魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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七話目

 こうして対応を放り投げられた僕は、高町さんを伴って休憩スペースとして活用されているだろう場所へと向かう。

 なんだっていきなり出会ってすぐの女の子と二人きりにするのか。

 あのときのクロノ執務官のしたり顔が頭から離れず、いつか何らかの形で報復してやろうと誓う。

 スペースに着き、とりあえず自分用に砂糖を増量したコーヒーと、高町さん用にオレンジジュースを取ってくる。

 

「あの、キリシマさんは何歳なんですか?」

「ま、とりあえず座ろうか。楽な姿勢のほうが話も弾むしね」

 

 持っていた飲み物をテーブルに置き、先に腰掛けると、慌てたように高町さんも席につく。

 常にこっちの行動を気にしているようなところが、小動物みたいで面白い。

 

「それじゃあ改めまして自己紹介。霧島恭之十二歳、時空管理局の執務官一年生です」

「え? さっきはヤスユキ・キリシマって言ってと思うんですけど」

「僕の両親が地球。しかも日本出身なので、日本の文化はよく知ってますよ。ファミリーネームが先なんだよね」

 

 ファミリーネームに首をかしげる高町さんに、名字であることを告げると納得がいったようで、しきりに頷いている。

 ミッド生まれのミッド育ちだけれど、両親からは地球の話をよく聞いたし、実家に行ったこともある。

 なので割と日本の文化に関しても知っているほうだとは思う。

 ついでに漢字でどのような字を書くのかも教えたのだけれど、「霧」がわからなくて読めなかったようだ。

 

「む、難しいの」

「僕たちくらいの子供で、分かる人のほうが少ないと思うよ」

 

 難しい顔をして「霧」の字を覗き込んでいる高町さんへ苦笑気味に伝えると、ほっとしたのか表情が柔らかくなる。

 どうも国語が苦手みたいで、自分がわかっていないだけなのかと思ったそうだ。

 

「だけどこれ以外にわかる漢字なんてあんまりないんだ。名前くらいは覚えとけって、父さんに言われたから覚えただけだからね」

「日本語が全部わかるわけじゃないんだね。なんだか安心したの」

 

 話をしているうちに気が楽になってきたのか、口調も大分砕けた感じになってきている。

 少し心を開くのが早すぎじゃないかとも思うけど、それがこの子のいいところなのかもしれない。

 僕としても最近は年上の人とばかり話をしていたから、自分より年下の子と話をするのも久しぶりだ。

 

「霧島さんは、どうして時空管理局で働いているんですか?」

「両親が管理局員だったから、だね。あ、僕のことは恭之でいいよ」

「や、恭之……くん?」

 

 少し照れたように僕の名前を呼ぶ高町さんは、映像で見たときよりも歳相応に見えた。

 だけどユーノやクロノ執務官も名前で呼んでるのだから、照れることもないと思うんだけどね。

 

「そ、それじゃあわたしのことも、なのはって呼んで」

「ん、わかった。改めてよろしく、なのは」

 

 言って右手を差し出すと、なのはも手を出して握手。

 僕よりも小さいその手は暖かくて、やっぱり女の子だなあなんて思ってしまった。

 それにまだまだ小さいけれどデバイスマメもできてて、真剣に魔法の練習をしていることも伺える。

 

「で、話をもどすけど、両親がかっこよくってさ。あんな風になりたい! って思ってたら、管理局員になってた」

「そんなあっさりなれるものなんですか?」

「入るだけならそんなに難しくもないよ。なのはくらいの実力があれば、あとはちょっと座学の勉強したらすぐ入れる」

 

 管理局ほど実力主義なところを、僕は知らない。

 もちろん最低就業年齢というものはあるけれど、十分な魔法の才能があると特例としての入局が認められる。

 基準としては魔力ランクB以上、たとえその時点で魔法が使えなくても、B以上の魔力を計測できれば特例が適用される。

 僕はギリギリBランクで入局することができて、その後の訓練のおかげでA+まで引き上げることができた。

 ちなみに僕の魔力ランクの伸び代はもう少なく、かなり順調にいってもAA止まりだろうと言われている。

 それでも全体で見ればかなりの上位なので、悲観するつもりもない。

 むしろこれだけの資質を引き継がせてくれた両親に感謝だ。

 

「まあ、個人的にはあまりお勧めはしないね。やっぱり危ないし」

「でもわたしにも何かできるなら、やってみたい!」

 

 すごい真っ直ぐな子なんだな、ちょっと心配になってきてしまうくらいに。

 僕のように最前線に送られるようなことが無ければ、うまくやっていけるかもしれない。

 だけど武装局員であるからには、遅かれ早かれ殺傷設定の魔法が飛び交う最前線に送られることになる。

 女の子には多少気を遣っているみたいだけど、なのはレベルの実力だと前線に出されるのも早そうだ。

 もし本当に管理局入りを考えるのであれば、クロノ執務官と話をしておいたほうがいいかもしれないね。

 

「それじゃ、ちょっとだけ事前学習といきましょうか」

 

 いつの間にか空になっていたコップをゴミ箱に放り投げると、席を立つ。

 まだ少し残っていたのか、なのはは一気にコップの中身を空にして、きちんとゴミ箱へ捨てに行く。

 なんだかちょっとした育ちの違いを感じないでもない。

 

「事前学習って、一体何をするんですか?」

「僕よりベテランの局員に、話を聞いたほうがいいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけでどんなことをしているか彼女に教えてもらえるとありがたいです」

「なるほどね~。それじゃあちょっとだけ待ってもらえるかな、そろそろ向こうも終わりそうだからさ」

「大丈夫です。むしろいきなりのお願いですいません、エイミィさん」

 

 大半が僕よりも年上のベテランだけれど、その中でもクロノ執務官とエイミィさんはかなりの出世頭なのである。

 クロノ執務官はテスタロッサさんの訓練や、今後の方針会議などやることが多くて、時間を割いてもらうのは申し訳ない。

 そんなクロノ執務官の補佐をしているエイミィさんなら、様々な業務などについてもよく知っているだろうし適任なのだ。

 なのはは武装局員しか考えていないようだけど、こうしたオペレーターとしての道もあることを知っておいたほうがいいと思う。

 

「っと、終わったみたいだね。最近は少しクロノ君の余裕がなくなってきたかな」

「そんなことわかるんですか?」

「うん。単純に戦闘時間が延びてるのと、いままでは使ってこなかった魔法のコンビネーションを使うようになったり、他にもデータで出すと一目瞭然!」

 

 データを見せてなのはに解説をしているエイミィさんは、いつもの二割増位で楽しそうだ。

 さて、ここは任せてしまって、僕も傷に負担をかけない程度の訓練をしてこよう。

 単純な出力差はどうやっても覆せない分、技術面を磨いておかないと本当に何も出来なくなってしまう。

 そして技術面は毎日の積み重ねが大切だから、少しだけでもやっておいたほうがいい。

 今回の戦闘ではかなり魔力を使ったから、これ以上リンカーコアに負担をかけないほうがいいだろう。

 そうなると魔法的な訓練はやめて、体術の訓練のほうがいいかな。

 かといって動き回るわけにもいかないし、そうなるとかなり限られてちゃうなあ。

 

「それじゃあエイミィさん、なのはのことはお願いしますね」

 

 説明に夢中になって僕の声が聞こえていないのか、更に多くのデータを呼び出すエイミィさん。

 なのはが少し涙目になっていたような気もするけど、きっと気のせいだ。

 ……うん、気のせいだ。




移転作業継続中。

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