魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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十一話目

 転移の前に見えた仮面の男が気になるけど、今はフェイトの援護に集中しないとだめだ。

 二対一とはいえ、別のことを考えながらどうにかできる相手じゃない。

 

『フェイト、加勢に入ろうと思うけど、タイミングはどうする?』

『ごめん! もう少しだけ私に任せて!』

『……長く見ても十分間。それを過ぎたらこっちのタイミングで援護を入れるからね』

『了解!』

 

 ああ、フェイトもまっすぐな性格をしているみたいだからもしかしてとは思ったけど、流されちゃってるなあ。

 確かに正々堂々というのはすばらしいことだけれど、それはスポーツとかそういった世界だと僕は思う。

 もっともこうして少しとはいえ融通してしまう僕も、まだまだ甘いんだろうとは思う。

 だけどああやって必死に勝とうとしている姿を見ると、どうしてもがんばって欲しい気持ちが先に出てしまう。

 守護騎士が非殺傷設定で闘っているので、命に関わる怪我の可能性は低いだろうと考えたのもある。

 自分より格上の相手との闘いは得るものが多いのも確かなので、これでフェイトが何かを得るのではないかという希望もある。

 そんなことを考えながらも、不意の増援への警戒を緩めるわけにもいかない。

 二人の邪魔にならないように周辺へサーチャーを飛ばし、自分もすぐに動けるように意識を張る。

 前回のなのはのように、今回も僕やフェイトを狙った不意打ちがないとも限らない。

 できることならフェイトにあげた十分の猶予の内に奴を見つけて、動きを制限しておきたい。

 補助魔法は得意中の得意、ノヴァの演算能力もフルに使用して一気に範囲を広げていく。

 

「くっ、相変らず情報量が多いっ!」

 

 ノヴァに組み込んだプログラムでフィルタリングしているとはいえ、情報量が多くて軽い頭痛を引き起こす。

 だけどそのおかげで不自然なところを見つけた。これは当たりかもしれない。

 

『不自然なポイントを見つけた、こっちは任せるよフェイト!』

『わかった。ヤスユキも気をつけて』

 

 薄く半球状に展ばした探査結界の中、一箇所だけ何も感じられない場所があった。

 フェイトたちが使った魔法の残滓も、何も感じられない場所があるというのは、ひどく不自然。

 エイミィさんたちアースラクルーが展開した普通の魔力探査には引っかからない程練度の高い隠蔽魔法。

 今回はその練度の高さが仇になった形で、僕が現場にいなければ見つからないままだったかもしれない。

 とにかく。先制攻撃で主導権を握る!

 

「ブラストカノン!!」

 

 いつでも放てるようにしっかりとチャージした砲撃魔法。

 今の僕に撃てる魔法では威力の高いそれを、違和感のする場所へと撃ちこむ。

 傍から見ると、何もないところに砲撃しているので滑稽に見えるかもしれない。

 だけどその心配は杞憂に終わる。不自然なポイントに砲撃が届く直前、薄紫色の魔方陣が発動し、シールドを展開していた。

 つまりそこには誰かがいて、僕の砲撃を防いだということ。

 状況から考えればまず間違いなく闇の書の関係者だろう、なんとか無力化して情報を得たい。

 

「ストレイスフィア!」

 

 砲撃とシールドの干渉で生まれた爆煙を目隠しとして、魔力スフィアを構築し対象のセットを行う。

 とりあえずは自立誘導に任せよう。先ほど展開されたシールドから魔力を割り出して、その魔力を持っているものへ追尾設定。

 かなり大雑把な設定にしてしまったけど、牽制程度なら果たせるはず。

 さらに周囲へ牽制目的のバインドを設置しようとするのと変わらず、煙を突っ切るように飛び出してくる影。

 自身に迫るスフィアを気にしていないのか、かなりの速度で突っ込んでくる。

 体格としては成人男性くらい、細身で特徴的な仮面をつけている。

 接近してくる相手に対してスフィアが動き、偶然の産物とはいえ時間差で仮面の男に迫る。

 ところがタイミングよく体を捻るだけでスフィアを回避し、何事もなかったかのように距離をつめてくる。

 

「デタラメな!」

 

 その勢いのまま押し切るつもりか、引き絞られた右腕には魔方陣。

 この距離で考えればバリアブレイク付与の近接魔法か。

 こちらもノヴァに魔力を纏わせ、正面からのぶつかり合いになる!

 

「はああああああああああっ!」

「ふっ!!」

 

 全力でノヴァを振り切る僕に対し、洗練された動作とでもいうのか、短い呼気とともに鋭い拳が放たれる。

 まるで金属を殴ったかのような衝撃に手がしびれるが、デバイスを手放すという愚は犯さない。

 相手の拳と拮抗しているうちに、ノヴァに込めた魔法を開放する。

 

「ショートインパクト!!」

「甘いな」

 

 射程距離が短い代わりに範囲が広い衝撃魔法だったのだけど、驚異的なスピードで範囲外へと回避される。

 しかしそのおかげで距離が開いたので、僕自身も移動魔法を使って中距離といえるところまで間合いを取ることができた。

 同時に八つのストレイスフィアを展開し、今回は二発分だけ自分で制御する設定。

 

「行けっ!」

 

 先ほどとは違い、スフィアのスピードも上げてまずは当てる事を考える。

 そして気付かれないように複数のバインドを設置する。

 魔法の複数同時発動は僕の得意分野だ。

 

「自立誘導と指示誘導の混合射撃か。技術としては見事だが……」

 

 先ほどの突撃のような動きではないが、余裕をもってかわす動きから一転、動きを止めて構えを取る男。

 どんな考えがあるのかはわからないけど、足を止めてくれたのは好都合。

 正面からは自立誘導、背面、側面からは僕自身が誘導するスフィアを向かわせる。

 タイミングを合わせて向かわせたそれらは、確かに仮面の男へと当たった。

 しかしそれは全て魔力を込めた拳で相殺するという、離れ業によって行われ、もちろんダメージはない。

 

「威力不足だ」

 

 まずい。

 これまでの経験からくる本能とでもいうのか、切磋にノヴァを体の前に持ってくるのと、とんでもない衝撃が僕を襲うのはほぼ同時だった。

 何が起こったのかと視線をやれば、回し蹴りを放ったのであろう体勢で、先ほどまで僕がいた空間に男がいた。

 くそっ、速過ぎて視認できないなんて、どれだけの規格外だ!

 少しでも相手の機動力を削ぐため、ハンマーを使う騎士にもやったように設置型のバインドをばら撒く。

 

「必殺の威力がないからこその技術か」

 

 唐突に背後から声が聞こえ、振り向くのと同時にゼロシュートを放つが、すでにそこに相手はいない。

 手ごたえがないと分かった瞬間には移動魔法を使い、今までいた場所から離れていたが、その判断は正解。

 さらに移動していた相手の拳が空を切っていた。

 

「リングバインド!」

 

 その状態の相手を捕らえる為に放ったバインドは、すでにその場を離れてこちらへ向かっていたために効果を発揮しなかった。

 だけど!

 

「かかった! ディレイド!」

 

 ステルス性を高めて設置しておいたバインドが、僕へと接近していた相手の足を捕らえる。

 最高速から足をとられ、体勢を崩しているこの隙を逃すわけにはいかない!

 

「バインドラッシュ!!」

 

 複数のバインドの同時発動で相手を釘付けにし、砲撃魔法のチャージ。

 その間にも次々とバインドが砕かれていることから、相手の力量がわかる。

 なんとしてもここで落とさないとまずい!

 

「これで落ちろ! トライストライク!!」

 

 三本の砲撃が螺旋を描くように相手へと突き進む。

 相手はまだバインドを解除し切れていない、これはもらった!

 その予想を裏切ることなく着弾。衝撃で爆煙が広がる。今の魔法は僕の最高火力。

 さすがにダメージを与えられたと思うんだけど、気を抜くことはできない。

 わずかな変化も見逃さぬように意識を集中していると、軽い衝撃が僕を襲った。

 威力はあまりないが、その分ステルス性を異常なほどまで高められた魔力弾。

 それが僕の顎にぶつかり脳震盪を引き起こしたのだとなんとか分かった。

 

「くそ、こんな搦め手までつかえるのか」

「……よく意識を保っているものだ。普通なら意識を失って撃墜なのだがな」

 

 とはいえ飛行魔法を維持するので精一杯、正直戦闘機動は行えない。

 しかし僕はノヴァを構えた状態で、戦意を失っていないようにブラフをかける。

 

「あなたも闇の書の守護騎士なのか?」

「そのようなこと、答えるとでも思っているのか?」

「ならば、力ずくで答えてもらいます!」

「やめておけ、気力で持たせているようだが、お前はもう戦えない」

 

 構えているだけで精一杯の僕に、容赦ない蹴りの一撃。

 その威力に一瞬の拮抗もできず、大きく吹き飛ばされて地上に落ちる。

 バリアジャケットと自動発動した衝撃緩和魔法のおかげで、落下によるダメージは少ない。

 だけど脳震盪のダメージは抜けず、一度地に伏せた体は緊張が切れたせいか意思に反して動かない。

 

「まだ諦めないか。そういう輩は、意識を断つに限る」

 

 言葉と同時に繰り出された一撃は、僕の鳩尾を確実に打ち抜き、意識を失わせるのに充分な威力だった。

 自分が撃墜されたことで不利になるであろうフェイトのことを気にしながら、僕の意識は闇に落ちた。


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