簡単に艦内を案内してもらった後、僕は自分にあてがわれた部屋に篭り、これまでの戦闘記録や過去の事件の報告書などに目を通している。
いやいや、なんだってここまでの相手に負けてしまったとはいえ、あれだけの戦いが出来るのさ。
しかも聞いたところでは僕より年下、その上片方の子は魔法に出会ってからそれほど時間が経っていないって話。
やっぱりいるもんだね、天才ってやつ。
特にこっちの白い子、障壁の堅さと砲撃の威力は異常といっていいでしょ。
後方から固定砲台として運用しても、十二分な働きをしてくれるだろう。
接近されての攻防も及第点はあげられるかな。ちょっと反応とかが鈍い感じはするけど、そこは慣れてくれば多少は改善されるはず。
もう一人の子は白い子とは逆に近接が得意なようで、あの速度での攻撃とか扱うのも大変だろうに。
だけどそれを難なくこなしてるし、中距離の牽制も上手い。
あの歳で戦闘スタイルが確立されてるってのもどうよ? まったく末恐ろしい。
そんなことを考えていると、端末のアラームが鳴る。いつの間にやら、そこそこの時間が経っていたようだ。
一度情報収集は切り上げて、話にしか聞いていなかったこの艦の人たちとの顔合わせに向かう。
先に最前線で戦っている子たちと話をするらしいけど、その場所がデバイスルームっていうのはなんでだろうね。
「失礼します」
一声かけて扉を開けると、端末を操作する少年と、横に立ちその様子を見ている女性がいた。
二人の視線の先には、ひび割れた待機状態のデバイスが二機。
「なんだいあんた。見ない顔だね」
「本日付でアースラへと異動になった、ヤスユキ・キリシマです。よろしくお願いします」
「通りで見たことないわけだよ。あたしはアルフ、フェイトの使い魔さ」
「僕はユーノ・スクライア。民間協力者ということで、アースラに乗せてもらっています」
改めてよろしくとお互いに握手。
しかしユーノ、小さな手といい、容姿といい、少し高い声といい、女の子だと言っても通るのではないだろうか。
さっきまで見ていた記録でも、補助魔法の練度の高さには驚かされたし、かなりハイスペックな少年といえる。
羨ましい限りだ、特に容姿。
いや、別に中性的な顔立ちに憧れているわけではないが、自分の没個性っぷりには少々不満なのだ。
茶色がかった黒髪、平均的な身長、悪くなければ良くもない顔。
まったく、もう少しどこか個性的なところがあってもいいと思うんだけどなあ。
そんなことを考えていると、僕が入ってきた扉が開き、先ほどまで資料で見ていた少女二人と、クロノ執務官が現れた。
少女たちはデバイスを見ると、悲しそうな表情を浮かべ、そんな状況に追いやってしまった自分を悔やんでいるようにも見える。
「コアが破損してしまったわけではないんだから、また一緒に戦えるさ」
悲壮感すら漂わせる二人を見ていたら、思わずそんなことを言ってしまっていた。
この子たちが後悔しているのは、デバイスたちを傷つけてしまったことに対してだろうに、少し配慮が足りなかっただろうか。
「あの、あなたは?」
「そうか、君たちとはまだ初対面だったね。ヤスユキ・キリシマ、一応執務官の端くれです」
「彼には闇の書事件のために異動してきてもらったんだ。戦闘技能は各所からのお墨付きだ」
いやいやいや、そんな話初めて聞きましたよクロノ執務官。
それに僕の戦いに関してお墨付きを与えたのは一体どこの部署だろうか、そのあたりをしっかり聞いておかなければ。
「まあ二人が本格的に復帰すれば、僕の仕事はほとんどなくなるだろうけどね」
「あの、私たちのこと知っているんですか?」
「うん、一応ね。なのは・高町さんとフェイト・テスタロッサさんでしょ? さっきまで戦闘記録を見せてもらってたよ」
この年齢でAAAランク相当の認定をされているのは、滅多にないことだとこの子たちは認識しているのだろうか。
管理局は高ランク魔導師であれば年齢に関係なく前線に送り込むから、できるだけこの子たちには前に出て欲しくはない。
いくら強くても僕より年下の女の子が、危険の最前線に送り込まれるのはどうもいい気がしない。
一番いいのは管理局に所属しないことなんだけど、それでは魔法から離れなければならない。
個人的には魔法が無くても十分に生きていけると思うんだけど、それが他の人にとってもそうとは言えない。
ましてやそれが拠り所となっていたら、魔法がなくなったときにどうなるか分かったものじゃない。
もっとも、そこまで魔法に縋ってる人なんてのも、あんまりいないとは思うけどね。
「あの、どうかしましたか?」
「いやなんでもない、少し考えことをしてました」
とりあえず今はそういうことを考えてる場合じゃない、闇の書事件をしっかりと解決することを考えなければ。
しかし解決するといっても、あまりに情報が少なすぎる。
これまでに闇の書による被害は多くあるのに対し、対処法としての情報はほとんどない。
今のところの解決法としては、転生前に完全に破壊するか、所持者ごと凍結処理、もしくは虚数空間に落とすくらいしかないか。
人道的面からあまり選びたく無い選択肢が多いけど、使用者が無差別に被害を与えるようなら、選択肢の一つとして考えてもいい。
それ以前に、守護騎士プログラムを抑えきれるかといった問題もあるけれど、時間を稼ぐだけならなんとかできそうだ。
それもこれも、彼女たちが真っ向から戦ってくれたおかげである。
僕の資質では守護騎士たちに正攻法で挑んだところで、あっという間に撃墜されてしまうだろう。
しかし僕の舞台に引きずり落とすことが出来れば、時間稼ぎはもちろん、状況によれば一回くらいは勝ちを拾えるかもしれない。
相手の土俵で勝負する必要は無い。
僕は僕なりのやり方で、相手してやろうじゃないか。
「とはいえ、こんなに早く出動することになるとは思ってませんでしたよ」
「こちらだって想定外だよ。だけど、放っておくわけにもいかないだろう」
あれから数時間、まさかこんなに早く行動を起こされるとは思っていもいなかった。
転送ポートでセットアップをすませて待機しながら、クロノ執務官とちょっとした愚痴を言い合う。
もちろん戦力不足だからといって、蒐集を見逃すわけにもいかないからしょうがないんだけどさ。
「今回は撃退、出来るならば確保、撃破ってところですか?」
「それが理想だが、正直撃退で精一杯だろう。とにかく僕たちのリンカーコアを抜かれないようにするのが第一だな」
「それなら広域にサーチャーをばら撒いておきますね。そういうのは得意分野なので」
「よろしく頼む。基本的には僕が前に出るから、君は中距離あたりでの支援を頼む」
「近接特化の騎士二人相手に、一人で前に出るのは危なくはないですか?」
「前に出るといっても、クロスレンジでやりあうつもりは無い。まあ、君の動きの参考にもなるだろう」
僕が中距離支援で、その前に出るということは必然的にクロスレンジの戦いが多くなるはず。
しかしクロノ執務官はその距離でやりあうつもりはないとのこと。
一体どれだけぎりぎりの距離で戦うというのか。
「すいません、私も出られたらよかったんですけど」
「別に気にすることはないさ、テスタロッサ。流石にデバイスを持たない魔導師に前線に出ろともいえないし」
「キリシマの言い方もなんだが、今回は仕方が無いさ。君も執務官を目指すなら、現役執務官二人の戦いを見てるといい」
おいおい、なんでそんな風にプレッシャーかけますかね。
二人で組んで戦うのも始めてなのに、どれだけの自信でございますか。
「だけど、キリシマさんはAA-ですよね。相手の力を考えれば危ないんじゃないかって」
「ランクは確かに力量の目安になるけど、それだけだ」
「それは、どういう?」
「見てればわかるさ。さて、クロノ執務官、そろそろ準備が完了するみたいですよ」
転送ポートに光が集まり始めると、改めて気合を入れる。
ああそうだ、テスタロッサにこれは言っておこう。
「自分が相手より劣っている場合、どうやって戦うかしっかり見ているといい。格好良くはないけどね」