魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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十三話目

 あれから数日、転入したクラスにも慣れ始めた。

 クラスメイトともそれなりに仲良くなってきましたが、やはりなのはのグループと行動することが多い。

 学年が違うのにも関わらず、教室の外で待たれたりしたらさすがに無下にはできないよね。

 おかげさまで一部の生徒からはなんだあいつといったような視線を送られていますが、それはまあどうでもいいです。

 それ以上の変化といえば、弘乃さんが僕のクラスに転入してきたことだ。

 

「こちらで生活される限りは、私がお世話いたします。もちろん学校でもです」

 

 などというめちゃくちゃな理論で婆様を説得し、転入手続きをしたそうな。

 と、いうか僕と同い年だということに驚き、家と同じように接しようとするのだから困った。

 普通の家には自分と同い年のお手伝いさんなんていないんだよ!

 そのことを何とか理解してもらうのに、休日の大半を使ったことはまだ記憶に新しい。

 なんとか学校内では普通の友達のように話してもらうことになったけれど、一歩学校外に出ればいつもの従者状態。

 おかげでなのは達には実はお坊ちゃまだったんだねなんて言われてしまった。

 

「なんとかならないですか、せめて話し方」

「無理ですね」

「だけど霧島さんの気持ちもわかるかも。私もファリンと仲良くなるまではちょっと恥ずかしかったかな」

「あたしの場合は物心ついたころから鮫島が付いてたから、今更って感じかも」

 

 すずか、アリサのお嬢様コンビがそれぞれの感想を言う。

 元々平々凡々な一般人としては、すずかの意見に全面的に同意したい。

 

「ほら、すずかだってああ言ってるでしょ。僕の感覚がおかしいわけじゃないんだってば」

「それならばこの感覚に慣れてください。霧島を継ぐことになれば、これ以上に制限が加わるのですから」

「あはは……大変そうだね、恭之君」

 

 最近ではこのやり取りもお馴染みになってきており、それをみるなのは達も苦笑いだ。

 若干諦めの気持ちも出てきたけれど、ここで折れたら弘乃さんの思う壺なので強く意思を持っていようと思う。

 そんなこんなで日常的に騒がしくなりつつある僕の周りだけど、闇の書の問題に関してはまだ進展がない。

 守護騎士の現れる頻度が多くなっていること、蒐集を行う次元世界が一定ではないこと位で、足取りを掴むには至らない。

 全体的にピリピリとしたムードが漂っているせいか、なのはとフェイトに関してはしばらく休んでもらおうという意向だ。

 まだ正式な局員ではない二人に、あまり根を詰めてほしくないといったリンディ提督の考えのようで、僕もそのついでとばかりに休みを取らされている。

 

「はあ、まさかこんな苦労をすることになるなんて思わなかったよ」

「大丈夫ヤスユキ? ため息をつくと幸せが逃げるって聞いたよ」

「フェイトさんの言うとおりです。ため息なんてつかずに堂々としていてください」

「そのため息の原因が何言ってるんだよ……」

 

 こんな掛け合いもコミュニケーションの一つとなってきたあたり、着々と意識改革が進められているような気がしてならない。

 とはいえこのような日常というのも久しぶりで、今僕達が闇の書という大きな事件に関わっているということを忘れてしまいそうになる。

 しかも巷はクリスマスシーズンで、商店街でも歩こうものなら色とりどりのイルミネーションが視界に入ってくる。

 それがまた僕から緊張感を奪っていくのだけど、なのは達にとってはいい息抜きになっているのかもしれない。

 次に戦うときは、僕は支援に回ることになるだろう。

 正面からなんて論外、搦め手を使ったところで大きな魔力でごり押しされる。

 そうなってしまっては、僕一人で誰かを止めるというのは難しい。

 これまでそれなりに経験を積んできたつもりだったけど、こうしてはっきりと差が出てきてしまうと苦しい。

 才能の差は経験と努力で埋められると思っていたんだけどなあ。

 

「恭之様、何か気にかかることがございますか?」

「なんでもないよ。強いて言うなら、今日も寒いなって思ってた」

 

 さすが自称従者といったところか、表には出していないつもりだった僕の違和感に弘乃さんに気付かれてしまった。

 そして口に出していないにしろ、心配そうな視線を送っているなのは。どうやら彼女も感情の機微には敏感なようだ。

 これじゃあ、ある意味気が抜けないな。

 

「それで、その友達が入院しちゃったから今度お見舞いに行くんだけど、みんなも一緒に行かない?」

「塾があるくらいだから、その日以外なら私は行けるよ」

「いつにするのか決めてくれればお稽古事のほうも調整できるから、あたしは大丈夫よ」

「私は特に何かあるわけじゃないから、いつでも大丈夫」

 

 それぞれが自分の都合を伝えると、揃って僕のほうを向く四人。

 え、僕も一緒にってことなのかな。

 

「せっかくだけど、僕は遠慮しておくよ。友達の友達とはいえ、いきなり年上の男にこられても困るだろうし」

「はやてちゃんなら大丈夫だと思うんだけどな」

「次の機会があれば一緒に行こう。まあ、そのころには退院してるかもしれないけどね」

 

 実際そのころにはアースラがメンテナンスから戻ってきているはずなので、僕もそちらに詰めることになるだろう。

 なのはたちとは違い僕は正規の局員だから、あまり勝手に艦を離れるのもよくない。

 もっともリンディ提督なら許可してくれそうだけど、あんまり無理を言うのも申し訳ない。

 ユーノだって無限書庫で頑張っているのだから、僕もしっかりやらないとね。

 

『ヤスユキ、アースラで待機するつもりなんでしょ? 私たちもいたほうがいいんじゃないかな』

『そうだよ。恭之君だけお仕事させるなんて悪いよ』

 

 流石に魔法関係の話をアリサたちの前でするわけにもいかず、念話で僕の事を心配してくれる二人。

 口に出さないのはいいけど、僕のほうを見ながら念話していると違和感があるから、せめて普通に振る舞っていて欲しい。

 

『二人はまだ正式な管理局員じゃないんだから、そんなこと気にしなくてもいいんだよ』

『だけど……』

『僕だって執務官だからね。たまには書類仕事もしなきゃいけないから、その日はそれにあてるよ』

 

 ついでにもう少しノヴァに入れてある魔法の構成も変更しておこう。

 相手が強い分、手札が多くても一つ一つの威力が低くて足止めにもなってなかったしね。

 今霧島の家で婆様に稽古をつけてもらっている戦い方を踏まえて、魔法と組み合わせる戦いも組み立てておきたい。

 うん、こういうのを考えてると楽しくなってきた。絶対にリベンジしてやる。

 守護騎士に仮面の男。次に会うときは今までみたいに簡単にいくとは思うなよ。




ここまでで移転分終了です。
明日にでも十四話目をアップして、そこで夏休みは終了です。
あきらめなくても夏休みは終了してしまいます。
夏休み……

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