剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・ 作:rikka
「だ・か・ら! 実質クエスト3つ分は働いたじゃねーか! なんで一個分にしかカウントされてねーんだよ受付嬢!?」
「ですから! クエスト受注以前に登録もされてなかった以上、達成クエストには数えられないって何回言わせるんですか!! 偽造されたクエストを一回分にするのすら揉めたんですよ!? あといい加減名前で呼んでください!!」
「うるせぇ! こっちはもう一月分どころか下手したら二月分は働いとるわ! 出費で言えば俺なら余裕で一年は過ごせるレベルだぞ! もう十分ですー! 今月はもうウチのクランはお休みですぅぅぅっ!」
「駄々こねてないで働けぇぇぇぇっ!!!」
色々と忙しかった一連の騒動が終わって数日後、週に一度の完全休校日。
ゲイリーたちのクラン・ベースでは、また小さな争いが勃発していた。
「いいか? ストリクスの変異相手にクッソ高いアイテムをぶっこんで、警備隊とエマの派閥をこっそり繋げて、さらには密輸人共とそいつら口封じに来た連中とっ捕まえたんだぞ」
「だから、アドミニ特別報奨金を出す事に……その……5000ダリーですけど」
「少なすぎるわ馬鹿たれっ!?」
ゲイリーとレティのどうしようもなくしょーもない舌戦をBGMに、ゲイリー・クランの面々はそれぞれの時間を過ごしている。
「こ、これが背ワタなんですよね?」
「そう、左手でしっかり支えて……丁寧に引き出す。そう」
キッチンでは、ラヴィが手伝いを申し出たパルフェに下ごしらえのやり方を教えながら、シュリンプの調理をしている。
「あ、あの、私なんかがリクエストなんてしてよかったんでしょうか?」
「問題ない。……シュリンプ、好き?」
昼食を作るという話になった時に、ラヴィが全員に食べたい物と聞いた所、エリーとゲイリーの二名が『じゃあ、パルフェの食べたい物で』と彼女に解答権を押し付けたために、こういう事になっている。
「いえ、その……実は食べた事がないんです。川に住んでるちょっと大きなシュリンプなら、たまに素揚げにして食べてたんですけど」
パルフェが少し顔を赤くしながらそう言うと、近くのイスに座ってなにか本を読んでたエリーが、
「あー、確かに。アタシのトコでも、海鮮物って大抵塩漬けの魚か干物くらいしかなかったからなぁー……うん、海のシュリンプって食べた事ないなぁ……」
と後を続けた。実際、街レベルならともかくそこらの村や集落では、海鮮物というものは非常に贅沢な物だった。
エリー達の言葉に、ラヴィはいつもの表情のまま、
「把握。今日の昼食も、夕食も、期待してていい」
心なしか、少しいつもより柔らかい表情で、そう言うのだった。
「――ぜぇ、ぜぇ……と、いうわけでですね? 今回の一件は少々複雑ですが、我々アドミニの不手際と言う事もありまして……聞いてますか? ぐーたらさん」
「誰がぐーたらさんだ、受付嬢」
「ふふん。どうです? 名前を呼ばれないのってなにかモヤッとするでしょう? ここらで、私の事を名前で呼んでくれてもいいんですよ?」
「じゃあいいや。で、アドミニ側は、雀の涙程の報奨金とは別に何で補填してくれるんだ?」
「ちょっと諦め早すぎませんか!!? 私の名前を呼ぶだけですよ!?」
一方、こっちはこっちで全く収集がついていない。
ツッコミ役になりうる全員の頭が、食事の方に向かっていて不在のためである。
「あぁ、もう! と・に・か・く! 今回、ゲイリーさん達には多大なご迷惑をおかけしましたので、特例としていくつかの権限を認める事になったんです! はい!!」
レティがバンッ! と書類は机に叩きつける。
ゲイリーはため息を吐きながらそれを手に取り――
「……このクランのランクを上げる?」
「そうです。本来ならばランク2クランへの昇格には、もっと実績を積んでいただく必要があるのですが……ゲイリーさんとラヴィさんの活躍は多くの方が見ていますので」
そんなもんかね、とゲイリーは、先ほどパルフェが持ってきたクッキーを一つ口にして、紅茶で流しこむ。
「これにより、露店もクラン専用のスペースが使えるようになりますし、他のクランやギルドとの共同クエストも受注可能になります」
露店はまだ早いと思うが、共同クエストというのはこの男にとって悪くない。
人数が多ければ、少なくとも自分の負担は減るからだ。
「クラン専用の露店スペースなんてあるの?」
ひょいっと、いつの間にかこちらに来ていたエリーがゲイリーの後ろの背もたれに手を置いていた。
「えぇ。通常の学生向けの露店スペースよりも一回り広く、また、場所取りも多少は楽になります」
それでもやっぱり競争は激しいですが、と苦笑するレティに、エリーは目を煌めかせる。
「先輩!」
「いや待て待て、売りだせる物がまだないだろうが……」
「う……」
理由は未だ聞いていないが、物を売る事に執着するのがエリーだ。
手元にいい商品がない事に気がつき、うなだれるエリーに、
「提案。作ってもいい」
今度はラヴィが声をかける。どうやら、少し作業にキリがついたようだ。
「作る?」
「肯定。長持ちする焼き菓子とかパンとか……後、干物とか瓶詰のような保存食なら作れる」
「おぉ。おぉ……っ」
エリーは手元をパンッと合わせて喜びをあらわにする。
「あ、でも。先輩大丈夫? 作業の手間とか」
「大丈夫。クエストとかで出かける時の為の準備と一緒にやっておく」
ラヴィは、エプロンを付け直しながら
「美味しい物が広まってくれるなら、全面的に協力する。仲間だし」
そう言って、珍しく――本当に珍しく、少しだけ口元を吊りあげて見せた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『で、ランク2クランとして動く訳ね。まさかクラン設立からこんなに早く昇格するなんて、滅多にないんじゃないかしら?』
レティはゲイリー達にその他の説明をした後、エマからの贈り物だと言って一つの魔具を置いて行った。
互いに登録した二機の間での会話が可能になる特別な物だ。見た目は綺麗な八面体の結晶の様なものが、宙に浮いている。なお、登録されているもう片方は、当然エマである。
「……お前じゃないのか? 後押ししたのは」
半ば確信を持ってそう問いかけるゲイリーだが、エマは『なんの事かしら?』とはぐらかすだけだ。
『まぁ、おめでとうと言っておくわ。これで色々と出来る事が増えたんでしょ?』
「あぁ、色々な施設も使えるようになったし……俺のベースの所がちょっと特別でな」
『特別?』
「クラン・ベース区域としては素晴らしい過疎っぷりでな。33エリアの特待生、知ってるか?」
『あぁ……例の学生商人』
「アイツと同じでな。実質、その気になれば改築してもいいって事になった」
『………………周りのクラン・ベースの場所を取りこんで?』
「取り込んで。実質、今度お隣の無人ベースを解体して、ウチの自由に使えるスペースになる」
エマはそれを聞くとため息を吐き、
『貴方、本格的に一大クランを作る気かしら?』
「まさかだ。それに、ここのクランベースが超過疎ってるのはお前んトコの派閥のせいでもあるんだからな?」
基本的に、新しいクランを設立するのは難しくないが、大抵最初のクエストで力量を見誤って痛い目を見る所が多い。
そうならないように、エマはアドミニと連携して、少しの間自分達の派閥と行動を共にさせてクラン運営に慣れさせているのだが――
『……仕方ないじゃない。向こうからこちらの傘下に入りたいって言うんだから』
「人気者はつらいな」
『放っておきなさい』
少々、今のままでは不味いという自覚はあるのか、エマも少し口調がぎこちない。
『それで、結局の所、特別課題の達成は認められたのかしら?』
「あぁ、無事にな。ただ、奇妙な事になっててな――」
ゲイリーは首をかしげながら、
「ある程度の授業単位の免除が認められたんだ。、あぁ、その分クラン運営とクエストやってこいって意味なんだろうけど」
『……』
ゲイリーにとって、これは何とも言えない結果である。
ある意味ぐーたら出来る時間が増えそうだが、よくよく考えると実働時間がめちゃくちゃ増えている気がしなくもない。
『まぁ、ある意味で貴方にとってはいいことじゃない。どうせしばらくの間は、クランの基礎固めで忙しいでしょう』
「くそっ、俺に忙しいと言わせるとは……ノアの野郎、アイツやっぱり俺の敵だな」
『……えぇ、まぁ、そうかもしれないわね』
魔具の向こう側で深いため息を吐くエマ。
「おう、言いたい事があるなら言えよコルァ」
『いえ、別に。ただ――貴方は何があっても貴方のままなのね』
「???」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「んー! 美味しい!」
新鮮なガーリックを使用した特製ガーリックオイルと香辛料で炒めたシュリンプ。
初めて口にする料理に、エリーとパルフェは舌鼓を打つ。
「それにしても、初めてのクエストが一応成功できてよかったです」
「まぁ、無事に結界の修復も完了。ゴチャゴチャしてたけど商人の身柄も保護ってか確保、先輩達もアタシ達も点数稼げて、万々歳だね!」
「肯定。ただし、私とゲー君はクエスト受注が急務」
メインディッシュの他にパンとサラダ、スープとバランスの整ったランチを食べながら、ゲイリー達4人は今後の話し合いをしようという事になった。
「一応、私達はまだ基礎教育期間という事で、クエスト達成義務というのはないんですけど、ゲイリーさん達は最低でもあの二つはいけないとイケないんですよね?」
「それに加えて、クランとしてのランクが上がったから、もう一つクエスト受けなきゃなんねぇ……」
ちくしょう、拡大しなきゃいけねーけど拡大したくねぇと嘆くゲイリー。
「まぁ、でも、しばらくは全員授業に専念でいいだろ。特にお前ら――っていうか、パルフェは魔力制御の特別補修がそろそろ始まるはずだ」
ゲイリーの言葉に、パルフェが少し顔を青ざめさせる。やはり、全てのきっかけとも言える、あの魔力暴発が少しトラウマになっているようだ。
それを察したラヴィが、
「大丈夫。パフェちゃん達の学校の校長は、魔法を教えるのが得意な人」
「だから勧めたんだ。あそこの学校はまともだし、エリーはともかくパルフェの性格だと共学校よりも女学校の方が楽だろうってな」
二人が割と真剣に自分の事を考えてくれていて、少し嬉しくなるパルフェ。
「ま、当面の間はそれぞれ学校生活だな。パルフェ達も、次の週からは本格的に授業が始まる」
パルフェは、志望という訳ではないが魔法。エリーは志望通り商学をこれから学んでいく事になる。
「まぁ、基本的に時間の空いている時は俺かラヴィは大体ベースにいる。用があるならいつでも来てくれ。一応、鍵も渡しておく」
「……訂正。ここにいなければゲー君は多分図書館にいる」
「そしてお前はここのキッチンに籠りっきりになるだろうな」
伊達に図書館の
変わり者同士という意味では、ある意味お似合いのコンビである。
「二週間程で春の感謝日を含んだ連休になる。その前後あたりで、簡単な旅行も兼ねたクエストを選んでおく」
「――出来るだけ安全で、簡単で、作業量も少ない奴?」
「良く分かってるじゃないか、エリー」
日頃から働きたくない発言を連呼していれば、誰だって予想はつく。
「ま、次の時まで学校生活を楽しみな。この街は、いろんな意味でとんでもないことやぶっ飛んだ事が良く起こるが――」
「――悪くない街だよ。俺が保障する」