婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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何故か紫蘭視点。
ちょっと短いです。
つか、3000文字未満で更新したの、多分赤石編の最初の頃の話以来かと…。


7・素直な気持ちでその愛を語れ

「侵入者ども。

 我らの仲間のヘリを奪ったばかりか、正門から堂々と乗り込んでくる、その度胸は褒めてやろう。」

 

 伽瑪髏徒(キャメロット)という、いわば今の俺たちを作った組織の、本拠地だという島に乗り込んだ俺たちは、入り口でまず門番だという5人組に阻まれた。

 

「だが、すぐにその度胸は無謀へと変わる。

 我ら門番(ゲートキーパー)五人衆の変幻自在の、触れれば巨象さえ一撃で昏倒する電気鞭の攻撃の前に、貴様らごとき数秒でひれ伏させてやろう。」

 そう言って先頭の男が、手にした鞭をピシリと鳴らす。

 それに続いて他の者も、俺たちに歩み寄りながら、同じ音を響かせた。

 

 とはいえ、俺たちも人数は5人。

 1人ずつ相手をすれば、この程度の面子ならば秒で片付く。

 そう思い、身構えた瞬間に、

 

「ここは私に任せてください!」

 割とその場には不似合いなその声が響いたのだ。

 俺の胸元より低い位置から、傍で元気に手を上げたのは、初めて会った時から俺に、複雑な感情を抱かせ続けてきた女だった。

 

「この程度の雑魚、あなた方の手を煩わせるまでもないでしょう。

 私1人で充分です!」

 いやいや待て待て。

 止めに入ろうとした俺の肩が、後ろから引かれる。

 反射的に振り返ると、俺の頭ひとつ分も高い位置に、なんとも言えない表情を浮かべながら首を横に振る、かつて敵として戦った男の傷顔(スカーフェイス)があった。

 …え?どうして俺を止める?

 こいつが止めねばならんのは俺ではなくあの女だろう?

 

「ふむ。

 今の光どのならば、お任せしても大丈夫であろうな。くれぐれもお気をつけあれ!」

 だが、額に『大往生』という文字の刺青をした、所謂泥鰌ヒゲの男がそれを後押しする。

 俺は『いやおかしいだろ!』というツッコミを寸前で飲み込んだ。

 

「…光の実力は、あなたの方が知っているのでしょう?

 ここは信じて見守る場面ですよ。」

 …さっき、ただ一言だけで俺の精神に結構なダメージを食らわせてきた、顔だけはそこいらの女より綺麗な男が、柔らかに微笑みながら、妙な圧をかけてきたからだ。

 はっきり言おう。

 なんだかよくわからんが、恐い。

 

 正直言うと、俺と手合わせをする際、(コイツ)は本気の技を出したことがない。

『アンタに見せて模倣されると悔しいから』と、いつも洪師範に教わった基本の技以外は使ってこなかったから、俺も本気を出すことができず、また大武會のときの闘いは、俺は直接は目にしていない。

 例の特殊素材スーツのテストの際の組手で、かつて思っていたよりはるかに使えると感じてはいたが、そんなわけでコイツの実力など俺は知らん。買い被りすぎだ。

 …とあくまで心の中だけで反論した。

 だって恐いし。

 

「さあ、5人全員でかかってきなさい!!」

 そして。

 その女が声高らかに、敵に向かって言い放った言葉に、俺はもうどうにでもなれと思った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 …で。

 俺たちは一体何を見せられているのだろう。

 煽られた5人が、それぞれに繰り出した電気鞭の攻撃を、光はなにやら手をひらひらさせながら、紙一重で躱す。

 ……否、実際には光は最小限の動きしかしておらず、よくよく見れば鞭の方が、光の身体を僅かに避けている。

 

「ほう、一番手に名乗り出るだけあって、素早さだけはあるようだな小僧!」

 だが、どうやらそこまでは見えていなかったらしい敵の1人が、それでも余裕の表情で、次の攻撃を繰り出す。

 更に、それを合図としたかのように他の4人が動き、光は円の陣形に取り囲まれる形になった。

 

「だが、この円陣から、縦横無尽に繰り出される我らの鞭の攻撃を、いつまで避け続ける事ができるかな?」

 …多数を1人で迎え撃つ場合、絶対にその中心に立たぬように位置取るのは、格闘の基本中の基本だ。

 取り囲まれてしまうと、どうしても後方に死角が生じる。

 全員が視界に入る位置で戦えば、複数であろうと見える範囲にだけ集中すればいい。

 洪師範による格闘訓練の際に、こいつも俺と一緒に座学を聞いていた筈だが、それを忘れるとは。

 やはりこいつは戦闘に関しては素人なのだと、俺は足を一歩前に踏み出した、が。

 

 全員の攻撃が一度に自身に集中した瞬間、光はその場で高く跳躍すると、空中で一回転し、1人の頭の上に、桜の花びらのようにふわりと降り立った。

 

「なにぃっ!?」

 更に次の瞬間、その後頭部を蹴って、円の外側に着地する。

 

「はうっ!?」

 次の瞬間、前につんのめった男が、床にしたたか顔面を打ちつけたのは、その光の攻撃によるものが全てではなかった。

 

「なっ…!?これは……!!」

「ば、バカな!鞭の先が全部結ばれ…!?」

「な、なんだと!?これでは攻撃ができん!」

「こ、こら!引っ張るな!」

「おまえも引くな!

 落ち着け、先ずはこれを解かねば…」

 突然の事になにが起こったかわからず、慌てふためく男たちに、光は着地した地点から一歩も動かずに声をかけた。

 

「あ、そのままで結構。

 すぐに解いて差し上げます。はい」

 ふわ、と空気が僅かに動いた感覚があり、次の瞬間、男たちが全員、()()()()()()()()、顔面を叩かれていた。

 

「「「「「ぐあああぁぁっ!!!!」」」」」

 

 …確か、『触れれば巨象さえ一撃で昏倒する』だったか。

 綺麗に円形の放射状に倒れた5人の男たちは、身体を痙攣させながら、その言葉通りに昏倒した。

 なんだこの地獄絵図。

 

「そんな…いくら孤戮闘の修了闘士とはいえ、あんな小娘に…!

 これまで伽瑪髏徒(キャメロット)の城門を守り、ネズミ一匹侵入を許したことのなかった門番(ゲートキーパー)が、こんな数秒で倒されるとは…!」

 呆然と呟いたのは、この島までの案内役として連れてきた、幹部の男。

 

「そりゃあ、ネズミは戦うより逃げる方を選択しますからね。

 お疲れ様です、光。怪我はありませんね?」

 綺麗な顔の恐い男は、その幹部の男に地味にダメージを与える言葉をかけてから、光に歩み寄る。

 

「さすがは光どのの『合氣無為無縫術』。

 実に鮮やかな手並、この雷電、感服いたしました。」

 続いて『大往生』の男が言葉をかけると、光のそれまでの取り澄ました顔に笑みが浮かんだ。

 

「ありがとうございます。

 私も今見て初めて気がついたのですが、どうやら電気も自然界の『氣』の一部というか、氣を流し込む媒体として優れているようなのです。

 氣の操作で鞭の方向を操り、全員の鞭を絡ませるところまでは、最初の段階で想定していましたが、あんなにあっさり片付けられたのは、あれが電気鞭だったからです。

 通常なら遠隔操作では威力が弱まるところを、電気に乗せて氣を流すと、通常より通りが良いようでしたので、咄嗟に利用させていただきました。

 武器である電気鞭の威力もあるでしょうが、そこに私の氣を乗せて一緒に流したので、多分まる1日はこのまま、目が覚めても身体を動かすことは叶わない筈です。」

「ほほう、なるほど…いわば、電“氣”というところですかな。」

 つまり、あれらは全て『氣』の操作による戦法だったということだ。

 氣の攻撃に関してなら、俺は洪師範の『千歩氣功拳』も模倣する事ができるのだが…あいつのは、やってやれない事もなかろうが細かすぎて逆に難しい。

 

「…片付けは任せた。俺たちは先に進むぞ。」

 俺が若干放心している間に、伊達が例の幹部の男に言葉をかけており、返事を待たずに歩き出したその背中を、俺は慌てて追いかけた。




光の『合氣無為無縫術』の詳細についてはこちらを御覧ください。
https://syosetu.org/novel/118988/124.html
なにぶん間が開きまして、忘れてる方も多いかと思われますので。

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