婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
一応宮下プロダクション監修だろうけど、まとめた人暗屯子ちゃん好き過ぎでしょ…!
第二戦目。闘場に降りてきたのは飛燕だった。
「あのひと、予選リーグの1日だけで既に2戦してましたよね…?
なんぼなんでも、戦い過ぎじゃないでしょうか?」
「…恐らくだが、2戦目は俺のせいだ。
相討ちしたと思った相手に、俺はどうやら負けていたらしいからな。
あいつも初戦で肩を外されたり結構な深手を負っていた筈なのに、俺が不覚をとったせいで、申し訳ないことをした。」
そうでした、失言失言。つか、タフだな飛燕!
…さて、相手側から出てきた男はフード付きのマントで身を覆っており、顔は見えないが、
「俺の名は
貴様の首は、俺がもらった…!!」
とまあ、なんとも怪しげな名乗りを上げた。
なんていうか、さっきから見てて思うがこのチーム、演出過多だな。
名乗りひとつ取っても芝居がかってるというか、大袈裟というか。
その過多な演出に敢えて乗るように、飛燕は大きく息を吐くと、間合いを取って構えた。
「ピネジェムだと…それはエジプト神話の中で、過去と未来を時の舟で航行し、時間を支配する神。
このわたしを、その舟にでも乗せてくれるというのか…?」
「フフフ、乗せてやろう。
そして、その行き着くところは死だ……!!
ピネジェムと名乗った男は、両腕を上げて纏ったマントを広げ、その裏側に描かれた目のような模様を見せた。
……一見すると、羽根広げたクジャクみたいなんだが。
「忘却とは、忘れ去る事なり……!!
だが人は皆、その過去を引きずらずには生きていけぬ、悲しい動物よ…。」
ピネジェムはそう言うと、腕とその模様を回転させた。
☆☆☆
なんだ、この異様な感覚は…!?
まるで、あの回転しているマントの模様に、吸い込まれていくような……!!
目を離そうとしても、見つめずにはいられない。
“飛燕”
だ、誰だ…わたしを呼ぶこの声は……!?
あたたかくて、そして懐かしい…。
そうだ、この声は……!!
「飛燕…気がついたか、飛燕。」
「なっ!!」
「わしの突きを躱せず、気を失っておったのじゃ。
まだまだ修業が足りんな。」
「ば、馬鹿な…あなたは……!!」
わたしの目の前で微笑んでいるのは、我が拳法の師であった、劉戒老師。
周りを見渡せば、数百人もいるであろう僧達が、それぞれの修業を行なっている。
どういう事だ、これは……!?
ここは、かつてわたしが修業をした
なにひとつ変わらん…当時のままだ。
しかし、すべては過ぎ去った過去…現在わたしは、天挑五輪大武會決勝トーナメント、
ならばこれは、幻の光景……!!
袖口から
なにかのまやかしの術なのだろうが、これですべては消え失せる……!!
だが、目の前に広がる光景は変わらず、わたしは過ぎた過去の世界で立ち尽くした。
「なにやら身が入らぬようだな、飛燕。
わしが相手をしてやろう。参るがよい。」
老師が、見たこともないような形の武器…両端にそれぞれ星と三日月を模った刃が鎖で繋がれた棍を構えて、こちらに歩み寄ってくる。
…いや、違う。奴は断じてお師匠様などではない。
この凄まじい殺気……!!
奴こそがピネジェムの実体だろう。だが……!
息もつかせぬ鋭い攻撃に翻弄され、体術を駆使して躱し続ける。
「逃げてばかりでは勝負にならぬぞ。
師匠だからといって遠慮は無用!!」
そうだ、これは幻。躊躇う事などない。
目の前にいるのは懐かしく慕わしい師ではなく、敵なのだ。
☆☆☆
「…どうやら飛燕は、なんらかの精神攻撃を受けているようですね。
自分の身体に鶴嘴を突き立てた先ほどの行動を見る限り、自身の状態は把握できているのでしょうけれど、彼にしては動きにいまひとつ精彩がないところを見ると、それをして未だその影響から脱していないのでしょう。」
おおかたあのマントの模様とその動きに、視覚から脳に働きかけて幻覚を見せる作用でもあるのだろう。
というような事を言ったら、隣の影慶がなんだか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「どうかしましたか?」
「…俺が
…なんかさっきから影慶の痛いところチクチクつついてしまってる気がする。
なんぼ影慶がドMだといってもそれは肉体面の事であって精神的な痛手はまた別だろう。
「…私、喋らない方がいいですか。」
「何故だ?」
「いえ。
気にされてないのでしたらいいんです。」
「……?」
…それにしてもこのピネジェムという男、今『師匠だからといって遠慮は無用』とか言ったんだが、もしかして飛燕に見せているのは、彼の恩師の幻という事だろうか?
そうか、飛燕の動きにいつもの冴えが見られないのはそのせいかもしれない。
誰しも、大切な人の面影には、心が揺れずにはいられないもの。
もっとも彼はその甘い容姿とは裏腹に、敵に対しては幾らでも非情になれる男の筈だけど。
☆☆☆
「鳥人拳秘技・鶴嘴千本!!」
棍の先の刃に細かく皮膚を裂かれながらも、その攻撃を躱しながら、千本を投げる。
だがそれは全て弾かれ、逆に反撃で胸元に傷を受けた。
駄目だ…頭では幻覚とわかっていても、懐かしい姿と声に、心が揺れている。
このままでは奴の言うとおり殺られる……!!
・・・
「ぐおおっ!痛い痛い、痛いっ!!」
「大袈裟ですよ。少しくらい我慢しなさい!」
「んな事言っても痛いもんは痛いんじゃ!!」
「無理に動こうとするから痛いんです!
治療の間の5分もじっとしていられないとか、子供ですか、あなたは!!
…というか、懲罰房にいた頃に比べて、どんどん落ち着きがなくなってくるのは、一体どういう事なんですか。」
伊達に稽古をつけられてあっという間にボロ雑巾のようになった富樫と虎丸の要請を受け、治療に駆けつけた光は、見学したいと言ったわたしに、快く応じてくれた。
…そういえば、わたしもよく見ていたわけではないが、
まあしかし元はと言えば治療に入る前に、
「私の治療術は、氣の操作をする事で、細胞の活性化を促し、即時治療が可能なわけですが…外側から違う人間の氣を無理矢理注入させるわけですから、一歩間違えると相手の体を、内側から破壊する結果にもなりかねません。
まあ、この間桃が読んでいた少年漫画のように、内側から破裂するとか派手な事にはなりませんが、下手を打てばなんらかの内臓疾患を引き起こし、最悪の場合死亡します。
…私の技は、人を救うだけではなく、殺す事も可能な技という事です。
ここまでは、理解していただけますね?」
とわたしに向かって言ったその言葉が、今の虎丸の反応の原因になっているのだと思うが。
「とはいえ、傷を即時に治療するならば氣の操作が絶対必要ですが、実はツボへの刺激だけで、治癒速度を幾らか速める効果のある組み合わせがあります。
あなたにならば可能でしょうから、それはお教えしておきますね。
うまい具合に、ここに
彼女の言葉に、蒼ざめて逃げ出そうとする富樫の身体を捕まえる。
諦めろ。彼女を呼べと言ったのはおまえ達だ。
「まず、大人しくさせるにはここ、首筋にあるこのポイントを刺激します。
私は氣で行いますけど、あなたは鶴嘴で、ただし確実に神経節で止めてください。
うまく刺激できれば、このように…」
「うっ……!」
小柄で華奢な腕の中で、虎丸の均整のとれた身体が弛緩する。
「…気を失わせて、無力化することができます。」
それを見て、わたしの掴んでいる富樫の肩がビクッと震えた。
…心配しなくても、暴れなければやりませんよ。
「…なるほど。確かにここは、五感に関わる神経節だ。」
「やはり御承知ですよね。さすがは飛燕です。
…あと、こことこことここは、細胞の活性化を促すツボで、同時に刺激すれば放置するよりは確実に治癒速度が高まります。
万が一身体の一部が切り落とされた時でも、すぐに繋げてここを刺激すれば……」
・・・
先日、光の治療を見学させてもらった時の事が、なんの脈絡もなく思い出された。
そうだ、残された
首筋の神経節に向けて、千本の先をゆっくりと刺し込んでいく。
深すぎればそのまま気を失ってしまうが、この攻撃用の千本の太さならば、深く入りすぎる事はない。
それだけ痛みは激しいが。
「またしても己の神経節を突き、この世界からの脱出を試みようというのか。
このわしを倒さん限りそれは不可能じゃ。」
師の姿を借りてピネジェムが嘲笑うのが見えるが、その姿も声も、遠くなっていく。
一瞬、全ての光景が、わたしの五感から消え失せた。そして……!
「我が師が死の直前に授けてくれたものが、ふたつある。
ひとつは、どんな苦境にあってもそれに立ち向かう勇気さえあれば、必ず光明は見えるという言葉。
そして、もうひとつはこれだ。
鳥人拳奥義・鶴嘴千本
恐らくは動かずにそのまま棍で防御するであろうと見越して、千本をその額めがけて投げ放つ。
「まだわからんのか、そんなものが通用するとでも………なっ!!」
案の定棍に突き刺さる千本に向けて、第二撃、三撃を放つ。
それは寸分違わず先の千本に繋がるように当たり、最初に棍に突き刺さったその先端を押し出して、ピネジェムの額に突き刺さった時には、わたしの世界は全て、戦いが始まる前に戻っていた。
「ぐわあ──っ!!」
・・・
「ば、馬鹿な……!!
俺の奥義、ギザの
現実の世界に戻らねば、俺を倒すことは出来ぬ筈なのに…き、貴様、いつのまに戻っておったのだ……!!」
「戻ったのではない。
二度目に自ら千本で突いたのは、一時的に五感を麻痺させる神経節だった。」
一歩間違えれば自滅する、そんな危うい賭けだったがなんとか勝った。
何故かはわからないが一瞬、『さすがは飛燕です』と言って微笑んだ、あの日の光の顔が浮かんだ。
そして同時に、お師匠様の顔も。
「師を騙り、わたしの思い出を汚した罪は重いが、命だけは助けてやろう。
千本が刺さった額のその神経節は、命を奪わず気を失わせる為のもの……!!」
…これでいいのですね、お師匠様。
あなたは拳の道だけでなく、心の道も教えてくださいました。
☆☆☆
一勝をおさめた飛燕が自陣へ戻ろうとした刹那、それまで立っていた闘場が地響きを立てて、周囲を取り巻く溶岩のような色の赤酸湖に沈んでいき、代わりに幾本もの杭が浮かび上がった。
せっかく命を助けられたピネジェムは、恐らくそれに巻き込まれて赤酸湖に沈んだと思われ、飛燕は直前で跳躍すると、そのうちの一本の上に着地し、辛うじて爪先立ちしている状態。
バランス感覚に優れた飛燕の身体能力ならば苦にはならないだろうが、それでも危うい状況に違いはない。
「主催者の気まぐれか……!?」
というアヌビスの呟きをマイクが拾っていたけど、食いつくのそこなの!?
「どうやら、これはこの大武會の主催者・藤堂とかいうじじいの仕業だな。
なにを考えているのかはわからんが、よほど飛燕をまだ闘わせたいらしい。」
…確かにこの冥凰島の全ての闘場はそれぞれ2パターンあり、見たい戦いによって好きな方を設定する事がいつでもできる仕掛けにはなっている筈だが、実際に見たのは初めてだ。
てゆーか、なんで今なんですか、御前…!?
☆☆☆
ー藤堂邸。
「何ゆえ、急に第三闘場の模様替えなどを…!?」
「…この男、飛燕と申したな。大した腕よ。
数ある中国拳法にあっても秘中の秘といわれる鶴嘴千本をこの若さで極め、そして…何より、美しい。
わしはこの男の若さと美しさが羨ましい、そして、憎い……!!
この美しい顔が血まみれになり、焼けただれていく姿が見たい。
ただ、それだけのことよ…!!」
残酷な笑みを浮かべる老人のその言葉に、側近は思わず背筋が寒くなるのを感じた。
原作の、飛燕が老師に助け起こされるシーン、どう見ても老師が飛燕の服の胸元に手ェ突っ込んでるようにしか見えないのはアタシだけなんでしょうか。
…めっちゃイタズラされとるやん(爆