魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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十話目

 こうして拠点を地球に移したというのに、あれ以来この世界で守護騎士たちが現れたという報告はない。

 その代わりにこの辺りよりもやや離れた世界で、魔導師と野生動物が襲われたという。

 魔導師はもちろん野生動物の方もリンカーコアが衰弱しており、先日のなのはと同様に魔力を直接奪われたのだろうと推測される。

 以前までのデータなどを検証すると、どういう縁なのか地球を拠点として活動しているように思える。

 しかしそうだとすると最近の活動地点は転送魔法で移動するには、少々負担が大きい位置になる。

 アースラとまではいかないまでも移動用の艦をもっているのか、それともこれだけの長距離転送を余裕で行える魔導師がいるのか。

 もしくは多少の無理を通してでもやらなければならない何かがあるのか、拠点を既に別の場所へ移しているのか。

 可能性を挙げればきりが無いが、新たな手がかりを掴むまで対応は後手にまわりそうだ。

 

「恭之様、そろそろ夜鍛錬の時間ですが、あちらに向かわなくてよろしいのですか?」

「ああ、もうそんな時間なんだ。すぐ行くよ」

 

 報告を確認していた空間ディスプレイを消して、弘乃さんの方に向きなおる。

 この空間ディスプレイにも慣れたのか、今でこそリアクションが無いけれど、初めて見たときは僕にもわかるくらい驚いていて微笑ましかった。

 

「何度見ても不思議なものですね。流石魔法といったところでしょうか」

「魔法というよりは科学かな。今の地球の一歩も二歩も先に進んでるけど」

 

 実際地球だって時間をかければこれだけのものは作れるようになると思う。

 ただ、魔法という概念がその途中で生まれるかどうかはわからないけどね。

 

「それでは参りましょう。今日は道場で鍛錬を行うとのふひゃあ!!」

「ふひゃあ?」

 

 弘乃さんのこれまでに聞いたことがない声と同時に振り返ると、襖の溝に躓いたのかうつ伏せに倒れていた。

 これは受身をとったのだろうか? あまりにも見事な転びっぷりである。

 

「あー、大丈夫?」

「……う、だ、大丈夫ですぁ!」

 

 手を突いて体を起こそうとするが、普段着にしている着物の袖を抑えてしまって再び顔から落ちる。

 いや、今のは流石にまずいだろ。

 受身もなく顔から落ちるってのは、かなりのダメージのはず。

 

「うぅ……せっかく今まで上手にやっていたのに。突然これだなんて酷過ぎます……」

「あれだけ派手に転んだ割にはそこまでひどい怪我じゃないですね。不幸中の幸いでしょうか」

 

 一番ひどいところで鼻の打撲でしょうか。

 あの勢いだったら骨が折れてもおかしくなさそうでしたが、赤さは残るものの大事には至っていないようです。

 それにしても今まで上手くやっていたというのはどういうことなのでしょうか。

 すごくまじめで完璧主義な人かと思っていたけど、実は意外とどじな一面があるのかもしれない。

 

「た、たまたまですよ? ココまで派手に転ぶことなんて、滅多にありませんからね!」

「つまり普通に転んだりということは、それなりの回数である。と」

「えっ! なんで!?」

 

 少しひねくれた感じでカマをかけてみれば、あっさりと引っかかる弘乃さん。

 どうやらこっちのほうが素の性格みたいだ。

 

「いつもそれくらい素直なリアクションをしてくれると、僕も嬉しいんだけどなあ」

「えっ、あ、うぅ……そうはいきません。次期当主である恭之様の立場を、私のせいで悪くするわけにはいきません」

「それなら僕と婆様の前でだけでもさ。そのほうが僕の気持ちが楽になる」

 

 自分と同い年くらいの女の子に世話をされて数日、少し慣れ始めたところもあるけどやっぱり落ち着かない。

 今の反応を見ているかぎり、どうやらなのはと同じでいじられることにより輝くタイプであるような気がする。

 そうとわかれば早速……

 

「ヤスユキ君、こっちに来て! 守護騎士たちの魔力反応がでたわ!」

「っ!! いきなり通信で叫ばないで下さいよエイミィさん。耳が痛いです」

「ごめんっ! だけどもうなのはちゃんたちは現場に向かっちゃって、そっちの解析とかもあるの!」

 

 つまりあまり余裕がないと。

 それにしても反応がでた次の瞬間には飛び出していったんだろうなあ、少しくらい様子見ればいいのに。

 

「わかりました。とりあえず今から一度そちらに向かいますんで、転送ポート開けといて下さいね」

「おっけー! できるだけ早くお願いね!」

 

 あっという間の通信で、とりあえず海鳴へと向かうことが決定。

 婆様に頼んで設置させてもらった転送ポートは僕の部屋にあるため、電源を入れて起動。

 

「と、いうわけで管理局の仕事に行ってきます。婆様には弘乃さんから伝えてくださいね」

「えっ? あの、恭之様から言わないと、次に戻ってきたときに大変なことになりそうなのですが……」

「その辺りは弘乃さんがうまくやってくれると信じてるからヨロシクねー」

 

 転送先を海鳴拠点に設定。む、軽くジャミングかけられてるみたいだ。

 その割にさっきの通信はクリアだったのは、エイミィさんの通信技術によるものか。

 普段の倍近い転送準備ゲージの進みを眺めながら展開を考える。

 なのはとフェイトはそれぞれデバイスの強化を行ったおかげで、守護騎士を相手にしても互角の戦いができると思う。

 以前の戦いの流れからなのははヴィータ、フェイトはシグナムを相手にするだろう。

 それぞれが相手することで後二人。クロノさん、アルフさん、ユーノの三人が連携すれば問題はない。

 あれ、僕がいる必要ないんじゃないか?

 

「ま、念には念を入れるくらいでいいかもね。少し離れて全体の動きをみようかな」

 

 独り言をつぶやいた瞬間準備完了。

 しっかりとラインが繋がっていることを確認してスタート。

 

「それじゃ、ちょっといってきます」

「いってらっしゃいませ、恭之様。フォローは致しませんのでがんばってください」

 

 文句を言おうと目線をやった先には、どこか拗ねたような弘乃さんの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても僕の出番はなさそうですね」

「そう言わないでよ。二人が別々の世界で活動してるから、何か起こったときにはすぐ行ってもらうんだから」

「よりにもよってクロノさんがいない時に動くなんて、こっちの動きを知ってるみたいだね」

「もしそうだとしたら大問題だよ。闇の書の主と管理局が繋がってるだなんて、想像したくないわ」

 

 犯罪者とそれを取り締まる側が通じてるなんて、僕たちではどうしようもない事態になってしまう。

 個人的には管理局を外部から監視する機関が必要だと思うんだけど、今更難しいんだろうなあ。

 あえて言うなら聖王教会がそれにあたるのかもしれないけど、宗教が絡んでるとまた話がややこしくなるしねー。

 

「それはそれとして、守護騎士たちを止められると思いますか?」

「前回はデバイスの差が大きすぎたからねえ。スペック的な面では差がなくなったんじゃないかな」

「問題は蓄積されているであろう経験面ですよね。二人とも魔力が大きいとはいえ実戦経験はあまり多くない」

「だからこそクロノ君やヤスユキ君がその経験面を埋めてくれるんでしょ? 期待してるよ!」

「僕だってこないだ執務官なったばっかりなんですから、あんまり過度な期待はしないでくださいね」

 

 映像を見ているとフェイト達の戦いは五分、もしくはやや押している印象。

 やや遅れて接敵したなのはは守護騎士の目くらましで距離をとられたか。

 しかしあの目くらましはすごいな、光、音、魔力を撒き散らしたおかげで、一瞬だけどサーチャーからの映像が途切れた。

 ああいう術式は組み込むのもありかもしれないな。

 

「っておいおい、あの距離で砲撃はとんでもないな」

「これが才能ってやのなのかもね。クロノ君は怒るかもしれないけど」

「いや、ここまでの違いを見せ付けられると、先に呆れがきますよ」

 

 大きく距離をとられても、あせることなく持ち前の魔力を活かした長距離砲撃。

 直撃の衝撃で未だに視界が塞がれているけど、あのレベルの砲撃をもらって五体満足とはいかないだろう。

 ちょっとあっさりし過ぎな気もするけど、大きな怪我もなく終わったのはありがたい。

 こうなったら膠着状態のフェイトの方に加勢に行こう。

 真剣勝負に水をさす形になりそうだけど、事件の解決のほうが優先だ。

 

「なのはの方は大丈夫そうなので、僕はフェイトの方へ加勢します」

「おっけー! ポートのほうはもう準備してあるから、すぐにでもいけるよ!」

 

 傍にある転送ポートを起動し、すぐさま転送を開始する。

 転送される直前、なのはを写す画面には正体不明の仮面の男が映っていた。


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