…こんな遅筆な作者のSSなんかをお気に入りに入れてくれる方がこんなにも沢山いることが嬉しくて仕方ありません。
節目ってやつです。
災難とは突然降って湧くものらしい
「あんれー?もしかして、いろはす?」
もう夜も遅いからと、いつものように駅まで送っていってもらっている時。
その軽薄さが滲み出るような、聞き覚えのある声は。
「戸部、先輩」
「久しぶりじゃん?何年ぶりよ〜。てかこんな所で会うなんてマジ、っべくね?」
戸部先輩だけなら問題なかった。
でも
「今、同窓会中でさ〜。これから駅前のカラオケで二次会なんよ!隼人くんとか、結衣とかもいるしちょっと会って行かね?」
その名前、は…
最悪だ。よりにもよって何故
私は思わず先輩の方を伺ってしまった。
案の定先輩は固まってしまっている。
これは拙い。
「ん?いろはす、その人-」
しまった。先輩に気づかれた
何とか、しないと。でもどうすれば!?
「もしかして、彼氏とか!?やー、ごっめん。空気読めてなかったわー。邪魔しちゃって悪いことしたわー」
「ん?どうしたよ戸部」
「ナンパでもしてんのか」
先輩に気づかれなくてホッとしたのもつかの間。
後ろから続々と先輩のクラスメイトであった人達がやってくる。
このままでは結衣先輩や葉山先輩まで来てしまう…!
「そ、そうなんですよー。ちょっと彼氏連れて帰省みたいなー!なので今日は御遠慮させてもらいますねー!い、行こっ!」
先輩の手を無理やり掴んで来た道を戻る。
先輩は相変わらず固まっていたが私が引っ張ると我に返ったのか私についてきた。
⭐⭐⭐
葉山「ん?なんか騒がしいな。どうしたんだ?」
戸部「あ、隼人くーん。アレアレ。今走っていってんの、アレいろはすだべ!マネの!」
葉山「え?いろは?」
戸部「確か結衣も仲良かったっしょ?」
葉山「うん、でも残念。結衣はもう少し後ろの方にいるよ。でも隣にいるのは?」
戸部「いろはすの彼氏だってよー。彼氏連れて帰省?だって!っべくね!?」
葉山「へー…。」
戸部「隼人くんどしたん?」
葉山「いや、何でもないさ。」
戸部「そ?じゃカラオケ行くべー。久々に高校の時の曲とか歌おうかな俺!」
大岡「お?いいな懐メロ?」
大和「懐メロってほど昔でもないだろー」
葉山「…比企谷八幡、お前は」
⭐⭐⭐
「はぁ、はぁ、はぁ…」
確か駅前のカラオケと言っていたはず。
この道ならば会うことはあるまい。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ああ。ごめんな」
先輩はまた、震えていた。
ああ、神様とは何て意地が悪いのだろうか。
よりにもよってあのメンバーと鉢合わせる必要はないではないか。
「送って、いくよ」
「無理しないで下さい。なんなら私は1人で帰りますから、先に先輩の家に行きましょう。また鉢合わせても拙いです」
今の先輩は見ていられない。
顔面蒼白で、ひどく震えている。
とりあえず小町ちゃんに引き渡せば何とかしてくれるだろう。
私は先輩の手を引いて歩き出した。
今日だけで何度先輩と手を繋いだだろうか。
でも今が1番手を繋いでいて辛かった。
何もしてあげられない。
それがただ悔しかった。
今だって。
先輩が苦しんでいるのに励ますことも出来ない。
声をかけられない。
ただ先輩の家に向かうだけ。
高校の時に何度か訪れただけだった先輩の家を私はしっかり覚えていたようで、途中迷いそうにはなったもののなんとかたどり着くことが出来た。
インターホンを押すとピンポンという間の抜けた音が響いた。
返事が返ってくることはない。
「あ…、そう言えば。今日帰るって言ってなかった、ような」
「え?そうなんですか?」
「た、ぶん」
つまり小町ちゃんがいない可能もあるのか。
「あ、先輩鍵持ってないんですか?」
「あ、ああ。持ってた…と思う。」
なんとか返事は返してくれるものの、弱々しく油断していると聴き逃してしまいそうだ。
ちょっと待ってくれと先輩は財布を取り出し中身を漁る。
先輩が見つけた鍵でドアを開けて私は先輩の家にお邪魔した。
「先輩、顔を洗ってきた方が…」
「そんなに酷い顔してるか?」
「ええ、それに気分も変わるかもしれません。」
さて、その間に小町ちゃんに電話をかける。
『もしもしー』
数コールで小町ちゃんは電話に出てくれた。
「あ、小町ちゃん?いろはだけど。今どこにいるー?」
『今ですかー?友達と遊びに行ってて帰ってるところです』
「あ、帰ってきてるの?なら良かった。今先輩と先輩の家、千葉の方にいるんだけど」
『え!?』
「ごめんねお邪魔しちゃって。先輩と里帰りして来たんだけど、ちょっと問題が…。早く帰ってきてくれると嬉しいんだけど…」
『わ、分かりました!もうすぐ着くので待っててください!』
「うん、よろしくねー。ふぅ」
やっと一息ついた。
「悪い…」
「気にしないで下さいよー。それに…、先輩に里帰りを促したのは私、ですから」
「一色…」
2人して黙り込む。
昼間の幸せな気分はどこかへ飛んでいってしまった。
こんなことになるのなら、やっぱり先輩に里帰りなんて勧めるんじゃなかった…。
気分はどんどん落ち込んでいく。
私のせいで立ち直りかけていた先輩の心が挫けてしまったらどうしよう…。
「私、迷惑ですかね…。なんて」
「…そうだな。お前が居なかったら今日こっちに来ようとは思わなかったし」
「う゛っ…」
自分で聞いておいてショック受けるとかなんて面倒な女だろうか。
「まぁ、でも。お前のおかげで助かってる事の方が大きいから、迷惑ってほどじゃ…ない。」
…先輩は優しい人だ。
さっきまで自分が不安で、恐れで、いっぱいいっぱいだったのに、私が少し不安を漏らしただけですぐに慰めてくれる。
ああ、私は本当にめんどくさい女だ。
先輩の気遣いを心から嬉しく思ってしまっている。
今、この状況で。
そんな自分が嫌いだ。
⭐⭐⭐
「帰ってくるなら連絡してよね」
「お、おう」
小町ちゃんは帰宅直後第一声で先輩にそう言った。
「ごめんね、小町ちゃん」
「いえいえー、いろは先輩はいいんですよ」
「それじゃ、私は帰りますね」
いくら夏とはいえもう真っ暗だ。
お母さん達も心配してるだろうし。
「ああ、じゃあ送って…」
「何言ってるんですか先輩。また鉢合わせしちゃうでしょう」
「いや、でもな。こんな暗い中1人で帰す訳には…」
私達が言っている間、小町ちゃんは少し考えた様な素振りを見せるととんでもないことを言ってきた。
「いろは先輩が泊まっていけばいんじゃないですかね?」
「え」
いや、流石にそれは…
「それは…、ダメだろう。俺らももう社会人だし、そんな簡単に、泊まっ、て…」
言っている途中で先輩が口篭る。
そういえば、先輩の家に泊まったことある…。
それもつい何ヶ月か前に…。
「どしたの歯切れの悪い言い方して」
小町ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「いや、何でもない。」
先輩が白状しないと見るやこちらに顔を向けてくる小町ちゃん。
ううっ…、視線が痛いよう
「お兄ちゃん、まさか」
「ち、違うぞ。俺は何もしてないぞ!」
「何?」
「え」
「何もしてないって、何をしてないの」
先輩と小町ちゃんは言い争う…、というより一方的に言い負かされてる感じだけど、二人とも意識がそっちに集中している。
今のうちにお邪魔しよう…。
ソロソロとバレないように出てい『〜♪』
私のカバンから懐かしいメロディが流れ始める。
高校の時くらいに流行った歌だよ、コレ。
誰ですかね、嫌なタイミングでかけてきたのは!
相手の名前は…
「え、葉山先輩?」
災難とはやはり、突然降って湧くようだ。
嫌なタイミングでかかってきたその電話からは、嫌な予感しかしなかった。
前書きでも書きましたが節目ってやつなので、何かしたいなぁと。
また、なんかしら番外編でも書きたいですね。
何するかは活動報告にでもそのうち載せます。
作者は書くのが遅いですが、これからも続けていきますので読んで頂けると嬉しいです。
ありがとうございました。