インフィニット・デカレンジャー~クールで熱い戦士たち~ 作:憲彦
……最終話までもう少しか……。
一夏
「ボス……?ボス!!しっかりしてください!!ボス!!!」
鈴
「一夏!離れてて!電撃拳!エレクトロフィスト!!」
電撃を纏った手で、司に心臓マッサージをする。これで心臓の動きは戻った。だが、司は目を覚まさない。体にある複数の傷、焼け焦げた隊服。何があったのかは容易に想像が付く。
海の真ん中に浮かぶ小さな島の上で、司の応急処置をしていると、
千冬
『作戦は失敗だ……。直ちに帰投しろ。』
千冬の命令で、上空に居た2機のISが旅館に向かって飛び、一夏と司は鈴に運んで貰いながら旅館に戻った。
何があったのか、それは数時間前までにさかのぼる。
この日は臨海学校の2日目。海上と言う広い空間でISを動かす。これが今日の予定だった。
専用機持ちは別の場所でそれぞれ企業から送られてきた武装のチェック等を行っている。何故か箒も居る……。
一夏
「ボス、俺たちの新しい装備って何ですか?」
司
「さぁな。アイツが何を作るかは想像ができん。おかしな物じゃないと良いんだけどな……。」
当然、その場所には専用機持ちに分類される一夏と司もいる。そして、誰かを待っている様子だった。
数分すると、SPDの車が司達の居る場所に近付いてきた。
開発者本人が直接運んできたようだ。
束
「ゴメンゴメン。遅れちゃった。道が混んでて……。」
白衣をきた束が車から降りて司達の元にきた。
突然の束の登場。しかも白衣にはSPDのロゴが入っている。ISの産みの親、しかも現在進行形で失踪中とされている人が目の前に現れ、一部の専用機持ちと千冬が驚いていた。
司
「束。自己紹介をしろ。皆驚きすぎて顔が歪んでるぞ。」
束
「あっ、そうだった。篠ノ之束です。今はSPDの日本署でメカニックをやっています。よろしくね!」
束が自己紹介を済ませると、専用機持ち達は何かに納得し、また作業へと戻った。ここに居る人達の順応性にはたまに驚かされる。
箒
「姉さん!ここに来たってことは作ってくれたのですか!私の専用機を!」
影から箒が飛び出し、束に掴みかかり、専用機は?と尋ねた。
束
「?なんの事?」
箒
「とぼけないで下さい!貴女の携帯にメッセージを残しておいた筈です!」
束は箒が何を言っているのか全く理解していなかった。携帯にメッセージを入れていたらしいが、束は不携帯主義、つまり携帯を持ち歩かないのだ。そんな束の携帯に電話をかけても出るはずが無いし、SPライセンスがあれば事足るので、留守電が入っていても聞くはずが無いので束の携帯に電話をしても自分の携帯に電話が帰ってくることはない。
箒はその事実に言葉を失い、黙ってしまった。
その後、新装備を追加するために、司達のライセンスを弄ろうとしたとき、
ピピピピピ!ピピピピピ!!
真耶
「織斑先生!!大変です!!!」
真耶が慌ててこちらにやって来た。恐らく司のライセンスに入った通信と内容は同じだろう。
司
「はい、ッ!?分かりました。こちらで対処を取ります!」
千冬
「全員旅館に戻れ!!連絡があるまで各自部屋で待機!!専用機持ちと篠ノ之は集まれ!!」
千冬や司の様子から、事態は急を要する事が伺えた。
教員のプレートが貼られた部屋に、先程の専用機持ちと箒が集まっていた。
さて、画面の前に居る読者の皆さんも疑問に思わないだろうか?「何故ここに箒が居るのか」だ。理由は簡単だ。束の妹と言う理由と、戦力として頭数に入れられているからだ。
千冬
「では現状を説明する。2時間前、ハワイ沖で稼働実験にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代軍事用IS『銀の福音』が制御下を離れ暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。」
ISの暴走。しかも軍事用だ。この言葉に全員の顔が険しくなった。
司
「軍事用か。後で開発元には強制捜査だな。」
オルコット
「な、何故そこまで?」
一夏
「アラスカ条約で禁止されている軍事用のISだからだ。」
シャルロット
「でも!軍への配備なら色んな国でやってるよね。日本にも自衛隊に配備されてるよね。」
確かに色んな国の軍に配備され、日本でも自衛隊に配備されている。しかし、それは自然災害などが起きた場合の人命救助や、敵国に攻められたときの防衛手段としてだ。今回の侵略用とは違う。レーゲンのAICも人命救助の為だと言う話もあった。
司
「だが、今回のISは装備を見て分かるように、防衛目的では無いことは確かだ。」
千冬
「待て!何でお前が福音の情報を持っている!?」
司
「今回の件はSPDが処理する。学園上層部からも通達があったはずだぞ。」
真耶
「はい。現場指揮権は久我司に一任するとの指令が入っています。他にも、命令があるまで学園関係者は手を出すなとも言われています。」
この指令に、千冬は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
司
「では、専用機持ちはここで待機。不用意に出ることを禁止する。もちろん篠ノ之箒、お前もだ。」
ラウラ
「しかし!空中戦の出来ない父様達の機体では不利なのでは?」
束
「そこは大丈夫。今回の新装備は空中戦の為の物だから。今すぐインストールすれば充分間に合うよ。」
司
「ならすぐに頼む。」
束
「ロジャー。」
十数分後、データのインストールが完了した3人のライセンスを持って海岸にきた。
束
「今回の装備で空中でも地上と同じ様に動けるよ。ただし吹っ飛ばされたら何かにぶつかるか、どうにかして衝撃を殺さないと止まらないから気を付けてね。」
空中でも地上と同じ様に動ける装備。だが、吹っ飛ばされたら何かにぶつかるか衝撃を殺さないと止まらない。かなり危ない装備だ。
司
「構わないさ。どうにかしてみる。」
司のこの言葉を最後に、3人は福音の撃破と回収・操縦者の保護に向かった。
今回の新装備だが、飛ぶことも出来る様だ。半重力エネルギーをどうたらこうたらと言う説明があったが、読んでる暇が無いので流しておいた。
一夏
「見えた!」
鈴
「私も!」
司
「作戦開始だ!!」
福音が3人の間合いに入ると、それぞれ攻撃を始めた。だが、福音も何もせずにやられる訳ではない。3人の攻撃をセンサーが捉えると、回避行動を取り、速やかに応戦に入った。
司
「グッ!流石軍事用機。攻撃もスピードも今までの機体とは比べ物にならないな。」
福音から放たれる無数の光弾を弾きながら福音に近付こうとした。
しかし量が無茶苦茶だ。簪がミサイルをフルバーストしたときと同じ量の光弾が襲ってくる。機体の損壊や操縦者の事を考えながら手加減している為、どうしても仕留められない。
その時、
「ウオオォォォォォォ!!!」
一夏/鈴
「ッ!?」
白式を纏った千秋が福音目掛けて突っ込んできた。
千秋
「お前達は下がってろ!コイツは俺達がやる!!」
司
「達?」
その言葉の直後に、今度は打鉄を纏った箒が出てきた。
司
「何をやってる!!ここは既にSPDの担当だ!!早く下がれ!!」
千秋
「知ったことか!!箒、俺達でやるぞ!」
箒
「ああ!」
全く下がる気が無いようだ。2人は千秋の単一機能である零落白夜で福音を落とす気だろう。しかしシールを無効化する零落白夜では、最悪操縦者が命を落としかねない。その為、司は何がなんでも2人を戦場から退かせようとした。
司
「一夏!鈴!2人の相手をしてろ!福音は俺が何とかする!!」
一夏/鈴
「ロジャー!!」
司の命令で、一夏と鈴が2人に掴みかかり、この場から退かせようとしたが、
千秋
「邪魔をするな!!」
振りほどかれ、雪片で斬られた。この時、とっさに防御の為に左腕を出したが、これが不味かった。いくらSPDの装備でも弱点はある。一夏の装備の弱点はブレスロットル。普段なら攻撃を受けても受け止めることは出来る。だがそこだけは出来ない。その為、
一夏
「ウワァァァ!!!」
鈴
「一夏!!」
デカスーツが解除され、そこにあった小島に落ちた。幸い高さが余り無かったのですぐに立ち上がれたが、ブレスロットルは破壊され、身を守る術が無くなった。
そして、そんな一夏に福音の攻撃が迫っていた。
司
「不味い!!」
状況を理解した司は、福音を追うのを止めて、一夏の前に楯として立った。
司
「グッ!ガァッ!!」
放たれた攻撃全てを、自分が受けきり、一夏を守りきった。
デカスーツはダメージ限界を迎えて解除され、傷だらけの司が倒れた。福音はそのまま離脱。もう追うことは出来ない。
司
「無事で……良かった……。」
司は意識を失い、物語は冒頭と繋がる。
旅館の作戦室では暗い雰囲気になっていた。
作戦の邪魔をした千秋と箒を殴り飛ばした鈴、何も言わずに司を見詰める一夏、ショックで泣くラウラ、そして、全身に包帯を巻き、今も目を覚まさない司。
真耶
「織斑先生。何で2人に出撃命令を出したんですか?学園上層部からも通達がありましたよね!手を出すなと!!何とか言ってください!!!」
珍しく真耶が怒鳴った。それほど彼女も頭にきているのだろう。
千冬
「現場指揮官としての判断だ。」
真耶
「その結果がそれですよ!!それに!貴女に現場指揮官としての権限は無い筈です!!目の前の現状を見てください!貴女にはこの状況の責任が取れるのですか!?」
一夏
「静かにしてください……。」
これまで一言も喋らなかった一夏が、口を開けた。
一夏
「これより、現場指揮権は俺が引き継ぎます。まず鈴、3人を拘束後、別室に。」
鈴
「ロジャー!」
千冬
「ま、待ってくれ一夏!私はお前の為をと思って……ッ!?」
一夏をつかもうも伸ばした手を弾き、命令を続けた。
一夏
「ラウラ、ドイツ軍に協力を要請して福音の現在地を割り出してください。シャルロットは福音発見後、地上戦に持ち込めそうな小島を見付けて下さい。」
ラウラ/シャルロット
「了解!」
一夏
「セシリアは高機動パッケージのインストール、簪は各機体のチェックを束さんと協力して行ってください。そして山田先生。ボスの看病を頼みます。全員の準備が整い次第、作戦を実行に移します!」
それから全員、急いで準備をした。そして、ほぼ同時に準備が完了し、出撃可能となった。
鈴
「一夏、作戦を。」
一夏
「まず、鈴とシャルロット、セシリアで福音の動きを制限する。隙が出来たら、ラウラのAICで停めて、簪のビーム砲で島に叩き落とす。後は地上戦だ。」
この作戦に全員が頷き、納得した。そして、今回は操縦者の保護が最優先と伝え、もう一度出撃した。
一夏
「ボス。力を借ります。エマジェンシー!デカマスター!!」
この短時間で細かい出力を変えることは出来なかったが、スーツのサイズを自分にあわせておいた様だ。
一夏
「簪、体力を温存しておきたい。運んでくれないか?」
簪
「分かった。」
一夏達が福音撃破の為に出撃してから少しした頃、司の替えのタオルと氷を持って部屋に入った真耶は声も出ないくらいに驚いた。司が消えていたからだ。しかも包帯が少し落ちている。これを見た真耶はすぐに司を探した。
司
「……。」
司はIS学園の訓練機が置いてある場所で打鉄を弄っていた。ISスーツを着てだ。
真耶
「……行くつもりですか?」
司
「ああ。」
真耶
「何故そこまでして戦うんですか!?あの人達なら勝てます!!そんな体の貴方が行く必要は無い筈です!!」
司
「確かにそうかもな。アイツらなら勝てるだろう。」
真耶
「なら何故!?」
司
「勝てると分かっていても、アイツらが傷付くのを見ているのはイヤだからだ。もう、2度と仲間を失いたくはない。」
それを伝えると、打鉄を纏い、一夏達の元に飛んでいった。
束
「やっぱ君でも無理だったか……。」
真耶
「篠ノ之博士……。何故彼はあそこまでして戦うんですか?」
束
「彼は昔、デカスーツが試験的に使われていた時に、目の前で仲間を失ってるんだ。君にそっくりな人だったよ。髪と目の色以外。その人を失ってからだったかな~。どんなに地位が上がろうと、どんなに体が傷付こうと、最前線に立ち、戦うようになったのは。」
真耶
「じゃあ、彼は……。」
束
「その子と交わした約束でもあるんだよ。きっと。……さ~てと。準備準備。」
真耶
「なんのですか?」
束
「どうせ皆傷だらけで帰ってくるんだから、その為の準備だよ。手伝って!」
真耶
「はい!」
今回は以外と長く行ったな……。4848文字。過去最多だな。あの3人の罪状は何になるのかな?
次回予告
一夏
「何で、ボスは俺を守ってくれるんですか?」
司
「ある人と交わした大切な約束の1つだ。そしてその人は……。」
次回episodefinal 守る理由。
司
「最初はただの約束だったが、お前を守ると言うことは、今は俺の1つだ。」
次回もお楽しみに!感想もよろしくね。
物語完成後は、番外編で司の過去だったり、ギャグ中心の話を書こうと思いますが、その前に盛大な後書きコーナーをやります。作者に対しての質問などがある方は感想欄、メッセージ機能を使って送ってください。
※最後一夏がデカマスターになってしまいましたが、細かいことは気にしないでください。