魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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五話目

「バリアジャケットの強制解除!? しかも念話すら通じねえ!」

「そのバインドは僕の特別製です。付与効果が多い代わりに発動までの時間、消費魔力共に馬鹿にならないんですけどね」

 

 おかげさまで、余力なんてものはもう欠片も残っていない。

 しかしそのおかげで格上の相手であろうと、戦闘不能にすることができたのだから上等だろう。

 

「こちらキリシマ。守護騎士の一人を捕縛しました。至急アースラへの転送をお願いします」

『了解しました。すぐに転送開始します』

「と、いうわけで、色々話してもらうことになると思いますが、協力していただけると幸いです」

「誰が管理局なんかに協力するか! いいからとっとと離しやがれ!」

 

 敵対することを前提としてこれまで活動していたのだから、そう簡単に協力はしてくれない。

 当たり前とはいえ、アースラへ転送後本局へと送られるだろう。

 その後、彼女がどういった扱いを受けるか、はっきりとはわからない、いい待遇にはならないに違いない。

 ロストロギア闇の書は、魔法の使えない人々にも名前が知られている危険物。

 過去に被害を受けた人も多く、世論も被害者の感情も、かなり苛烈なものになるのではないか。

 

「……無理に協力しろとは言わないけど、協力的な姿勢すら見せないと、君がどうされようと僕たちにはどうしようもない」

「へっ、その上から目線をどうにかできたら考えてやんよ」

「君を身動きできないようにしたのは僕です、よって僕の方が立場は上でしょう? 上から目線に問題でもありますか?」

「てめぇ! まぐれで勝ったからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「これがまぐれの結果だと思っているなら、次にやることがあったとしても、君では僕に勝てないでしょうね」

『転送準備完了。転送開始します!』

 

 お願いしますと念話を送ると、それほど間をおかずに魔方陣が展開される。

 このまま後数秒もすれば、彼女の身柄はアースラ内に転送されてこの戦いも一段落。

 そんなことを思った次の瞬間に、後方で強烈な魔力反応が生まれたかと思うと、僕と彼女の体を掠めるようにして一気に通り過ぎていく。

 

「っ! 転送は!?」

『ごめん! 今の魔法の拡散魔力の所為で、術式エラーが発生! 再計算しなくちゃ!』

『ヤスユキ! こっちの相手がそっちにいった! なんとか持ちこたえてくれ!』

「無茶なことをっ!」

 

 直後に嫌な予感を感じ、背後へと強化したノヴァを振り抜くと、甲高い金属音を響かせて相手のデバイスと拮抗する。

 しかしそれも一瞬。不安定な体勢であったため、少し力を込められただけで押し込まれてしまう。

 そのままではどうしようもない為、相手の力に逆らわずに後退する。

 

「まさか、今の一撃を止められるとは思わなかった」

「止めた僕自身、止められるとは思ってませんでしたよ」

 

 軽口のように返すけれど、止められたのは偶然に近い。

 先ほどの魔法の軌道、クロノ執務官からの念話がなければ、反応することも出来ずに直撃を食らっていたことだろう。

 それにしても魔法で強化しているとはいえ、とんでもない膂力だった。

 打ち合った衝撃で、まだ腕には痺れが残っている。

 剣の形状をしているアームドデバイスの恩恵もあるのだろうけれど、それ以上に単純な威力がこれまで戦った相手とは一戦を画してる。

 一撃の大きさならこのハンマーの守護騎士も匹敵するが、予備動作が大きかったおかげで、軌道を把握しやすかった。

 その点、剣の形をしているということは、ハンマーよりも取り回しがよく予備動作も少なくなる。

 速くて重い、そんな攻撃を受けきれるものだろうか。

 

「気をつけろよシグナム。そいつこれまで戦った魔導師たちとは、根本的に違う」

「それは興味深い。テスタロッサくらいしか、まともな戦いはできなかったからな」

「まともな戦いを期待してるならお門違いなので、他をあたってくださいよ」

 

 正面からのぶつかり合いなんて冗談じゃない、僕の一番苦手とするところだ。

 クロノ執務官の話と戦闘記録によれば、剣の守護騎士は見た目の通り近接タイプ、中距離戦闘もデバイスの形状変化を使用してこなしてくる。

 考えられるだけの可能性を頭に入れて、何がきてもすぐに対処できるように心の準備だけはしておこう。

 

「できることならすぐにでも戦いたいところだが、こちらにも事情がある」

 

 銀光が閃いたかと思えば、少女を拘束していたバインドが全て砕かれていた。

 対物理強度もかなり上げてあったはずなのに、予備動作なしで無造作に切り払われるとは思わなかった。

 つか、非常識すぎてどうしようもない。

 

「ありがとよシグナム。これで第二ラウンド開始だな」

「落ち着けヴィータ。予定以上に時間を使いすぎた、今回は引くぞ」

「はあっ!? ふざけんな! こんな中途半端な終わり方じゃ、納得できねーよ」

 

 どうやら撤退する方針のようだけれど、ヴィータと呼ばれた守護騎士は納得がいかないようだ。

 そりゃあ自分よりも明らかに格下の相手に、いいようにやられてしまったわけだし納得もいかないだろうね。

 しかも僕みたいなタイプは一度手の内を知られると、とたんに不利な状況に放り込まれてしまう。

 もちろん全部を出し切ったわけではないから、まだどうにかやれるだろうけれど、更に手札を切らなければならない事態は嫌だなあ。

 

「我らの目的を忘れるな! 全ては主の為、不要なことはすべきでない」

 

 目的、ねえ。

 リンカーコアからの魔力蒐集だけかと思ったけれど、どうやらそれ以外の目的もあるような言い方だ。

ここで捕縛されたり、足取りをつかまれたりというリスクを負いたくないのだろうか。

 

「……そう言われたら、退くしかねーじゃねえか」

「それを簡単に許すと、僕がいろいろと怒られちゃうんで、もう少し付き合ってもらいますよ!」

 

 二人の周囲に先ほども使った設置バインドをばら撒き、逃げ道を塞ぐ。

 そしてノータイムで放てる中で、一番の攻撃力を誇る砲撃魔法を起動。

 

「ゼロシュート!」

 

 もう残り心もとない魔力がごっそりと持っていかれる感覚は、何度経験しても慣れることはない。

 襲い掛かるめまいと頭痛をこらえ、ノヴァをしっかりと握り締める。

 

「容赦のない攻撃、これまでの局員にはいなかったタイプだな」

 

 シグナムと呼ばれた剣の騎士がつぶやくと、カートリッジが排出され魔力が吹き上がる。

 同時に剣の形態が変わり、ワイヤーで刃を繋いだ連結刃となる。

 彼女が持っていると予想される炎熱系の変換資質により、炎を纏ったその形状は正に炎の蛇のようだ。

 

「だが、足りん!」

 

 真っ直ぐに振りぬかれたその軌道は、僕の放った魔法と正面から衝突。

 半端とはいえ自信のあった砲撃は、彼女の刃と拮抗することすら許されずに霧散した。

 あまりのあっけなさに何が起こったのか一瞬把握できず、我に返った時には既に刃が眼前に迫っていた。

 あ、これだめだ、回避迎撃防御全て不可。

 やっぱり正面からのぶちかましは、相性が悪いよまったく。

 

「スティンガースナイプ!」

 

 諦めかけた瞬間、上空からの射撃魔法が連結刃の切っ先を捉える。

 状況を把握する前に体が反応し、体を捻る。

 かなり無茶なタイミングと行動だったため、いくつかの筋に痛みがはしる。

 更に完璧にはかわしきれず、脇腹を掠めた刃が肉をこそぎとっていき、そこから痛みと同時に熱を持ったかのような灼熱感。

 思わず漏れそうになった声を噛み殺し、なんとか体勢を立て直すと、僕をかばう様にクロノ執務官が立っていた。

 くそっ、これじゃあただの足手まといじゃないか。

 

「あの速さで動く剣先を、射撃魔法で捉えるとはな」

 

 悔しがるでもなく、どこか嬉しさすら滲ませながら呟くあたり、恐らく彼女は生粋の戦士なのだろう。

 それにしてもクロノ執務官の精密射撃、はっきりいってさっきのは神業だ。

 あれが無ければ今のように、筋を痛めた程度ではすまなかったことだろう。

 非殺傷設定とはいえ、当然ながら物理的衝撃は通るのだから、骨折くらいはしていたかもしれない。

 

「できることなら、お前たちともっと戦っていたいが、そうも言ってられん」

「シグナム! 準備オッケーだ!」

 

 守護騎士たちを囲むように魔法陣が浮かび上がる。

 転送魔法だろうけど、魔力、体力共に限界の僕にできることはない。

 そしてクロノ執務官は、そんな僕をかばいながら相手をしなければならない。

 みすみす見逃すのははがゆいけれど、ここでクロノ執務官まで手傷を負うのはまずい。

 

「次に戦うときには逃がさない。絶対に」

「・・・・・・楽しみにしている」

 

 魔力の残滓を残して、二人の姿が見えなくなる。

 やっぱり真っ向勝負じゃ、格上の相手と拮抗することができないことを改めて痛感した。

 わかってはいたけれど、やっぱり悔しい。

 

「アースラに戻ろう。改めて今後の対策だ」

 

 見逃したのではなく、見逃された。

 絶対に今日の借りは返してやる。


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