魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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二話目

「ヤスユキ・キリシマ、ただいまをもちましてアースラへと着任いたします」

 

 異動を告げられてから簡単に身支度をすませ、いくつかの中継を経てアースラへとついたときには二日が経っていた。

 僕が居た艦は次元世界の辺境だったけど、まさか音に聞くアースラが管理外世界という辺境に来ているとは思ってもいなかった。

 管理外世界なんて滅多なことがない限りは、足を踏み入れることはない異郷だからなあ。

おかげさまで座標割り出しをお願いした局員の人も、頑張ってこいよみたいな同情的な視線をくれるしさ。

 本当に人の住むことの出来ないような世界は数少ないとはいえ、もしかしたらアースラが担当しているのはそういった世界かもしれない。

 これはますます気を引き締めていかないと、ちょっと大変なことになるかもしれない。

 

「少し時間がかかってしまいましたけど、そこはしょうがないですね。私がこの艦、アースラの艦長リンディ・ハラオウンです」

「お噂はかねがね伺っております。まさか提督がここまで若い方であるとは思いませんでしたが」

「聞いたクロノ? あなたもこれくらいのことは言えるようになりなさいよ。ヤスユキ君はあなたより年下よ?」

「必要とあればそうしますが、わざわざ肉親に対してそういったことを言うつもりはありませんよ、艦長」

 

 ちなみにここはアースラの艦長室であるが、靴を脱いであがるという比較的珍しいつくりになっている。

 更には鉢に入れられた小さな樹が並べてあったり、カラコロと音を鳴らす、水を利用したギミックがあったり。

 少なくともこれらはミッドチルダで一般的に認知されているものではないから、多くの次元世界を旅する艦だけあって、いろいろな地域の風習を取り入れているのかもしれない。

 とりあえずあの水のギミックの音を聞いていると、心が休まるような気がする。

 さて、それらはさておき、僕の前には艶のある長い緑色の髪が特徴的な若い女性と、黒髪の少年が座っている。

 事前情報から僕はこの二人が親子であることを知っていたけれど、はっきりいって知らされていなかったら絶対に親子だとは思わなかっただろう。

 先ほどの僕の言葉は、社交辞令ではあるけれど、本音でもあった。

 

「僕はクロノ・ハラオウン。今回、君の研修を監督する立場にある。厳しくいくつもりだから、そのつもりで」

「はい、こちらこそ未熟者もいいところですが、よろしくお願いします」

 

 研修とはいえ、あまり長い期間を取れはしないだろうから、教えられたことはすぐに吸収していかないと、後々苦しいだろう。

 あまり物覚えがいいほうではない分、一日毎の積み重ね、復習などが大きく響いてくるだろう。

 早く一人前として扱ってもらえるように、立ち振る舞いから色々と学ばせてもらおう。

 

「さて、執務官研修ということでここに来てもらったんだけど、実はそれは表向きの理由なの」

「……表向きということは、もちろん他の理由があるということですよね?」

「そうだ。今僕たちはある事件を担当しているのだけれど、少しばかり戦力面で不安があったからね。そこにちょうどよく、まだ研修を受けていない執務官を見つけたわけだ」

「あとは私が少しばかり事情を聞いて、知り合いの提督たちにも口を利いてもらって……といったところね」

「それって、僕が聞いていいことなんでしょうか?」

「だめよ。だからちゃんと黙っていてね」

 

 やっぱり僕は執務官というよりも、ちょっとフットワークの軽い武装局員のような扱いをされているような気がしてきました。

 クロノさんはAAA+の魔導師ランクを保持しているにも関わらず、それでも戦力面に不安があるなんて、どれだけ厄介な相手なのだろうか。

 不安があるということは互角か、それ以上の実力を持った相手なのだろうから、低くてもAAAランク。

 もしかしたらオーバーSランクなんて化物が出張ってくる可能性もあるのか、死ねる。

 

「AAAランクの嘱託魔導師と民間協力者がいるんだけど、それでも手が足りなかったのよ。ヤスユキ君が来てくれて本当に助かったわ」

 

 はい、僕お疲れ様でした。

 AAA以上が三人居て手が足りないということは、相手も同等の使い手が三人以上いるということに相違ない。

 つまり僕に期待されているのは、AAA相当の魔導師の足止め、出来ることならば撃破。

 

「今ので察しているとは思うが、君に期待しているのは敵魔導師の無力化だ」

「出来ることなら撃墜してもらいたいところだけれど、相手を一人でも抑えて他の子たちに楽をさせてもらえれば十分よ」

 

 いや、流石に撃墜は無理でしょう、僕にはどうしても決め手となる魔法がない。

 補助系統の魔法の適正は高いけど、射撃、砲撃は人並み、近接、広域殲滅は人並み以下。

 比較的得意なバリアブレイクなどで障壁を貫いたとして、魔力ダメージで昏倒させるにはかなりの数を打ち込まなければならない。

 素人のAAAならいいけれども、相手が戦い慣れていたら千日手になってしまう。

 

「僕の資質とかの資料には目を通してもらえましたよね? 流石に撃墜を頼まれると苦しいんですけど」

「ええ、ちゃんと見たわ。格上の相手にも一歩も引かずに、完璧に押さえ込んだという報告とかもね」

「正直僕たちも君に撃墜は望んでいない。ただ、君は時間を稼ぐということに主眼を置けば、撃墜されることもなくかなりの時間が稼げるだろう?」

「魔法適正が嫌がらせの方向に特化してますからね。僕自身同じような適正を持った相手とは、マッチアップしたくないです」

 

 真っ向勝負ではなく、いかに相手の嫌がることを出来るか。

 その中で生まれる隙を、いかにモノにすることができるか。

 そういった待ちの相手とは攻め主体の人はもちろん、同じように受身の人でもやりずらい。

 まあ世の中には、こっちの小細工を全部ぶち抜いてくるような規格外の人もいるんだけどね。

 あの時は本当に命の危機だったなあ。

 それでも諦めずに小細工を弄し続けて、なんとか押さえ込んだけど、出来ることならもうああいうのはご遠慮願いたい。

 よくそんな色物な僕を見つけて、更には自分の艦に組み込もうと思ったもんだよ。

 僕の答えにもなんだか満足そうだしさ、相手したくはないけど敵からしてみれば脅威ともいえないような気がするんだけどなあ。

 

「さて、現在の状況だけど、前回の戦闘でクロノ以外の子たちはデバイスを破損。片方の子はリンカーコアに直接のダメージを受けているわ」

「肉体的な回復はもちろん、デバイスの修理が終わるまで敵が待ってくれるかもわからない。だから僕と君は常に待機状態になる」

「敵が出てきたとして、出撃できるのは僕とクロノさんだけになるんですか?」

「もちろん武装局員も出るわ。だけど彼らの実力じゃ正直相手にはならないでしょうね」

「だから彼らには結界の維持などの後方支援として現場には出てもらう。だが実際に出てきた相手を押さえるのは僕たち二人でやる」

 

 AAAランクが一対一でもやられてしまうような相手を、複数相手取らなきゃいけないなんて、どんな苦行ですか。

 ここまで成功確立が低いにも関わらず、それでも出なければならないのが局員としてのつらいところだ。

 確かに、犯罪者に好き勝手やらせるわけにはいかないというのもわかる。

 だけど互角に戦うことが出来る状況すらつくれていないのに、わざわざやられに出るというのは何か違うような気もする。

 せめてこちらに有利な場所に誘き出すとか、抜けてしまった戦力の分を補わないとだめだ。

 そのために僕が呼ばれたのだろうけど、正直AAA二人分の働きは無理。

 

「いまさらなんですが、敵の目的はわかってるんですか?」

「ああ、敵の――闇の書の守護騎士たちの目的は、闇の書の完成。そのためにリンカーコアを蒐集している」

「私たちの目的は、ロストロギア闇の書の完成を防ぎ、書そのものを確保すること」

 

 闇の書って、僕でも知ってるくらい有名なロストロギアなんですが。

と、いうよりも執務官試験のための勉強で、代表的なロストロギアとして過去問に出ていた。

 そのときは随分えげつないものだなあ位にしか思っていなかったけど、まさか僕自身が関わることになるなんて思いもしなかった。

 僕、無事に研修を終えることができるのだろうか、非常に心配です。


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