魔法少女リリカルなのは〜雁字搦めの執務官〜   作:紅月玖日

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A's編
一話目


「敵戦力は魔導師約三十人。その内三人はAランク以上の高位魔導師です!」

 

 焦ったような女性オペレーターの声を聞きながら、僕は転送機に入り、精神を集中させる。

 今回の任務は、強襲された管理世界の支局の防衛。

 数だけでいうならば五分五分、質では若干こちら側が押されるだろうか。

 襲われたのが本局であるなら余裕を持って撃退できただろうが、ここは管理世界の中でも端の方である。

 局員のランクも練度もそこまで高いとはいえず、そのために近くを巡航していたこの艦へと救援要請が回されてきた。

 敵はこの日のために十分なシュミレーションを行ってきたのだろう、完璧に統率されたその動きはテロリストのそれとは思えない。

 

「第一防衛ライン、突破されました!」

「第七小隊、負傷者多数のため後退! 下がっていた第三小隊を前に出します!」

 

 状況の把握に気をとられているのだろうか、いつもよりも転送準備に時間がかかっている。

 もしくは戦場の周囲がジャミングされているのか、本当に用意周到な敵である。

 待機時間を無駄にするわけにもいかない、リアルタイムで更新される情報を端末を使って呼び出す。

 敵の高位魔導師は三人、Aランクが二人、AAランクが一人。

 注意すべきはやはりAAランク、砲撃魔法が得意なのだろう、遠距離からの攻撃でかなりの局員が落とされている。

 Aランクの二人は前衛で指揮を執りながら、こちらの高位魔導師を押さえ、確実に防衛線を削ってくる。

 ここまで完璧にしてやられるとは、敵ながらあっぱれだね。

 

「転送準備整いました! 転送開始します!」

「ヤスユキ・キリシマ、いきます!」

 

 一瞬の無重力感の後、僕は戦場の空へと放り出され、重力に引かれる前に魔法を発動して空中にとどまる。

 同時にデバイスを待機状態から戻すと、僕の手に身長よりも大きな杖が現れる。

 執務官試験に合格したときに、合格祝いとして贈られたストレージデバイス「ノヴァ」。

 銀色に輝くシャフトの先に大きな球体が取り付けられたような、少し変わったメイスの形状をしている。

 そのバランスと強度から、接近戦においては打撃武器として活用も出来ることから、僕のスタイルにはちょうどいい。

 ようやく手になじんできたそれは、今ではもっとも信頼できる相棒である。

 技術部からはもう少し優しく扱ってくれとも言われるが、戦闘の中でそこまで気を遣う程の余裕はない。

 ノヴァがインテリジェントデバイスであったら、小言の一つや二つ言われてしまっているかもしれないね。

 

「僕が砲撃手を落とす! 後方の局員には防衛ラインを死守の指示!」

「了解しました! キリシマ執務官が頼りですからね!」

「各小隊、第二防衛ラインを死守してください! 時間さえ稼げばあの高出力砲撃は止まります!」

「相手のAランクが突出してきたからといって釣られないように! 開いた穴になだれ込まれるよ!」

 

 敵を落とすのではなく、時間を稼ぐことを目的とすれば、ここの局員の練度でも時間は稼げるはず。

 その間に僕が相手を落とせなければゲームオーバーか、自分で言っておいてなんだけど、結構無茶かも。

 つか作戦の成否が一人の働きによって決まるっていうのは、あんまりいいことじゃないんだよね。

 せめて一日あれば、もう少しやりようもあったんだけどなあ。

 

「でもそんなことも言ってられないか、とにかく速攻で相手を落とす!」

 

 自分に気合を入れると、一気に加速して、僕は敵魔導師の中へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異動、ですか?」

「貴重な戦力だったんだけどなあ。まあ、執務官としての研修がなかったから、そこの埋め合わせだろう」

 

 なんとか敵魔導師たちを鎮圧して、ぐったりしながら戻ってきたらこれだよ。

 確かに僕は執務官試験に合格してから、そのまま今の艦に配属されてたから、そういうものなのかと思っていたけど違うらしい。

 ああ、そういえば先輩たちも研修先によって今後が決まるとか、そんなことを言ってたなあ。

 そう思えば、僕がこの艦に配属されて以来、個人的に動く捜査の指令などは場面はなかった。

 つまり上のほうでは武装局員として、戦力不足の艦に送り込んだってところだろうか。

 それならもっと武装局員の採用基準下げて、数だけでもそろえればいいのに。

 

「しっかし、今回のこの異動はまた、お前にとって面倒なことになるかもしれないな」

「面倒なことなんて、これまでにもたくさんありましたよ。それで、僕の所属はどこになるんです?」

「巡航L級八番艦アースラ。かの有名なハラオウン親子が乗っている艦さね」

「アースラ。この前、結構大きな事件を担当した艦ですね」

「そして今回もかなり厄介な事件を担当している……ともっぱらの噂だ」

 

 僕の記憶が正しければ、確か半年ほど前にアースラは管理外世界のロストロギアを巡る事件を解決しているはず。

 その艦の主戦力は執務官であるクロノ・ハラオウンさんで、魔導師ランクAAA+というまぎれもないエースだ。

 何よりも若干十四歳でありながら、執務官としてのキャリアはもう三年になるという超エリートでもある。

 僕もかなり早く執務官資格を取ったつもりではいたけど、世の中には上がいるものだ。

 そんな管理局の中でも目立つ人の下について研修が出来るなんて、僕はかなりついているのかもしれない。

 

「あとは厄介ごとに巻き込まれなければ、それだけでいいんだけどなあ」

「俺の話聞いてたか? まず間違いなく厄介事の渦中だぞ」

「噂はあくまで噂と思っておきます。というか、そう思わないとやってられません」

 

 数ある次元世界の中でも辺境とかいわれるあたりを航行するこの艦で、僕がどれだけの貧乏くじを引いたことか、それを知らないわけではないだろうに。

 確かに辺境だからこそ管理局の目は届きにくいっていうのはわかるけどさ、どうして毎回AAランクとかオーバーとかの魔導師がでてくるのさ。

 そういう人たちが味方になってくれることもあるけど、大抵が敵なのはどういうことなのだろう。

 おかげさまで搦め手に関しては、管理局内でも相当できるほうになったのではないかと思う。

 というよりも、搦め手が上手くならなければあっという間に落とされていたことだろう。

 人間、必要に迫られれば、普段では思いつかないようなことを実行できるようになるんだと学ばされたよ。

 

「何はともあれ、これがお前にとっていい経験になることは間違いない。エリート様から盗めるだけ盗んで来い」

「もちろんそのつもりですよ。ただその研修が終わってから、またこの艦に回されるかどうかはわかりませんけどね」

 

 今回の研修で見習い執務官である僕が、より成長するための糧とさせてもらいますか。

 もっとも、近接魔法とか広域殲滅魔法とかは参考にするどころか、そういうものがあるという認識をするだけになるけどね。

 この二つに関しては、僕は絶望的なまでに適性がない。

 そこを上手いこと誤魔化しながらやってきたけど、そういう手札を敵が持っている場合の対処とか、そういったところを学んできたいなあ。

 あ、根本的に執務官の心構えとか、そういうのもちゃんと現役執務官から聞いたことないや。

 こうして考えてみると、結構知らないことが多のに気がつく。

 やばい、なんだかすっごく楽しみになってきた!

 待ってろ! アースラ!


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