね……。まずいことになってきたわ……。人里を魔人たち全員から守り切れる人なんて誰もいないわ。」
「お師匠様、ここは私が向かいます!少しでも多くの人を助けに行かないと!」
「……私も行きます。」
「妖夢さん?」
「いつまでもホウレンさんの傍にいるわけにはいきませんから……。」
「助かります!お師匠様、いいですよね?」
「……そうね。いってきなさい。でも、危ないと感じたらすぐに逃げ帰ってくるのよ。わかった?」
「「はい!」」
行く直前に妖夢は凍ったホウレンに手を触れた。
「ホウレンさん。私、行ってきます……。どうか見守っててください。」