知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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ふしぎ体験と偽りの笑顔

 

 

……なんだか、大変な事になっちゃった

 

 

今日の夕方、私はいつものみんなと一緒に帰宅してる途中、

夕暮れ時の帰り道、いつの間にか知らない路地裏にたどり着いた子が、

黒いローブを着た黄昏の魔法使いと言う人から

魔法の杖を受け取ったという、最近小学生の間で流行っているという噂について話していた。

 

 

この手の話は好きだし、そうだったら面白いなとは思ってたけど

流石に、私も本当だとは思っていなくて

みんなも、単なる噂だって笑ってたんだけど……

 

 

「黄昏時っていうのはね……」

 

 

ここで、山崎君が便乗していつもの嘘話を始めたので、

これまたいつものように千春ちゃんに襟をつかまれてガクガクされてしまい

黄昏の魔法使いの話は、そこで終わりになってしまった。

 

 

山崎君、打合せなしで見事なコンビ技を見せてくれたエリオル君や

話に、ものすごい勢いでだまされてくれる李君が帰ってからは

だいぶ寂しそうにしてたけれど、今は、もう大丈夫みたい。

 

 

……ちなみに、山崎君のウソに同じように騙されてばかりのさくらちゃんは、

今日は知世ちゃんとの約束があるそうで、今日は先に帰ってしまった。

 

 

なんだか、最近はそう言って先に帰っちゃうんだよね。

 

そう言えば、クラスメートの子が、月峰神社で、

他所の学校の子とさくらちゃん達がよく一緒に居る所を見たって言ってたけれど……

 

 

さくらちゃんの新しい友達なのかな?

まぁ、さくらちゃんなら別におかしなことでもないけれど……

 

 

……それにしても、最近はふしぎ現象が全然起こらないなぁ

 

 

去年や一昨年は、お化け騒動に、不思議な雷や雪に雨。

遊園地でのポルターガイストに、消えちゃった古本。

人形泥棒騒動や、ひっくり返ったペンギン大王と、

色々な事件が色々起こっていたけれど

最近は、何も起こらずにとっても平和……

 

 

最近の不思議な噂話は、友枝町から海鳴市の間で

黄色い妖精っぽいものが空を飛んでいたっていう話だけ。

 

 

私も、黄色い妖精か黄昏の魔女にあってみたいなぁ……

 

……と、少し上の空になってそう考えていたら

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

突然聞こえてきた、千春ちゃんで現実に引き戻された。

 

何が起こったのかと、千春ちゃんの方を見ると……

 

 

「や……山崎君が……消えちゃった!

 しっかり、掴んでたはずなのに……姿が薄くなっちゃって……!」

 

 

そう言って、掌を見つめながら青ざめた表情でそう言っていた。

 

 

消える……あれ? 確か、こんな事が前にもあったような……

確か、臨海学校で……?

 

 

頭の中で引っかかったので、臨海学校の時の事を思い出そうとするけれど

違和感の正体が難なのか、思い出す事は出来ない。

 

とにかく、今は千春ちゃんを落ち着けて

山崎君を探さないと……。

 

だけど、突然遠くから奇妙な音と、騒ぎ声が聞こえてきて、

ただならぬ雰囲気を感じたので、そちらの方へと振り向いた所……

 

 

私達の目に入ったのは、モヒカンに剃り込みといった、

あからさまに不良っぽい髪形をした子達が

まるで地面を滑るかのような動き方でこちらに向かってくるのが見えた。

 

 

あまりの事に、つい悲鳴を上げて逃げたものの

途中で、私はみんなとはぐれて一人だけになってしまった所を見つかってしまい、

不思議な光に包まれたかと思うと身体が浮いてしまって、

そのまま、不思議な空間まで連れ去られてしまったのだ。

 

 

てっきり宇宙船にでも連れていかれるのかと思ったのだけれど、

連れていかれた先は、ちょっと古めの小学校っぽい建物で、

地面に下ろされた所……

 

 

「ようこそ! 友枝小のお姉さん!!」

 

 

彼らのリーダーだという子、宵闇コクエン君が

丁寧に出迎えてくれたのだ。

 

あまりの展開に、理解が追い付かず……

 

「……もしかして、宇宙人?」

 

 

「んがっ!?」

 

思わず、そんな事を口にしたら思いっきりずっこけられてしまった。

 

だけど、コクエン君はそれで気分を害した様子はなかったので、

私の当初の不安はどこへやら、この状況について、色々と話を聞いてみたくなり

これまでの事を質問してみると、彼らは快く答えてくれた。

 

 

聞いた所によれば、コクエン君達は、なんと噂の黄昏の魔法使いから

直接、魔法の杖を貰った子達なのだという。

 

コクエン君はこのあたりで一番強いロッドマイスターで、

少し、周辺の子達をあらかた子分にしたので、他の学区も支配下にするという

私にはちょっとわからない理由で、友枝町に来たそうだけど……

 

友枝町には、同じく魔法を使う子が居たらしく

その子が彼らの前に立ちはだかった結果

私を含めて二人だけしか連れてこれなかったのだとか……

 

 

その子について、何か知らないかと尋ねられたけれど、

私も、そんな子の話は聞いた事がないので、正直にわからないと答えた。

 

 

ただ、友枝町では前に不思議な事件が起こっていたから、

もしかしたら、その時に誰かが活躍してたのかもしれないと教えてあげた。

 

 

同じ部屋に居た他の子達は、私が楽しそうにしていたからか、

私達がしゃべってるのを見て、あっけにとられていたけど

 

私は特に気にせず、せっかくに不思議体験だからという事で

コクエン君に色々な話を聞かせてもらう事にした。

 

 

コクエン君はそのまま嬉々として、いろんな話を聞かせてくれたが

しばらくすると、流石にしゃべりすぎたのか、少しノドが乾いてしまったそうで

お茶を入れに行ってくると、部屋の外へ出ていってしまった。

 

冷静に考えると、魔法の杖を貰った魔法使いが、

あんなにペラペラと秘密しゃべっていいのかな……?

 

 

アニメとかだと、正体がバレたら魔法の国に帰ったり、

動物に変えられちゃうこともあるけど……

 

 

「……姉さん、度胸あるなぁ

 自分を誘拐した連中の大ボスに、臆せず話し込むやなんて」

 

 

……ふと、後ろから関西弁で話しかけられたので振り向くと

そこに居たのは、赤いレオタードを着て

うさ耳つきのサンバイザーを付けた、金髪で褐色肌の女の子。

 

外国人と言うには日本人っぽい顔つきなので、

おそらくは日系人なのだろう。

 

 

服装に関しては、、色々と言いたいことがある子だけれど

話を聞いてみると、この子も買い物の途中で

彼らに連れてこられたのだとか……

 

 

「日本も、だいぶ物騒になったもんやなぁ……

 はぁ、テリーがあれば……」

 

そのテリーと言うのが、なんの事なのかはわからないけど

今、ここから脱出する手段は無いみたいだ。

 

 

そして、連れて来れたタイミングから私と一緒だった

白いロングスカートの制服を着た子は、

部屋の隅っこの方で、不安そうな顔をしながらおとなしくしていた。

 

 

どうも、友枝町の子じゃなくて海鳴市から来たそうで

なんで友枝町にいたのかが気になる所だったけど、

あまり積極的に関わってくる様子はなかった。

 

 

「おまたせ、遅くなっちゃってごめん

 アリサちゃん、みんなにお茶をよろしく!」

 

 

「わかりました~」

 

 

そうこうしていると、コクエン君がお茶を入れて帰って来てくれてたのだが、

何故か、メイド服を着た子も一緒だった。

 

 

あの子の名前になにか思う所があるのか、

さっきの子は名前を呼ばれたときにほんの少しだけ反応したけど

メイド服の子を見ると、また壁の方へと向いてしまった。

 

 

知り合いと同じ名前なのだろうか?

 

 

「はい、どうぞ。」

 

 

メイド服の少女アリサちゃんは、コクエン君に言われた通りに

お茶のカップを渡してきたので、私はそれを受け取った。

 

この子も、コクエン君の仲間なのだろうか?

友枝町に来た事は、ずいぶんと雰囲気が違うし……

 

……それに、なんだか顔をよく見ると

眉間と口の端にしわが寄ってる様な気が……?

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

まったく、ひどい目にあった……。

 

 

コクエンは、女の子に対して、思ったよりは紳士的ではあったけれど、

その分、馴れ馴れしくもしてきたので、こっちは大変だった。

 

 

隙あらば、肩や腰に手を回して来ようとするし、

事あるごとに自慢話を挟んでくるのが正直うざったい……

 

 

……変装がバレてないのはいいことだし、

こうやって連れてこられた子達の、居場所が分かったのはなによりだけど……

 

 

逆に食いつかれすぎて、言い寄られるのがあまりにもキツイ……

 

 

ぬいぐるみのふりをして、お菓子に手が出せないケルベロスに対し

 

「その子、アリサちゃんのマスコット?

 キミによく似合う、かわいいぬいぐるみだね!」

 

僕に対するアピールのつもりだったのだろうけど、

ケルベロス本人はその言われ方が気に障ったのか

コクエンに対して、怒気を放ち始めていた。

 

 

……今は目立つわけにいかないので、ケルベロスの怒りを無視しつつ

部屋の中の子達にお茶を配っていると、貴賓室の入り口がノックされた。

 

扉を開けたのは、コクエンの部下の一人で、彼は部屋の中を見て

一瞬息を飲んだのちに、コクエンの方を向いた。

 

 

「コクエン様、あの子がいらっしゃいました。

 応接室の方で待たせてます。」

 

 

「ああ、もうそんな時間か……

 ……それじゃあ、俺はちょっと用事があるからまた後で

 アリサちゃんも、このままここで待っててくれ。」

 

 

どうやら、誰かが来たのを知らせに来たみたいだ。

 

それを聞くと、それまでこっちに食いついてきたコクエンは

やや名残惜しそうにしながら、部屋から退出していった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ようやく離れられて、ほっと一息をつく。

なんだか、いつもよりもすごく疲れた感じだ……。

 

 

(……ユーノ、顔が戻ってへんで)

 

 

 

ケルベロスに指摘されて、自分の顔を障ってみると、長く愛想笑いを続けていたからか、

目と口の筋肉がつって、笑顔から戻らなくなってしまっていたので、

慌てて指先でマッサージし、なんとかそれを元に戻した。

 

 

だけど、その行為は不審に思われてしまったようで、

視線を感じて、改めて部屋の中を見回すと、

連れてこられたであろう子達が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

 

とりあえず、さらわれていった人がちゃんといるか確認しなくちゃ……

 

 

まずは、友枝町の制服を着た、さくらさんの友達の奈緒子さん。

……うん、他に同じ制服を着てる子はいないし、

さくらさんから聞いた特徴も一致してる、彼女で間違いないだろう。

 

 

そして、見慣れた制服を着ているのがすずか。

流石に、彼女はなのはとの付き合いで何度も見た事があるので見間違えることはない。

 

 

その他にも、いろんな学区にも手出ししているようで、

各々別の制服や、私服を着た子達が居たけれど……

 

 

約一名、なぜかバニーガールっぽい子まで居たのには驚いた。

見た所、純粋な日本人ではないようだけど、

なんでこんな格好をしてるんだ……?

 

 

「なんやメイド少女、ウチの格好に文句あるんか?」

 

ガンを飛ばしていると思われたのか、つっけんどんな感じにそう言われてしまった。

 

 

奇妙な格好だが、作戦のうちとはいえ、僕もこの格好をしている以上、

そう言われると何も言えないので、彼女の事はとりあえず放っておくことにした。

 

 

さて、さらわれた子達の居場所はわかったけれど

どうやって、ここから連れ出したものか……?

 

 

ドアに鍵はかかっていないようだけれど、流石に見張りは居るし

彼らを何とかしたとしても、ここから正門までの間、誰にも見つからずに行ける訳がない。

見つかったら、さすがに連れ戻されるだろう。

 

 

なのは達に連絡を取ろうにも、預かった携帯は、結界のせいで通じないみたいだし、

念話も、遠距離で使った場合、横から傍受される可能性を考えるとおいそれとはできない。

 

……紫さんの力を借りようと思っても、

あの鏡は、知世さんが持っているので連絡を取ることもできない。

 

コクエンに頼んだ所で、あの食いつきようじゃ、簡単に外に出してくれなさそうだし……

 

「いったいどうやって……ん?」

 

……どうしたものかと悩んでいると、部屋の隅にある小さな通風孔に目が行った。

 

見た所、直接外に通じているようで、ここを通ることができれば、外に出ることができそうだが、

フェレット姿ならばともかく、この姿で通るのはまず無理だろう。

 

ましてや、今はフェレットに戻るのに、

さくらさんの力を借りなきゃもどれないし……

 

 

……そうなると、出来る事はひとつしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ほんまに、一人で大丈夫なんか?)

 

 

 

(とりあえず、この格好してればなんとかなるとおもうから……

 見取り図はこれに書いておいたから、これをみんなに……

 あと用心棒……ゲンの事も忘れずに伝えておいて)

 

 

僕は、部屋の隅の通風孔の前にしゃがみ込むと

ケルベロスを見られないように体を壁にしつつ、

内部の見取り図や、注意点を描いたメモを、ケルベロスに渡して、通風孔へと送り込んだ。

 

 

これで、ケルベロスが外に出られれば、みんなにも中の事が伝わるはず……

 

 

僕だけでは、みんなを脱出させる事は難しそうだけど、

外のみんなと協力すれば、何とかなるはずだ。

 

 

後は、みんなが到着するまでここで待っていればいい。

そう思って、空いていた椅子に腰かけて休憩しようとした所……

 

 

「アリサちゃーん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

 

 

ちょうどそのタイミングで、コクエンがドアから顔をのぞかせながら

申し訳なさそうな顔で、僕の事を呼びに来たのだが……

 

 

その光景を見た僕は、コクエンの顔にうんざりしつつも

お願いに対して激しく嫌な予感を感じたのだった……

 

 

 

 

 


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