魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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一話目

「古代遺物管理部 機動六課」そこが俺に与えられた次の仕事場だ。

 古代遺物、つまりロストロギアに対応するための部隊だが、この六課はまた少し毛色が違う。

 他の課と大きく違う点としては、六課の場合「レリック」と呼ばれているロストロギアの確保が第一であるということが挙げられる。

 第一級捜索指定をうけている上に、複数個確認されていることからの処置なのかもしれないが、それにしては部隊人員がおかしい。

 いくら危険な代物だとしても、明らかに戦力が過剰なのだ。それは人員の数ではなく、それぞれ単身の戦闘力が妙に高い。

 そこらの戦闘系の部隊以上の保有ランクを集めて、しかも大半が顔見知りの部隊だなんて、上から睨まれる要素しかないじゃないか。

 まったく、一体何を焦っているのやら……なんて、俺が言えた義理じゃないけどさ。

 

「とーちゃく……っと」

 

 最寄り駅から近いとはいえない距離にある隊舎まで徒歩で来たが、普段運動しない人からすればそこそこいい運動になるかもしれない。

 それにしてもここからは足も気も重い。今更どんな顔して彼女達に会えばいいのだろうか。

 いや、寧ろ気にしてないように振舞った方がいいだろうか。流石になぜ俺が突然彼女達の前から消えたのか、その理由を知っているということはないだろうし。

 とはいえどう言い繕ったものか。嘘をつくのは未だにあまり上手くない。

 

「ようこそ機動六課へ。さあ、言い訳を聞こか?」

「別に言い訳をするようなことは何もないが?」

 

 間髪いれずの返答に、少し驚いた様子の女の子。いや、もう女の子というよりかは女性といった方がいいのだろうか。

 まあ、俺の前にいる彼女は成長したとはいえ小柄で、まだ女の子で通じるかもしれない。

 

「ほう、友達……仲間に何も伝えずに姿を消して、久しぶりに会ったというのにそんな言い分とはどういうことや?」

「急な任務だったんだ、仕方ないだろう」

「嘘やね。そこんところはクロノ君に確認しとる。アンタが任務で海鳴を離れた訳じゃないといっとったよ」

 

 クロノさんは全部知っているからこそ任務ではないとだけ伝えたのだろうけど、もう少し上手くぼやかして欲しかったな。

 任務とは関係なくみんなの前から姿を消したことをどう言ったらいいものか。

 それにしばらくしてからはクロノさんの懐刀みたいな扱いになってたことは知っているのだろうか。

 いや、それを伝えたらクロノさんへの追求が厳しくなるだけだから流石に伝えることはない……はず。

 

「それならばそういうことなんだろうさ。あまり人の事情に踏み込んでくるのは関心しないな、上官殿」

「うちはこの機動六課の部隊長や。隊員の事情は出来うる限り把握しておきたい」

「だったら君がこれまで培ってきた人脈を使え。それこそ二等陸佐としての力を使ってもいい」

「それでもわからんからこうやって聞いとるんやろ!」

「それじゃあ残念だったな、俺は事情について話したくないし、今後自分から話す気もない。諦めてくれ」

 

 事情を知ったところでただ気まずくなるだけだろうし、それならば伝えない方がいいに決まってる。

 だけどこの子らはお人よしのお節介が多いから、しばらくは追求されるのだろうけどね。

 

「まあそんな話は置いておくとして、どうして俺をこの部隊に呼んだんだ?教導についてはかの有名なエース・オブ・エースが担当してるんだろ?」

「簡単に放っておけるような話でもないねんけど、まあええわ。確かに教導はなのはちゃんがやっとるけど、そのネームバリューが悪いほうに振れそうでな」

「とはいえそんなことの為だけに俺を呼んだのは腑に落ちないし、局自体が認めるとも思えないのだが」

「確かに今回の要請についてはかなり無理を通したわ」

 

 今回だけでなく、機動六課の設立についてもかなり無理を通しているだろうに、なんでここまでする必要があるのだろうか。

 普通の理由ではどうやったところでこんな面子の部隊なんて設立できるわけがない。

 それこそ後ろにいるのはよっぽどな方々なんだろうけど、それを知ったところで俺に何ができるかって話だ。

 

「なにか考えはあるんだろうけど、これ以上目をつけられるようなことはしない方がいい。ただでさえ目立つんだからな」

「重々承知や。それにこれ以上の無理無茶はもう通らんこともわかっとるよ」

「それならいい。八神は俺とは違ってもっと上までいけるんだから、もう少し大人しくしとけ」

「この部隊構成で大人しくしとけってのも中々難しいけど、忠告はありがたく貰っておくわ」

「とりあえずこれからどこに向かえばいいんだ?何時までも立ち話が出来るほど、部隊長さんは暇じゃないだろ」

「せやね。したら荷物は寮に届いとるし、このまま訓練場でもいこか」

 

 先導する八神について敷地内へと足を進めるが、どうも隊舎が静かなように感じる。

 これまで色々な隊舎へいった事があるけれど、どこもかしこも騒がしいイメージがついて回る。

 もしかしたら隊長陣がほとんど女性だということが何かしらの影響を与えているのかもしれない。

 

「答えてもらえない前提で聞いておくが、この部隊の目的は一体何なんだ?」

「それは事前に渡されとる資料にもあったやろ。そのとおりや」

「それが本気でまかり通ると思っているとは思わないが、まあいい。ただ、それを隠していることで誰かが犠牲になることのないようにな」

「先輩からの忠告として受け取っておくわ。さて、ここが六課の訓練施設や」

「実際に見ると思った以上に広いな。今どきこれだけの敷地を確保するのも簡単ではないだろうに」

「そこはまあそれなりにな。とりあえず中にはなのはちゃんたちがおるから、謝るなりなんなりご自由に。うちは溜まってる事務処理を片付けてくるわ」

「その辺が終わってないなら、俺への迎えも誰かに任せればよかっただろ」

「あんたに会うのがどれだけ振りか、あんたが居なくなった時の状況とか考えたら、直接迎えたろう思っても不思議やないやろ」

「……耳が痛いな」

「それでもうちはマシな方やで。他の子達は一緒にいた時間も長いんやから、何言われてもいいくらいの覚悟しときなー」

 

 こちらを見ることなくひらひらと手を振って通路の先へ消えていく八神。

 元々彼女とは闇の書の結末について少しばかりのわだかまりがあったせいか、友人ではあったけれどそこまで深く付き合いがあったわけではない。

 そのせいか、他の子たちからは八神と距離をおいているのかと詰め寄られたこともあったが、結局はお互いがその距離感に満足していたのだと思う。

 だからこそようやく再開したにもかかわらずあれだけフランクに話をしてくれたのだろう。

 彼女が残した捨て台詞のとおり、なのはやフェイトからは何を言われるかわかったもんじゃない。

 まかり間違えば、こちらの姿を認めた瞬間に魔力弾が飛んできてもおかしくはないと思えるくらいだ。

 もっとも、こればかりは実際にどうなるかその時になってみないとわからないものだから、今どれだけ考えても不安になるだけだ。

 そう結論付けて、訓練場へと歩を進める。

 戦場ではないとはいえ、真剣に訓練しているのだろう、心なしか空気がピリピリとしている。

 実際に魔法が行使されているので、活性化された魔力を体が感じ取るせいで落ち着かない。

 これは様々な状況の現場に送られる中で身につけたスキルの一つで、武道なんかの気配察知に近いものがある。

 元々の基礎があったおかげか、一度意識するとあっさりと習得できたのは大きい。

 魔力の状態を知ることで、より状況を把握しやすくなるからね。

 少し先へと目をやると、丁度ピンク色の魔力弾がインファイターの子にヒットしたようで、一度休憩が入るようだ。

 これ幸いと人が集まっている所へ向かうけど気が重い。

 あまり厄介なことになりませんようにと、俺は信じてもいない神様に祈るのだった。




関西弁ってやっぱり難しいやね。
とりあえず次回再会編。

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