導入的に2章に入れとくかっていう微妙な自分の考えにより2章です。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!大変だよ大変なんだよ!」
休日に惰眠を貪っているところ、かかってきた電話を取るやいなや耳元で叫ばれた。
「おう、そうか、がんばれ。じゃあな。」
「ちょっとちょっと!?それは流石にポイントひくいんですけど!」
「んー、なんだよ。親父が仕事クビにでもなったのか?」
それは困る。親父が悲惨な目にあうのは構わんが小町を養っていくだけの余裕は俺にはない。
「違うよ、第一、チキンなお父さんがクビになるようなことできるわけないじゃん」
「おお、妹よ。社会に出たらこっちに非が無くても償わされるとかザラにあるのだ。」
アス⚪ン・ザラが裏切るくらいザラなのだ。
どんくらいかって言われてもわからんが。
「嫌なことを聞いてしまった…。それより、大変って言うのはですね。大志くんがですね。」
「大志?どこの川越さんだソイツは」
「お兄ちゃん、後輩でしょ…?」
はて、俺が覚えのある後輩は一色と小町くらいなんだが。
川なんとか君とかいう後輩がいたような気がしないでもない。
「ていうか大志くんで川越って言うあたり完全に覚えてるじゃん…。まぁ、いいや」
「おう、あの野郎なにかしたのか。はっ倒してやるから連れてこい」
「…なんでお兄ちゃんに相談しようとしたんだろう。いろは先輩に相談するからお兄ちゃんはもういいや」
そんなこと言われたらお兄ちゃん悲しいなぁ…。ってか
「一色?なんだお前まだ一色と交流あるのか。」
「そうだ!お兄ちゃん、なんでいろは先輩と同じ会社になったこと言わなかったの?」
「え?いや、特に意味はないけど」
「私はいろは先輩に凄くお世話になったんだから挨拶くらいしたいじゃん!」
「そういうもんか?」
「はぁ…、これだからごみいちゃんは…。」
なんだかその呼ばれ方も久しい気がする。
「まぁいいや。いろは先輩に相談するから。バイバイ」
「えっ、ちょっ」
本当に切りやがった…。
何を相談されたのか明日会社行って聞き出そう
しかし、大志か…。なんだろうか。
⭐⭐⭐
卒業式の日
男子高校生にとって校長含む様々な知らない人や知ってる人からの長くて眠たい話を右から左に聞き流すイベントが終わると教室でのHRに移る。
まず、ここで第1の関門がある。
クラスメイトに一言という悪魔の儀式である。
正直言って話すことなどないし、クラスメイトだけなら、1年を通して俺がぼっちで寡黙な人間だと理解しているため気も楽なのだが最後のHRなどと名ずけられたこれは保護者参加型なのである。うちの高校は平日なためうちの親父お袋どのは居られないが(仕事休みでも来たかは怪しいが)自分たちの息子娘の晴れ姿を見るためにわざわざ来ている保護者も多々いる。
そんな中、3年間ありがとうございました。だけ言うと大抵保護者がザワつく。ソースは俺。
悪魔の儀式を終え、先生からのお言葉を頂戴するとやっと終了である。
ここで第2の関門が発動する。
卒業アルバム&写真撮影
普段一切関係が無かったにも関わらずクラスメイトをコンプリートするなんていうソシャゲに溺れそうな考えで書いてくれと要求してくる輩が一定数存在する。
しかも俺のようなぼっちキャラのコメントは大抵レア扱いされる。人によっては書くまで追っかけて来る奴もいる。出るまで引けば絶対当たるみたいな精神やめろ
書くことなんて正直ない。
1年間ありがとうございました。卒業しても頑張ってください。
が精一杯である。これを書くと少ないと文句を言われ、かと言ってちょっと考えて長いこと書いたりしたらソイツのグループ内で笑われる。どうすればいいんだ。
あとは保護者の、クラス皆で写真撮らせてというリクエスト。あれも中々だ。こちとら帰りたいのに居る意味無いのに結構長い間拘束される。
そもそも卒業式とかいって国公立組はまだまだ試験あるし、対策で明日も学校来るし、卒業なんて言ってるが大学の入学式もしくは会社に入社するまでは高校在籍扱いなのだ。一体どこが卒業なんですかねぇ…
戸塚と卒アルの交換書き込みを済ませしだい、他の連中に絡まれる前に教室から離脱する。
材木座?知らない子ですね。
雪ノ下や由比ヶ浜は教室に長い間拘束されるだろうし、部室は入れないしベストプレイスへと最後のお別れを1人寂しく告げに来たはずなのだが…。
「比企谷。」
「…何でいるんですかね」
最後のベストプレイスは一人きりでとはいかないらしい。
川崎沙希が先にいた。
…別にダジャレじゃないよ?
⭐⭐⭐
「教室は一刻も早く出たいし、アンタもそうするだろうと思って。」
…流石ぼっち。よくわかっている。
「その言い分だと俺に用があるみたいだが…。」
「うん、卒アル。書いてもらおうと思って。」
なん…だと…?
「クスッ。別に長いこと書けってんでも面白いこと書けってんでもないよ。アタシも卒アルにはあんまりいい思い出ないしね…。まぁ、でもさ。他の人よりは、アンタとは関わりがあったし、書いてもらえたらなーって。嫌ならいいけど。」
ああ、本当にこいつもぼっちだなぁ
「確かにお前とは割と関わりあったし、普通に書けるしな。あー、じゃあ俺の卒アルにも書く…か?」
「あはは、なんで疑問形なのさ。書いて欲しくないってんなら書かないけどね。」
「じゃ、じゃあお願いします?」
おずおずと卒アルをカバンから取り出して差し出す。
「う、うん」
川崎は川崎で少し恥ずかしそうに差し出してくる。卒アルと一緒に渡されたペンは意外にも可愛いらしいペンだった。
しかし、何書けばいいんだろうか。
夜のバイトは程々にとか?なんか、ヤラシイし、張り倒されそうだ。
大志が後輩になってからはちょくちょく話す機会などもあるので割とスラスラと書けた。
書き終わったのはお互い様だったようで、ちゃっちゃと交換してみる。
『2年の時はありがとう。3年になってからは大志がお世話になりました。』
文章になると丁寧になり心無しか柔らかい印象になる。
…2年の時なんて大したことはしてないんだがな。
と、急にいつも通りの口調で書かれている部分が目に入った。
『すごく世話になったし、京華もアンタのこと
きにいってたよ。
でも、あんまり変なことは教えないでくれる?
しかしまぁ、お互い大学に行けたらだけど行け
たら、頑張ろう。』
…?変な文章だし、文字のバランスもめちゃくちゃだ。
あんまりにも、らしくないので訝しげに顔を上げると川崎沙希はこちらを妙な表情で見ていた。
「どうした?この文章もなんか変だし。」
「…。な、慣れてないんだよ卒アル書くのに。」
少し残念そうな顔をしたあと、川崎は恥ずかしげに言ってきた。
「自分から言い出したくせによ…」
「いいじゃない、別に!」
そう言うと俺の書いた文に目を落とした。
俺ももう一度見直すと、まだ続きがあった。
『変わらないアンタでいることは無理かもしれない。けれど後悔しないようにね』
小さいけれど、力強い字。
…先生かよ。少し面白かった。
「ありがとう比企谷。」
「こちらこそ。俺は奉仕部の方でちょっと用事があるからここらで」
「ああ、引き止めてわるかったね。」
「またな、川崎。」
「うん、また。」
俺はゆっくりと2人と待ち合わせしている場所に向かって歩き出した。
⭐⭐⭐
(川崎沙希side)
「…ま、そうだよね。」
期待していなかったと言えば嘘になる。気付いてくれるんじゃないかと。甘い幻想に身を焦がす思いになったりもした。
妙なところで鋭いくせに。
比企谷の姿が見えなくなってから卒アルに目を落とす。
『なんだかんだ世話になった。ありがとう。卒業してからも頑張ってくれ。バイトとかは程々にしとけよ。大志や京華に心配かけない意味でも、自分を大事にする意味でも。』
雑な字で書かれたぶっきらぼうな思いやりに嬉しくなりながらも心が痛む。
自分が比企谷の卒アルに書き込んだ文章を思い出す。
す ごく世話になったし、京華もアンタのこと
き にいってたよ。
で も、あんまり変なことは教えないでくれる?
し かしまぁ、お互い大学に行けたらだけど行け
た ら、頑張ろう。
明らかにおかしな区切り方と、誤魔化すために崩した文字のバランス。
隠された意味は
好きでした。
実際に告白する勇気なんてないし、あの二人がいる以上アタシに勝ちの目はないだろう。
あくまで、自分が整理をつけるための自己満足の告白とも言えない不器用な宣言。
気づかれもしなかったけど、気分は少し軽かった。
空を見上げると卒業式に相応しい綺麗な青空が広がっていた。
でも、おかしいな…。
なんだかこの空歪んで見えるや。
今日なら卒業式で泣いてる女子に見えるかな。
目を赤く腫らしていても卒業式で泣いたって誤魔化せるから。
ここには私しかいないから。
今だけは。
「ぅっ…。グスッ。」
誰も来ませんようにと願いながら1人で嗚咽を抑えていた。
自分的にはサキサキもかなり好きなんですよね。
サキサキいろはす折本が個人的に好きです。
奉仕部2人といろはすだけでサキサキの話しないのも変だなと。
八幡が話してる卒業式の〜。自分の経験が多分に含まれていたりします。