婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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良男のかあちゃんとか夏合宿の話は、どう頑張ってもヒロインを介入させられなかったのでスルー。
ちょっと関わってみたかったけどね良男のかあちゃん。原作のオチが完璧すぎて、ヒロイン入ったら邪魔になるだけだったよ…。


音速剛拳編
1・ジェネレーション・ダイナマイト


「留学生?」

 いつも通り塾長室で一緒にお弁当を食べている時に塾長が振ってきた話題は、今度米国海軍兵学校(アナポリス)から留学生を受け入れるという話だった。

 

「うむ。貴様が殺そうとした中ちゃんからの依頼でな。」

 ニヤニヤ笑いながら塾長が言う。

 うん、もうその話はやめて欲しい。

 自業自得なんだけど。

 

「貴様、英語は話せるな?」

「日常会話程度ですが。」

「うむ、充分であろう。」

 一応主要5ヶ国語、暗殺者の嗜みとして身につけた。

 ターゲットに接触する際、言葉が通じなくては文字通り話にならないから。だが、

 

「私より剣の方が、語学は堪能な気がします。

 以前図書室でシェイクスピア全集の原書を見つけて読んでいたら、私が意味がわからなくて首を捻っていた表現を、彼はあっさり解説してくれましたし。」

 意味がわかったら普通に下ネタでドン引きしたけど。

 

「そもそもあの人、苦手な事なんかあるんでしょうか。

 何をやらせても完璧な人っているんですね。」

 頭の回転も速く身体能力も優れ、恐らくは血筋もいいであろう桃。

 その上見た目もいいし性格………も、いい、方だろう。

『性格がいい』ではなく『いい性格』の方だけど、多分、根っこの部分においては悪くはない。

 時々人をからかって遊ぶ悪い癖があるが、大事な場面に於いては仲間思いのいいやつだと思ってる。

 一号生全員に慕われ頼りにされているのも道理だろう。

 

「貴様とて相当、そこに近い位置におろうが。」

「そう思っていたのですけどね。

 彼を見ていると、自信を失う事ばかりで。」

 そもそも人としての器の大きさで桃と勝負する事は諦めている。

 彼は人の上に立つ人間だ。

 私のような日陰の毒草とは違う。

 なんて事を言ったら、自身を卑下するなとまた叱られそうなんだけど。

 目の前の人もそうだけど、最近じゃ赤石にも。

 

 その赤石だが、先日の『俺の妹』宣言の後から、桃と同じくらい私の執務室に入り浸るようになった。

 まあ彼は二号生の筆頭だし、別に不自然な事ではないのだが、問題は二号生関係の細かい仕事は、相変わらず江戸川が処理しているという事だ。

 しかし、おまえは何の為の筆頭なんだと、つっこみたいがつっこめない何かがそこに存在しているのもまた事実。

 桃はなんだかんだでそれらの仕事もこなしているから、余計その対比が浮き彫りになる。

 まあそれだって、あの完璧人間と比べる方が間違ってるのかもしれないが。

 そもそも二号生、強さだけなら確かに赤石が群を抜いてるけど、人望は江戸川の方があるんじゃないかって気がするし。

 同じ「筆頭」でも、桃と赤石では求められるもの自体が違うかもしれない。

 その桃たち一号生が、つい昨日まで夏合宿で不在だった間、赤石は完全に私の執務室のヌシみたいになっていた。

 何だか急に部屋が狭くなったと文句を言ったら、

 

「てめえがチビなんだからちょうどいいだろうが。」

 などと言われた。バカ兄貴滅べ。

 てゆーかコイツ居るだけで威圧感が凄すぎて、ピーコちゃんが鳴かなくなっている気がするのだがこれは動物虐待じゃないだろうか。

 なんぼなんでもかわいそうなので次からは、赤石が居る間は私の私室の方に入れてやる事にしよう。

 ピーコちゃんで思い出したが、夏合宿に入る前、椿山がピーコちゃんに会いに執務室に来たので、ついでにプリント折を手伝わせていたところ、そこになんの用だったか忘れたが赤石が現れて、そのだだ漏れの威圧感に明らかにビビった椿山は「用事を思い出した」と逃げ帰ってしまった。

 大量に残った仕事を仕方なく一人でちまちま片付けていたら「手伝ってやろうか」と言われて、

 

「その太い指じゃ鶴も折れないでしょう。」

 と断ったら不機嫌になったので、

 

「じゃあ折ってみてください!」

 と反故紙を数枚渡したところ、物凄い形相で何だかわからないモノを折り始め、その時点で腹筋に深刻なダメージを負った。

 更にそこに二号生の課外活動のレポートをまとめて持ってきた江戸川が現れ、その鬼気迫る光景に若干ビビりつつも赤石に何をしているのか尋ねてきて、私が「鶴を折らせている」と答えると、赤石に渡した反故紙の一枚を取り、赤石よりも更に太く大きな指をちまちまと器用に動かして、一羽の綺麗な鶴を折りあげたのを見て、そしてそれを見た赤石の苦虫を噛み潰したような顔を見て、遂に完全に決壊した私はその時本気で笑い死ぬかと思った。

 結局プリント折は江戸川に手伝ってもらう事にして赤石を部屋から追い出したのだが、その時の赤石は何故かひと仕事終えたような表情を浮かべており、正直何なんだコイツと思った。

 

 …そういえばあれ以来じゃないだろうか。

 赤石が本当に頻繁に、私の執務室に入り浸るようになったのは。

 

 桃が居心地いいと言って一度座ったらなかなか離れないソファーに狭そうに腰を下ろし、長い脚を邪魔そうにテーブルに乗せた赤石の姿を思い浮かべていたら、塾長が何やら呟くのが聞こえた。

 

「なにをやらせても完璧、か…。

 かつて、そんな男がもう一人、この男塾に居た。」

「え?剣みたいな完璧超人が、他にも居たって事ですか?

 世の中、広いですね…。」

「フフフ、今頃どうしておるやら、のう…。」

 私の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、塾長はしみじみと独りごちた。

 

 ☆☆☆

 

 校庭では留学生の歓迎式が行われているようだったが、私は私で塾長室に呼ばれていた。

 

大威震八連制覇(だいいしんぱーれんせいは)司祭、(ワン)大人(ターレン)と申す。」

「江田島光と申します。

 よろしくお願いいたします。」

 塾長から紹介された、異様な風体の男が名乗り、私も自己紹介を返す。

 

「貴様が、『橘流氣操術』を使うという娘か。」

 とか言われたところを見ると、塾長はこの男に、粗方の事情は話してしまっているようだ。

 まあしかし、塾長がそれを是と判断したならば、それは間違いではなかろう。

 ………………………多分。

 そ、それはともかく、彼の言った大威震八連制覇という耳慣れない名称だが、何だか割と最近、どこかで見た覚えがある。

 

「今年は開催の年。

 三号生は前回と変わりないが、そちらの人員の選定は進んでおるのか。」

「まだまだ時間がかかりそうよの。

 現時点では、赤石を入れてもめぼしいのは3人しか居らぬが、赤石は恐らくは加わるまい。

 無理に従わせようと抑えつければ死ぬか、逃げる。

 どちらにせよ血を見る事となろう。

 こやつが居るお陰で、以前より丸くなってはおるようだがな。」

 …なんの話だ。

 

「ほう…全てを斬るという斬岩剣にも斬れぬものがあるという事か。

 ならばこの娘、わしに預けぬか?

 なりは小さいがこれだけの素質、ひと月も鍛えればひとかどのものになろうぞ。」

 小さいとか言うな。失礼な。

 

「ほほう、それほどの才か?

 貴様がそこまで言うならば少し興味があるが、貴様はあくまで中立でおらねばならぬ立場の筈。

 手づから鍛えればそれなりに情もわこう。

 それに、赤石と剣は、こやつが女という事を知っておる。

 こやつを戦わせる事に、納得は決してすまい。

 わしとて同じよ。

 これほどの数の男が居ながら女を戦わせる事になるなら、むしろ男塾という看板自体をおろさねばならぬわ。」

「それもそうか。つまらぬ事を言った。」

「いやいや、だが本当にどうしたものかな…。」

 男二人が、腕を組んで考え込む。

 

「…あの、塾長。

 私をお呼びになった用件はなんでしょうか?」

 呼ばれて来たらこの(ワン)とかいう男を紹介された以外、特になんの用事も言い渡されず、二人の会話を横で聞かされていただけの時間に、いい加減焦れた私が問うと、塾長は今初めて気付いたような顔をした。

 この野郎、これ絶対忘れていただろう。

 

「ああ、すまぬな。

 今日たまたまこの(ワン)が来ていたので、そろそろ顔を通しておいた方が良いかと思うたまでの事だが…うむ、白状するか。

 実は剣から頼まれておってな。」

 え?桃が?

 

「…頼まれた、とは?」

「ほとぼりが冷めるまでは、貴様を留学生どもの目に触れぬよう、引き留めておけとよ。

 先ごろわしを出し抜いた時の事といい、先の事までよく頭の回るやつよ。

 余程貴様の事が心配とみえる。」

 ニヤニヤ笑って言われた塾長の言葉に、思わず心の声が口からだだ漏れる。

 

「オカンか。」

「ん?」

「いえ何でも。

 ですが確かに、もし何かの間違いでうっかり殺してしまっては国際問題となりましょうし、確かに私は彼らと、顔を合わせない方が良さそうですね。

 そういう事でしたら、私は今日一日は、二号棟の方にでも詰めていましょう。

 赤石の近くにいれば、大抵の事は大丈夫でしょうから。

 では、これにて失礼いたします。」

 いい加減、意味のわからない会話をそばで聞き続けるのも辛くなってきた。

 深々と頭を下げてから、早々に塾長室を立ち去る。

 

「フフフ、わしが男塾塾長江田島平八である。」

 背中から、いつもの塾長の声が聞こえた。

 

 ・・・

 

「…平八よ。

 あれは、獅子身中の虫ではないのか?」

「ん?何故そう思う?」

「以前、裏の世界での噂に聞いた事がある。

 藤堂の子飼いに、暗器も毒も使わず指で人を殺せる女の暗殺者が居るとな。

 橘流氣操術という事は、その禁忌である裏橘も極めていよう。

 あの者、暗殺に失敗して貴様に捕らわれたというが、それ自体貴様に近づく為の策であったという事はないか?」

「…光の、元の飼い主が藤堂である事、とうに調べがついておる。」

「…なんと!?」

「だが、そこを隠しておること以外に、光は腹の中に、何も持ってはおらぬ。

 その出自を考えれば驚くほどに、まっさらよ。

 わしは、あれの立てた茶の味を信じる。そう決めた。

 時が来れば、いずれは話してくれようて。」

 

 ☆☆☆

 

 塾長室を辞した私は、まず虎丸の今日の食事を教官に頼んでから自分の執務室に戻って、ピーコちゃんの餌と水を替え、その籠を私室に運び入れた。

 それから、昼に塾長と一緒に食べるつもりだったお弁当を持って執務室を出る。

 ていうか、もうすぐお昼だ。

 ここに来てからほぼ毎日塾長と一緒にお昼を食べていたので、一人で食べるのは少し寂しい。

 赤石か江戸川が一緒に食べてくれないだろうか。

 …うん、無理だな。

 講堂の方が何やら騒がしいが、どうせ留学生関連で、桃が判断した事だから私は行っちゃダメなんだろう。

 聞かなかった事にして二号棟へ向かう。と、

 

「Curl!?」

「…は?」

 突然、後ろから肩を掴まれ、振り向くと身体の大きな外国人が、笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

 留学生の一人か。せっかく桃が気を使って、真っ先にからかいの材料になりそうなチビの私を遠ざけてくれていたというのに、まさか別行動している奴に見つかるなんて。

 …と最初は思ったのだが、どうも様子がおかしい。

 

「Did you come to Japan, too?

 …Hm?Have you forgotten me?

 I'm Jack. King Butler,Jr.

(おまえも日本に来ていたのか?

 ん?俺の顔を忘れたか?

 ジャックだ。キング・バトラーJrだ)」

 

「…I think that you are confusing me with someone else,Jack.

(多分ですが人違いです、ジャック)」

 

「?……It seems to be so.

 The words of the Curl had a Boston accent, but you are slightly different.

 …However, you resemble him closely.

(そのようだな。カールの言葉にはボストン訛りがあったが、おまえは少し違う。しかし…よく似ているな)」

 

 どうやら知り合いと間違えられただけらしい。

 というか、なんだろうこのデジャビュ。

 ちょっと前にもこんな事があったような気がしてならないのだが、気のせいだろうか。

 

「…おい、そいつに触んじゃねえ。」

 と、デジャビュの正体が突然話しかけてきて、私は思わずそいつの名を呼ぶ。

 

「…赤石!」

 赤石は私の制服の襟首を無造作に掴み、まっすぐ後ろに引っ張ると、放り投げるように振り払った。

 そうしてから私と『ジャック』の間に、私を庇うように入り込む。

 勢いで尻餅をつきそうになった私の背中を、江戸川が受け止めて支えてくれた。

 お礼を言いがてら見ると、二号生全員引き連れてきたのかってくらいの人数がいる。

 …つかちょっと待て。

 二人並んだらこの外国人と赤石、目線がそう変わらないってどういう事だ。

 銀髪といい日本人離れした体格といい、赤石って実は純粋な日本人じゃないんじゃなかろうか。

 

「おもしれえモンしてるじゃねえか。

 男のアクセサリーにしては派手すぎだがな。」

 …まあ私も気にはなっていたが。

『ジャック』が指にはめている、金属製で尖った鋲のついた、殺傷力高そうなナックル。

 赤石の言葉に、『ジャック』が口を開く。

 

「このナックルはダイヤモンドよりも硬いマグナムスチールでできている。

 この世に俺の拳でぶっ壊せねえものはねえ。」

「って日本語上手すぎか!」

「黙ってろ、光。

 …ますますおもしれえ。

 俺も同じような事をカンバンにしてる。

 この世に斬れねえものはねえ、一文字流斬岩剣!!」

 いや、やめろこのバカ兄貴。

 

「どっちがハッタリ野郎か白黒つけてやろうじゃねえか。」

 赤石が刀を構え、『ジャック』がファイティングポーズを取る。

 私の後ろで江戸川以下二号生が、二人の気迫に息を呑んだ。

 二人同時…否、私が見る限り、一瞬だけ赤石の方が先に動き、『ジャック』はそれに合わせたのだと思う。

 インパクトは、刹那。

 ぶつかり合う金属音が、それより一瞬遅れて響いた、気がした。

 

 ・・・

 

「名前を教えてくれや。」

「人はJと俺を呼ぶ。」

 さっきジャックって名乗ったくせに。

 いや、それは『カール』に対してなのか。

 ジャック…Jは講堂の方にそのまま歩き始め、赤石は大人しくそれを見送った。

 …うん、確かにそれ以上追いすがる真似をすれば、却ってメンツが立たないだろう。

 

 この勝負…赤石の、負けだ。

 

 …何故だろう。

 私には関係ない事なのにちょっとだけショックなのは。

 

「なんだあ、あの野郎──っ!!

 このまま放っておいていいんですか、赤石さん!!」

 恐らくは二人のインパクトの瞬間自体が見えていなかったのだろう江戸川が的外れなコメントを発し、それと同時に、赤石の刀が砕け散った。

 

「銘刀“一文字兼正”にも打ちそこねがあったとは……!

 このままじゃ、日本から帰さねえぜ。」

 誰に言うともなく、赤石が固い声で呟いた。

 

「おい光。

 奴にインネンつけられてたんじゃねえのか。」

 折れた刀を鞘に収めながら、赤石が私を振り返る。

 

「男の姿でいる時にまで過保護にするのはやめていただけますか。

 大丈夫。人違いしただけのようです。」

「人違い、だと?」

「ええ。『カール』って呼ばれました。

 私に似た顔の男性が、どうやら兄の他にもいたみたいですね。

 しかも、アメリカに。」

 私の言葉に、赤石は怪訝な顔で少し考え込んだ後、呆れたように言った。

 

「…ひょっとして『薫』じゃねえのか?

 恐らくてめえの兄貴だ、それは。

 あいつは、5年近くボストンってトコで暮らしてたんだぞ。」

「え?……あ!」

 確かに『カールにはボストン訛りがあった』って言っていた。

 兄の知り合いだったのか、あの男。




この章はJフラグとして書くつもりだった筈が、何故か気付けば赤石メインになっていた罠。
次からはなんとか軌道修正……したいと思ってるが、うちの赤石先輩の自己主張と独占欲が思いのほか強くて生きるのが辛い。
英語部分はweblio英語翻訳アプリに訳してもらったんだけど、なんか間違ってたらすまん。

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