魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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十八話目

「全く、ド派手なお目覚めだな。ちなみに間に合ってはいるが遅刻だよ」

「個人的には結構急いできたんですけどね」

「残念ながらフェイトの方が早かったよ。まあ、大差はないけどね」

 

 自分で言うのもなんだけど、あの魔法から逃れるにはかなりの意志が必要だ。

 過去の事件経過や日頃の性格をみていると少し気弱な印象だったけど、しっかりと芯は持ってる ってことかな。

 さて、僕らの現状確認はオッケー。問題はこの視界の端に映るやたら気持ち悪い謎の生物だ。

 生物……だよね……?

 

「あ、僕さっきの砲撃で魔力がスッカラカンなんですけど、ここにいてもいいんですかね?」

「それなら私に任せてください」

 

 体が緑色の魔力に包まれたかと思うと、消費していた魔力が回復している。

 さらには戦闘で受けたはずの傷や、疲労感まで回復していた。

 魔力の譲渡と傷の治療を同時に行うのはかなり難度の高い技術のはずなのだけど、こうして簡単に行使するなんてすごい。

 

「と、回復してもらって何なんですけど、今はどういう状況なんでしょうか?」

「……そう言う気持ちもわからなくもないが、彼女たちは味方だ。詳しくは終わったら説明する」

「了解です。あっちのは流石に敵でいいんですよね?」

「ああ、これからアレのコアを捕まえて宇宙空間に跳ばす」

「とりあえず見るからに防壁硬そうですね。僕の持つ威力じゃちょっと無理そうです」

「それは分かってる。防壁を抜くのはなのはたちに任せて、ヤスユキは状況をみてサポートに回ってくれ」

「了解!」

 

 ユーノとアルフが先陣を切って本体を守ろうとする触手にバインドをかける。

 さらには守護騎士が使う攻防一体のバインドで、周囲に展開していた触手を一掃。

 そうして道を拓いたところへそれぞれが使える最大の攻撃魔法を叩き込む。

 その威力は一つ一つが必殺であり防壁を確実に削っていくが、ダメージが通っているようには見えない。見た目どおりの化け物だね!

 サポートに割り振られているけど、どうやら牽制にも防御にも十分のようなので、念の為に僕も砲撃の準備を行う。

 魔力糸を展開、さっきは結界を抜くための構成にしたけど今回はとにかく出力重視。

 だけど障壁に阻まれるのを防ぐために貫通力も考慮した構成にする。

 あまり間を空けずに連続で使うのは初めてだけど、どうにかなる!

 

「魔方陣を三次元に配置するのはまだしも、魔法の特性をリアルタイムで構成しなおしているのか!?」

「いじる部分を元から決めておけばそこまで難しい作業でもないですよ。その為の魔力糸ですし」

 

 魔方陣を展開し終わったところで、なのはたち三人の最大威力の砲撃が同時に放たれる。

 もしも非殺傷設定が解除されていたら、塵すら残らないのではないかというほどの攻撃。末恐ろしい。

 だけどそれぞれの砲撃が障壁にぶつかる直前、障壁が円錐形に変化したのを見た。

 あいつ、僕のプロテクションを真似た!

 魔法の影響で視界が塞がれるけど、まだ健在なのは気配で感じる。

 

『ええっ! あの砲撃を受けてまだ健在! 転送は!?』

「だめです! まだコアを捕まえられません!」

「だったら僕が風穴を開ける!」

 

 右拳に魔力の充填は完了してる。みんなの攻撃で弱っている今なら、僕の魔法でも通る!

 

「ここで、闇の書の因縁を終わらせるっ!」

 

 見習い執務官として派遣されて、格上との戦闘を何度も経験してきた。

 それによって成長してきたすべてで、この戦いに終止符を打つんだ。僕が!

 

「ミスティックバスターピアースシュートオオオオォォォォォ!!」

 

 放たれた砲撃はまるで射撃魔法のような細さで、一瞬にして敵を貫く。

 砲撃に反応して展開された障壁を撃ち抜き、仮初の体も撃ち抜き、その先にあるコアも撃ち抜いた。

 そうして動きを止めた一瞬。それだけで一流たる守護騎士には十分。

 コアを補足して固定し、ユーノとアルフも協力して転送魔法を展開する。

 いくら弱ってるとはいえ、あれだけの質量と抗魔力をもっている相手をあの一瞬で転送するとは、流石だ。

 

『闇の書の闇、完全消滅を確認。再生反応ありません!』

「これで終わった、のかな?」

「少なくとも一段落したのは確かだろう。よくやってくれた」

「いいとこを持っていってしまった気がしますけどね」

「こうして闇の書の悲劇が終わった。それだけで十分だよ」

 

 本当にクロノさんは執務官の鏡みたいな人だな。

 これ以上の事件に携わることはまずないだろうから、僕がアースラに留まる期間もあまり長くはならないと思う。

 ここを離れるギリギリまで、クロノさんから色々なことを学ばせてもらおう。

 二回も自分が使える最大の魔法を放った影響か、全身が軋む様な痛みがあるけどアースラに戻るまでは我慢しないとね。

 なんてったって闇の書事件は終わったんだ。その達成感に水を差すのはごめんだね。

 だけどクロノさんにはバレバレだったようで、しょうがないなあというような目で見られていたのは少し恥ずかしい。

 さあ、アースラに戻ってゆっくり休ませて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてアースラにもどってきたわけだけれども、リンディ艦長に報告をして暖かいベッドでオヤスミとはいかなかった。

 僕がベッドに倒れる前に闇の書。いや、夜天の書の主である八神さんが倒れてしまったのだ。

 話を聞く限り下半身が不自由だったことによる体力の不足と、突然目覚めた魔力を大量に消費したことにより、肉体的にも精神的にも疲労が限界を超えてしまったのだろう。

 湖の騎士であるシャマルさんが調べたところ、大事に至ることではないとのことなので一安心だ。

 倒れてしまった状態そのままにしておくわけにもいかないので、僕が彼女を医務室に運ぶこととなった。付き添いはシャマルさん。

 クロノさんは艦長への報告。なのはや他の守護騎士などもその報告に付き合っている。

 

「よかった、本当に」

「そのよかったは、何に対してのよかったですか?」

「色々なことに対して、です」

 

 付き添いとして隣に並んだシャマルさんが思わず漏らした言葉は、今回の事件に関わった人たち全てが思っていることだと思う。

 これまで甚大な被害をもたらしては転生を続けていたロストロギア、闇の書。

 この事件に関わった局員たちは、例外なく任務の最中の死も考えていたことだろう。闇の書事件とはそう思ってしまうくらいに残された情報が残酷すぎる。

 だけどそれは今代の優しい主と、現地の協力者、その他にも様々な奇跡が絡み合って、大団円と言っていい結果に収まった。

 守護騎士たちは蒐集の罪があるけれど、そのあたりは闇の書の性質などと合わせれば減刑も望める。

 フェイトのことも上手くまとめて収めたクロノさんが担当するんだ、きっと大丈夫だろう。

 

「八神さんはともかく、守護騎士の貴方たちは、きっと刑が執行されます」

「そうでしょうね。その結果私たちが消えることになろうとも、はやてちゃんが無事であるならば構いません」

「そうならないように僕たちが全力を尽くします。大丈夫ですよ、クロノさんは超が付くくらい優秀ですから」

 

 本当なら執務官が私情を交えて担当するなんて言語道断だと思う。

 だけど今回みたいな場合、何も感じないままに報告してしまったら何かを失ってしまう気がする。

 死人が出ていないことも大きい。もし人死にがあった場合、どうしようもなくなっていただろうから。

 僕が受け継いでいる暗器術はスポーツじゃない、人を殺すための術だ。

 もちろん今の世の中人を殺すことが是とされることなんてない。

 だけど人を殺してしまうほどの力は、何かを守るための力にもなる。

 結局魔法だって非殺傷設定を解除してしまえば、簡単に人を殺すことができてしまう。

 現実に魔導師による非魔導師の殺人事件も少なからず起こってしまっている。

 その犯人を捕らえる事が難しい場合、やむを得ずこちらも非殺傷設定を解除することだってある。

 結局力は振るう人の心次第なんだよね。

 そのあたりのことを、なのはやフェイトは認識しているのだろうか。

 今後管理局に入ることになるとして、そのあたりの認識が違っていると苦しいと思う。

 それになのはに関しては、ついこの前まで魔法も戦いも知らないただの女の子だったんだ。

 彼女が道を見失わないようにしてあげないと、導くのは僕たち先輩の役割だよね。

 ……ちゃんとした先輩をやれるかはわからないけどね。

 思わず色々考えていると、もう医務室に到着していた。

 何度もお世話になっている局医さんに一言断って、空いているベッドに八神さんを下ろす。

 

「さあ、僕たちは戻りましょう。皆さんがいるとはいえ、報告しないと」

「いえ、ヤスユキ君はそこに座ってください」

「えー、なんででしょうか?」

「クロノさんから調子を見て欲しいと念話でお願いされましたので」

 

 にっこりと笑って言っているけれど、その目は全く笑っていない。

 なんてプレッシャーだ!

 

「……わ、わかりました。よろしくお願いします」

「はい、任されました。座って楽にしててくださいね」

 

 勢いに圧されるまま椅子に座り、体から力を抜くと同時に体中から痛みを感じる。

 現場から離れて意識をしてしまうともうだめだ、心臓の鼓動にあわせて痛みが絶え間なく襲ってくる。

 動けなくなるほどではないとはいえ、常に痛みを感じるというのは流石に不味い。

 シャマルさんが集中すると、柔らかな緑色の魔力に包まれる。

 

「今はまだ回復じゃなくて診察ですから、痛みのほうはもう少し我慢してくださいね」

「痛みには慣れてるので大丈夫ですよー」

 

 それにしてもなんだか暖かくて眠くなってしまう。一度気を抜いてしまってから切り替えるのは苦手だ。

 まあいいか、事件は終わったんだしね。

 そう思っていたけれど、まだ一つだけ解決していないことがあることを知らされるのは、数十分後のお話。




次、もしくは後二話でたぶんA's終わります。

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