婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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…今気付いたんだけどさ…闘士出陣前の、その闘士に対する伊達の解説コメントって、実は結構負けフラグじゃね?


14・Gate Of Heaven

 八連(ぱーれん)返天竜(へんてんりゅう)八闘神像。

 古代中国、人びとを苦しめた八匹の竜を、天へと追い返した八人の拳法家を象り、祀ったとされる巨像。

 それにぐるりと取り囲まれた広場が、今登ってきた塔のてっぺんにあり、その広場はよく見れば、地面に無数の穴があいている。

 雷鳴鳴り響く中(ピカッと光るたび椿山がお腹押さえながらビクッとしていた。ひょっとして雷苦手なのかな、あの子)、ようやく登り着いた一号生たちに、王先生がここで行われる最終闘の説明に入る。

 その前に、この穴だらけの闘場の中に一匹のヤギが放された。

 

「この闘場を囲む各闘神像の頭部には避雷針がついておる。

 そこに雷が落ちた時、どういうことになるか…見るがよい。」

 そう言っている間に、なんかちょっと羅刹に似た闘神像に、雷が落ちる。

 その瞬間、ヤギが歩いていた足元の穴から尖った杭が飛び出てきて、その身体を貫いた。

 

「わかったか?

 カミナリが神像に落ちると、その電力を利用し、800ある地面の穴から100本の槍が突き出る仕組みになっておる。

 槍の出る穴の場所は、カミナリがどの神像に落ちるかで違っておる。

 つまり、闘っておる者にはわからんという事だ。」

 王先生の説明の間に、スタッフの何人かが、ヤギの死体を回収する。

 勿論その間にも、いつ落雷するかわからない為、地面の穴の場所には細心の注意を払いつつ。

 このヤギは、後でスタッフが美味しくいただきます。

 …いや多分だけど。

 

 ☆☆☆

 

「俺が先にやる。

 おまえには大将戦として、邪鬼と戦ってもらう。」

「油断するな。」

「ウム……!!」

 上着を脱いだ月光が、闘場への階段を下りていく。

 その背中に一号生たちが激励の言葉をかける。

 闘場に降り立った月光は、何やら呪文のような言葉を呟き始めた。

 

 ザ・ム・ラ・マ

 ケ・ン・ソ・ニ

 ハ・ン・グ・ラ

 ハ・ン・グ・ラ

 タ・ン・テ

 ス・ン・ソ

 ス・ン・ソ

 ハ・ン・グー・ラ

 

 …唱えながらの特殊な呼吸とともに、月光の闘気が、その身体の裡で膨らむのが、こちらから見てもわかる。

 

辵家(チャクけ)流、闘いの前の精神統一法だ。

 強靭な意志と体力、そして完成された闘技……。

 心配ねえ。月光は負けやしねえ。」

 伊達が完全に信頼しきった表情で言う。

 そういえば、驚邏大四凶殺の時も、 あの時は仮面で表情は見えなかったけど、月光に対する信頼は絶対な感じがした。と、

 

「見ろ、向こう側の神像の下に誰かいるぞ!」

「さ、三号生の邪鬼と影慶か──っ!!」

 一号生たちの騒めきに、彼らが示す方向に、思わず目をやる。

 その言葉通り、そこに居たのは氣の放出を抑えながらも威風堂々と立つ邪鬼様と、その側に侍るように立つ影慶だった。

 

「見事だ。

 よくぞこの大威震八連制覇、ここまで戦い抜いてきた。

 男塾三号生筆頭・大豪院邪鬼、誉めてやろう!!

 だが真の勝負はこれからだ。

 貴様等、生きてはこの塔を降りられん。

 この邪鬼を倒さん限りな………!!」

 邪鬼様のコメントに、一号生たちが静まり返る。

 そりゃそうだ。

 抑えていても、邪鬼様の氣の強大さは、肌を刺すように伝わってくる。

 

「あ、あれが男塾の帝王と言われた邪鬼か…。

 なんだか背中がゾクゾク寒くなってきたぞ。」

 やがて誰かがポツリと言い始めて、ようやく全員の硬直が解けたようだった。

 もっともそれは緊張の緩みを示すものではない。

 

「それに隣にいる男、今まで出てきた死天王の奴等とは格が違うようだぜ。」

 影慶は死天王の中で一番新参であるにもかかわらずその将として、また更に邪鬼様の側近として、その実力を認められている。

 邪鬼様の信頼は最も篤く、邪鬼様への忠誠心もまた然り。

 

「月光はお前にまかす、影慶……。

 死天王最強のおまえに敵はおらん。」

「この世で私の敵わぬ相手…、

 それは邪鬼様、あなただけです。」

 誰も入っていけない、もう相思相愛な雰囲気すら醸し出して影慶が階段を降りていき、闘場で月光と対峙する。

 その刺すような殺気を受け流すように、同じくらい堂々と立つ月光を見て、一号生たちはどうやら気持ちが落ち着いたらしい。

 先ほどまでの凍りついたような雰囲気はどこへやら、月光に声援を送り始めた。

 

 ・・・

 

「影慶……!?」

 一方、本人の姿やその威圧感よりも名前に反応して伊達が呟く。

 

「どうした伊達、奴を知っているのか?」

「やはり、あの影慶か……!!

 人から聞いた話だ。あれは三年前…

 日本全国から、腕におぼえのある一流の格闘家たちが集まって開かれる、喊烈(かんれつ)武道大会開会式最中のことだ。」

 

 

 開会式と言っても参加人数が多い為50人のブロック分けがされていた。

 そのひとつの話だそうだ。

 伊達が言うには、司会の挨拶の途中で口を挟んできた男がおり、その男はその前に行われた予選にはいなかった者だという。

 正式な手順も踏まずに開会式に飛び込んで大口を叩いたその無礼者を、その場にいた手練れの猛者たちが、叩き出そうと襲いかかったのは、まあ当然の流れだった、らしい。

 よくわからないが。

 

 

「それはまさに一瞬の出来事だった。

 あまりの速さに目にもとまらなかったが、やつはヌンチャクのようなものを手にしていたという。

 一分たらずの後、そこには五十人の格闘家達が、血の海に、半死半生の姿で横たわっていた。

 そして男は、自分の名をひと言残して、その場を立ち去ったという。

 その男の名が、確か影慶…。

 この世界では、伝説の男となっている。」

 …三年前に行われた大会って事は、確か邪鬼様が影慶を見込んで連れてきたっていう大会だと思うけど、なんか私が聞いてイメージしてた話と違う。

 なんでかは知らないが影慶は明らかに、私との必要以上の接触を避けていたから、そもそも私は彼の事はよく知らないのだが、その私の浅いイメージでは、影慶は沈思黙考って言葉が似合うタイプだと勝手に思っていた。

 その影慶にそんなやんちゃ(…というにはあまりにも血生臭いけど)なエピソードがあったなんて信じられない。

 三年という時間で人がそんなにも変わるものか?

 それともやはり私がイメージしきれていなかっただけで、影慶は意外と血の気の多い好戦的なタイプだったのか。

 ていうか直感的につっこんじゃいけないポイントじゃないかって気がするけど敢えて言う。

 

 三年前、事件起き過ぎ。

 

 私がそんな事を考えてる間に、影慶が自らの得物を構える。

 

「あれが奴の武器……!!

 なんて恐ろしい形をしたヌンチャクなんだ……!!」

 先ほどの伊達の話を裏付けるような、ヌンチャクに小さな斧とその先に鋭い突起がついた武器に、一号生たちが息を呑む。

 

「月光とかいったな。

 貴様がかなりの腕であることは俺にはわかる。

 しかし十秒だ。

 十秒でこの勝負に終止符をうつ!!」

「………十秒…………。

 おもしろい。その挑戦、受けてたとう。」

 先ほどの手甲型の鉄拳をまた右手に装着して、月光も構える。

 光と影が激突する、それは、兆し。

 大威震八連制覇最終闘・天雷響針闘(てんらいきょうしんとう)、開始。

 

 ☆☆☆

 

「フッ、十秒か…かつて影慶の予告宣言を過ぎて、生きていた者はおらん……!!」

 邪鬼様の信頼を受けて、影慶の武器が閃く。

 

愾塵流(きじんりゅう)犇斧(ホンフ)ヌンチャク!!」

 …熟練しなければ使い手の方が負傷しそうな形状のそれをすごいスピードで振り回しながら、影慶が月光との間合いを詰める。

 右か、左か。上か、下か。

 どこからでも攻撃は可能。

 使い勝手のいい武器とは言い難いが、使いこなせればその動きを見切る事は難しい。

 

「何者も、この動きを見切ることはできぬ。

 十秒とは長すぎたか……!!

 見事それまで持ち堪えることができるか、貴様に!!」

 月光は一旦僅かに身を引いて間合いを外し、拳をヌンチャクの動きに合わせて繰り出す。だが。

 

「ああっ、月光の鉄拳が割られた──っ!!」

 先ほど、巨大な鉄球を粉々に砕いた鉄拳の、突起部分が折られていた。

 

「なるほどな…。

 どうやら貴様、少しは見えるらしいな。

 鉄拳を合わせ、犇斧(ホンフ)を割ろうとするとは……!!

 しかし破壊力でこの犇斧(ホンフ)ヌンチャクに勝るものはない。

 そしてスピードはますます速くなる。

 あと五秒だ!!」

 月光の場合見えるってより、空気の動きを読んでるんだと思うけど。

 影慶の武器の特性上、ひと時も止まっていない故に、それが巻き起こす空気の動きも相当なものだし。

 もっとも読めたからって反応ができるとは限らない。

 やはりそこは、月光はやはり達人だ。

 ちなみに、超人クラスの動体視力とそれに対応できる反射神経、両方備えてるのが赤石だと思う。

 託生石は彼をここには導かないとは思うが、もしこのステージで赤石が出てきていたらこの場面、かなりいい勝負ができてるんじゃなかろうか。

 まあ脳筋だけど、剣さえ封じられなければ、基本赤石は無敵だと思ってる。脳筋だけど。

 大事なことなので二回言いました。

 

「逃しはせん!!」

 大きな動きで間合いから出ていこうとする月光を、影慶が追撃する。

 斧の部分が月光の胸元を掠め、棍の部分が左腕のプロテクターを砕く。

 

「げっ、月光──っ!!」

「だ、だめだ、ヌンチャクは奴のいうとおり、どんどん速くなっている!

 とても人間の目で見切れるもんじゃねえ──っ!!」

「あと三秒!!」

 休むことなく千変万化する犇斧(ホンフ)ヌンチャクの動きに、紙一重で躱す月光が、恐らくは足元の穴に踵を取られたのであろう、僅かに身体がぐらつく。

 

「二秒!!このまま敗れるとはいえ見事だったぞ。

 この俺と戦い、宣言した時間を使い切らせたのは、貴様が初めてだ。」

 …それ、言ってる間に二秒過ぎてる筈だってのは、やはりつっこんだら負け案件だろうか。

 

「一秒!死ねい月光!!」

 犇斧ヌンチャクが真っ直ぐ月光の胸板に向かう。

 次の瞬間、こちらからはその胸板を、犇斧(ホンフ)の先が突き抜けたように見えた。

 二人の動きが一瞬止まり、雷光が二人の間の影を濃くした。

 

「や、殺られた。

 あの三面拳最強とうたわれた月光が、あんなに一方的に……しかも、影慶の予告したとおり、たった十秒で……!!」

「いや、よく見てみろ。

 月光はあのヌンチャクの動きを、ギリギリで見切っていた……!!」

 桃が小さく息を整えながらそう言い切る。

 言われた通り目を凝らして見てみれば、犇斧(ホンフ)は月光の胸を貫いてはおらず、その柄は月光の逞しい腕の、脇の下にガッチリと固められていた。

 

「どうした影慶。十秒たったが俺は生きている…。

 今度は、俺が貴様を十秒で倒す番だ!!」

 三面拳最強の男、月光。雷鳴を背にし。

 静かなるその(おもて)の裡、満ちたるその輝きに、僅か一片の欠けもなし。

 

 ・・・

 

「どうやら貴様の力は、俺の考えていた以上だったらしい。

 貴様には20秒…いや、30秒は必要だったようだな。

 今度は貴様がこの俺を十秒で倒すとな……。

 よかろう、存分にくるがいい。」

 月光が固めていた腕を伸ばし、影慶が一旦間合いから離れる。

 

「さあ、くるがいい!!すでに一秒!!」

 月光が構える。

 

「二秒……三秒!…四秒!!」

 その間にも雷鳴が鳴り響く。

 

「五秒…どうした、かかってこんのか……。

 すでに予告時間の半分は過ぎた。

 もっともこの俺に、踏み込める一分のスキもありはせんがな。

 …六秒!!」

 構えをとったきりピクリとも動かなくなった月光の様子に、一号生たちの間に騒めきが起きる。

 実際にスキが見つからないのは事実のようだが、

 

「……待っている!!

 月光は何かを待っているようだ、何かを……!!」

 桃の見解は、やはり少し違うようだった。

 

「残すはあと三秒!!

 どうやらせっかく与えたチャンスも、何もできずこのまま終わりそうだな。…八秒!!」

 その瞬間。

 

「九秒!!」

 とうとう、神像のひとつの避雷針に落雷した。

 

「!!」

 となると、闘場にはこれに対応した変化が起きるのは必至。

 

「俺にはわかっていた。

 このカミナリがくるのが……。

 それを知らなかったお前には、今一瞬のスキがある!」

 100本の槍の先端が地面から姿を現す。

 それを避けるべく二人とも跳躍するが、一瞬早く飛び上がった月光の方が、影慶より高い位置にいた。

 

「風、火、地、水。自然の利を生かし、相身一体となって、勝機を我が物とする。

 辵家(チャクけ)流拳法の真髄はこれにあり!」

「そうか、月光は稲妻の光と雷鳴の音の到達時間を計算し、神像への落雷時間を予測していたんだ。

 それが十秒……!!」

 …ん?

 ごめん桃。微妙に何言ってんのかわかんない。

 音と光なら光の方が先に来るし、前の雷の音と次の落雷にはとくに時間的な関連は無いように思う。

 多分月光が読んでいたのは大気の微妙な震えかと。

 どっちにしろ神業には違いないけどさ。

 まあそれはともかく。

 

 宣言の10秒目の瞬間、月光はその長い脚を目一杯伸ばすようにして、影慶の顔面に蹴りを放っていた。




ちなみに影慶と邪鬼様のカップリングなら邪鬼様が受けだと思っています(ヲイ
忠誠心がいつしか愛に変わったその溢れる想いに、耐えきれなくなった影慶が邪鬼様を大強引に「やめれ」バシュ!…ドサッ。「ふぅ…お目汚し失礼いたしました。この腐った乙女オッサンは、責任持って私が持って帰りますね。」ズルズル…

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