婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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関係ないけどアタシの中では、桃のイメージはすごく若い頃の加藤剛。伊達はやはりすごく若い頃の中村吉右衛門。
本当に関係ないがアタシは小学生の頃、杉良太郎と結婚したいと思っていた。


9・Change The Wind

 大威震八連制覇第三闘場・燦燋六極星闘(さんしょうろっきょくせいとう)

 湖の中央に星型の人工島があり、更にその中央に棘のついた柱が何本も立てられた四角い高台が設けられ、闘士たちが戦うのはその場所だ。

 正確には星型になっている部分は堤防であり、その内側にも水が満ちている。

 そして中央の高台のやや手前に四角い足場があり、一人が戦っている間、もう一人はそこで待つことになるのだが…実はこの湖の水は一面石油。

 戦闘が始まると同時にそれに火矢を放ち、文字通り火の海にすると言うのだから、まったく悪趣味この上ない。

 てゆーか、どうやって選手交代するんだこの闘場。

 移動に使ったボート燃えちゃわない?

 途中の足場で待機してる闘士だって、時間かかったら命の危険があるし。

 

 私が辿り着いた時、さすがに既に戦闘は開始されていた。

 確かここでの三号生側闘士は羅刹と男爵ディーノ。

 対する一号生側は、月光と虎丸……の筈なんだ、けど?

 周囲の石油が燃え盛る炎の中、手前の足場に、なんか不貞腐れた顔して胡座かいて座ってるのは確かに虎丸で間違いなさそうだが、中央の武舞台でディーノと向かい合っている男は、どう見ても月光じゃない。

 私が見る限りだが、三面拳は全員、礼に始まり礼に終わる的なきっちりしたイメージがある。

 相手が完全に戦闘態勢取ってる前でポケットに手ェ突っ込んで、完全に人を舐めくさった態度で突っ立ってるような失礼な奴が月光なわけない。

 大体髪あるし。

 

「あれ、伊達…?」

「ここに来る途中で奴が、組合わせの変更を申し出てきた。

 本来なら一度託生石が示した絆、覆すなど以ての外だが、これまでそのような事を提案してきた者自体がおらん。

 時節が変わりつつあるのだろうと、わしの権限で認めた。

 奴が自ら選び取った未来が、定められた運命に勝つというのなら、それもまた歴史の流れだろうて。」

 …王先生が説明してくれたのだが、ごめんなさいちょっと何言ってるかわからないです。

 とにかくこの闘いは先に決まっていた組合せから一部メンバーチェンジがあり、月光と伊達がシフトされたという事だ。

 まあ、いいんじゃないかな。

 驚邏大四凶殺で死闘を演じた二人という縁はあるものの、虎丸と月光は、現時点であまり相性がいいように思えない。

 というか、4人が編入してきてまだ3日しか経っていないから、私も彼らの事は充分に判ってるとは言えないが、この3日の間観察した限り、普段の月光は沈着冷静、雷電のような気さくなタイプでも飛燕のような優しげに見えるタイプでもないけど、穏やかで理知的なタイプだって事が判った。(銀縁メガネにスーツとかメッチャ似合いそうだ)

 

 同時に、闘いの中でのこととはいえ彼を怒らせた虎丸が、実はとんでもない奴だったって事も。

 

 まあ、だからって伊達ならいいというものでもないけど、伊達の方が意外と面倒見は良さそうなんでまだマシって気がする。

 もっとも伊達が提案してきたのは自身と虎丸との交代であり、この第三闘を気心の知れた月光と組んで闘うのが本来の構想だったようだが。

 

「伊達殿は二人ともを自分が倒し、虎丸を闘わせぬつもりなのだ。」

「まじか。

 でもそれ、虎丸がよく承知しましたね…って、え!?」

 話しかけられて思わず普通に返事してしまったが、後ろから聞こえてきたその声が王先生じゃない事に、一瞬遅れて気付く。

 恐る恐る声の方を振り返ると…月光が、相変わらず焦点合ってないような目で私を見ていた。

 

 …焦ったが、覆面してる事を思い出して、頷いて誤魔化す。

 けど、そういや雷電が「月光は気配に敏感だ」というような事を言っていた筈だ。

 Jの時と同様に、私だと気付かれてる可能性、非常に高い。

 覚えず覆面の下で汗がダラダラ流れる。

 そんな私に、表情を変えぬまま月光が、私にしか聞こえぬくらいの小声で言った。

 

「そんなに警戒しなくていい、江田島光。

 なんの目的かは知らぬが、おまえは我らを助ける為に動いているようだ。

 だが、この戦いに関してはその心配はいらぬ。

 安心して見ているがいい。」

 うわあぁああ名前呼ばれたぁ。

 そもそも私が女だとこの人が最初に気付いたっていうし、やっぱり気配に敏感って本当だったのか。

 いや雷電がそんな事で嘘つく必要ないけど。

 

「…この月光、生来目が見えん。

 代わりに心の目が開いている。

 身を隠そうが姿を変えようが無駄な事だ。」

「えっ!?」

 ちょっと待ってなんか今すごい事聞いた気がするんだけど!

 だが私がそれ以上つっこむ前に闘場では、突っ立ってる伊達にディーノが、柱を砕く破壊力の怒流鞭(どるべん)と呼ぶ鞭を伊達に向けて振るい、捕まえたと思った伊達に背後をとられたところだった。

 

「この趣味の悪いヒゲは、どうにかした方がいい。」

 言いながら背後からディーノのヒゲを摘んだかと思えば、そのままそれを支点にして、ぐるりと身体を逆立ちさせて前へと回り、当然千切れて自分の手の中に残ったディーノのヒゲを、フーッと息を吹きかけて散らす。

 更に怒りの表情を浮かべて振り返るディーノの鼻梁を、デコピンするように指で弾いた。

 それだけの動きがどれほどの威力であったものか、ディーノはそのまま尻餅をつき、上げた顔は鼻血を流している。

 

「気にすんな。おまえが弱いんじゃねえ。

 俺が強すぎるんだ。」

 …どうやら敵として相対する者に対して、とことん底意地悪いのがこの男の流儀であるらしい。

 驚邏大四凶殺の時、最初は桃の事も散々侮ってくれてたけど、あの程度ならまだましな方だったのか。

 ディーノにしてみたらこれほど腹の立つ相手もおるまい。

 しかし、態度はともかく強いのは間違いない。

 

 てゆーか今気付いたけどなんで無手?槍は?

 桃との戦いの時には刀も使ってたけど、今日は拳で戦うつもりだろうか。

 どんだけ引き出し多いんだ、この男。

 この時点では多分、それすら使ってないけど。

 怒りに震えながら立ち上がったディーノが、被っていたシルクハットを伊達に向かって投げた。

 

「何のマネだ、これは……!?」

 小さく首を傾けてそれを避ける伊達の後ろで、飛んで行ったシルクハットの中から、何かが飛び出した。

 それは伊達の周辺を飛び回ると、ディーノの元に飛んでいき、その腕に着地する。

 それは鷹くらいの大きな鳥だった。

 

「死穿鳥拳!!

 このわたしを怒らせた報いを受けるがよい!!

 いけい!奴の喉笛をかっさばけ──っ!!」

 なるほど。鷹匠みたいなもんか。

 ちなみに動物を使った拳法や攻撃手段は、世界には意外にたくさんあると、御前が雇った師範が教えてくれた事がある。

 実際、その師範が集めていた闘士の中に、狼使いの男がいたし。

 

 …あのひとの狼、なんでか私に懐いたけどな。

 こっそり一匹連れて帰って御前の猫ども襲わせてやろうかと本気で思ったくらい。

 何せあの猫ども、私に懐かないどころか何故か顔見るたびに威嚇してきやがったので、本当に憎ったらしかったし。

 マジで群れの中の一番小さいのをこっそり連れて帰ろうとしたら、その狼使いに動物好きなんだと思われて、数日前に生まれたばかりの仔狼とか見せられたけど。

「可愛かろ?」とか言われて曖昧に頷いたけど知らねえわ。

 ちっこいもふもふの毛玉が蠢いてるさまを見て世間一般の女子なら『きゃー可愛い』とか思うんだろうが、正直『食えそうな部分全然無いじゃん』とか思っただけだった。

 …うん、人間的に何かが欠落してたのは自覚してる。

 それでも今はだいぶマシになったんだよ!

 椿山のピーコちゃんは世話するようになってから、それなりに情も湧いてきたし。

 つか椿山とか、コレ目指せばいいんじゃないかな。

 …いや無理か。あの男に育てられたら攻撃手段としては使えないただのペットになるだけな気がする。

 閑話休題。

 伊達は自分に向かってくる死穿鳥の軌道を観察していたかと思えば、少し大きな動きでその攻撃を躱す。

 

「気がついたか。

 その死穿鳥の嘴には猛毒が塗ってある。

 ほんの少しのカスリ傷を受けてもたちまちあの世行きだ。」

 待て。毒が攻撃手段としてアリかどうかは賛否の分かれるところだと思うが、それ以前に鳥には毛繕いの習性があってだな…これ以上は言わなくてもわかるよな?

 誰に向かって言ってんのかホント知らないけど。

 

「死穿鳥にばかり気を取られていいのか?

 死穿鳥拳の真髄は、この鞭と鳥との二段攻撃にある!!」

 わざわざ解説してくれてありがとう。

 つまりは猛禽の素早い動きと自身の連続攻撃で、伊達の移動範囲をある程度狭めていく事で、攻撃を当たりやすくするわけだ。

 言葉通り、死穿鳥の攻撃を躱した先に鞭の先が飛んでくる。

 しかし、伊達の体術も大したもので、地面に片手をついた半ブリッジのような体勢になりつつも、次の瞬間には体勢は整っていて、息も乱してはいない。

 体のバネというか関節が柔らかいというか、多分だがこれは天性のものだろう。

 考えてみればこいつは驚邏大四凶殺で、あのクソ重たそうな鎧カブトであり得ないほど身軽に立ち回り、終始桃を圧倒していた男だ。

 …この才が幼少期から開花していたのなら、孤戮闘に放り込まれたのも頷ける。

 誘拐されたのか売られたのかは知らないが。

 そして躱しながらも鞭と死穿鳥の動きから目を離さず、その軌道を追っているようだ。

 本物の猛禽がそこにいるのに、私は伊達のその目を、『獲物を狙う鷹のようだ』と思ってしまった。

 

 

「や、やべえ、あれではかわすのが精一杯だぞ。」

「まるでひとりで二人の敵と戦っているようなもんじゃあ──っ!!」

 だが、それらの事が見えていないものか、一号生たちが騒つきだし、それに対して桃が薄く微笑みながら、視線は闘場から離さずに言った。

 

「フッ。伊達は、只かわしているのではない。」

「その通り。伊達殿は待っているのだ。」

 それに月光が頷いて答える。

 

「ウム…勝負はもうすぐつく…。」

 この二人にも同じものが見えているのだろう。

 って、月光……いや、つっこむまい。

 

「フッフ、追い詰めたぞ。その後は火炎地獄だ。

 どうした…わかったか、このわたしの実力が。」

 闘場の端で、水面から立ちのぼる炎を背にした伊達に、ディーノがほくそ笑みながら鞭を構える。

 が、

 

「ああ、わかった。

 やはりおまえは俺の敵ではない……。」

 落ち着き払った表情を崩さず、伊達がそう言い放った。

 

「ほざきやがれ──っ!!」

 怒りに任せてディーノが振るう鞭の先が、伊達の胸元に向かって来る。

 背後の頭上には死穿鳥。

 なのに何故か、伊達はその場から動かない。

 

「だ、伊達──っ!!」

 どうも先程から不貞腐れた態度で、時折気がついたようにディーノの方に声援送ったりしていた虎丸が、さすがに焦ったように叫ぶ。だが。

 

「待っていたぞ。

 鞭と鳥が直線状になるこの一瞬をな……!!」

 伊達は二本揃えた指先で、胸元にきた鞭の先を下から突いて軌道を逸らした。

 勢いを殺されぬまま軌道を変えたその鞭先は、頭上から伊達を襲おうとしていた死穿鳥に直撃する。

 驚愕するディーノだったが、その間にも伊達は動いていた。

 貫いた死穿鳥ごとディーノの怒流鞭を掴み、腕を振るう。

 鞭は持ち主を裏切ったようにディーノの身体に巻きつくと、次の瞬間にはその身体に食い込んでいた。

 …伊達はあの蛇轍槍を、己が手足の如く自在に使いこなしていた男だ。

 使う気になれば鞭だって使いこなせるだろう。

 塾長や赤石が言っていた通り、本当に苦手なものなんかないんだ。

 

「次は貴様の番だ、羅刹……!!」

 断末魔のような声をあげるディーノの後方を見据えながら、伊達が呟いた。

 

 

 完全に戦意を喪失して倒れかかるディーノに向けて、落ちていたシルクハットを指先で投げる。

 

「地獄への忘れもんだぜ。」

 それは正確にスポッとディーノの頭にハマり、ディーノはそのまま倒れ込んだ。

 実力の1割も発揮しないまま、伊達臣人、一勝。

 

 

「す、すげえ、伊達の奴──っ!!

 ディーノをまるきり目にしねえで倒しちまった──っ!!」

「いいぞ伊達!

 次の羅刹とかいう野郎も、この調子で頼むぜ──っ!!」

 一号生達が伊達の勝利に盛り上がるが、正直それどころじゃない。

 ディーノを回収しに行きたいところだが、闘場は炎にまかれて近づけない。

 一縷の望みをかけて王先生に、「この闘場には、仕掛けとか抜け道とかないんですか?」って一応聞いてみたけど、あっさり「そんなものはない」って言いやがったしこのドンブリ頭ジジイ。

 こうなったら炎がおさまるか、勝負がついて消火を実行できるまで待つしかない。

 ごめんなさい男爵ディーノ。

 多分死んでないと思うけど手当てはもう少し待って。




伊達対ディーノ戦はほんとあっという間に終わっちゃうから、光が到着するまでの間に終わってた事にしても良かったし、流れ的にはそっちの方がむしろ自然だったけど、実はディーノ戦って伊達がその底意地の悪さを見せた最初のステージな上、
「気にすんな。おまえが弱いんじゃねえ。俺が強すぎるんだ。」
当時高校生だったアタシがズッキュンされたこの名台詞だけは、どうしても入れたかったんだ。
ああ、未だに惜しまれて仕方ない。これを鈴置洋孝さんの声で聞いてみたかった…。

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