インフィニット・ストラトス~蒼の天使と紅の騎士 作:武御雷参型
翌日、IS学園では二学期の始まりの為、全校生徒が第一アリーナに集結していた。
「皆、一学期は色々な事件に巻き込まれ、学園に戻る事に不安を感じている者達もいるであろう」
アリーナに特設で設置された壇上に、IS学園理事長である織斑千冬が立っていた。
「だが、私はここで宣言する‼ 今学期からは一学期の様に皆を危険に晒さない事を‼ よって、皆が夏休みを満喫している時、この学園は色々と改良を加えた。一つは、シェルターの増設だ。絶対と言う言葉はこの世に存在しない。だからこそ、我々が出来る範囲でやれる事をしようと言う考えで、このシェルターの増設が決まった。二つ目は、この学園に専属として就いている三部隊の事についてだ。アークエンジェル隊を始めドミニオン隊、ミネルバ隊所属は、正式に我々の管轄から離れ、学園防衛の際は独断で行動する。その行動を止めようとした者は、誰であれ、拘束させてもらう。また、三隻は海上に係留される事になるが、内部に入る事が出来るのは、許可を得た者と部隊員のみだ。それ以外の者が入ろうとすれば………後は言わなくとも解るであろう」
千冬の言う通り、学園の全てのアリーナの地下に、核の力を持っても破壊できないほどの強力なシェルターが増設されていた。
以前のシェルターは第一アリーナと第二アリーナの二つのみしか無かったが、一学期の事件を機にすべてのアリーナの地下にシェルターを増設させたのである。
また、アークエンジェル、ドミニオン、ミネルバの三隻に至っては、地下ドックに収容されていたが、正式に学園所属艦として登録された事もあり、海上に係留される事となった。ただし、内部に入れるのは許可を得た者と部隊員のみである。
海上に係留される事もあり、外見の見学は遠くからなら可能である。作戦時は、シャッターが下ろされ、作戦行動中の三隻を見る事は出来ないが………
「私からは以上だ。次に、この学園の生徒会長である更識楯無から挨拶だ。楯無、よろしく頼む」
「はい」
千冬に呼ばれ、楯無は壇上へと上る。
「今、理事長より呼ばれた更識楯無よ。よろしくね」
そう言うと楯無は手に持っている扇子を開く。すると、真っ白だった扇子には達筆で“よろしく”と書かれた。
「さて、長い挨拶は嫌われちゃうから簡潔に話すわ。二学期から、一大イベントである学園祭についてだけど………皆に今回から導入されたルールを説明するわ」
そう言うと楯無の後方にモニターが展開された。
「名付けて‼ “織斑一夏争奪戦‼”」
楯無が力強く言い放つと同時に、モニターには一夏の顔がアップで映し出される。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ⁉』
アリーナにいる全生徒の狂気の叫びが響き渡った。
「今年はフリーの一夏君を賭けて、一位の部に一夏君を強制入部させます」
『ヒャッホォォォォォイ‼』
再度、アリーナが揺れる。これだけで武器が完成するのではないのであろうか。
「キラ君達はどうなるのですか‼」
「良い質問ね。キラ君を始めアークエンジェル隊、ドミニオン隊、ミネルバ隊は部に入る事は出来ないわ。これにはちゃんとした理由があり、彼らはこの学園の防衛の要であり、部に入部する事によってそれが障害になり得ると考えた、織斑理事長のご決断で、彼らは部隊自体を部として認める事になったわ。ただし、入部希望者を募っていないから、入部しようと言う考えは捨てなさい」
楯無の説明で、殆どの生徒達が納得した。
「それでは、彼らも何かやるんですか‼」
「彼らにはこの学園の警備担当をして貰います。なので、彼らが所属しているクラスは、彼らを使う事は出来ないわ。だけど、警備だからと言って立っているだけでは無いわ。学園を回る事も一つの警備なので、彼らを入店させる事だけは、許すわ」
『ヨッシャァぁぁぁァァ‼ やる気がでたぞぉぉぉぉぉ‼』
楯無の説明で、全ての生徒が納得するのであった。
一夏が所属する一年一組では、クラスごとの出し物を決める為、盛り上がっていた。
「織斑一夏による女子生徒を喜ばせるゲーム‼(ゲーム選択は女子が決める)」
「織斑一夏によるダンス」
「織斑一夏によるポッキーゲーム」
「………まともな奴を頼む」
一夏は頭が痛いのか、抑えていた。
「ならば、メイド喫茶ならどうだ? 客受けは良いであろう。それに織斑には執事服を着てもらい、ご奉仕と言う形を取れば、もっといいであろう。あれ? メイドでは無くご奉仕喫茶の方が良いのか?」
ラウラが発言をしたのだが、今までの様に冷酷さは形を潜め、一人の少女として意見を出していた。しかし、生まれてから軍で育った為、少しアホの子になっているのだが………それもまた、良い物である。
「反対意見はあるか?」
『ありませーん‼』
これにより、ラウラの提案であるご奉仕喫茶で決定したのであった。
「キラ君達が参加できないのは残念だね」
「そうだね。キラ君やアスラン君がいればもっと客受けは良いのにね」
キラ達はアークエンジェル隊に所属している事もあり、学園祭当日は警備として各種を回る事になっていた。
「ごめんね。みんな」
「俺達も参加したいのは山々なんだが、上からの決定には逆らえないんだ」
二人はクラスに頭を下げた。
「そ、そんな‼ 気にしないで‼」
「私達を護ってくれるのに、無理強いは出来ないわ‼」
「そうよ‼」
二人が頭を下げた事に驚き、クラス全員がキラ達が悪くないと言う。
「ありがとう」
キラ達はスマイルでクラス全員に笑いかけるのだが、そんなスマイルを当てられた生徒達は、顔を赤めるのであった。
その日の放課後、キラは一夏を連れてある場所へと向かっていた。
「なぁ、キラ。どこに向かっているんだ?」
「黙って僕について来て」
一夏の言葉にキラは静かに、自分に付いて来るように促した。
「着いたよ」
「ここって………」
一夏が連れて来させられたのは、生徒会室であった。
「さ、中に入って」
キラに促され、一夏は生徒会室へと足を踏み入れた。
「あら、随分と早いじゃない。襲撃には遭わなかったと言う事かしら?」
「ええ、僕に手を出したら三部隊が動きますからね」
「キラ君一人でも対処できるでしょうに………」
キラが一夏を連れて来るのに、時間が掛かると思っていた楯無は襲撃に遭わなかった事に驚いていたが、キラの説明に納得する。
「さて、ようこそ。私の城へ」
「はぁ………それで、俺を呼んだのは何のつもりですか?」
一夏は生徒会長である楯無に物動じずに尋ねる。
「そうね、君に簡潔に言わせてもらうわ。君はこのままでも良いと思っているのかしら?」
「………それはどう言う意味ですか?」
一夏は楯無の言っている意味を理解できなかった。いきなり、このままでも良いのか?と尋ねられても、自分には身に覚えも無い事である。
「君は弱い。それは自分でも理解しているんじゃないのかしら?」
「………ええ、そうですね。自分でも弱い事ぐらい理解していますよ」
「あら、意外ね。理解して受け入れるんだ………」
楯無は反論すると思いこんでいたが、一夏は反論どころか肯定したのである。
「それで、俺にどうしろと言うのですか?」
「君は弱い事を理解している………なら、次にどうすれば良いのかと言う事も、理解している筈よ」
「……………」
一夏は考えた。自分が弱いのであれば、どうすれば良いのか………そして、一つの結論に至る。
「誰かに教えを乞うと言う事ですか?」
「正解‼」
楯無はそう言うと、扇子を開く。すると、扇子には達筆で“大正解”と書かれていた。
「君に特別に教えてあげる。キラ君が所属しているアークエンジェル隊に仮入隊してもらいます。そこで扱かれて来なさい」
楯無は一夏に死刑判決を下すのであった。