魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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四話目

 

「それにしても大きく出たものだな。弱いなりの戦い方とは」

「これでも執務官ですよ? ちょっとくらいはプライドだってあります」

「尤もだ。あんまりムキになりすぎなければ、そういう感情も無駄じゃない」

 

 ああいう言葉が出てくるってことは、信用を得ていないってこと。

 それならやることは決まってる。

 

「さっきの言葉が嘘にならないように、完璧に押さえ込んでやりますよ」

「その意気だ。さっきはああいったが、正直撃退すら難しい。この場で僕たちが撃墜されないようにすることだけ考えるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけどこんな状況になるとは思ってませんでしたよっ!」

 

 振り下ろされるハンマーをかわすと、出来る限りの速度で間合いを空ける。

 この相手は距離の不得手が少ない為、離れたところで状況が好転するわけでもないのだが、近距離だとアームドデバイスの対処に気を遣ってしまう。

 少女のような外見であるが、ハンマーを模したデバイスはその形状に違わず一撃が重い。

 それよりかは誘導弾をメインに使用してくる中距離を保っていたほうが、時間を稼ぐという目的に合致する。

 だが、それだけで終わるつもりもさらさらない。

 

「少しでも時間を稼いで、勝機を見つける!」

 

 同時に設置型のバインドを周囲に多数展開。

 ステルス機能を付与せずに、設置速度のみを重視してばら撒いたものなので、少し意識を遣ればすぐに場所がわかってしまう欠陥魔法である。

 しかし今回のように激しく立ち位置を入れ替えながらの戦闘中に、「少し」の意識を逸らすことができるのは、相手の余裕を奪うことに繋がる。

 そうして相手から少しずつ余裕を奪う、こすい戦い方が僕のスタイル。

 一度模擬戦をやった相手からは、ことごとくもうやりたくないと言わしめるひねくれ者の戦い方だ。

 

「ちっ、面倒なやつだな!」

 

 悪態をつきながらも鉄球のようなものを撃ち出し、こちらを牽制する守護騎士。

 向こうにとっては牽制でも、まともに食らえばかなりの魔力ダメージを受けることは目に見えている。

 なので動きを止めることは許されない、とにかく動きまわって回避する。

 それにしても事前情報ではベルカ式の魔導師って聞いてたけど、近距離だけじゃなく中距離戦闘のレベルも高すぎる。

 ベルカ式が近距離主体といわれているのも、間違っているんじゃないかと思うくらいだ。

 彼女が撃ち出している鉄球も、威力、速度、数、誘導性能、どれをとっても僕の魔法の上をいかれている。

 まあミッド式だから中、遠距離戦闘は秀でているって決まっているわけでもないのだけれど、こうなるとこちらの得意な土俵に引っ張り出すのは難しい。

 そんな風に考え事をしていたのがまずかったのか、何発かの鉄球をかわす余裕がなくなっていた。

 何とかかわせそうなのが三発、どう動いても直撃コースが二発に対し、すぐさま回避、防御方法をシュミレート。

 その中から最もリスクの低いものを選択、即座に実行する。

 初めの二つをぎりぎりまでひきつけて回避、そこにタイミングを合わせて向かってきた一つを、ノヴァに魔力を纏わせて叩き落す。

 全力でデバイスを振り切り、体勢が崩れている状態を見逃すはずもなく、最短距離で僕を狙う鉄球が前後一つずつ。

 立て直している余裕は無いので、魔法を発動。

 先ほどいた場所から五メートルくらいの場所へと、一瞬で移動する。

 高速移動魔法は苦手で、五メートルはこの魔法を使ったときの最大移動距離。

 更には直線に限定されている移動方法の所為で、使いどころが難しい魔法になってしまった。

 

「バインドラッシュ!」

 

 移動魔法が解けるとほぼ同時に、ノヴァのなかで最もメモリを使っている魔法を使用する。

 こちらの姿を見失った次の瞬間には既に、周囲から騎士へとバインドの波が押し寄せる!

 鎖を模した強度重視のものや、リング状の速度重視のもの、捕らえた相手の魔法効果を打ち消すものなど、僕が使えるバインドを複数同時起動させたのがこの魔法だ。

 これだけの数のバインドを向けられる経験なんて、普通はあまり無いはず。

 未知のものに対応しながら術者への反撃というのは、まずありえない。

 なので今のうちに魔力をチャージして、いつでも砲撃を放てる状態にする。

 

「かかった!」

 

 想定外の魔法に気をとられたのか設置バインドの範囲に引っかかり、そのタイミングを見逃さずにバインド発動。

 更にすぐさま殺到するバインドの群れを回避することもできず、なす術もなく取り込まれる守護騎士。

 

「ブラストカノン!」

 

 十分とは言えないまでも八割がたのチャージで放った砲撃は、寸分違わず捕らわれている守護騎士をバインドごとまとめて撃ちぬいた。

 しかし相手は格上、これだけで終わるとは思えないので更に魔力弾を放つ。

 ほぼノータイムで複数の魔法を使いすぎた所為か、急激な疲労感が襲うが、気力でねじ伏せて魔力弾を撃ち続ける。

 着弾の衝撃で生まれた煙で守護騎士の姿が見えなくなってから、追撃をやめる。

 

『クロノ執務官、そちらはどうですか?』

『剣の守護騎士らしく、近接はもちろん、中距離戦闘のレベルも高い。遠距離を保って時間を稼いでいる状況だ』

『なんとかそちらに合流できそうですけど、どうしましょうか』

『なるべく早く頼む、火力も経験も向こうが上だ。このままではいずれ押し切られる』

『了解しました』

 

 これで戦闘不能に出来たとは思わないけれど、当初の予定通りここはクロノ執務官と合流したい。

 あれだけ魔法を叩き込んだのだから、多少はダメージもあるはずだし、先ほどまでよりかは幾分楽に合流できるに違いない。

 そう判断して身を翻した瞬間、煙の中から放たれる鉄球が三発。

 咄嗟にノヴァを使って叩き落すことに成功したが、まさかあまりダメージになっていないのだろうか。

 

「ってーな。これまで出てきた奴らより魔力はでかいと思ってたけど、ここまで面倒な奴だとは思わなかったぜ」

 

 煙が晴れたところには、少しだけ破損したバリアジャケットを身にまとい、不機嫌そうな顔をした守護騎士が仁王立ちしていた。

 倒せないとは思ってたけど、まさかほとんどダメージが通ってないなんていうのは想定外だよ!

 

「本当ならちょいと動けなくして蒐集するんだけどよ、手加減してたら逃げられちまいそうだから。本気で行くぜ!」

 

 先ほどまでの誘導弾や近接戦闘で手加減していたなんて、絶望的な宣告だ。

 彼女のやる気につられるような形で、手にしていたデバイスも形を鋭角的なフォルムへと変える。

 ハンマー状態の先ほどまでよりも、打ち抜く事を意識したようなフォルムは、明確な弱者である僕にとって十分恐怖を与えるものだ。

 

「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」

 

 ハンマーヘッドの下に取り付けられた機構が稼動すると同時、先ほどまでとは比べ物にならない魔力を感じる。

 あれが噂のカートリッジシステムか、話には聞いていたけど実際に対峙するとなると話が違うね。

 だけど、あれが切り札の一つであることは恐らく間違いない。

 つまりこれを防ぐことが出来れば、状況は好転する!

 

『すいません、ちょっと余裕なくなってきました』

『こちらもだ。ここからは自己判断で頼む』

 

 あちらも苦戦しているようだし、なんとか合流したい。

 ノヴァを正面に構えると、プログラムを同時にスタートさせる。

 

 彼女の技は見た目に違わず重く、クロノ執務官をして強固と言わしめる高町のバリアを一撃で粉砕してしまう。

 構成は荒削りだったけれども、その魔力量にモノをいわせて組まれたバリアは、数値上では僕のバリアの二倍ほどの強度だったそうだ。

 

「ラケーテンッ!」

 

 形を変えたデバイスから吹き出る魔力を推進力として、その場で一度回転。

 勢いのままにこちらへと突撃をしかけてくるが、その出足を挫く。

 

「レイライト!」

 

 先ほども放った速度重視の射撃を打ち込む。これで一瞬でも怯んでくれれば儲けもの。

 そんな僕の願いもむなしく、勢いのついた彼女は魔力弾を弾き飛ばしながら一気に距離を詰めてくる。

 直撃に耐えて突っ切るならまだしも、まさか弾かれるなんて思っていなかっただけに驚かされる。

 

「くそっ、そんなのありかよ!」

「ハンマー!」

 

 相手の判断を遅らせるどころか、意表を突かれたせいでこちらの判断が遅れてしまった。

 切磋にバリアをはるが、高町のバリアをあっさりと貫いた威力なだけにほとんど意味がないだろう。

 なので同時に複数のバリアを同時に展開。高町のバリアが僕の二倍の強度なら、単純に二枚以上重ねてしまえばそれに匹敵する強度を得られる。

 しかしそれだけの強度であっても数秒ハンマーと拮抗すると、あっさりと砕け散ってしまう。

 だがその数秒あれば十分、高速移動魔法を起動して一気に背後へ移動する。

 

「これで墜ちろ!」

「甘ぇんだよ!」

 

 背後をとったアドバンテージで、魔力を纏わせたノヴァを突き出すのと同時、振り抜いたハンマーを更に一回転。

 カートリッジシステムによるブーストは弱まり始めているとはいえ、十分な勢いを残しているそれの存在を、忘れている訳が無い!

 もう一度移動魔法を発動して、ノヴァを引き戻しながら今度は真上へと移動する。

 短時間に連続で使用した所為で体へは負担がかかり、刺すような痛みが頭に走る。

 それを無理やり押し殺し再びノヴァを突き出すと、主の危険を察知したのかデバイスが自身で判断したバリアにぶち当たる。

 オートで張られたものとはいえその強度はかなりのものであり、一撃の重さに欠ける僕では破れそうに無い。

 だけど狙いは果たした。

 防御にリソースを食われた所為か、先ほどまで荒れ狂うような勢いであったハンマーは沈黙。

 その状況に守護騎士も今は反応し切れていない。

 その僅かな隙を狙い、ノヴァに付与していた魔力を開放すると、事前に組んであった魔法が発動。

 バインドが四肢を拘束し、更にはバリアジャケットの解除まで行う。

 

「拘束、完了」


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