はい、すいません。
いつもの如く遅筆ですいません。
朝、窓から注ぎ込むぶしつけな日の光によって強制的に起床へと追い込まれ、体を起こす。
半覚醒のぼんやりした頭でカーテン閉めてなかったかなんて考えていると隣の布団がモゾモゾと動いた。
…いや、なんか膨らんでるなーとか、誰かいるなーとは思ってたんですよ。
夏場であるため薄いブランケット1枚しか被ってないはずなのに隣に暖かな存在感を感じていたことを思い出す。
昨日寝た時は1人だったかどうかすら怪しい自分の記憶を恨みながら布団をめくると案の定というか予想通りというかそこには女の子の姿が。
「…起きろ小町」
呆れながら声をかけるも反応はない。
一色だと思った?残念小町でした!
残念でもなんでもなかった。
寧ろ至福のひとときなのでは…?
ただ兄妹とは言え、この年になって同衾はどうなのかと思いました。
先程は記憶にないなんて言ったが人間頭がはっきりしてくると記憶も戻ってくるようで、昨夜のやり取りが頭に蘇る。
夜も遅いので送っていくと主張する俺
また知り合いに出くわしたらどうなるか分からない、1人で帰ると主張する一色
もういっそ泊まっていけばいいと主張する小町
三者三様に意見を戦わせていたところ、社ちk、うちの両親が帰ってきてしまったのである。
普段ならばもっと遅くまで働いていた両親はお盆だからとう理由で早く帰ってきたのであった。
むしろお盆なのに働いてるのがアレだと思うけども。
両親は俺が帰ってきていることに驚き、更に見たことの無い女性がいることに驚き、その女性が成り行きとはいえ俺が連れてきたことに今まで見たことのないほどに驚いた。
その場は混乱に包まれ、珍しくうちのリビングが大騒ぎになったものである。
あれほど大騒ぎになったのは俺が国公立の大学に行くと言った時くらいである。
何それ泣ける
収集がつかなくなったのを見かねて、小町が両親を連れて1度廊下に出ていき、俺と一色だけリビングに取り残された。
その間にも俺と一色の送る送らない論争は続いていき、あわや口論になる…といったところまでいった。
しかし、母親の聞いたことのないような金切り声が耳をつき俺も一色も何事かと思わず話すのを切り上げ、廊下に視線を向けた。
暫くして戻ってきたかと思うと親父もお袋も妙に緊張しているわ、お袋はなんだか目元潤ませているわで何がなにやら分からず混乱した。
急に神妙にな顔で後輩に頭を下げ、挨拶する両親というよく分からないものを見せられたかと思うと、両親まで泊まっていくといいと言い出した時はかなり驚いた。
1人で帰らせるよりはマシかという思いともうめんどくさいという気持ちから俺も泊まるように言ったのであった。
…そっからなんで小町が隣に寝ていることになったのかわからん。
なんでだっけか。
考えても思い出せない。
昨夜は親父が妙に機嫌がよく酒を勧めてくるものだから付き合って飲んでいるうちに潰れてしまったのかもしれない。
自分では割と強い方だと思っていたのだが社畜歴の長い親父には敵わなかったか。
昨日のことを思い出していて忘れていたが今何時だ。
枕元にあった我が多機能目覚ましで確認すると今は6時前だった。
こんな早くに起きたのはいつぶりだろうか。
両親はどうせ昼まで起きてこないだろうし、小町も昨日遊びに行っていた所を見るに今日は予定もないだろうから昼まで起きてこないだろう。
二度寝しようかと思うも俺が先程まで寝ていた隣には小町がスヤスヤと眠っている。
とりあえず部屋にいて小町の寝顔を見続けるというのもアレなので、リビングに降りていく。
ひとまず寝起きのマッ缶をと思い探すもどこにも見当たらない。
どうやら我が家唯一の消費者である俺がいなくなったことでマッ缶の貯蔵も取りやめになったらしい。
まぁ当時も俺が自分で買ってただけだしたな。
「…何が本場のマッ缶だ。飲めてねーじゃんかよ」
1人で苦笑する。
久しぶりに実家に戻ってきたというのに1人というのも俺らしい。
しかし、1度舌が求めた味を誤魔化すのは難しい。
マッ缶と決めてしまった時に普通の苦いコーヒーでは舌が満足してはくれないだろう。
どうせ当分は誰も起きてこないのだし、当初の目的通り本場のマッ缶を味わいに行くとしますか。
昨日脱ぎ散らかした覚えがある靴は綺麗に整えられていた。
小町か、一色か、はたまた母親か。
親父?ないない。
現に親父の靴が散らかっているのだから。
スマホと財布だけを持って家を出る。
記憶が確かならすぐ近くに自販機があったはずである。
自販機を求めて彷徨い歩くこと5分。
まだまだ俺の記憶力もこの辺の自販機情勢も変わっていなかったようで、見覚えのある自販機がそこにはあった。
あったのだが…
「マッ缶ないじゃん…」
見つけた自販機には見慣れた缶コーヒーの姿はなく、ブラックや微糖の文字が踊った普段仕事場近くで見かけるありふれた缶コーヒーだけが陳列されていた。
この自販機本当に千葉の自販機かよ。
マッ缶置いてないとかなってないわー
完全にマッ缶を見つけたつもりだっただけに落胆もひとしおである。
この辺に他に自販機があったかどうかまでは俺の記憶力は覚えていなかった。
スーパーなんてこの時間には空いてないだろう…という所まで考えた辺りでコンビニの存在を思い出した。
24時間営業してる便利な施設コンビニ。
大学の時の深夜バイトの際にはよくお世話になったものだ。
なんでも揃うコンビニならば恐らくマッ缶も置いてあるだろうと当たりをつけ、1番近くのコンビニに向かう。
しかし、朝6時に起きて散歩してと驚く程に健康的な生活だ。
まぁ、これから糖分に塗れた飲料を飲み干すと考えるならば差し引き0だろうが。
昔ならば気にも止めなかったが四捨五入すると30になることを考えると少しばかり健康のことも気にするというもの。
まぁ、本当に気にするだけで何か変えるわけではないが。
暫くして市民の味方コンビニエンスストア先輩の所に辿り着き、店内でマッ缶を探す。
さすがはコンビニと言うべきかマッ缶もしっかり置いてあった。
実家にないことを考えて数本買っておくことにしたはいいものの、店員の目が痛い。
え、こんなの沢山買うやついんの?みたいな目で見てくるのやめてくれませんかね…。
さて、目的も果たしたしさっさと家に戻るかとコンビニを出たところ、黒い高級車が目に入った。
途端、嫌な汗が流れ落ちた。
頭がクラクラし、手足の先端が軽くピリついた。
息も浅くなっているだろう。
自分で自分の手を握り、心を落ち着かせる。
大丈夫、自分の症状を冷静に把握出来てる。
惑わされるな。
冷静さを損なうな。
車は暫くして離れていった。
元々コンビニの前を通っただけなのだろう。
アレがあの家の車なのかどうかは分からない。
俺が撥ねられてからもう10年近く経つのだから新しくなっていてもおかしなことは無い。
ただ車が通っただけだ。
そう何度も言い聞かせても俺の体は長いこと動くことは無かった。
─────────☆☆☆─────────
家に戻る頃にはもう7時を回っていた。
我ながら情けないと思う気持ちと、昔よりは落ち着いたんじゃないかという思いが混ざって複雑な気分になったままリビングのソファに腰掛けマッ缶を飲み干す。
窓の外からは喧しいくらいにセミが鳴き声をあげている。
小学生の頃は1週間の命と知って切なくなったものだが、中学に上がってアレがナンパしてるのと同義だと知りイラッとし、高校になると7年間も土の中に引き込もれるとかなんで地上に出てきたんだと疑問に思い、就職まで済ませた今はただひたすらにうるさいとしか思わなくなった。
しょうもないことではあるがこれも立派な変化と言える。
結論、喧しいから少しボリューム落としてくれ。
下らないこと考えられる程には回復したようだと変に冷静な自己分析を下し、さっきのことはキレイさっぱり忘れることにした。
やることもないのでテレビでも付けようかと思ったところで廊下を歩く足音がしたのでドアへと目を向ける。
両親も小町も昼まで起きては来ないだろうと先程判断したところだが、この家には現在その3名とは別に1人いるのだった。
「あ、おはようございます先輩」
「おう、おはよう」
ドアを開けて一色が顔を見せる。
昨日の夜のことはあまり詳しく覚えてないが、なんだかんだ口論1歩手前まで行ったのだし、もう少し気まずくなるのかと思っていたのだが。
「先輩早いですね」
「目が覚めた時は二度寝しようかとも思ったんだがな。なんでか知らんが小町が隣にいたもんだから早々に降りてきた。」
「その言葉からするに昨夜のことはあんまり覚えてない感じですね」
「ああ、お前が泊まって行くことになった辺りまでしか記憶がない。」
目で説明してくれと促すと一色はジト目になってこちらを軽く睨んできた。
「な、なんだよ…」
「いーえ、先輩ですもんね、期待なんかしてなかったですよ」
「なんでいきなりディスられてんの俺…?」
昨夜何かやらかしたのだろうか。
しかし、酒に溺れた程度で俺がやらかすとも考えづらい。
理性の化け物という二つ名は伊達ではないのだ。
「昨日、私が泊まることになった後、先輩と先輩のお父さんはずっとお酒飲んでたんですよ。」
「そこは何となく覚えてる。多分潰れたんだと思うが」
「潰れたって言うか珍しく酔っ払ってましたね。で、寝る場所の話になった時に先輩がソファで寝るって話になって、泊めてもらう立場で先輩をソファで寝かすとか出来ないので私が小町ちゃんの部屋で寝て、小町ちゃんが先輩の隣で寝ることになったんです。」
「いやいや、小町はお袋の隣でもいいだろ。」
「小町ちゃん曰くお父さんの隣は嫌だと。」
哀れなり親父。
「まぁ、私でも自分の父親の隣で寝るのは嫌ですけどね。」
「そりゃ、そうだろうがよ。だからって兄なら良いってこともあるまいに。」
「その辺は一人っ子の私にはなんとも。」
「いや、それにしてもお前と小町が寝ればよかったんじゃ…?」
1番問題のない組み合わせだと思うのだが、少なくとも俺よりは。
「その辺は小町ちゃんに聞いてください。話してくれるかどうかは別にして。」
私からは言いませんとばかりに首を竦める一色。
気にはなったが、話さないと言っている以上聞いたところで教えてはくれないだろう。
それより今は微妙に機嫌の悪い一色が気になる。
やはり昨日の口論のせいだろうか。
「その…、昨日は悪かった。」
「は?」
何言ってんだコイツとばかりに見られる。
「え、いや。妙に機嫌悪いから…。」
「まぁ、確かに機嫌いい訳では無いですが、これに関しちゃ自分の中での問題なんで先輩は関係ないですよ。安心してください。」
「そ、そうか。」
これ以上聞くなと言わんばかりの一色の態度に頷くしか出来ない。
さっきから俺弱すぎません?
「ところで先輩。その袋の中身なんです?」
「本場のマッ缶」
「また、本場とか言ってるんですか…」
心底呆れたと言わんばかりにこちらを見てくるが、本場であることは間違いないと思うのだが。
「まぁ、せっかくです。1本ください。」
「お、珍しいな。普段は理解できないとばかりに貶してくるのに」
「いや、それを毎日好き好んで飲むのは正直理解できないですよ。ただ、今甘いものが欲しいので。」
酷い言われようだがマッ缶が理解されたことは俺の経験上ないので慣れている。
袋の中から1本取り出して一色に手渡す。
「ありがとうございます。コンビニにでも買いにいったんですか?」
「ん?おう。ちょっとそこのコンビニまでな。」
ふっと一色の肩の力が抜けた気がした。
いや、別に一色の肩見てたわけじゃなくて。
何となく一息ついたというか、脱力したというか。
「あっま!相変わらず甘ったるいですねコレ。」
「この甘さがいいんだよ。」
「太りそうなんで、やっぱり毎日は飲みたくないですね。たまにで充分です。」
たまになら飲んでくれるのかと思うのと太るの気にする辺りコイツもちゃんと女子やってんだなという思いの混じった生暖かい目で見てやると怪訝な視線を向けられた。
「何やら失礼な視線を感じたんですが。」
「気のせいだろ」
「まぁ、いいですけど。因みに朝ごはんはパンがあるので食べておいてだそうですよ。」
「来客あんのに変わんない辺りさすが俺の親って感じだ」
「いや、急に来た分際で要求とか出せませんよ」
気にしなくていいと言ってもその辺気にせずにはいられないだろう。
なんだかんだこいつはその辺しっかりしている。
「俺のも適当に取ってくれ。」
「チョコので大丈夫です?」
「なんでもいいよこの際」
「はーい」
2人で向かい合い適当にパンを食べる。
本来、実家に一色がいた事など無かったのだが妙に馴染んで、違和感を感じなかった。
暫く2人でモグモグとパンを食べ続け、特に会話もない時間が続いた。
コイツは俺との距離のとり方がよく分かっていて、妙に会話をもたそうとはせず、さりとてそれが不安になったり居心地が悪いということもない。
この辺は4ヶ月の賜物なのか、それとも高校時代の産物なのか、一色自身の気遣いなのかは分からない。
本人が特に気にしてない所を見ると元来の性質なのかもしれない。
パンを食べ終わり、やることもなくなったのでテレビでも見るかということになり、ボンヤリとテレビを見つ続ける時間が続いた。
「あ、そうだ先輩。」
「んー?」
「先輩の御両親って何時くらいなら起きてこられます?」
「昼過ぎたら起きてくると思うが、どうした?」
「いえ、今日は実家に帰るので。挨拶なしでお暇するのも失礼ですし。」
「あー、そっか。なんかいるのが自然すぎてその辺忘れてたわ。」
「なんですか家族になれってことですかいきなり過ぎて心の準備が出来てないですしそもそもまだお付き合いすらしてないのにいきなりプロポーズは早すぎると思います考え直してくださいごめんなさい」
「はいはい、振られた振られた。」
久しぶりに聞いた気がする一色のフリ芸におざなりな感想を伝え、またテレビに意識を戻す。
「適当に流すようになりましたね先輩」
なんて言いながらも一色もテレビに意識を向けているようで適当に言ってきた。
お互いに適当に言葉を交わし、特に面白い訳でもないテレビに意識を向ける妙な空間が心地よかった。
「いやいや、老夫婦かなんかなの二人とも。」
そんなこんなでまったりした時間を過ごしていると我らが可愛い天使な妹ことラブリーエンジェル小町たんが降りてきた。
「なんでそんなに2人だけの空間作ってるのさ。」
「いや、別にそんな空間形成した覚えはないが。」
「私も普通にしてただけだし…」
そういう俺たち2人に信じられないものを見る目を向けたあと後ろで何やらブツブツ呟いたかと思うとハァと一息ため息をつくとパンを食べに向かって行ってしまった。
何となく釈然とせず、一色と顔を見合わせる俺であった。
エタらないよう頑張ります