知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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プロローグ
大道寺知世の憂鬱


「ふぅ……」

 

 

4月も末になろうかという頃、自室の窓辺で夜空を眺めながら……

私は、大きくため息をついていました。

 

 

私の名前は大道寺知世、ビデオカメラの撮影と撮影に使う衣装の製作が趣味な、数日前に小学6年生になったばかりの少女です。

 

 

「きれいな満月ですわ……

 ……初めてさくらちゃんの魔法を撮影したのも、こんな夜でしたわね。」

 

 

2年ほど前、ちょっとした用事で夜道を歩いていた時に何気なく空を見上げると、そこで翼の生えた杖に乗って空を飛ぶ女の子と、その横に飛んでいる黄色いぬいぐるみの様ななにかを目撃し、手に持っていたビデオカメラでその光景をビデオに収めました。

 

 

その不思議な光景に驚きながらも、帰って、ビデオの内容を確認すると、そこには私の大切な人……さくらちゃんが写っていたではありませんか。

 

 

……翌日、目覚めた私はあれは夢だったのではないかと思いながら、改めてビデオカメラを確認すると、そこにはやはりさくらちゃんと黄色いぬいぐるみさんが写っておりました。

 

 

その光景が現実だと確信したのち、映像を映したビデオをカバンに入れて早めに登校すると、教室にはすでにさくらちゃんが席についておりました。

 

 

まだ他の生徒は来ていらっしゃらなかったので、これ幸いとさくらちゃんにビデオを差し出し、写っていた内容についてさ尋ねると、さくらちゃんは可愛らしい悲鳴をあげてしまい……

 

更に、その叫び声に反応して、さくらちゃんと一緒に写っていた黄色いぬいぐるみさんが関西弁でしゃべりながら、カバンの中から飛び出してきました。

 

 

ケルベロスと名乗った黄色いぬいぐるみさんの話によれば、さくらちゃんはクロウカードと言う、魔術師クロウリードという方の作った魔法のカードで、偶然魔法を使ってしまった結果、他のカードを町中にばら撒いてしまったとのこと。

 

 

そして、それぞれが意志をもってイタズラをしたがるクロウカードを回収する為に、ケルベロスさんことケロちゃんによってカードの回収者『カードキャプター』になったのだとか。

 

 

最初、さくらちゃんはカードキャプターとしての使命を嫌がっていましたが、カードを回収していくにつれカードキャプターとしての使命を自覚していき、最終的にクロウカードの正当な主として認められました。

 

 

その中であった、様々な出会い……

 

 

中でも、最初はライバルであった転校生『李小狼』君との関係は、お互いのぶつかり合いや触れ合いによって、いつしかお互いを、自分の一番大切な人と意識する関係になっていき……

 

 

そのさくらちゃん達の活躍を、私はずっとビデオに収め続けてきました。

残念ながら、帰国する李君との場面を収録する事はかないませんでしたが……

 

 

さくらちゃんと李君だけの大切な思い出に、踏み込むのは無粋と言うものでしょう。

いずれまた、いい場面を撮影するシーンは巡ってきますわ。

 

 

最近は、さくらちゃん大活躍の場面を撮影するためにカードのひとつ『創(クリエイト)』のカードを使って敵となる怪物を作成していただき、それをさくらちゃんが退治する場面を撮影しています。

 

 

……ただ、これはこれでいいシーンが撮れるのですけど、やはりかつての活躍とは違うように思えてしまうのです。

 

 

それでも、さくらちゃんを撮影していれば、ごく普通の日常でも楽しいのですが、李君が帰国した現在はさくらちゃんの表情がすこしさえ無くて……

 

 

「なかのよさげな女の子達の仲間達が活躍する物語では、こういうタイミングで新しい事件が起こったりするものなのですけど……」

 

 

2年前と、同じ輝きを放ち続けている夜空の満月を眺めながら、再びため息がもれてしまいました。

また新しい事件が起これば、凛々しいさくらちゃんを撮影するチャンスなのですが……

 

 

ただその場合、さくらちゃんもまた大変な目に会ってしまいますが……

でも、私はさくらちゃんの活躍を撮影したいだけで事件が起こるのを願っているわけではありません。

 

 

『絶対、大丈夫だよ。』

 

 

さくらちゃんの、超絶無敵の魔法の呪文があれば、例えどんな事件に巻き込まれたとしても最高の形で事件を解決してくれる……

 

 

そう信じているからこそ、新しい出会いのきっかけが起こる事を望んでいるのです。

 

 

……などと少し格好をつけた事を考えていると、猛烈な眠気が襲ってきてしまいました。

 

 

「……もうこんな時間ですか……そろそろ、もう寝ませんと……

 この事についてはまた今度考える事にしましょう……ふわぁぁ……」

 

 

 

明日も学校があるので、今日はこの辺で休む事にしましょうか。

 

 

さくらちゃんが活躍する夢を見れるように願って、私は電気を消し目をつむって眠りにつきました……

 

 

 

……この時、私は気づいていませんでした。

 

 

 

私達の住む世界とは別の世界から来た人達により、この世界にはすでに新しい事件の兆候が表れていて……

 

 

さらにこれから数日後、さくらちゃんがある女の子と出会った事をきっかけに様々な新しい事件に巻き込まれて……

 

 

 

その結果、事件の展開は本来の流れと大きく異なり、様々な思惑や悲しみで造られた闇を払って、その奥で悲しく輝いていた真相を見つけ出す事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、その新たな出会いの日に、家の用事でさくらちゃんと出かける事が出来なかった為、新しい仲間との出会いのシーンを撮り逃がした事を心底悔やむ事になろうなどとは、考えもして居りませんでした……

 

 

よよよ……超絶くやしいですわ~……

 

 

 

 

 

 


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