知世の野望 ~The Magic of Happiness~ 作:(略して)将軍
亀山小学校脱出まであと一歩と言うところで駆けつけてきたコクエン君達と、
単独で潜入して情報を集めてきてたユーノ君の……
色々な思いがこもった心の叫びをきっかけに、
友枝町からさらわれた子達を救出しに来た私達と、
それを阻止しようとする、コクエン君達との戦いが始まりました。
コクエン君と、彼の直接の配下と思われる子達は、
ユーノ君が男の子だという事が、よほど許せなかったのか……
「狙え……撃てーっ!!」
「おおーっ!!」
コクエン君の号令の下、一斉にわき目も触れずに彼らの持つ武器から、
次々とユーノ君に向かって黒い光線のような攻撃が放たれて行きました。
「くっ……!」
ユーノ君は、すぐさま防御魔法を展開したので
ダメージを受けることなく、攻撃をすべて防ぎ切りましたが……
「あのモヒカンは……側近だけあって、かなりの使い手みたいやな、
ウチらを襲ってきた連中より、更に上手や……」
キャシーさんのおっしゃっている通り、現在のコクエン君の取り巻きの子達は、
友枝町にやってきた子達と比べると、明らかに強く見え……
コクエン君の力量は、彼らを更に上回っており、単発の砲撃だけなら、なのはちゃんのディバインバスターとほぼ同等に見え、
それを、両手の砲身から放っているので、単純な射撃能力だけならば、なのはちゃんをも上回っているように見えました。
半面、スピードは大した事ありませんでしたが、その重さをカバーするかのように、
素早い動きで、仕掛けてくる方達がいらっしゃいます。
「……ッ!」
コクエン君の攻撃をすべて防がれたのを確認すると、
フェイトちゃんは、アルフさんと一緒に、すぐさま格闘戦を仕掛けてきました。
この二人とは、これまで幾度も戦ってきたので、
スピードへの対処は、さくらちゃんとなのはちゃんで何とか対処できましたが……
問題は、もう一人のスピードでした。
「どけぇッ! 今度は俺の番だぁッ!!」
突然向こう側から聞こえてきた声を聞いた瞬間、フェイトちゃんとアルフさんはすぐさま散開し、
開いた道からは、ゲン君が身体に何かをまとい猛烈なスピードで突撃してくる姿が見えました。
「は、はやい!?」
軌道は単純な直線でしたが、加速度が非常に早い上に直線だけなら最高速度はフェイトちゃんを上回ってるようにも見え……
彼の進路上に居るユーノ君は、回避が間に合わないと判断して、そのまま防御魔法をゲン君の方へと展開し……
「うおおおおおおおおっ!!」
―――ガゴォン!!
ものすごい衝撃音の後、、ユーノ君がゲン君の突撃を受け止め切っているのが見えました。
けど、ユーノ君の防御魔法は発光が一瞬弱くなり、
ユーノ君自身も、防ぎ切ったにもかかわらず結構な距離を後ろへと吹き飛ばされてしまいました。
「シールドが……力任せでここまで……!?」
「う、受け止められただとっ!?」
ユーノ君も、ゲン君も、たがいに自分の魔法に自信があったようで、この結果にお互い一瞬呆然としてしまい……
「甘いぜっ! 隙ありだッ!!」
「!?」
その隙を狙って、再びコクエン君がユーノ君に砲撃をしかけてきたので、
それをかわすために、ユーノ君は空中へと飛び立ちました。
「このっ……!」
だけど、ユーノ君も、やられてばかりではなく、コクエン君に対して手から魔法の鎖を打ち出し、コクエン君の身体を捕縛しました。
「チッ、
攻撃魔法が得意でない半面、ユーノ君の拘束魔法はかなり強力で、
これまでの戦いでも、長時間捕らえた相手の動きを封じてきました。
ですが……
「……なるほど、かなりの強度だ……
他の奴等なら、ガッチリ止められただろうな……
だが……ッ!」
「!?」
そう言って、コクエン君の纏った光が一瞬強くなったように見えた次の瞬間……!
―――バリンッ!!
「ば……バカな!?
僕のチェーンバインドが……!」
ユーノ君の拘束魔法は、あっさりと砕かれてしまったのです……。
「なめんなよ、俺はこの一帯を占めてる男だぜ、
こんなチャチな手段が、通用すると思ってんのか!?」
ユーノ君の拘束魔法を解いて勝ち誇るコクエン君に対し……
拘束魔法を破られたユーノ君は、ひどく動揺してしまいました。
無理もありません、攻撃魔法が得意ではないので、
これまでは主にサポート役として、立ち回ってきたわけですが、
その要となる拘束魔法が通用しないのは、かなりつらい展開になるはずです。
「だけど……この戦いは一人で戦ってるわけじゃないんだよ!!」
「!?」
ですが、やや放心しているユーノ君の後ろ側から慢心して勝ち誇っているコクエン君に対し、なのはちゃんが、砲撃魔法を放ちました。
強い光は、コクエン君に対して真っすぐと進んでいき、動きが重いコクエン君には避ける事が出来ずにそのまま直撃するかと思いましたが……
「ッ! バサルトッ!!」
コクエン君は、手に持っていた砲身から甲羅の様なパーツを射出し、砲撃の方へ展開すると
そこから、なのはちゃん達の使う防御魔法によく似た光の壁を展開して、なのはちゃんの攻撃を防ぎます。
「! 防がれた……!?」
どうやら、あの甲羅はかなりの防御力を持っている様です。
「砲戦タイプが、打ち合いに負けると思ったかッ!!」
攻撃を防いだコクエン君はそう言うと、今度はなのはちゃんの方に砲撃を打ち返してきて……
「なのは! まかせて!!」
その車線上に、ユーノ君が割り込んできて防御魔法を展開し、攻撃を防ぎ切りました。
しかし、相手側もこの砲撃戦を黙っていて見る訳もなく、
動きが完全に止まってしまうと、その隙を狙い……
「今度こそーッ!!」
「もらった……!」
ゲン君がユーノ君、フェイトちゃんがなのはちゃん、
そしてアルフさんが状況を見て双方に攻撃を仕掛けてきます。
それを防ぐため、さくらちゃんとケロちゃんは、お二人の援護に回っていますが……
想像以上に強い魔力を持っているのか、彼らに『眠』などの動きを止めるタイプの魔法の効果が通用しないため、必然的に、強力なカードを使わざるを得なくなってしまい……
人を攻撃するのに慣れてないさくらちゃんは、今一つ動きが鈍くなってしまいます。
「さくら! なに躊躇しとんねん!?
もっと強力なカード使うたら、十分勝てる相手やろ!!」
「わかってる……でも……!」
さくらちゃんも、二人を守る時には、しっかりと力を発揮していらっしゃいますが、そうでないタイミングで、攻撃を仕掛けようとはしません。
やはり、人を傷つけてしまうのに忌避感を抱いているのでしょう。
……ただ、あるいはこのやり方も、間違っていなかったのかもしれません
的確なタイミングでなのはちゃんとユーノ君の援護をしているため、コクエン君達は決定打を与える事が出来ずに戦いは長引いて行き……
「……!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
体力か、魔力か、もしくはその双方を使い果たしたのか、さくらちゃんと、さくらちゃんから魔力を受け取っているケロちゃんを除く全員が、疲れた顔をしはじめていました。
「みんな、息が上がってる……」
「お互い、ほぼガス欠みたいやな……
しかし、あの子どんな力もっとんねん?
大半が援護や言うても、結構な力使っとるはずやで!!」
「さくらちゃん、ものすごく体力があるのは知ってたけど……」
戦いを見守っていたアリサちゃん、キャシーさん、奈緒子ちゃんは、まだ平気そうな顔をしてるさくらちゃんに対して、それぞれ感想を口にしていました。
あら? そう言えばキャシーさんの口ぶり……
もしかして、今のは……?
ちょっとした事に気が付きましたが、今はそれ以上深く考える事は出来ませんでした。
「今なら……行ける!!
風よ、戒めの鎖となれ! |『風』≪ウィンディー≫!!」
さくらちゃんは相手の動きが鈍ったタイミングを見逃す事なく
相手の動きを完全に止める為、『風』のカードを発動すると……
「しまった……!?
なんだこれ……全然解けねぇッ!?」
コクエン君に向かって、魔法の風が形を成して伸びていき、彼の身体を拘束していきました。
ユーノ君のバインドは、あっさり解かれてしまいましたが、さくらちゃんの『風』のカードは、カード集めの一番最初から使いつづけ、何度も決め手となるタイミングで成果をあげてきた、さくらちゃんの文字通りの切り札……!
全快の状態ならば、どうだったかはわかりませんが、
疲弊した今のコクエン君には、あの拘束を解く事ができずにからめとられています。
「コクエン!?」
「な、なんだあれ!? 人の形をした風ッ!?」
これまで何度も捕らえかけられた事があるので、効果は身に染みているであろうフェイトちゃん……
さくらちゃんの魔法を初めて見て、他の魔法との性質の違いに戸惑うゲン君……
二人も、大分疲弊してしまっているうえ、コクエン君の他の配下の子は、すでに全員ダウンしてしまっており、これ以上、彼らに戦闘を継続することはできないでしょう。
「これでよし……今のうちに脱出しよう!!」
そして、相手の動きが止まったのを確認すると、さくらちゃんはみんなにそう号令しました。
少し中途半端気味な展開ですが、今回の目的はあくまでさらわれた子達の救出ですから、みんなを放っておくことはできませんし……
コクエン君達をこの後どうするかは私達には判断がつけられないので、後で誰かに相談することになりそうです。
……無論、この後コクエン君達がこの度の行いを反省していただければ、それが一番よろしいのですが……
そう思って、その場から去ろうとしたその時……
「……なんで」
「えっ……!?」
お腹の底から絞り出したような……小さいけれど、強烈が何かが込められたような声が……
「チクショウ! なんで勝てねぇんだーーーーッ!?」
「コクエンッ!?」
それは、風にカードに捕縛されたままの、コクエン君が発したものでした。
魔力を使い果たし、もう身動き取れない状態だったはずですが、その身体からはさっきよりも強い光が放たれており……
「どいつもこいつも、俺の事を見下しやがって……!
コイツは……誰にも負けない! どんなヤツでもぶっ壊せる最強のマギロッドじゃなかったのかよぉーーーッ!?」
その光は、コクエン君が怒りを露にしながら、それを示す言葉を発す度に強くなっていき……
それに呼応するように、地面は揺れ始め……
「そんな……魔力値が、どんどん上昇していく……!?」
「こ、コクエン!? お前いったいなにしたんだよ!?」
コクエン君の状態は、二人にとっても想定外だったらしく、フェイトちゃんも、ゲン君も、この事態に慌てはじめ……
「あっ! 風のカードが……!!」
コクエン君を拘束している風も、内側から膨らんでいくように、コクエン君の身体から離れ始めていました。
「アホな……!? さくらの使うた4大元素カードをはじくやて!?」
ケロちゃんにも、この事態は流石に予想外だったようで、彼を完全に押さえつけていた風は彼の放つ光が強くなるたびに、引きはがされていき……
「チクショオオオオオオオオオオオオオッ!!」
そして、コクエン君が、これまでにない強い叫び声をあげた瞬間、風の戒めは完全に解かれてしまい……
同時に、コクエン君に呼応するように、あちこちの地面から強烈な光が、あちらこちらから立ち上っていきました……