婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
特にフランス革命頃の王制とか、王妃とか愛人とかの女性史にやたら詳しいのです。
多分、奴はひそかにベルばら読んでます(爆
一時はどうなるかと思ったものの、さすがは俺たちの大将。
初戦を勝ち残り、無事に戻ってきた桃を迎えて、飛燕が傷の手当てしてる横で、赤石先輩が三号生に囲まれていた。
「…さて、赤石。状況を説明してもらうぞ。
藤堂の息子が『光の弟』というのは、本当のことなのか。」
羅刹先輩が代表してそう問いかける。
そうだ。確かにそう言っていた。
だがそこにつっこむ前に、桃とあのインディアン野郎との闘いが始まっちまったんだ。
「奴が光の弟なら、藤堂兵衛は光の父親という事になる。」
羅刹先輩の声に頷くように、センクウ先輩がそう続けたが…ん?
光は、塾長の息子じゃねえってことか?
まあ、確かに全然似てねえとは思ってたけどな。
その場の視線を一度に受けて、全く動じることなく、赤石先輩がひとつ、息をついてから答える。
「…塾長とも藤堂とも、血は繋がってねえのは確かだ。
それ以上の事ぁ、俺もよくは知らん。
俺も藤堂豪毅という名を、さっき聞いて驚いたんだ。
光に付き合わされて奴と顔は合わせたが、それが誰かって事だけは、どんだけ問い詰めても、光は頑として口割りやがらなかった。
俺の
そう言って赤石先輩が舌打ちした。
…そうか、男塾に戻ってきた直後から、やけに赤石先輩が光に肩入れしてると思ってたら、そういう事情があったのか。
てっきり、その…俺たち一号生とおんなじように、先輩も光に絆されたんだとばっかり思ってた。
「…藤堂に引き取られた後の光が、心の支えにしていたのがあの『弟』だったようですから。
兄さんには気の毒な事ですが、彼に対する思い入れの方が深いのではと思います。」
と、そこに手当ての済んだ桃が入ってきて、俺たちの視線が全員、今度は桃に集中した。
「…光は、藤堂兵衛の子飼の暗殺者でした。
暗殺に失敗して塾長に捕らえられ、その塾長が男塾に匿ったと…俺は、この大武會が始まる前に塾長に、更に出発前夜に、光本人からそう聞いてますよ。」
…暗殺者ぁ?あまりに突飛な言葉に、俺は思わず虎丸と顔を見合わせた。あいつが!?
飛燕の例もあるから、あんな優しい顔をして、なんて事言うつもりねえが…普段、取り澄ましたつっけんどんな態度でいながらも、時々アタマ撫でてくるあの手の優しさとあったかさを思い出すと、それがひとの命を奪うなんて、どうしたって思えなかった。
けど、そういや確かに大武會の前、俺たちの傷の治療をしながら、飛燕に言っていた。
『私の治療術は、人を救うだけではなく、殺す事も可能です。』と。
あいつが暗殺者ってのが本当なら、それはむしろ、『可能』なんてモンじゃなく……!
「…光の、もとの雇い主が藤堂であり、光と会わせない為に、それを探していた
と、背後から凍りつくような、押し殺した声が響いてきて、反射的に振り返ると、Jがなんかおっかねえ顔で、あっち側を睨んでるのが目に入った。
そのJの言葉の続きを、赤石先輩が引き取る。
「…そうだ。藤堂兵衛は、橘の仇でもある。
叶うならば、俺のこの剣で、必ず…!!」
その気迫に、一瞬腹の奥がギュッと鷲掴まれた感覚が走った。
その時、例の塔の扉が開かれ、闘士がひとり階段を降りてきて、それを指差した虎丸が叫ぶ。
「み、見ろ──っ!!塔の中から誰か出てきたぞ──っ!」
さっきのインディアン野郎の次は、どんなごついのが出てくるのか。
そう思って目を凝らし、姿を確認できたのは…!
「わたしの名は冥凰島十六士・黒薔薇のミッシェル。
わたしの相手をしてくれるのはどなたですかな?
男塾の方がた……!!」
それは、なんたら言うフランス革命の時代が舞台の少女漫画に出てきた、男装した女みてえな野郎だった。
…いや俺は読んだ事ぁねえからあくまでイメージだが。
でも確か田沢の野郎が『歴史の勉強だ』とか言って読んでたよな、そーいや。
身につけた衣装もそれっぽい、舞台衣装かってくらい派手なやつだ。
それに負けねえくらい鮮やかな真っ赤な長い髪が、マントと共に風に靡く。
あんなのが次の闘士だと!?けど…、
「よっしゃあ!ここは俺に任せてもらうぜ!!」
あいつの姿のインパクトに笑い転げてる虎丸と、絶句してる他の全員がまだ立ち直ってこねえうちに、俺が次の闘いに名乗りを上げた。
俺も虎丸も、ただ驚く為だけにここまで来たわけじゃねえんだ。
ここいらで俺の実力を見せつけねえとな!
「見てろよ、5分だ!!
5分で
また出番を横取りされねえうちにと走って縄ばしごを駆け下りつつ、ちょっとだけ振り返ると桃の野郎が、なんか知らんが生ぬるく微笑んでるのが見えた。
…あいつ同い年だよな?
つか誕生日は俺の方が半年早かったよな!?
なんなんだよその、幼い弟や息子を微笑ましく見守るような目は!
おまえ、光に影響され過ぎじゃねえのか!?
そして、見た目の強烈さに誤魔化された、その黒薔薇のミッシェルとかいう男の戦闘力に、俺が息を呑むことになるまで、あと5分。
ってやかましいわ!
☆☆☆
「美しいバラには棘があるとはよく言ったものよ…。
由緒あるフランス貴族の血をひく誇り高き男、黒薔薇のミッシェル。
あの顔で、これまで数知れぬつわもの共を、非情に葬り去ってきたとは……!!」
俺の率いる冥凰島十六士の中でも、上位の実力を持つ男の顔が、巨大モニターに映される。
奴は、俺が親父の後継者と決定し、与えられたこの施設に俺が初めて足を踏み入れた時、責任者である洪師範と共に、最初に挨拶をしてきた者だ。
『姉君である光姫様がこちらに滞在された折には、親しくさせていただきました。』
などと言われた時には不快に思いはしたものの、十歳近く年下の俺に対しても敬意を崩す事のない、その節度ある対応は気に入った。
むしろ、俺をどこか子供扱いしている洪師範よりも好感を持ったとも言える。
その男が、
この天挑五輪大武會、予選からただの一度も闘わずにここまで来てしまったのもあり、退屈していたのだろうが。
その点に関しては俺も同様であるだけに気持ちは判る。
「面白いものをお目にかけましょう、総帥。」
そのままモニターを眺め続けていた俺に、職員の1人が声をかける。
「このコンピュータに、あの富樫という者の今までの闘いを元にした戦闘能力がインプットされております。
そして、これとミッシェルの戦闘能力を比較し、分析させますと、闘いの結果が出ます!!」
職員は言いながらコンピュータを操作して、最後になにかのボタンを押す。
そこにあった電光表示板に、9という数字が5つ並んだ。
「99.999%!
これがミッシェルの勝つ確率です。
つまり、あの富樫とか申す者には、十万分の一しか勝機はないということであります。」
そう言った職員は、どうだという表情を浮かべていたが、俺はそれに眉をひそめた。
「……気に入らんな。なぜ100%の確率とならん。
残り十万分の一の不確定要素とはなんなのだ!?」
俺の問いを受けて、職員は少し動揺したようだったが、すぐに気を取り直して答える。
「さあ、そこまではさすがに…?
ですが、ミッシェルの勝利はそれによって微動だにするものではありません!!」
そんな当たり前の事を聞きたいのではない。
もうそれ以上は時間の無駄だと判断して、俺は再びモニターを見上げた。
☆☆☆
「男塾一号生、富樫源次じゃ〜〜っ!!」
闘場にたどり着く直前に蹴躓いて、転がって背中をしたたかに打ち付けたが、気を取り直して立ち上がり、ドスを構えながら名乗りをあげる。
改めて対峙したミッシェルは、女みてえな顔はしていても、背も高く身体つきは確実に成人した男のそれだ。
全体的にちっこい光や華奢な飛燕と違って、きっとこいつは女装したら逆にゴツく見えるんじゃねえかな。
心の片隅でそんな事を思いながらそいつを睨むと、奴は何故かがっかりしたような表情で、ため息をついた。
「下品で粗暴…そういう人をわたしは好まない。
貴方にはそれに相応しい、醜い死を差し上げましょう。」
「じゃかあしいやい!このキザ野郎が──っ!!
勝負はツラや口でするもんじゃねえぜ──っ!!」
先手必勝、俺はドスを構えて奴に突進する。
休む間も与えず次々と攻撃を繰り出したつもりだが、ミッシェルは俺の攻撃を、さして焦る様子もなく、ふわりふわりと躱していった。
これ、光の野郎がよく言う、『桜の花びらに攻撃した時』の動きに似てやがる。
『あなたの動きは力任せなんですよ。
それじゃいつまでたってもあなたの刃は、花びらに触れることさえ出来ません。』
うるせえよチビスケ。
その時の呆れたような表情が、目の前の男と被る。
「貴方には下品で粗暴のほかに、もうひとつ付け加える言葉があるようです。
…それは『未熟者』とね!!」
ミッシェルは俺から間合いを取り、ようやく腰の剣に手をかける。
だが、それを抜く瞬間は
見えないながらもその腕が動いたのを知り、反射的に身を躱す。
…躱したと、思っていた。だが。
チャッ、と音を立てて、ようやく見えるようになった剣が、鞘に納められる。
「な、なに──っ!!」
次の瞬間、履いていたズボンがバラバラと、細切れの布になって足元に落ちた。
褌だけキレイに無傷で残されてるところに、奴の剣の冴えと良心を感じさせるが、逆に悪ふざけのようでもある。
「…我らの可愛い姫が、このような者達の中で半年以上を過ごしたなどと、まったくおいたわしい事だ。
しかも小汚ない男物の服を着せられ、黒曜石のように艶やかで美しかった黒髪をあんなに短くされて。
いや、あのような拵えにでもしなければ、お美しく成長された姫では、到底その身を守ることが叶わなかったのだろうが、わたしどもを頼ってきてくだされば、たとえ失敗の末であっても皆で御前を説得して、なんとしてでもお助け申し上げたものを…!」
いかにも残念だというように、ため息混じりにミッシェルが呟く。が…。
「…どういう意味だ、そりゃあ?姫って?」
自慢じゃねえが、女なんざここしばらく見た事すらねえぞ。
…くっそ、本当に自慢じゃねえ。
だがミッシェルは俺の質問には答えず、嫌な笑みを浮かべる。
「これ以上は時間の無駄というもの。
それにその不潔極まりない下着姿も、これ以上目にしたくありませんしね。」
自分でやっといてなんつー言い草だ。
「本来なら貴方ごときに使う技ではありませんが、敢えて見せて差し上げましょう!!
冥凰島奥義・
剣を収めたミッシェルの両手が閃き、マントが翻る。
そして次の瞬間、視界が紫色に染まった。
次に、やけに鼻につく甘ったるい香り。
それは無数の…紫色の、バラの花だった。
「へっ、なにかと思えば、こんなもんがなんぼのもんじゃ!!」
一瞬怯んだものの、俺に向かってくるそれを、ドスで切りとばす。
「こんなものが奥義とはな。
俺はこの通り、カスリ傷ひとつ受けちゃいねえぜ。」
このバラに刃物でも仕込んであるんだろうが、それはセンクウ先輩だってやってた事だ。
最後の一輪を叩き落としたあたりでやけに息が切れるとは思ったが、それは些細な事だと思っていた。
「フフッ…貴方はそのバラの本当の意味を知らない。
紫のバラ…それは、死の香り……!!」
だが全部のバラをはたき落とされて、ミッシェルは笑ってそう言った。
「な、なに…!?」
…バラの意味?花言葉ってやつか?
そーいや以前、飛燕に言われてたな。
花言葉くらい知っといた方がいいって。
とりあえずあの後一度光に、
『桜の花言葉*1ってなんだ?』
って聞いてみたら、
『……熱でもあるんですか?』
って返されたから、それ以来誰にも聞いたり調べたりもしなかったが。
と、そんな事をふと考えた瞬間、なんだか視界がぐらりと回った。
花を切り刻んだせいなのか、さっきよりバラの香りがきつく感じる。
その香りを鮮明に感じ始めるに従ってめまいがより酷くなり、手足が徐々に冷たくなって、震え始めた。
これは…まさか。
「
その香りはあなたを、黄泉の国へ
あなたに残された命は、あと1分……!!
その1分で、わたしと闘うことになった、己の不運を嘆くのです!!」
なんてこった…まさか、バラの香りが毒だったなんて。
呼吸まで苦しくなり、バラの香りにむせそうになる。
力の抜けた膝を折り、不本意にも地につけながら、俺は目の前のキザ野郎を睨みつけた。
綺麗な顔して闘い方がえげつないなこの野郎!
よく考えたら、塾生が持ってる光情報、それぞれに断片的なんですよね。
全部把握してるの、塾長だけだったり。
それ以外のメンバーだと、
刺青→桃、伊達、一応センクウも着替えさせた時に見て知ってる。
けど、意味まで知ってるのは伊達と塾長のみ。
暗殺者の過去→桃、赤石、影慶と邪鬼様。
蠢闇胎動編3話での会話、影慶は邪鬼様以外には話していません。
藤堂家との関係→桃、あと男爵ディーノが、塾長の依頼で調査した結果から推測して自分で正解引き当ててるのと、そのディーノとの会話で影慶も知ってる。
光のお兄さんを直接知っているのは赤石とJのみ。
最後に、ここにいるメンバーで光が女だと知らないのは富樫のみで、虎丸は何とな〜く気づいているけど知らないふりしてます。
そのへんのすり合わせを、今回はしておきたかったんですが、これがなかなか難しく、さすがに全部は無理だった…!
恐らくは、今年の投稿はこれが最後になるかと思われますので、ここで言っときます。
皆さま、良いお年を。