剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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13.荒野の4人

 クエストを受けた学生達の朝は早い。イヤ、本当に。

 特に討伐や探索系のクエストの場合、当然だがまともに活動できるのは日が昇っている間になる。

 必然、朝日が昇る前に起床し、日の出と共に行動を開始するのが基本である。

 

「うぼぁ~~~~。ね、眠ぃ……ラヴィ、何か眼の覚めるヤツ頼む」

 

 よって、遅くまで起きていると大体こうなる。

 

「ゲイリー団長、昨日は帰って来ませんでしたけど、大丈夫ですか?」

「ん~~? おぉ、大丈夫大丈夫。そのまま馬小屋で寝てしまったけどふぁぁぁぁぁぁぁ……」

「おー、見事な欠伸……。先輩、馬乗ってる時に寝ぼけて落ちないでよ? そのままアタシが危なくなるんだから」

「わぁってるわぁってる……」

 

 なんとかアクビを噛み殺そうとするゲイリーに、ラヴィが淹れ立ての珈琲を差し出す。

 彼女が厳選し、持参した豆を挽いたものだ。

 当然だが、普通は持ってくるのは茶葉か、腐りにくい酒であって、わざわざ珈琲豆を持ってくるクランなどここしかない。

 

「一応、朝食も用意してある。持ち運びできる物だけど、後で食べる?」

「いや、美味いもんは美味い状態でゆっくり食べたい」

「ん、分かった。ソース温めてくるから、ちょっと待ってて」

 

 そういうとラヴィは、調理場へと戻っていく。ちなみにメニューは昨日の肉の余りに、宿で買ったチーズを使ったトーストサンドウィッチ、ホワイトソース和え。

 これを作るために、顔にこそ出さないが、ラヴィも睡眠時間を普段よりも削っているはずである。

 

「いやぁ、正直ラヴィ先輩のご飯だけでもここ選んで良かったかも」

 

 昨夜のウェイストゴートのステーキにスープ、保存食の乾燥パンを浸したシチューという夕食――いや、その前からパルフェ達はラヴィに完全に胃袋を掴まれていた。

 

「ラヴィも言ってたよ。余計な事を考えずに料理を食べさせられる人が出来てよかったってな」

「? 余計な事……ですか?」

「色々あんのさ」

 

 料理の力を借りた交渉や接待の依頼や、場合によっては既成事実を作り上げ、ラヴィニアを自陣営に取り入れようとするものなど、様々である。

 

「さて、それじゃ――今日の探索エリアの説明から入ろうか」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 痕跡を見つけるのに時間はかからない。

 

「先輩、これって馬の蹄跡じゃない?」

「わ、私にも……それらしく見えます」

「ん~……? ん、確かにソレっぽい。運が良かったのもあるが、二人ともよく見つけられたな」

 

 だって昨晩の狩りの時点ですでに見つけているのだから。

 

「二人とも良く見つけた。エライ」

 

 無表情というのは便利である。白々しいと言われる可能性が極端に低くなるのだから。

 

「この蹄の形だと……向かったのってこちらの方ですよね」

「蹄の跡を追うか、遡って商人の物だという事を確かめるか。選択肢としてはこんな所だな」

 

 ゲイリーがそう言うと、エリーは難しい顔のまま蹄跡を見つめ、パルフェは不安そうにゲイリーとラヴィを見る。

 

「だ、団長はどうするつもりですか?」

「……正直、どっちでもいい、かな。パルフェ、エリー、お前らならどうする?」

 

 ゲイリーとラヴィは、今回敢えてパルフェ達新入り二人に選択を任せてみる事にした。

 クエストの際の流れや空気を覚えるには、まず観察と選択の二つを覚えさせる事からだというのがラヴィの意見だった。

 戦う機会が少ないとはいえ、自分でそういった癖を付けておくのは大事だ、と。

 ゲイリーとしても、観察はともかく、可能な限り自分の意見はバンバン言ってほしかった。

 

 魔物と遭遇戦になる可能性は十分あるが、そうなってもいいように可能な限り装備や逃走補助のアイテムを揃えていた。

 でなければ、先日のレーシー・ウッドのような高級食材――もとい高級素材は大量に売った金が、すぐにすっからかんになる訳がない。

 

「ゲイリー先輩はともかく、ラヴィ先輩は強いんだよね?」

「おう、俺はともかくってどういう意味だこら。泣くぞ。みっともなくジタバタ泣きわめいてやるぞコラァ」

 

 斬新すぎる脅し方に、パルフェ達も乾いた笑いしか出ない。

 

「……懸念は不要。ゲー君は、攻撃力に不足する事もあるけど、補助と逃走戦は強い。チームを組んで一番安心できるのはゲー君」

 

 ラヴィがそう言うと、エリーはともかくパルフェは少し納得したような目になる。実際にワームと戦う所を見ているからだろう。

 その様子を見て、エリーはまた考えだしている。

 少し経ってから、ゲイリーは言う。

 

「俺は基本的に弓以外は何にも出来ない。だから、なにをするかは出来るだけ皆で決めたい。その……分かるだろ」

 

 ゲイリーがそう言うと、二人はおずおずと顔を上げる。

 

「パルフェ、エリー。お前らの意見、聞かせてもらえるか?」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「エマ様! 御足労いただき――」

「お決まりの言葉はいいわ。捜索状況は?」

 

 教師陣や警備員が揃う中、エマ自身も可能な限りの人員を揃えて西部の森へとやって来た。

 謎の負傷者を発見するためだ。

 鎧に身を包み、短槍と剣で武装した女学生の集団が、エマを先導して森の奥へと案内する。

 クエストも中々出ない、完全に触られない土地である。この少人数で平然としている事から、エマを含めた全員のレベルの高さが伺える。

 

「例の遺留品が発見されたのはこの辺りです。その場所に血痕や、また魔物が暴れた気配がなかったので、ご指示の通り、小隊単位で辺りの探索を」

「成果は?」

「一つだけ」

 

 そうして歩いていると、急に明るくなった。朝日が辺りを照らしだしたのだ。

 いや、それだけではない。

 

「……これはまた……」

「手前勝手でしたが、捜索中の人員の一個隊編成を、二個隊編成へと変更させていただきました」

「それでいいわ。ありがとう」

 

 忠実な部下に、心から礼を言うエマ。それに対し、女生徒達は軍人もかくやの見事な敬礼で答える。

 エマは、慕ってくれる部下達を嬉しく思いながら、同時に厄介な事になったと上を見上げる。

 頭上を覆うはずの木々がなぎ倒され、朝焼けに染められつつある、美しい空を。

 

「一体、何が入り込んできたのかしらね」

 

 

 恐らく、空からこの森を見れば、この森に奇妙な模様が見えるのだろう。

 樹木をたやすくへし折るような何かが、這いずりまわった跡が。

 

「……ゲイリーのクランは、確か昨日からクエストだったわね?」

「はっ。現在、北部荒野で探索クエストの実地中と」

「……いきなり戦闘の可能性があるクエストなんて彼らしく――パルフェのための実績作りか。……まったく、こういう時こそ彼の力を借りたかったのだけれど……」

 

 エマの愚痴に、隊長格の女生徒が頷く。

 

「二か月前の盗賊団討伐依頼の際、悪化しつつある状況をあの方に守っていただきました。こと、守る戦い方に関して、あの方以上の人材は自分は存じ上げません」

 

 恐らく、この街では珍しい尊敬の目で彼の事を語る部下に、緊急時だというのに少しだけ気分が高揚するのをエマは感じた。

 

「えぇ、そうね。ゲイリーはそういう男なのよ」

 

 だからこそ、この場にいて欲しかったとため息を付いたエマは、すぐに事前の策に移る。

 

「すぐに、門外広場で待機している傘下の生産職組合(ギルド)メンバーの所へいくわ。どうやら、準備が色々必要みたい」

「では――」

「えぇ」

 

 

 

 

 

「総力戦よ。傘下の学生、装備、そして権限。使える物は全て使うわ」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 昨日と同じ様に、二人で一頭の馬に乗って荒野を進む4人。その向かう先は――

 

「可能な限りまで蹄跡を追って捜索。異変を察知次第状況のチェック。場合によっては撤退」

「そう。いざという時は街道まで一気に逃げるから心配ない」

 

 ラヴィがそう言うと、その背中にしがみついているパルフェは、自分を納得させるようにコクコクと頷いた。

 かなり怯えている様子だが、救出できる可能性の高い方がいいと言い出したのは彼女だったりする。

 

「うーん……早計だったかもってすこーし後悔かもかも」

 

 逆に、あっけらかんとした態度と裏腹に不安を口にしたのはエリーだ。

 

「早計、か。何か気になる事でも?」

「や、先輩。気になる事もなにもさ」

 

 ゲイリーの腰から手を離し、エリーは蹄跡の続く先――前方に生い茂る森。

 

「どう見てもこれ非常事態だよね!?」

 

 ――だった場所を指で示す。

 本来ならば木々が生い茂る、その空間を濃緑に染めていただろう所が、超局所的な嵐にポッカリ穴が開いていた。

 木々はなぎ倒され――いや、吹きとばされており、簡単な道といえる物が出来上がっている。

 

「まぁ、こんな日があってもいいじゃないか」

「こんな日ってどんな日!? 森が吹っ飛ばされて見通しが良い日!?」

 

 エリーの叫び声が、ゲイリーの鼓膜を貫通し、脳みそを揺さぶりノックアウトする。

 

「だぁー! 大丈夫だって! この吹っ飛ばされてる方向を見ろ!」

「この方向なら、グレイ・マターの方。向こうの方に行けば魔物避けの結界がある」

「そういう事だ。魔物避けの結界は、詳しい理論は今度教えるが強い魔物ほど近づけない。多分、逃げた商人もそれ知ってんだろ。今頃商人も結界内に逃げ込んでるだろうし、その惨状作った……魔物も……」

 

 どこかに行くはず。そう言おうとしたゲイリーの口が止まる。

 ラヴィも、そしてエリーもその理由を察し、ちらっとその原因に目を向け

 

 

 

 ――泣きそうになっているパルフェの顔を確認し、全員一斉に目をそむけた。

 

 

 

 

 

 

 


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