知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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ロッドマイスター

 

 

友枝町を襲ってきた不良達を追跡している途中で出会った

髪を金髪に染めている、青いノースリーブの男の子……

 

 

手に握っている杖にも槍にも見えるそれは、

不良の使っていたものと同じ、ストレージデバイスに酷似しているけど

よく見れば、やはりどこか違う代物だ……

 

 

「その杖……ロッドマイスター……それに使い魔か、

 お前たちも事件の関係者か?」

 

 

彼は、呼びかけ通りに姿を見せた僕たちの事を、

一通りみんなを見回してからそう言った。

 

 

使い魔は、ほぼ間違いなくケルベロスの事だろうし、

事件は、あの奇妙な格好の連中についてだと思うけど……

 

 

「ロッド……マイスター……?」

 

 

聞きなれない言葉を耳にして、僕達は首をかしげた。

なのは達はもちろん、割と博識なケルベロスも、

それがなんのことなのかわからないようだ。

 

 

「なんや青小僧、思わせぶりな態度取りよって、

 ……ロッドって、さくらとなのはの杖の事言うとるんか?」

 

 

ケルベロス、初対面でその言い方は、失礼すぎやしない……?

 

 

「そのつもりで言ったんだが……

 お前達は杖を受け取った時に、そう言われなかったか?」

 

 

「受け取った時……? 私のは、ケロちゃんから受け取って……」

 

 

「私は、ユーノ君から譲ってもらったんだけど……」

 

 

うーん、なんか話がかみ合わない。

 

お互い、魔法の使い手ではあるようだけれど、

どこかに認識の食い違いがあるみたいだ。

 

 

……と言うか、なのは

僕はまだレイジングハートを貸してるだけで、

譲った覚えはないんだけれどな……

 

 

いや、確かに僕より遥かにうまく扱えてるし、

当面返してもらう気はないんだけれど、

正式に譲ったって話になると、あとで面倒なことに……

 

 

「……なるほど、全く別系統の使い手か。

 

 そういう希少な使い手がいるという話は聞いていたが、

 こんなところで出会うなんてな……」

 

 

そんな事を考えている僕をよそに、

向こうは向こうで、なんだか一人で納得していた。

 

 

……とりあえず、レイジングハートの所有権は後回しだ。

彼は僕達の知らない何かを知っているようだし、

ここで、情報を引き出しておきたい。

 

 

「君は、デバイス……

 手にしてるそれや、あの不良達が使ってた、

 杖についてなにか知ってるのか?」

 

 

「デバイス……お前達はそう呼んでるのか……

 俺達は、マギロッド(魔術師の杖)と呼んでる。

 どういうものかは…今更説明する必要はなさそうだな……」

 

 

マギロッド……用途はその名の通り、魔法を使うためのものなのだろう。

何度見ても、どことなくストレージデバイスに似ているが、

先ほどの戦闘を見る限り、性能は決して低くない。

 

 

「その杖は、いったいどうやって手に入れたのですか?

 えーと……」

 

 

そう言えば、まだ名前を聞いてなかったっけ。

 

 

「ん……悪い、まだ名乗ってなかったな

 俺の名前は闇雲ミヅチ、龍神小学校の生徒だ。」

 

 

ミズチ……少しとっつきにくい雰囲気があるけど、悪い奴じゃなさそうだ。

 

 

「自己紹介ありがとうございます、大道寺知世と申します。

 こちらは、木之本桜ちゃんで、こっちが高町なのはちゃん、アリサ=バニングスちゃん、ユーノ君

 ……そして、こちらの大きいのがケルベロスことケロちゃん。

 見た目は迫力がありますけど、こうみえて気さくで陽気な性格ですわ。」

 

 

名乗ってくれたミズチに対し、知世さんは僕達の紹介をしてくれたのだが……

 

 

「大道寺……」

 

 

何故か知世さんの苗字を口にすると、ミヅチはわずかに眉間にしわを寄せていた……

なんだか、イヤな事を思い出したような表情だけど……

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

 

「……いや、知り合いに同じ苗字のやつが居てな、

 いろいろと性格に癖のあるヤツだったから、その……わるいな。」

 

 

どうやら、大道寺と言う名前に別の心当たりがあったようだ。

 

察するに、あまり仲は良くないみたいだけど、

一体どんな性格の相手なのか……

 

 

「……奴等の仲間に見つかると厄介だ、

 お前達も、たぶん行先は一緒なんだろう?

 

 ……ついて来い、こっちが森の出口だ。」

 

それ以上その大道寺について口にする事もなく、

ミズチはそう言うと、足早に森の奥へと進んでいってしまった。

 

 

どことなく、疑わしい雰囲気を持っているけれど、

とりあえず信用は出来ると思う。

 

「とりあえず、ミズチ君について行ってみましょうか、

 どうやら、行先は間違っていないようですし……」

 

「連中が潜んでても、ワイにはまるわかりやからな、

 警戒しながら、進むことにしよか。」

 

 

そんなわけで、周辺に最大の注意を払いながら、

僕達は彼の後について行くことにした。

 

 

「……さて、マギロッドをどうやって手に入れたかの話だったな。」

 

 

そうして、みんなで少し歩いたころ、

ミヅチがさっきの僕の質問に対して答えようとしてくれた。

ただ、その内容に関しては……

 

 

「……悪いが、こちらにも色々と話せない事情がある、

 俺がこのロッドを手に入れた理由は教えられない。」

 

 

「ちょっと! なによそれ!!

 思わせぶりなこと言っておいて……」

 

全く教えてもらえないのも同然の返答だったので、すぐさまアリサは激昂してしまったのだ。

 

「アリサちゃん、落ち着いてくださいませ。

 他人に話せない事情があるという意味では、私たちも似たような立場ですし……」

 

 

そんなアリサを、知世さんがなだめられておちつかせる。

ただし、顔はしかめっ面のままだったけど……

 

 

……正直簡単に答えてもらえるとは思わなかったし、

僕達も、これまでの事を他人に全部話せるかといわれると……

 

 

魔法少女の一件もそうだし、

幻想郷の皆さんについても特に口止めはされていないけれど、

軽々しく話していい話題ではないはず……

 

 

ミズチはとりあえず敵ではなさそうだけれど、

むやみにこちら側の情報を渡すわけにはいかない。

 

 

……他人の事が言えるのかと言う心の声は、

とりあえず無視する事にした。

 

 

 

「……ただ、他のロッドマイスターは、

 ある特定の地域で最近使い手が増えているそうでな……

 この先につながっている街も、最近ロッドマイスターが増えている地区の一つだ。」

 

 

「特定の地域……? 海鳴じゃ聞いた事ないけど、

 ……いったいなんでそんな事になってるのかしら?」

 

 

アリサの口にした疑問はもっともだ。

 

当然ながら、どこかで販売しているわけはないだろうし、

ばらまいた所で、得があるとも思えない。

 

 

 

「さぁな……その辺は俺にもわからん

 ただ最初期の奴は、三ヶ月くらい前から、杖を手に入れたと聞いている。」

 

 

……わからないって言ってる割に、結構詳しいな。

 

三ヶ月前というと……

僕は、まだなのはと出会うどころか、

ジュエルシードを発掘して間もないころだ。

 

 

「三ヶ月ほど前……」

 

「李君が帰国して、すぐの頃になりますわね。」

 

 

彼の話が本当ならば、そんな前からあのデバイスによく似た杖が

バラまかれていた事になるけど……

 

……ん? 待てよ、そんなに前からバラまかれていた……?

 

その頃、ジュエルシードは発掘したばかりだから、

まだ管理してもらうかどうかすら決まっていない時期で、

あれを狙ってきたフェイトも、情報はおろか存在すら知らないはず……

 

 

あのデバイスもどき、てっきり彼女がらみだと思っていたけれど、

別の誰かが、あれをばらまいているのか……?

 

 

「ついたぞ、どうやらあいつ等はここからいろんな街に繰り出していたようだな。」

 

 

ミズチの声で、思考の海から我に返ると、

僕達はいつのまにか、どこかの町の入り口らしい場所に立っていた。

 

 

そこそこ大きな町のようだが、海鳴市とも、友枝町とも雰囲気が違う。

 

 

「ここは……山茶花町という所らしいですわ、

 結構、離れた場所まで来てしまいましたわね。」

 

 

知世さんが、手にしたスマートフォンで現在位置を確認する。

僕達も画面を確認させてもらうと……

どう考えても、歩いてきた距離が合わないほどの遠い場所だ。

 

 

振り返ってみると、そこに見える景色も、

いつの間にかこれまで歩いてきた森が消え、普通の道路と街灯のならぶ

通常の光景へと変わっていた。

 

 

「こんなの、初めてだ、

 君は、前からあの空間の事を知って……

 

 ……あれ、ミズチ?」

 

 

そして、あの空間についても訪ねようとしたところ、

ミヅチは、いつの間にか姿を消してしまっていた。

 

さっきまで、すぐそこに居たのに……

 

 

「あいつ、いつの間に……

 まったく、勝手なやつねぇ……」

 

 

「一人で、あの子たちの所に行ったのかな……?」

 

 

各々が、ミズチに対しての感想を口にする。

なんとも、謎の多い子なのは間違いないけれど……

 

 

「もしかしたら、私達を巻き込まないようにしてくれたのかもしれませんね。

 

 ほら、さっき森の中にいた子達を追い払っていましたから、

 追手がかかっていると思ったのではないでしょうか?」

 

 

言われてみれば……

 

 

さくらさんのおかげで、僕達は見つからずに済んだけれど、

ミズチは顔を見られて、さらに逃がしてしまっているのだから、

追っ手をかけられてもおかしくないはずだ。

 

 

「……奈緒子ちゃん、ここにいるんだよね。」

 

 

「恐らくは……

 でも、この町も結構広そうですし、

 どうやって探したものか……」

 

 

さくらさん達は、連れ去られた友達の心配をしている。

無論僕達も、すぐに助け出したいに行きたいけれど……

 

ここはあいつらの本拠地、どこで何が待ち構えているかわからない。

事は、慎重に運ばなければ……

 

 

……それに、この世界でこんな時間に小学生が出歩いている所を

町の大人に見つかったら、大変なことになってしまう。

 

……なのはと出会う前、おまわりさんに見つかった時は大変だった。

不法滞在もいいとこだから、詳しい話が出来る訳もなくて逃げるしかなかったんだよね……

 

 

あのおまわりさん、いい人そうだったから、

あの時は、なおの事心苦しく……

 

 

「……ん? ねぇ、ちょっとアレを見て」

 

 

アリサの声で、回想を中断して指さした方を見ると……

そこにいたのは、ごく普通な雰囲気の小学生の男女。

 

僕たちが言えた義理ではないけれど、

こんな時間帯に外を歩き回るのは不自然と思われる二人組だ。

 

 

なにか、周囲を警戒している様子だけど、アレも襲ってきた奴等の仲間なのか……?

しばらく眺めていると、こちらに視線を向けて来たので、僕達はすぐさま身を隠した。

 

 

 

「なんで、こんな時間にこんな所を……」

 

 

「夜中のデート……ちゅう雰囲気でもなさそうやな……

 お、あの店に入りよったで。」

 

 

いつのまにか小さい姿になっていたケルベロスの、

あまり適切でない発言は無視することにして……

 

 

二人は、警戒を追えると

そのまま、そこにあった少し派手な看板のお店へと入店していった。

 

 

僕達も、その店の前まで行って看板を確認すると、

そこには、【ウサオちゃん喫茶】という文字が……

 

 

「どうやら、喫茶店……の様ですわね」

 

 

「ほえ……でも、なんでこんな時間に……?

 もしかして、あの子たちと何か関係があるのかな……?」

 

 

 

「とりあえず、入ってみましょうよ。

 お店ってことは、中に大人がいるでしょうし、

 いきなり襲ってこられたりもしないでしょ。」

 

どうかなぁ……その大人がグルだったとしたら

なおの事、ピンチになるんじゃ……

 

―――グー……

 

そんな不安な雰囲気を余所に、またもや僕のお腹が鳴ってしまった……

みんなの視線が一気に集まって、またもや僕は赤面してしまう。

 

「あんたねぇ、こんな時にお腹鳴らすなんて緊張感ないんじゃないの?」

 

「まぁ、あれから結構時間もたってるし……仕方ないよ。」

 

「ごめんね……お夕飯もっと持っていければよかったんだけど……」

 

 

アリサからは呆れ、さくらさんからは慰め、

なのはからは申し訳なさそうに謝罪の言葉が向けられる……

 

 

……僕って、こういうキャラだっただろうか?

 

 

「仕方ありませんわ、とりあえずお店に入って、

 注文しながら、中の様子をうかがうことにしましょうか。

 

 事情が事情ですし、今回は私がお支払いしますわ。」

 

 

「そんな……二度もおごってもらうわけには……」

 

 

さっきのパンとコーヒー牛乳の代金も、当面返す当てがないのに、

これ以上おごってもらうのは、さすがに申し訳が……

 

 

「いいえ、ユーノ君も自らの危険を顧みずに、

 ジュエルシードを回収しに来てくれたのですから……

 これは、私からのほんの恩返しですわ。」

 

 

なんだろう……この心遣いに

なぜか、目から熱いものが零れ落ちそうになってきた。

 

 

「……と言う訳で、さっそく中に入ってみることにいたしましょうか。」

 

 

そういうと、知世さんはドアノブに手をかけて扉を開いたので、

僕達も、それに続いて店の中に入ると……

 

 

そして、僕達はそこで驚くべきものを目にしたのだった。

 

 

 

……ある意味、誰も想定していなかった方向性で。

 

 

 

 




第三章はここまでとなります
次からは第四章になる見込み

今回、特殊タグからついに名前付きが出てきましたが
このタグを使う場合、作品名はタグにならないのであしからず


……構成的に、やっぱSRC向けかも

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