剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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28.仕事の八割は準備。もっともだるいのは残りの二割。

「えーと、猟場近くの救護テントと医薬品は……良し。魔物や獣が襲って来た時の防護柵――これは現在強化中。……団長、この逃げ場って何ですか?」

「ん? あぁ、防護柵で作った道の事だ。獣とかに追われている奴らはその中を走って逃げる。で、後を追ってきた奴を、柵を通して弓とか槍で攻撃するって奴。これに関しちゃ、ラヴィの方が詳しいからそっちに振っておく。後必要なのは?」

「露店商のチェックは騎士様がやってくださるそうなので、重要なのは倉庫の拡張でしょうか。もう、村の人達達がどんどん森で狩猟や作物の確保を始めているそうなので……」

「分かった、そっちは俺とエリーが行こう。パルフェは騎士さんと一緒に動いてくれ。文字読めるだけでも役に立てるはずだ」

 

 治安維持連隊の補佐。

 それがゲイリー達が受けた仕事(クエスト)である。では、治安維持連隊から派遣されてリスベットの仕事は何か?

 簡単に言えば、祭で起こる事故、揉め事の対処、怪我人などの対応に物資の管理等々……。いわゆる裏方の仕事を、村の自警団を使って行う事だ。

 

「なんだかんだでデカい村だ。近くの集落にすむ人間もこっちに来て祭りをやる事になると思う。狩りも兼ねた自警団や猟師の活動が活発になる。獣の反撃喰らうのはもちろん、誤って狩猟用の罠にかかってしまう奴もいるから、そこら辺を警戒する必要があるなぁ……」

 

 ゲイリーは、全体的な流れを見るため、基本宿の自室で地図や書類とにらめっこだ。

 交渉事が必要な時は、エリーを引きつれてリズの部屋、あるいは自警団の屯所へと足を運んでなにやら話し込んでいる。

 珍しく外面を全力で取り繕っているゲイリーと、人当たりのいいエリーのコンビはかなり成功しており、特に地元の人間からの評判は非常によろしい物となっていた。

 

「うっし。エリーと一緒に行ってくるか。アイツ、今どこにいる?」

 

 さきほどからラヴィとエリーの二人の姿は見えない。

 

「あ、副団長とエリーちゃんなら――」

 

 行方を聞いていたパルフェは、ゲイリーの隣に行き、一緒に地図を覗き込むような体勢になる。

 そしてそのまま、地図の一か所を指差す。

 

「狩り場や柵の様子の視察も兼ねて、川の辺りを散策してくるって言ってました」

「……アイツら、一応俺に報告しろよ」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 集落が起こる場所というのは、大体いくつかの条件がある。

 まずは当然、開けた平地がある事。

 近くに山菜等がある程度育ち、かつ獣が生息する森や山がある事。

 そしてもっとも大事なのは、飲食や農作業に使う水が確保できる、川や泉が傍にある事である。

 

「元々、良質な農作物が取れていた村。やっぱり水は綺麗」

「見た所魚も多いですし、餌を仕込んだ魚篭(びく)仕掛けたら、結構掛かりそうな気がしません?」

「……おぉ」

 

 エリーの提案に、ラヴィは少しきょとんと首をかしげてから、納得した様に、手のひらを拳で叩く。

 

 

「どうです?」

「エーちゃん、ナイスアイデア。戻ったらゲー君に許可取って、やってみる」

「なら、許可出た時のために、適当な大きさの枝は拾っておきますね。他にも使い道がありますし」

「感謝。縄なら予備のために編んでおいたからたくさんある」

 

 すでに、魚を捕まえた時の事を考えているのか黙考を始めたラヴィに、エリーはそっと、

 

「あの、ラヴィ先輩……ちょっといいですか?」

「? 何?」

「昨日の話なんですけど――」

 

 そう切り出した。ラヴィは少しだけ思い出すように目線を少し上下させて、

 

「最初っから、アタシが戦えるって事知って……その、人相手なら確かに」

 

 エリーの言葉は、最後の方が尻すぼみになる。

 ラヴィはそれで、何を言いたいのか察した。

 

「それは関係ない」

 

 だから、いつも通りシンプルな一言でそう告げる。

 

「私もゲー君も、基本的に荒事のクエストはしたくないし、エーちゃん達にさせるつもりもない」

 

 普段よりも僅かだが、強い口調でラヴィはそう断言する。

 

「ラヴィ先輩……」

「手伝ってもらいたいのは狩りの時だけ」

「…………ラヴィ先輩」

 

 一瞬きらめいた尊敬の目が、『あぁ、いつも通りだ』と瞬く間に輝きを失っていく。

 それに気付かないのか、変わらない様子でラヴィは後を続ける。

 

「そもそも、戦う人間は私とゲー君だけの予定だった。欲しかったのは裏方の人間」

「あぁ、そういえばパルフェがそんな事話してたっけ。でも、現状では、あの子は特にそうも言ってられないですよね?」

 

 エリーがそう尋ねると、ラヴィは河原の適当な大きさの岩に腰をかけて、小石をぽちゃんと投げ込み波紋を川面に描き出す。

 

「……できるだけ、そういう事は避けたい」

 

 二人の目の前にあるのはそんなに大きくない、所々が細くなっている川だ。

 エリーも適当な岩に腰を下ろして、日の光を浴びてキラキラ輝く川面に小石で波紋を作っていく。

 ラヴィは視線を川面から動かさずに、口を動かす。

 

「私は料理関係に集中したいし、ゲー君は……まぁ、アレだし」

「あぁ、アレですね」

 

 アレという便利な言葉一言で察せられるゲイリーは本当にアレである。

 

「でも、戦闘か研究のどちらかで功績を挙げられないと、最悪王家が出張ってくる。パフェちゃんにはそれくらいの価値がある」

 

 王家、という言葉にエリーは僅かに顔をしかめる。

 

「……大丈夫」

 

 そんなエリーを安心させるようにラヴィが、

 

「少なくとも、エーちゃん達が中等部を抜けるまでは大丈夫」

「? 街のルールですか?」

「ううん」

 

 首を横に振って答える。

 

「ゲー君が押さえてくれるって」

「…………押さえて?」

「肯定」

 

 自分達は今、王家についての話をしていなかっただろうか?

 記憶違いだったかと一瞬考えたエリーはとっさに今までの会話を順に辿っていく。やはり、おかしい所はない。

 

「……ゲイリー先輩が?」

「肯定。ゲー君が」

 

 再度確認するが間違いない。

 

 

 

 

 

 

「――お前ら、どこにいるかと思えばこんな所まで来てたのか」

 

 目をまん丸くしたまま、何度かパチクリさせているエリーと、僅かに首をかしげてエリーを見つめ返すラヴィ。 

 その後ろから、話題の中心になっていた男がひょいっと不機嫌そうな顔を覗かせた。

 

「おら、暇してんなら仕事しろー。代わりに俺が休むから。てか休ませてくれ。もう宿屋で酒煽って肉食って部屋でゴロゴロしてぇんだよ」

 

 そしていつも通りの戯言を吐く団長を、エリーは目を丸くしたまま『じーーっ』と観察し、

 

「いやぁ、ないわ。ないわー」

「…………どういう話題をどういう感じで話していたかは知らんがとりあえずお前とは徹底的に話し合う必要がある事だけはわかったぞこのやろー」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「それじゃあ、防護柵は問題ない感じか」

「魔物や獣が水を飲みに来る事もあるから、川の付近は元から頑丈に作ってたみたい。少し消耗している所もあるけどそこは地図に書いてあるし、分かりやすいように赤いリボン付けてるから」

「分かった。自警団に報告しておこう。あぁ、それと魚捕りの件はOKだ。行き先聞いた時にそういう話になるんじゃないかと思って、来る前に村長に話を聞いておいた。ただ、余りに多くは捕るなよ? 多いと思ったら祭りの方に回せ」

「了承。ゲー君、ありがとう」

 

 ラヴィ達と合流したゲイリーは、村へと続く道を戻りながら打ち合わせをしていた。

 パルフェはいない。一足先にリスベットの元に向かった。というか、出かける時にちょうど来ていたのでそのまま合流させて来ていた。

 

「それで先輩、アタシ達はこれから?」

「警備とか罠の状況を自警団の人から直接話を聞いて、それが正しいかどうかを視察してあの騎士に報告ってトコだな」

 

 すぐそばを流れる河で何かが光った気がしてゲイリーが目を向けると、跳ねた魚が宙を舞っていた。

 綺麗な銀色からして、結構いい魚だろうと当たりを付ける。

 現にラヴィは、水の中へと戻っていく魚を目で追い、軽く一人で頷いている。

 

「この時期は小型の魔物が動き始める頃だ。大体がくっそ長い冬眠から起きたばかりで力が弱ってるから、そこまで危険な奴はいないはず。正直な話を言えば普通の獣と変わらん。それでも人を喰い殺す事もあるから危険だが……。まぁ、詳しくはコイツに目を通しておけ」

 

 どこから取り出したのか手にしている紙の束――この近辺に住む獣や魔物の姿や特徴、注意事項をまとめた物である。

 

「ひょっとして、昨日夜遅くまで書いてたのってソレ?」

 

 なお、絵も文もゲイリーのお手製である。

 

「そ、コレだ。この村には何度か足を運んでいるが識字率までは把握してなかったからな。絵だけでも分かりやすいようにまとめておいた。スケッチがそのせいで少々大げさな部分もあるが……まぁ、なんとかなるだろう」

「先輩、面倒くさがりの怠けものなのに妙な所で働き者になるよね」

「――ここで下手に怪我人でも出れば後が更に面倒になるからな。仕事を増やさないためなら全力を尽くすしかあるまい。魅惑のダラダラタイムが遠のく」

「あぁ……そういう」

 

 感心と呆れを混ぜ合わせた複雑な顔をするエリーにとりあえずデコピンを喰らわせたゲイリーは、「あいたーっ!?」と額を片手で押さえ、抗議の唸り声と共に背中をテシテシ叩いてくるエリーを無視して話を続ける。

 

「とりあえず同じ物を5組は作っておいた。自警団の上に一つ、現場に二つ、騎士に一つ、俺らで一つ持っとけば事足りるだろ」

「村の自警団に必要? ここに住んでるんなら結構詳しいんじゃ?」

 

 エリーは攻撃を背中への『テシテシ』から太股への『ゲシッゲシッ』に変えながらそう尋ねる。

 すかさずゲイリーは紙束をラヴィに手渡し、自由になった両手がエリーの両頬へと必殺技『むに! ぐにー!』が炸裂。

 顔が横に伸びたエリーは、そのまま無言でゲイリーの腕を見た目からは想像できない握力を発揮して掴みあげる。

 

「ふん……ごごご……っ! い、いや! 地元だからよく知っているって油断する事があるからな! こういう生態や特性もあるんだぞって事を改めて! 知らせておいた方がいい! 特に! 魔物はたまに予想外の成長を――おい、エリー! ちっと緩めろ骨が軋む――きっさまぁ、誰が強めろと言った!?」

「まぁまぁっ。まぁまぁまぁまぁっ、しっかり話し合えば分かるって」

「それ俺のセリフっ!!」

 

 ぐぎぎぎぎっ、としょーもない事このうえない見苦しい取っ組み合いを繰り広げるバカとアホの饗宴を、ラヴィはいつも通りボーっと流す。

 

「質問。この周辺の魔物に不安要素が?」

「まぁ……なっ! 秋頃はともかく! 今はそういう事はないんだが! 小型の魔物は成長の過程で毒持ちになる奴が多いし、獣も危機を感じて少し凶暴に……つーかそろそろ止めに入ってくれてもいいんじゃないか!!?」

「仲良さそうだから。止めるのが躊躇われる」

「あ、やっぱりそう見えます?」

 

 

 

 

 

 

「――なんでだどこがだっ!?」

 

 

 

 


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