「俺は…本物が欲しい」
教室の中3人だけで構成された一つの小さな世界の中で、涙声で絞り出されたその言葉はどこへ向かったのだろうか…
⭐⭐⭐
「ーぃ?先輩ってばー」
ん?なんだ…
「先輩何寝てるんですかー?サボりですかー?」
「仕事は終わらせたから…」
そういう問題ではないが。しかし、会社に居るのに寝てたのか…。疲れてんのかしら
「はぁ…。先輩もう終わりですよねー?」
「え、終わりって何が、クビなの?俺。それとも人生が?」
「いや、仕事ですよー。もう帰るんですよね?」
なんだ仕事か、もうそんな時間か。家に帰れるのか…
「なんで急にキラキラしてるんです?」
「気にするな、それで何?俺帰りたいんだけど」
「これから歓迎会らしいんですよー。先輩も来ますよね?」
ほーん、歓迎会ね
「行くと思ってんの?」
「えー、折角再会したわけですしー。」
そう言われてもなぁ
「今寝てたのって結構マズイですよねー…」
耳元に口を寄せて囁かれる。
「お、お前…」
「えへっ☆」
あ、あざとい…
まぁ、言われた所でどうということはないのだが…、コイツにこんな風に言われると何故か逆らえなくなる。
高校の時もそうだ。あの時だって俺は自分で金を払っていたのに…。いや、あの時は一色がどうこうといった理由じゃなかったか…。あの時は…目の前にあの2人がいたから。
「せんぱーい?行くんですかぁ?行かないんですかー?」
「行くよ行きます行けばいいんだろ。」
「随分適当ですねー。ちゃんと来てくださいよー?」
「…おう」
社員全員で会社を出るというなかなかに珍しい出来事を経験し外に出る。しかし、まぁ案の定というか予想通りというか一色は男性社員に囲まれ、その後を機嫌悪そうな女性社員が続き、更にその後に俺が1人トボトボ歩いていくといった構図が出来上がっていた。あれれー?これ八幡君着いていく意味あるのかなー?帰りたいんですけど。今からお家に帰ってデレステやんないといけないんだけど、因みに担当は杏ちゃん。働かない全て者達に告ぐ!我々は選ばれし者であーるー。俺働いちゃってるよダメじゃん。
⭐⭐⭐
来たのはなんてことのない居酒屋。忘年会とか新年会とかもよくここでやる。俺は行ったことないけどな!で店に入って座敷に通された訳だが。上司陣は上座として残りの人員の席決めでグダグダと迷っていた。一色の隣に座りたい男性社員とその男性社員の狙ってる男の隣に座りたい女性社員。めんどくさいなー。因みに俺は妻子持ちの男性社員達と同じ所に纏まり席の、空いた所が、出来るのを待っていた。これはつまり俺も妻子持ちの勝ち組ってことには…なりませんよね知ってた。
「せーんぱいっ!一緒に座りましょう?」
悪魔来たる。やめてよぉ、これ以上俺を孤立させないでぇ。
「いや、俺はほら端の方にちまっと座っとくから。」
「えー、そう言わずに。教育係でしょー?」
「それもそうだな比企谷、お前は一色の隣に座っておけ。」と上司の言葉。
「はい…」
上司の言葉となると従わざるを得ず、俺も男性社員連中も大人しく席に着いた。こんなんでこの飲み会大丈夫なのかしら?
結論から言うと何もゆっくり出来なかった。一色の周りに来るは来るわ男性社員共。俺の席なんて始まってすぐに占領されてしまった。これが、俗に言う、お前の席ねーから状態か。上司連中はおっさん同士で飲み合ってるし妻子持ちとかの興味なさげな連中は固まって飲んでいる。俺はどこに行けばいいんだろぉ。とか思ってたら3人ほどの女性社員がこちらに来た。何、パシられるの?と思ったら案外優しい態度で横に座られた。学生の頃よりはマシとはいえ、勘違いしそうになるからあんま近くに座るのやめて下さい…。
「〇〇達本当にがっついててみっともないよねー」
「本当だよー。比企谷さんはー、その辺大人ですよねー?」
あ、なんだ愚痴言いたいだけね。
「高校同じだったんですよね?高校の時もあんな感じだったんですかー?」
あんな感じって調子のったとかそういう事ですかね。ふぇぇ、女性怖いよぉ。
「あー、まぁあんな感じでしたね。生徒会長やってたしいつも周りに誰かいたっていうか。」
男性だけじゃなかったけど。
「へー、生徒会長!比企谷さんもそういうのやってたんですかー?」
「いや、俺はそういうの苦手で…」
「あー、そんな感じしますねー」
「わかるー。目立たないタイプっていうかー」
あの俺に絡まないでくれます…?ほっといて欲しいんですけど。
「じゃあー、部活とかは?」
「文化系とか、」
「卓球部っぽい感じもしますねー」
なんでだよ卓球かっこいいだろ。しかし、部活か。頭を過ぎるのはあの教室。3人で、何をするでもなくただいただけの大切な、大切だった筈の光景。
「いや、特には入ってなかったですかね…」
「え?」
近くから声がしたので見ると一色が、固まっていた。
「っ!」
思わずしまったって、顔をしてしまった。
「あー…」
一色は何も言わずに男性社員の群れの中に戻っていった。
「すいません、ちょっとトイレへ行ってきます」
俺がそう言うと今まで俺たちのやり取りを見ていた女性社員3人は何も言わなかった。
別に聞かれたところでどうってことないじゃないか…。そう、こんな風に個室に引きこもって震えるほどのことじゃない。
⭐⭐⭐
俺はあの部活を、本物でなくなってしまった部活を認めたくなかった。だからさっきは部活に入っていなかったなんてウソをついた。
飲み会も、終わり上司陣と妻子持ちが帰って行く中、残ったメンバーは二次会について話しあっていた。
「俺はここで…」
男性社員は俺の声を聞くと機嫌良さげに
「そうか?じゃーまた明日な比ゴニョゴニョ」
名前を、覚えていないことなど今さら気にしない。
「えー、比企谷さん帰っちゃうんですかー?」
女性社員何人かが残念そうな声を挙げる。そんなに愚痴を言う相手がほしかったの?それともあれか、優しいアピールか?
「あ、もうこんな時間ですね私も帰ります。先輩送って行ってください」
一色がそうやって話掛けてきた。
「いや、二次会は?」
「そろそろ時間も時間なので帰ろうかなと」
「えー、一色ちゃん帰るのー?もうちょっといいじゃーん」
「すいません猫に餌をやらないと行けないので…また今度お誘い下さると嬉しいです」
「そっかーじゃあまた今度ねー。あ、てか、送ろうか?」
「いえー、悪いですし二次会楽しんで来てくださいー」
俺には悪くないんですかね。べつにいいけど。
「そっかー、じゃあねー、一色ちゃん」
俺に憎々しげな目を向けるな
「先輩行きましょう。」
「…おう」
一色と、歩いてその場を去る。だいぶ離れてから一色がこちらを向かないまま話しかけてきた。
「先輩さっき部活入ってないって、なんですか狙ってるんですか?あの人のこと。」
「ちげーよ…説明しづらいだろあの部活は」
「私、先輩は雪ノ下先輩とゆい先輩、奉仕部のことだけは嘘つかないと思ってました。」
「…」
何も言い返さなかった何も言いたくなかった。
「…先輩これから時間あります?」
「あ?お前猫に餌やるんだろ?」
「あんなの抜け出す言い訳に決まってるでしょう?」
「あ、そう」変わってねーなコイツも
「お酒飲んだ後ですしー〆行きましょー、あ、今ならラーメンでもいいですよ?」
そう言えば、最近行ってないなラーメン屋
「じゃあ、オススメの所にでも行くか…」
普段の俺なら絶対断っただろう。でも今の俺はラーメンでも食べたい気分だったのだ。
「え、」
「どうした。」
「偉く素直ですね…ハッ、もしかして久しぶりに会って私に惚れちゃいましたかすみません急に再開したばかりでまだ気持ちの整理がついてませんのでまだ無理ですごめんなさい」
「なんでだよ…お前が誘ったんだろ。てか、お前に振られるのも久しぶりだな…。行かないなら俺は帰るが」
「いえ、行きます行きたいです行きましょう」
「はいはいここの先行った所なんだ、はよ行くぞ」
「ムー…なんか適当じゃないですか?」
頬を膨らませるなあざといから。
この後滅茶苦茶ラーメン食べた。
読んで頂きありがとうございました。次の話はすぐに投稿という訳にはいきませんがなる早で書きますので待っててくれたら嬉しいです。