「守護騎士たちは相変わらずですか?」
「相変わらずと言えば相変わらずだが、ここ最近は活動範囲が広くなっているみたいだ。休む暇さえないんじゃないか」
「ここまで活動範囲を広げられてしまうと、もうどうしようもないですね」
「ああ、闇雲に追いかけたところで後手にまわるのなら、いっそのこと手が届く範囲で活動したところを押さえようと思う」
学校帰りのついでに、クロノさんたちが地球の拠点としているマンションに寄って現状報告。
それにしても彼女たちの体力は底なしなのだろうか。普通の人だとこれだけ短期間に転移、戦闘を繰り返したら体力的にも魔力的にもボロボロになってしまうレベルの活動だ。
そこまでして蒐集を行うのは一体何のためなのか。
自身のコンディションを落とすことはそのまま撃墜される危険につながる。
それだけのリスクを負ってでも推し進めなければならない何か。
そこがわかればもう少し手の打ちようもあるんだけどな。
と、そちらの報告はそこそこに、ついにユーノからの闇の書に関する報告がきたとのことで、要点を僕に教えてくれた。
調査によると闇の書はもともとあったプログラムを改悪されたものであるとのこと。
本来の名称は夜天の魔導書であり、研究目的のアイテムであったらしい。
「プログラムの修復も可能ではあるが、その場合闇の書に認められたマスターでなければシステムへの干渉はできない」
「でも可能性としてはゼロじゃないんですよね」
「ああ、だけどそれをあてにするには、分が悪すぎる」
だけどそれなら闇の書のマスターを説得できれば、これ以上誰も傷つかずに事件を終息させることができる。
可能性がわずかでも残っているのなら、ギリギリのところまでその可能性にかけてみたい。
「闇の書についてわかったことは以上だ」
「あの、一定期間蒐集を行わなければ、闇の書の主の体を侵食するんですよね?」
「ユーノからの報告ではそのようだな」
「ということは、彼女たちの主がその侵食を受けている可能性も高いですね」
「だろうな。だからといって見逃すわけにも行かないがな」
確かにそうだ。
それでも初めから協力を依頼されていれば、こちらとしても何かしらの手が打てたかもしれない。
最も闇の書の危険性は教科書にも載るほどだから、即時封印処理という可能性もあるか。
ままならないものだなあ。
「ヤスユキにはもう一つ話をしておこうと思う」
「他にも何かあるんですか?」
「ああ、あの仮面の男についてだ」
言われて前回の戦いを思い出す。
こちらを打つ手打つ手を全て正面から叩き潰された圧倒的力量差。
小細工をいくら弄したところで、最後の決め手がなければどうしようもないことを突きつけられた。
「何を考えてるかはわかるけど、少し力を抜け。思い出すだけでそんな状態になるなら、次の機会には君を当てることができないじゃないか」
「いえ、機会があっても僕を当てるのは悪手でしょう。それならまだ一度拘束に成功している鉄槌の騎士の相手をしたほうがいいのでは?」
「君の言うことはもっともだけれど、悔しさをバネにした成長力と君の戦略に期待してるんだ」
「……ありがとう、ございます」
ここまで期待してもらって情けない結果にする訳にはいかない。
期待に応えられるような働きを見せるしかないじゃないか。
僕と年齢は一つしか違わないのに、こうしたところの信頼感はすごい。今後の参考にさせてもらおう。
「さてそれはそれとして、この仮面の男についてだ」
「なのはの世界から僕の世界までの転移魔法の力量、実際戦っての格闘戦の力量。どちらも超一流といって過言ではないです」
「ああ、管理局全体で見ても、魔法と体術をあそこまで鍛え上げている人は少ないだろう」
だが、とクロノさんは続ける。
「こいつが一人ではないとしたら?」
「それはどれくらいの確率で考えてますか?」
「およそ六十%といったところだ」
だけどそれならあの時の長距離転送の問題はクリア。
そしてはじめになのはの方に現れた男は、なのはの砲撃を防いだりバインドをかけたりしたが、近接戦闘はおこなっていない。
それぞれが魔法と近接戦闘に長けた二人組として考えれば、これ以上なく筋が通る。
「だとしたら筋が通りますし、管理局のデータベースからも全く情報が出てこないのも当たり前ですね」
「ああ、だがもちろん単独である可能性も意識はしておこう。いざというときにやっぱり一人でしたというのは避けたい」
「了解です」
とは言っているものの、恐らくクロノさんの中では結論として複数犯だと考えているようだ。
根本的に単独犯よりも複数犯を警戒していたほうが、いざというときに対処しやすいこともあるのだろうけどね。
だけどこの情報はなのはたちには与えないほうがいいだろう。
こういった任務に不慣れな彼女たちに知らせてしまうと、その時に対峙している相手への注意を削いでしまう可能性のほうが高そうだ。
クロノさんと僕、とりあえず現場で対応できる二人だけで何とかする方向でいこう。
「そういえばデバイスのメンテナンスをお願いしたいのですが、アースラへの転送はもう大丈夫でしょうか?」
「アースラ自体はまだこちらへ向かっている最中だが、転送を利用するのは問題ないはずだよ。すぐに向かうかい?」
「はい。ノヴァのメンテナンスを含め、ちょっと色々と打ち合わせをしておきたいので」
「わかった。それなら僕の方から連絡を入れておこう。すぐに移動しても大丈夫だ」
「ありがとうございます」
そしてクロノさんの家に備え付けられた転送ポートを使って、アースラへと向かう。
いくらノヴァが丈夫だとはいえ、結構激しいぶつかり合いが最近は多かったからね。
今の時期からオーバーホールは無理だろうけど、問題がないかを専門家に確認してもらおう。
「戦闘記録とあわせて見せてもらったけど、流石にフレームが歪み始めてるね」
「やはりそうですか。今回の事件の解決までと考えると、あと数回は同じように使用しなければならないのですが、大丈夫でしょうか?」
「正直に言えばやめて欲しいというのが私の意見だ。しかし無理を通すとして、鉄槌の騎士との戦いならあと二回までならなんとかなるだろう」
アースラの技術スタッフである男性職員に確認をしてみれば、やはり基礎フレームへのダメージは蓄積されているようだ。
鉄槌の騎士と正面からぶつかり合った場合、あと二回の戦闘はいけるとは言われているけど、安全マージンを更に取るならば実質あと一度の戦闘までだろう。
衝撃の大きさで言うなら彼女の攻撃が一番であるけど、剣の騎士と仮面の男の攻撃は速くて鋭い。
それらを何度も受けとめるのは、ノヴァのスペック的に限界が近い。
ずっと使ってきたデバイスだけど、これから先を考えた時に変わっていかなくちゃいけないのかもしれないな。
「あの、ノヴァの中身をそのまま別のデバイスに移植するとしたら、どれくらいの期間がかかりますか?」
「ふむ。全く同じレベルの処理能力がある移植先があるのならば、二、三日もあればできる。だけど今アースラにある予備デバイスの中には、コイツに匹敵するものはないよ」
二、三日であればなのはたちの体調も戻ってきてる今、補助に徹していれば予備デバイスでもなんとかなりそうだ。
それに移植先のデバイスにも心当たりがある。
クロノさんとリンディ提督に確認をとって、どうにか許可を貰わなくては。
「移植先のデバイスについては心当たりがあるので、持ってきたらすぐに作業出来るように準備してもらっておいて大丈夫ですか?」
「構わないが、ちゃんと上の許可はとっておいてくれよ。勝手にデバイスをいじりましたーってなると、色々と面倒なんだからな」
「それはもちろんです。リンディ提督とクロノ執務官からちゃんと許可をとりますので、よろしくお願いします」
そうと決まればすぐにミッドの家に戻って、アレを持ってこなくては。
使用することにためらいもあるけれど、僕自身のスタイルを変更する上であのデバイスは必須になる。
結果的に両親の形見になっていたノヴァにもこれ以上ないくらいの思い入れがあるけど、それが僕の成長を阻害してしまう結果になったのでは元も子もない。
二人が生きていたらなんと言っただろう。
もしかしたら否定の言葉が出ていたかもしれない。
だけど僕がもっと先へ、今ある技術を全て使い切るにはこのままではいけない。
きっと、今が決断の時なんだ。
主人公強化フラグ。
評価つけてくださってる方々ありがとうございます。
なんだかそこそこの高さで推移していてありがたい限りです。
最終的には6点前後で安定するのではないかなとみています。