ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ 作:月下の案内人
ピッコロと早苗がパラガスたちの元へ現れる少し前、生い茂る木々の中ピッコロと早苗は大きな足跡を追って山頂へと足を 運んでいた。
足跡をたどるにつれて辺りの氷結が大きくなっていくのがわかった。
「ここもこんなに凍りついて……一体どうなっているんでしょう?」
「さあな。この足跡の主がやったのか。はたまた全く別のやつの仕業か。どちらにせよ放ってはおけん。さっさと行くぞ。」
「はい、行きましょう。ってちょっと待ってください。あそこに倒れてるのって……妖精?」
「妖精だと?」
早苗が指差す場所には一人の少女がうつ伏せになって倒れていた。早苗はすぐに少女のもとへ駆け寄った。
「ううっ……。」
「大丈夫ですか?というか貴方……。紅魔館の近くにいた妖精さんじゃないですか。なんでこんな遠いところに……?」
早苗の呼びかけに気づき。大妖精はゆっくり体を持ち上げた。その様子は襲われたような状態ではなく、どちらかといえば非常に疲れきった状態のようだった。
「あ、貴方は守谷神社の巫女さんですか……?」
「はいそうです。東風谷早苗です。一体何があったんですか?」
「お願いします……っ!チルノちゃんを、止めてください!」
「え?」
早苗は思わず呆気にとられた。いつものチルノなら頑張れば大妖精でも止めることは十分可能なはずだったからだ。だが大妖精の切羽詰まった顔を見て早苗は気を引き締め直した。
「あの子に何かあったんですか?」
その問いかけに大妖精は小さく頷いた。
「……最近、幻想郷のあちこちが凍っちゃってるのは知ってますよね?その影響か気温とかが場所によっておおきく違うんです。そして今日、チルノちゃんの様子がおかしいことに気づきました。」
「それはどんな風にですか?」
「なんというか……その、ものすごく元気になってて。すこし暴力的っていうか……。とにかくいつもとは全然違うんです!……今だって、いつもはこんな遠くまで遊びに来ないんですけど、チルノちゃんがなにか興奮した状態で、ここまで飛んできちゃったんです。」
「……そのチルノちゃんはどこに?」
「……さっきここら辺で見かけたすっごく大きな怪獣を追いかけて飛んでいっちゃいました。私は止めたんですけど、全然聞いてくれなくて……。」
「おおきな怪獣……?」
「おそらく、オレたちが追っている生物と同じだろう。」
「そっか!それなら……!」
早苗はなにかを思いついたようで笑顔になり、大妖精を見つめる。
「安心してください!私たちがチルノちゃんを連れ戻してあげます!」
思い切り胸を張って早苗はそう言い放った。
「ほ、本当ですか!?」
「ええ!任せてください!ね?ピッコロさん。」
「……なぜオレもなんだ?」
「だって目的の生物と一緒にいるかも知れないんですよ?何かあったら大変じゃないですか!だから是非協力してください!」
あまりにまっすぐな目で頼まれたピッコロは肩を落とし、小さくため息をつく。
「仕方あるまい。見つけたらオレたちが保護しよう。それでいいな?」
「はい!ありがとうございます!それでは私たちはすぐに向かいます。一人で大丈夫ですか?」
「わ、私は一人で大丈夫です。で、でも気をつけてください!……今日のチルノちゃん、凄く強いんです。」
「?わかりました。では気をつけます。すぐ戻りますので待っていてくださいね?さ、行きましょう!ピッコロさん!」
「ああ。……少々時間をくった。少し急ぎで行くぞ。」
そうして二人は大妖精を置いて足跡を追って走り去った。それから二人は山頂へとたどり着くいた。すると山頂は全てが氷結しており、さらに雪まで降り積もっていた。明らかに異常な光景に早苗は驚きを隠せずにいた。
「さ、寒いぃぃ!なんですかこの光景!今ってまだ暑い季節ですよね!?なんでこんなに雪が降ってるんですか!」
「オレが知るか。おいこら!オレのマントにくるまるな!」
「だって寒いんですもん!ちょっとくらい許してください!」
早苗はピッコロのマントにくるまってピッコロにしがみついていた。さすがにピッコロもこれでは動きようがない。
「ええい!わかった!貴様にも服を出してやるから離れろ!これでは動けん!」
「え?ピッコロさん服なんて持ってるんですか?」
「持っていはいない。だがオレの魔術で出すことは出来る。分かったらとっとと離れろ。」
早苗は渋々マントから体をだしてピッコロと向き合うとピッコロは早苗の頭上に手を広げた。すると薄茶色のコートが現れ、早苗に着せられた。
「わあっ!ど、どうやったんですか!?ピッコロさんって魔法使いか何かだったんですか!?」
「魔術といっただろう。それとオレは魔法使いではない。もたもたしてないでさっさと探すぞ!」
「はい!……って、あ!ピッコロさんあれ!!」
「今度はなんだ!」
早苗が指差す場所を見るとそこには巨大な氷の魔人が這いつくばった状態で徘徊していた。
その大きさは10メートルを超えていて、腕は4本もあり、背中には大きな刺のようなものがたくさん生えていた。どうやらその刺からこの雪を噴出しているようだ。
「……見つけたか。でかしたぞ、早苗。」
「えへへ~。」
「気を緩めるな。奴がいつこちらに気づくかもわからん。」
「はい。ピッコロさん。ここで見ていてください。」
早苗の言葉を聞いてピッコロは早苗を振り返る。
「ほう?おまえ、一人でやる気か?」
「ええ。異変解決というのがどんなものかお見せします!」
早苗は自信満々にそう言い放った。
「ふん、いいだろう。おまえの異変解決がどんなものかここで見させてもらおう。もちろん作戦はあるのだろ__」
「そこの氷の化物!待ちなさい!」
「__う…な……?」
早苗は素早く空に飛び出し、大声で叫びだした。
「私は東風谷早苗。貴方を退治しに来ました!覚悟しなさい!」
「あ、あのバカ!まさか作戦も何もないのか!?」
あまりに堂々と真正面から飛び出した早苗にピッコロも動揺を隠せない。氷の魔人は早苗の声に気づき、這いつくばったまま体を回し振り返る。
そして早苗を目で捉えると、大気が震えるような雄叫びをあげた。
「グォオオオオオオオ!!」
「いきますよ!!」
早苗は上体を屈ませて、一気に加速して魔人の近くまで飛ぶ。そしてその勢いのまま魔人にお払い棒を突き立てる。
「ってあれ?」
だがその攻撃は魔人の頭部に直撃するも、ヒビ一つ入っていなかった。あまりの硬さに早苗は一瞬思考が停止する。そこへ魔人は大きく口を開いた。
「いかん!避けろ早苗!!」
「っ!!」
ピッコロの声で早苗はすぐ気を取り戻し、体を捻って魔人の顔からズレる。魔人の口から放たれたエネルギー波が早苗がいた場所を通り過ぎていった。
「あ、危なかった~……!」
「まだだ!早くそいつから離れろ!」
氷の魔人は攻撃を外すと、すぐさま早苗の方へ首を曲げてエネルギー波を連発で放った。
「わっ!ちょっ!あぶなっ!!」
「くそっ!見ていて危なっかしい!待ってろ、オレも闘う!」
紙一重で攻撃をかわし続ける早苗だがその闘いぶりは見ていて気が休まる ものではなく、流石のピッコロも加勢に入ろうと飛び立つ。
するとそこに突如いくつもの巨大な氷の塊が早苗とピッコロめがけて飛んできた。
「うぇえ!?」
「なんだ!?」
その氷塊をなんとか避けた早苗とピッコロは驚いて氷が飛んできた方向を見るとそこには一人の女性が腕を組んでこちらを睨みつけていた。
「あんたたち。あたいのえものに勝手に手を出すなんていいどきょーしてるじゃない。」
「あの……貴方誰ですか?」
突然の乱入者に早苗もピッコロも少し戸惑いはしたものの、警戒してその女性を見る。
女性は明らかにサイズがあっていない青いワンピースのような服を着ており、スカートの下のドロワが完全に出てしまっている。
水色の綺麗な髪は腰に近いところまで伸びていて背中には立派な氷のような羽が生えていた。
「あたい?あたいはチルノ!さいきょーの妖精だ!」
「………え?」
早苗は再び思考を停止させたが無理もない。チルノと名乗った女性は明らかに早苗が知ってる妖精とは見た目が異なるからだ。
早苗が知っているチルノは大妖精に近いくらいの子供であって、このような大人びた女性らしい体つきではなかった。
「貴様がチルノか。ちょうどいい、探す手間が省けたぜ。オレたちはおまえの友人に頼まれて来た。おまえの敵ではない。」
特にチルノと面識がなかったピッコロはチルノの変貌にまるで気づいていなかった。
「え?大ちゃんが?じゃあ、あんたたち。あたいの邪魔をしにきたんじゃないの?」
「そうだ。わかったらさっさと戻れ。あの娘が心配していたぞ。」
早苗はかなりの動揺を隠せないままチルノをまっすぐ見た。
「そ…そうです!あの妖怪?は私たちが退治しますから、貴方はあの子のところに戻ってあげてください!」
だが早苗がそう言うと、途端にチルノの様子が変わった。
「……なんだ。やっぱりあたいの邪魔するんじゃん。」
「え?」
「あの怪獣はあたいが先に目をつけたんだ!だからぜったいにあたいがやっつける!それを邪魔するなら、あんたたちもまとめてあたいがやっつけてやる!!」
チルノは大声で言い放つと早苗、ピッコロ、魔人の全てに向かって巨大な氷の刃を放った。
「きゃあ!」
「ふん!」
「グォオオオオオ!」
早苗はその刃を回避し、ピッコロは正面から殴り砕き、魔人は大きく口を開けて咀嚼した。
「ちっ、面倒な女だ。早苗、あの女はおまえが闘え!オレがあの化物の相手をする!」
「わ、わかりました!チルノちゃん?を落ち着かせてから加勢します!それまでお願いします!」
「いや、おまえはそっちに集中しろ。」
「え?で、でも相手は妖精ですよ?いくら私だって妖精くらいに負けたりしません!」
「……どうかな。妖精がどの程度の力なのかは俺にはわからんが、今あいつから感じる力はおまえとほぼ同等クラスだ。」
「!!……ほんとなんですか?」
「間違いない。だが油断せず集中して戦えば負ける相手ではない。……それに引き換え、あの化物はまだ力が未知数だ。おまえでは危険すぎる。」
「……任せても大丈夫なんですよね?」
早苗はピッコロをとても心配そうに見つめて問いかける。だがピッコロの表情には余裕が見えた。
「当たり前だ。オレを誰だと思ってやがる?さっさと片付けてこの異変を終わらせてやろう。」
それは修行をつけてもらっていた早苗にとって心から安心できる言葉であった。