剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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24.『図書館の主』、『なんか怪しい人』、そして――

 

 

「へぇ、それじゃあエリーさんは、もうクエストを経験してるんだ」

「うーん、一応ね。明日――ってか、今日の放課後から準備してベースで仮眠、早朝には出発する形になるかな」

 

 商学の授業は、とりあえずは基礎算術の問題をいかに早く解けるかという事が主になっている。

 たまに、実際ショップを持っている学生の所に見学に行く時もあるのだが……少なくとも、今の所エリーには退屈だった。

 

 そんな退屈な授業の合間に、クラスメートが話しかけてくる。

 おそらく、もっともエリーが話しかけられる授業は、この商学の授業だろう。他のクラスだと、エリーはひたすら話しかける役だ。

 

「実際、クランってどう? 旨みのあるクエストって多いの?」

「そうそう、エリーさんには聞いてみたかったんだ。人によっては、ソロの方が美味しい話が多いって言うしさ!」

 

 ……もっとも、このクラスの場合は雑談というよりは情報交換という方が正しい。

 

「んー、どうだろう? 逆にアタシは、ソロでのクエストって受けたことないから……今度の仕事が終わった辺りで先輩――団長に聞いてみるよ。団長は元々ソロでやってたらしいからさ」

「エリーさんのクランの団長さんって……図書館の人だよね」

「あぁ、例の……」

「この間、先輩に紹介してもらった。論文の宿題とかが出た時の資料探しの時はこの人頼れって――」

「あら、その話なら私も聞きましたわ。顔くらいは合わせておけと」

「この間、アドミニの綺麗な受付さんに、顎に一撃入れられていた所を見たよ?」

 

(――先輩! なんで変な所で有名なのさっ!!?)

 

 思わず頭を抱えたまま机に突っ伏すエリー。だが、周りは気にせず『図書館の主』――ゲイリーについての話題で盛り上がっている。

 

「なんか、食べ物を備えると願い事が叶うみたいな噂も流れてたね」

 

 とりあえず、生き神様のような扱いをされかねない噂は片っぱしから否定していこう。

 エリーはそう決意を固めながら、級友達との会話へとまた戻っていくのであった。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「パルフェちゃんは覚えるのが早いよねー。さっきの小テストも満点だし」

 

 この街の学生となってから、パルフェはとりあえず基礎的な授業を受けている。

 基礎的な読み書き、計算、それに武器の扱い。それと、クランの足を引っ張らないようにと考えて、基礎魔物学という物を取っている。

 今はちょうど、基礎魔物学が終わったばかり。この街の周辺に住む魔物の名称と、その生息地域に関しての簡単なテストと、その解答解説というのが今日の内容だった。

 

「そんなことないよ。昨晩、魔物学の小テストがあるってベースで話したら、団長が勉強見てくれてたから……」

 

 パルフェが少し驚くほど、ゲイリーは教えるのが上手かった。そのことをパルフェが褒めると、ゲイリーは「まだ簡単な所だからな」と素っ気なかった。が、ラヴィは後で、ゲイリーが照れている事をしっかりパルフェに伝えていた。

 

「団長さんって、どんな人なの? なんか、図書館にいる人って話は聞いたことあるけど」

 

 それもどうなんだろうと、パルフェは少し複雑な思いになる。確かに、ベースにいないときは図書館にいるけど……。

 

「ど、どんな人って……弓で離れた所から狙った所に当てるのがすっごい得意で」

「ふんふん」

 

 真っ先に思いつく面倒くさがりという所は伏せておいた。なにせ、自身が所属するクランの団長だ。マイナスイメージを付けるのは気がひけたの。

 

「いつも本を読んでる勉強家で」

「うんうん」

 

 知識は凄いが、手に付く本を適当に読み漁っているので勉強家というより乱読家と言うべきである。

 

「おかげでお薬とか魔物にすっごい詳しくて」

「ほほう」

 

 正確には、金がなくてそこらの野草を食べるために知識を積み込んだからである。

 魔物も似たような理由で、一人で狩ってすぐに食べられそうな個体を調べた結果である。

 

「この間の戦闘でも、大きな魔物を毒で動けなくして」

「…………うん、うん?」

 

 女生徒の頭の上で、クエスチョンマークが跳ね上がる。

 

「この間、クランの皆で買い物に行った時もすごくてね。私がもらったメイスがどれだけ殴りやすくて、かつ手入れしやすいかをすっごく詳しく教えてくれたんだ! キチンとした使い方とか、手入れの正しい仕方とかも――」

 

 ここまでの情報をまとめてみよう。本を読んで勉強しているが知識は魔物や毒物にやや偏っているように見られ、実際に毒を使用することもある。

 おまけに弓をはじめ武器にも造詣は深く、いかにその物騒な武器をどう扱うかを女の子に説明する男。

 この街では、まぁ、あり得なくもないその特徴に、だがこの街に来たばかりのその少女の脳内では――

 

「大丈夫パルフェちゃん!? 変な男に騙されてない!!?」

「え、えぇぇっ!!!?」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「うぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………」

 

 順調に家具が増えつつあるクランベース。その家具の中で、ゲイリーの定位置に成りつつある一番大きなソファの上で、その男は『ぐで~~っ』と寝そべって『だら~~っ』としていた。

 

「……質問。ひょっとしなくても、疲れてる?」

「いいか、元々最低限の授業と訓練、クエスト以外は図書館に引き籠っていた人間が昼から動きまわってんだ。どう考えても過重労働としてアドミニ訴えても許されるわ」

 

 全会一致で却下されること間違いなしである。

 

「……でも、ゲー君、ちゃんと三食食べるようになった。嬉しい」

「あー、うん。……金の管理をしてくれてるパルフェと、俺たちの弁当作ってくれるお前には素直に感謝してる。エリーも、店を開くために色々下準備に走り回ってるようだし……うん。正直、最高のメンツが集まってると確信してる。でもな――」

 

 ゲイリーは、クッションに顔をうずめて全身の力を更に抜き、イカか何かのような軟体生物の様になっている。

 

「マジで仕事増え過ぎ。本来だったらいくつか提示される中から選ぶクランのクエストシステムを無視して、完全指定の物を選んでおくなんざ、この間の偽造クエストの件も含めて、どう考えても妙な流れに乗せられてる」

「……質問」

「あいよ」

「嫌な感じ?」

「……どうだろうな」

 

 ゲイリーはクッションを腰に当てるように座り直し、

 

「先日の件は、まぁ、正直なんとなく誰が仕掛けたかは分かってる。その上で、当面の間は無視していいと思ってたんだが――」

「だが?」

「……ドミノ倒しって言うのかね」

 

 心から面倒くさそうにゲイリーは呟く。

 

「なんか、本人の前じゃ絶対に言えないけど、パルフェの才能が引き金になって、均衡が崩れてしまったように見えるんだよな」

「? ……権力?」

「……欲、かな。……や、権力とも密接な訳だから合ってるっちゃ合ってるが……」

 

 座りなおして一度姿勢が良くなったゲイリーだか、またズルズルと軟体化していくゲイリー。

 

「まぁ、どちらにせよウチの方針は変わらない。程々に力を付けて、最終的に皆でのんびりできる生活ができればそれでいい」

「ん」

 

 ラヴィは、小さい器にソースを垂らしながら、小さく頷く。どうやら試作品にはキリをつけて、夕食の支度に入るようだ。

 

「私も協力する」

「? 戦闘では十分以上に――」

「否定。剣もそうだけど、料理も」

 

 その言葉に、ゲイリーは少し目を見開いて驚く。

 ラヴィという少女が、そういう料理――例えば接待などに使われるのを凄く嫌っているのをよく知っているからだ。

 作る料理、食べる料理にこだわりがあるのならば、食べる人間にもこだわりを持つのがラヴィニアだ。

 どれか一つでも融通を利かせれば、対人関係も今よりも断然上手くいったのだろうが――そうだったからこそ、ラヴィとゲイリーの関係は続いているのかもしれない。

 

「お前、取引とかに自分の料理使われるの大嫌いだったろう?」

「肯定。今でも余り好きじゃない、けど……」

 

 ラヴィは、今日の昼に仕込んでおいた鍋を弱火でじっくり温めながら、ゲイリーの方を見る。

 

「それで、パフェちゃんとエーちゃんの周りが少しでも静かになるなら……」

「ラヴィ……」

 

 不覚にも、少し胸がジーンとするゲイリー。

 ゲイリーはあんまり見せない、優しい笑みを見せる。

 

「ゲー君は……まぁ、いい」

「おいこら」

 

 なお、あんまり長持ちはしなかった模様。

 

 

 

 

 

 

 

「でも――皆でゆっくり食事が出来る日が楽しみ」

「うん……まぁ、あれだ……その中にちゃんと俺は入っているんだろうな? ……ねぇ、ちょっと!!??」

 

 


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