婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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今回、文章量的にはちょい短め。


9・もっと激しくBody install

「体もなまってきた。

 三宝聖の残りのひとり、俺が相手をさせてもらうぜ。」

 学ランを脱ぎ捨てながら、伊達が闘場へ進み出る。

 自分たちの出番がなくなると富樫と虎丸がその背中に言い募るが、それを飛燕の穏やかな声が引き止めた。

 

「あなた達は決勝リーグの為に温存している切り札…秘密兵器なのですよ。」

 いやそれ、絶対にその場限りの言い逃れなんじゃ…と思ったが、二人はその言葉にあっさり引き下がる。

 掌を返すように応援を始めた二人に、飛燕は満足げに微笑んでいた…伊達が脱ぎ捨てた学ランを拾って埃を払い、さり気なく邪魔にならないところに置きながら。

 …『良妻賢母』って言葉が突然頭に浮かんだが、言ったら殺されそうな気がするので黙っておく事にする。

 

 厳娜亜羅(ガンダーラ)の陣からは大勢が、槍なのか斧なのかわからない、両端に大きな刃のついた長い武器を担いで出てきた。

 

「…俺の相手は、三宝聖のひとりではなかったのか?」

「貴様ごときに竜宝様の手を煩わす必要などない。

 この金剛槍で貴様の体、真っ二つにしてくれるわ!!」

 金剛槍というのか。

 あと、三宝聖の残りの一人は竜宝という名であるらしい。

 …だが、あんなに長くて重そうな槍では、動きが取れずに攻撃を鈍くするだけではなかろうか。

 そう思いながら見ていたら、彼らはその槍の、斧のような穂先を地面に打ち込むと、全員の体を組み合わせて騎馬を組み、人櫓を作って、その巨大槍を持ち上げる。

 その形でそれを振り回して伊達に迫るが、伊達は軽く跳躍して身を躱すと、その巨大な穂先に自分の槍の穂先を合わせて、その動きを止めた。

 

「はったりばかりの、児戯にも等しい技よ。

 こんな事でこの伊達臣人を倒せると思っているのか!!」

 伊達は止めた相手の槍を跳ね返すと、自分の槍の穂先を地面に打ち付け、それで体を支えて跳躍し、人櫓のてっぺんの男の、頭の上に降り立った。

 そのまま、首の骨を折らんばかりに後頭部を踏みつける。

 

「貴様等は俺の相手ではない。

 どうやら竜宝という奴は、貴様等を捨て石にして、俺の腕をはかろうとしているらしいが、無駄なこと…。」

 心底がっかりしたように言う伊達に、奴らはまだ攻撃しようとするが、

 

覇極流(はきょくりゅう)千峰塵(ちほうじん)!!」

 目にも留まらぬ突きで攻撃し、組まれた人櫓が崩れて全員が地に落ちる。

 ここに至るまで、恐らく1分も経っていない。

 

「出て来い、三宝聖・竜宝とやら……!!

 教えてやろう、俺の真の力。

 その目でとくと確かめるがよい。

 この槍に恐れをなし、出て来れぬというなら、俺は引きあげるぜ。」

 

 

 …次の瞬間、奇妙な形の片刃の剣を両手に構えた男が、伊達の背後を取っていた。

 

「我が名は、厳娜亜羅(ガンダーラ)三宝聖の将、竜宝。

 貴様の命は、わしがもらった。」

「フッ…一切の気配も殺気も感じさせず、この俺の背後をとるとは…。

 少しは使えるようだな。」

 竜宝という男の斬撃を、伊達は体術で躱す。

 それで伊達を仕留められるとはそもそも思っていなかったのだろう、竜宝は特に動揺する事もなく、今度は自分の腕を見せる、と近くの石を剣の先で放り投げた。

 それは地面に落ちる前に、まるで豆腐でも斬ったかのように、立方体の形に斬られて、もう片方の剣の上に三個、重なって落ちる。

 

「出来る…!!しかも、あの頭の(もとどり)は、極武髪(きょくぶはつ)!」

 月光が、竜宝の技に息を呑む。

 …この男、目が見えていないなんて嘘だと思う。

 極武髪とは、最高位の段位を示す髪型で、それを許されるのは千人に一人と言われているという。

 

「フッ…座興にしてはなかなか面白い。

 そのまま、その石を俺に放り投げろ。

 俺がもっと面白いものを見せてやる。」

 だが伊達は、薄く笑って竜宝を挑発する。

 その通りに投げられた小さな三個の立方体を、伊達が槍の穂先で数度打ったように見えた。

 それから、落下してくるそれをいちどきに、槍で串刺しにする。

 

「覇極流秘奥義・点鋲鹹(てんびょうかん)!!」

 槍術に心得があればそれくらい、と少し呆れたように言う竜宝に、伊達はその石を投げ返す。

 

「なっ…!?

 三つの石ころすべて、槍の跡が賽の目に……!!」

 俺たちの場所からはよく見えないが、どうやら伊達は竜宝が切り出した三個の立方体を、全部サイコロにしてしまったらしい。

 

「しかしこんな小細工は、実戦においては何の役にも立たん。」

 それを言うならその前に自分がしていた、その石を作るパフォーマンスは…い、いや止そう。

 竜宝は手にしていた剣の刃に何か…油のような液体をかけると、その刃先を地面につけて、短距離競争のクラウチングスタートのような体勢をとる。

 そうして地面を蹴って、走り出すのかと思いきや、竜宝はその体勢のまま、地面をものすごいスピードで滑った。

 片方の刃は地面につけたまま、もう片方の剣で伊達を攻撃する。

 なるほど、あの刀の形状はアイススケートの靴のブレードに似ている。

 これが氷上であれば、もっとスピードが上がるのではないだろうか。

 …そういえば、雪でも降ってきそうなくらい冷え込んできた。

 それはともかく、さっきの油はその代わりというところか。

 その猛スピードで繰り出される攻撃に、伊達は防戦一方に押されているようにも見えるが…、

 

「どうした、もう後がないぞ!!」

 闘場の端まで伊達が移動し、例の鉄柱を背にしたあたりで、竜宝はとどめとばかりに仕掛けてくる。

 

「ただ逃げていたとでも思うのか。

 だとしたら貴様には、極武髪を結う資格はない。」

 突然、滑ってくる竜宝の刃が一段、地に沈んだ。

 どうやら伊達は攻撃を躱しながら地面に溝を掘っていたようで、轍に車輪が取られるように、竜宝はその溝に従って移動する事を余儀なくされる。

 その進行方向には鉄柱があり、このスピードのまま進めば、重大なダメージを負うのは必至。

 だが竜宝は寸前で体勢を変え、鉄柱を足で蹴ってそれを逃れた。

 そこを狙って、伊達の槍が一閃する。

 それは竜宝の頭部を狙った一撃だったが、寸でのところで躱され、二人の間合いが一旦離れた。

 

「危ないところだったぜ。

 だが同じ手は二度と通用しな……なにをしてる、貴様…!?」

 見ると、伊達は戦いの最中だというのに、呑気に靴の埃を払っており、それを見る竜宝の顔色が変わっていく。

 

「こいつは靴ブラシにちょうどいい。

 いかなる闘いの最中であろうと身だしなみには気をつかう。

 それが男のダンディズムというものだ。」

 伊達が手にしていたのは、先ほどの槍の一閃でぶった切った、竜宝の自慢の極武髪。

 実に伊達らしい、痛快なやり口だ。

 まあ光に言わせれば、『底意地が悪い』というところらしいが。

 というか、俺の見る限り、光は伊達の事を、若干苦手に感じている気がする。

 あのおっかない赤石先輩はそこそこ手玉に取ってるくせに、よくわからん奴だとは思うが。

 

「こいつは返すぜ。

 そんなに大事な物なら、ノリでもつけて貼っつけておくんだな。」

 ぶった切られた極武髪を足元に無造作に投げられ、竜宝がここから見てもわかるほど、怒りのあまり身を震わせている。

 

「大した男よ、伊達……!!

 とうとうこの俺に、この技を使わせおるか。」

 などと言っているところを見ると、この男にはまだ切り札があるようだ。

 

「教えてやろう。我が『竜宝』の名の由来を…!!」

 そう言うと、腰に付けてあった小さな筒から、何か黒い粉を振り出して口に入れている。

 

厳娜亜羅(ガンダーラ)絶対奥義・咆竜哮炎吐(ほうりゅうこうえんと)!!」

 竜宝は先ほど飲み込んだ黒い粉を霧状に口から吐き出すと、その霧が晴れぬうちに二本の剣を打ち合わせる。

 それは火花を生じて、途端に竜宝の口から吐き出された黒い霧は、赤い炎となって伊達を襲った。

 同時に、斬撃。

 伊達は跳躍して身を躱したが、躱しきれずに肩から血が飛沫(しぶ)く。

 黒い粉は発火性の高い火薬であるようで、息もつかせぬ炎と剣の二段攻撃となり、伊達の身体の傷が増えてゆく。

 立っているのもやっとなほどの出血と見て、竜宝がとどめの一撃を与えにきた時、伊達は敢えて構えずに背後を取らせた。

 そのままの体勢で槍を振るったと思えば、先ほど切った奴の極武髪を、槍の先に引っ掛けて奴に投げつける。

 それは打ち合わせようとしていた刃の間にうまく挟まり、火花を散らす筈のそれをうまく止めた。

 瞬間、竜宝が動揺した隙を見逃さず、伊達の槍が竜宝に向けて振るわれた。

 だがその穂先は、奴の身体を貫く事なく躱される。

 

「窮余の一策も無駄に終わったな。」

「無駄だと…!?

 この伊達の槍、かつて狙った獲物を外した事はない。

 自分の足元を見てみるがいい、竜宝。」

 言われて見てみれば、奴が先ほど飲み込んだのと同じ黒い粉が、その足元に落ちている。

 どうやら伊達が狙ったのは竜宝ではなく、その腰の火薬の筒だったようだ。

 

「そうか、黒炸塵を切らす事によって攻撃を封じようというのか。

 しかし俺の体内にはまだ残っている!」

 だが、その手が素早く動いたように見えた次の瞬間、伊達は竜宝に背を向ける。

 

「勝負はついた。

 それだけの黒炸塵が、一箇所に集まれば充分だろう。」

 その手には、あった筈の槍がない。

 その事に気付いた竜宝に教えてやるように、伊達は指先を上に向けて指をさした。

 伊達の槍は上から降ってきて竜宝の目前の地面に落ち、穂先が火花を散らす。

 その火花により瞬時に発火した火薬は業火となり、竜宝の身体を炎に包んだ。

 

「その槍はくれてやる。

 地獄の閻魔の手土産にでもするんだな。」

 

 戻ってきた伊達に、てきぱきと傷の手当てを施す飛燕を見て、何故か今、光はどうしているだろうなどと、不意に埒もない事を思った。

 

 ・・・

 

「この勝負、俺に任せてもらおう。」

 俺の申し出に異を唱える者はおらず、俺は闘場へと歩みを進める。

 伊達が勝利を収めた事で、厳娜亜羅(ガンダーラ)は大将ひとりを残すのみ。

 ここを勝ち上がればやっと、決勝リーグへの進出が決定する。

 独眼鉄、蝙翔鬼、影慶…見ていてくれ。

 俺達は、あなたたちの死を無駄にはしない…!

 

 冷えてきたと思っていたら、やはり雪が降ってきた。

 どこか得体の知れない力が闘場全体を覆っているような、奇妙な感覚を覚えながら、俺は向こうから歩んでくる厳娜亜羅(ガンダーラ)の大将を見据えた。

 

「我が名は厳娜亜羅(ガンダーラ)五十七代大僧正・(しゅ) 鴻元(こうげん)!!

 この名にかけて、厳娜亜羅(ガンダーラ)の名誉と伝統は、俺一人で護る!!」

 まだ若いその男は、そう言って俺を見返した。

 まるでその名乗りに呼応するかのように、雪は更に激しく吹雪いてくる。




対竜宝戦は、ディーノ戦で見せていた伊達の底意地の悪さが、キャラとして完全に確立された戦いだったと思ってます。
一通り原作読み返してみれば、こんだけたくさん味方キャラがいても、一人一人がちゃんと立ってるんだからスゴイ。
超展開とかトンデモ理論とかツッコミどころの多さばかりが話題になりがちだけど、「魁!!男塾」という作品は、もっともっと評価されていいと思う!
あとブルボンのチーズおかきうめえ(唐突

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