BLEACH 結界争闘篇   作:アルフレット

8 / 46
思っていたよりたくさんの方に読んでいただき、嬉しい限りです
まだまだ拙い文章ではありますが、精一杯頑張っていきますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします

黒崎家第三話です
少々暗い展開になってしまいましたが、
天の抱えているものが垣間見えるのではないかと思います。
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


第八話

俺がリビングに戻ると、ソファの上で丸くなっている天がいた

その姿がやけに小さく見えた

 

「おい、天!何してんだ?」

 

肩を叩きながら、声をかける

反応がない

肩を揺さぶるとゆっくりと倒れた

 

「おい‼」

 

よく見るとぐっすり寝ているようだ

焦った…

 

「天、起きろ!

 こんなところで寝るな、風邪引くぞ」

 

いくら揺さぶっても起きる気配がない

そうしていると風呂上がりの夏梨がリビングに入ってきた

 

「お風呂空いたから入ってきたら?一兄が最後だよ

 ていうか何してるの、一兄?」

「天がここで寝ちまってな

 起きる気配がねぇし仕方ねぇな」

 

俺は天を抱えるとベッドまで運ぶことにした

夏梨もついてきて部屋のドアを開けてくれた

部屋の中には遊子がいた

 

「どうしたの?」

「天がリビングで寝ちまったんだよ」

「ホントだ…ぐっすりだね」

「あぁ…疲れたんだろ

 世話のかかるやつだ」

 

ベッドの上に天を寝かせ、ふとんをかけてやる

起きる気配は全くなかった

ぐっすりと眠るその寝顔は無防備で、幼かった

俺は遊子たちの部屋を出て、着替えをとりに自分の部屋に行った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

目を開けると目の前は自分の膝ではなく壁だった

体を起こすとベッドの上で寝ている遊子ちゃんと夏梨ちゃんの姿があった

 

(リビングにいたはずなのに…)

 

リビングで小さくなっていると眠気に襲われたことを思い出した

 

(あのまま寝ちゃったんだ

 誰が運んでくれたのか…一護さんかな)

 

時計を見ると午前三時を指していた

あれから五時間ほど経ったらしい

喉の渇きを感じ、水を飲むためにリビングにいく

コップに水を入れて喉を潤す

窓からは柔らかな月の光が入ってきていた

その光に誘われるように窓に近づき、外に出る

空にはきれいな満月が浮かんでいた

ひんやりとした空気が私を包む

その気持ちよさに目をつむると後ろに気配を感じて

振り返った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺はなかなか寝れずに寝返りばかりうっていた

そんなとき階下から窓を開けるような音が聞こえた

 

(誰だ…?まさか…⁉)

 

敵が忍び込んできたのかと思い、飛び起きて

なるべく音を立てずに急いで階段を降りて音がした方へ向かう

 

(リビングからだよな…)

 

リビングのドアの前に着き、息を整えて勢いよく開けると、

誰もいなかった

視界の端に風でなびくカーテンが見えた

ゆっくりと窓の方へ近づくとそこに誰か立っていた

俺に気づいたのかゆっくり振り返る

ぐっすり寝ていたはずの天がそこにいた

 

「何だ…お前かよ」

「…?」

 

月の光に照らされて目をぱちくりしている様子がよく見える

そんな姿が可笑しくて思わず吹き出してしまう

 

「何?」

「何でもねぇよ

 下で物音がしたから見に来てみただけだ

 お前こそどうしたんだ?」

「目が覚めたから…一護さんは?」

「俺も同じようなもんだよ」

 

俺がそう答えると天は空に視線を移した

その姿があまりにも儚くて壊れてしまうのではと

思ってしまうほどだった

俺も天と同じように空に目を向けると

そこには綺麗な満月が浮かんでいた

 

「綺麗だな」

「うん…」

 

天の隣に並びながら月を眺める

雲はほとんどなく、晴れ渡っていた

空気はひんやりとしていて肌寒いぐらいだった

 

「部屋に戻らねぇと、風邪引くぞ」

「…」

「?」

 

返事が返ってこないことを不審に思って天を見ると

天の目から一筋の涙が流れていた

 

「天、どうかしたのか?」

「…何でもない」

「何でもないのにお前は泣くのか?

 おかしなやつだな」

「うるさい」

 

何となくこれ以上声をかけることが躊躇われて月を見上げる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さんは何も言わずそばにいる

しばらく月を眺めていると口が勝手に動き出した

 

「兄さんが死んだときも明るい満月の夜だった

 月の光が部屋の中を照らし出していて

 やけに兄さんのケガがはっきり見えたのを覚えてる」

「そうか…」

「何で、兄さんが死ななきゃならなかったの?

 私なんかほっとけばよかったのに…

 そしたら兄さんは…」

 

雲が月を覆い隠し始めた

周りはどんどん闇に包まれていく

兄さんが死んだときもこんな感じだった

私一人だけが闇に落ちていく感じ…

気づいたら止まらなくなっていた

 

「兄さんは約束した

 絶対死なないと、私を一人にしないと

 ウソつき…」

 

一護さんは何も言わずそばにいてくれた

こちらを見ることなく雲に覆われた月を見ているようだった

それが余計に私の口を動かしているような気がした

 

「そばにいた人がいなくなることが

 どういうことかわかってるはずなのに…」

 

話し始めると湧いてくる思いは兄さんに対してのどうして?ばかりだった

ただただ涙が浮かんでは頬をつたい落ちていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

チラッと横目で天の顔を盗み見る

涙をぬぐうこともせずに静かに泣いていた

雲が月を覆い始めてあたりが暗くなってきた

それが天の心を映し出しているように思えた

 

天が初めて自分の心のうちを話してくれたことを嬉しく感じた

だけど、同時に何て声をかければいいのか分からなかった

とてもじゃねぇけど兄貴を亡くしたことを

軽々しくつらかったななんて言えなかった

俺もおふくろを亡くしたときはつらかったし、悲しかった

俺のせいだ、と自分を責めた

それでも俺の周りには家族がいた

助けてくれるやつがいた

でもこいつにはそんなやつがいない

お前のせいじゃないと言ってくれるやつも、

苦しみを一緒に抱えてくれるやつもがいなかった

たった一人で誰にも言えずに大きなものを背負っていたやつに

つらかったなとは簡単に言えなかった

 

(でもこれだけは言える…)

 

そんなことを考えていると次第に雲が晴れてきた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

雲が晴れてきて、月が顔を出す

完全に出てしまう前に急いで涙を拭く

泣いている顔を見られたくなかった

けど、散々泣いた後だからきっとひどい顔をしてるだろうと思い

苦笑が漏れてしまう

 

「ごめん…こんなこと話すつもりはなかった

 忘れて…風邪ひくから中入ろ」

 

自分でも気持ちのいい話をしたわけではないことはわかっていたから謝る

そのまま一護さんに背を向けて部屋に入ろうとしたとき

 

「天…」

 

小さな声だったけどそれでも何かが伝わってくるようだった

ゆっくりと振り返る

 

「お前が兄貴を亡くしたことを簡単につらかったな、何て言えない

 何て言えばいいのかわからない

 だけどな、これだけは言える」

 

雲が完全に晴れて、一護さんの顔を月の光が照らし出す

その表情は真剣だった

 

「俺は死なない」

「っ!!」

「お前を守るために死んでも本当の意味で

 お前を守ったことにならないだろ」

 

そう言って一護さんの表情はよく兄さんがしていた優しい笑みだった

その顔がとても頼もしくて、とても嬉しくて

頑張って止めた涙が浮かんできた

それを見られまいと背を向け、部屋に入る

 

「勝手にすればいい…」

「そうか…じゃあ勝手に護ってやるよ」

 

素直に頼ることができない自分が憎い

一護さんは私の答えに満足そうに笑ったような気がした

一護さんも続いて部屋の中に入ってきた

このまま寝てしまうのが何となくいやだったから

またソファの上で膝を抱える

 

「寝ないのか?」

「何となく寝たくない

 もう少し起きてる」

「そうか…早く寝ろよ」

 

そう言って一護さんはリビングを出て行った

ドアが閉まる音を聞くと、ストッパーが外れた

次から次へと涙が溢れてきた

それからしばらく私は声を上げずに泣いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺はリビングから出るとドアの前に立っていた

中からは小さな嗚咽が聞こえる

 

(少しでも楽になればいいんだけどな…)

 

今まで我慢していたんだろう

まだ付き合いは数日しかないが、

感情を表に出すことが苦手であろうことはわかる

あいつが抱えているものの少しを話してくれたことは嬉しかった

そういうことを話してもいいぐらいの相手になったと思っていいだろう

さっき聞いたことがすべてではないだろうから

自分から話してくれるのを待とう

 

このままここにいた方が邪魔になると思い、俺は自分の部屋に戻った

いつか抱えているもの全部を分けてくれること願いながらを眠りについた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の12日を予定しています。

アルフレット

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。