闇鍋 in 幻想郷   作:触手の朔良

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ほぼ同時に進めれば、不満も少ないんじゃないかなと云う画期的(?)な発想!
……アンケートの意味です? ……と、投稿の後先とか。


B【申し訳ないが丁重に断る】ルート
6B話 ぶらり人里散策


 ――すいません。

 己の申し訳無さが伝わる様に、深々と頭を下げる。

 だからアナタは咲夜がどんな――酷くショックを受けた――表情をしていたのか解らない。霊夢がどんな――勝ち誇った――表情をしていたのか解らない。

 顔を上げ少女の様子を伺うと、哀しそうな、それでいて悔しそうな顔を浮かべていた。

 アナタは今一度謝罪を口にする。それが一体どんな慰めに、足しになるというのだろう。それでも、口にせずにはいられなかった。

「行きましょう○○。じゃぁね咲夜」

「あっ、○○さん……!」

 やけに上機嫌になった霊夢が腕を取る。

 咲夜の口から名残惜し気にアナタの名前が呼ばれる。だが霊夢の力は思いの外強く、本気を出せば振り解けなくも無いが、そんな下らない真似で霊夢を傷つけるわけにもいかない。

 アナタはどんどんと遠ざかる咲夜に手を振った。

 

 

「阿求はいるかしら?」

 霊夢が稗田家の軒先を掃除している下女に話し掛ける。下女は慌てながらも畏まった様子で頭を下げてきた。博麗の巫女という肩書は大層なものらしい。

 一方で当人たる霊夢はさして気にしてもいないのか、興味無さ気にひらひらと手を振るだけだった。

 少々お待ち下さい――。その言葉を残し下女は屋敷の中へと姿を消した。

 一見しただけでも、立派な屋敷だと分かる。

 周囲の家々と比べ、白漆喰の高い塀で囲われており全貌は把握出来ないものの、塀の上から覗いて見える瓦屋根の量からして、どれだけ大きいのかが伺える。

「ま、幻想郷で生活するなら、とりあえずここに挨拶しておけば間違いないわよ」とは霊夢談。

 そのような経緯もあって稗田家へとやって来たのだが。

「阿求に会いに来たのなら、残念だったな」

 門戸から長身の女性が姿を現した。

 彼女が稗田の当代なのだろうか、とも思ったがどうやら違うようだ。

「何であんたがここにいるのよ」

「いや何。博麗の巫女が尋ねて来るとは、いやはや珍しい事もあると思ってな」

 口調は男性的だが、彼女を男と見紛う馬鹿はおらぬだろう。何せ彼女の身体は出るとこが出て、大変男性受けの良さそうな肉付きをしているのだから。

「それで、そちらの男性は?」

 女の興味深げな目が、アナタに注がれる。

 アナタは一つ頭を下げ、己の名前を口にした。

「これはこれは、ご丁寧にどうも。上白沢慧音だ。よろしく頼む」

 挨拶と同時に慧音は手を差し伸べてきた。

 彼女の顔と手を交互に見やり、アナタはそっと、壊れ物を扱うかの様に手を握り返した。

 その事に慧音は驚いた様な表情を浮かべて、そしてはにかんだ笑顔を見せた。

「……ちょっと。もういいでしょ」

 何がいいのか悪いのか、さっぱり分からないが、霊夢がぶすっとしながら握られた手を解いてきた。

「――ふむ。本当に、珍しいな」

 そんな霊夢の様子を見て、慧音は小さく零した。耳聡い巫女は聞き捨てる事無く、慧音を一睨みした。そんな巫女の態度に気を悪くするでもなく苦笑を浮かべる慧音。

「残念だが、今阿求は出払ってしまっているよ。行き先は、おそらく貸本屋だろうな。もし急ぎであるならそちらに向かうといい」

「小鈴ちゃんとこね。ありがと」

 それで霊夢は興味を失ったのか、早速稗田家を背に向けた。

 霊夢の切り替えの良さに置いてかれそうになったアナタは、慌てて彼女の後を追おうとする。

「えぇと。○○さん、だったかな?」

 丁度一歩目を踏み出した所で声を掛けられ、危うく転びそうになる。

 たたらを踏んだ所で振り返ると、慧音は苦笑を浮かべていた。

「あ、いや。幻想郷もそう悪い場所じゃぁないんだ。住めば都というか、ぜひあなたにも好きになって欲しい」

 呼び止めた慧音はちょっと言葉に詰まって、そんな事を告げてきた。

 アナタはしっかりと頷き返す。そんなアナタの様子に慧音は何だか胸を撫で下ろしたようだ。

「ちょっと~。○○~?」

 少し離れたところから、霊夢が名前を呼んでいる。

 アナタはもう一度別れの挨拶を口にして、霊夢の元へと駆けて行った。

 そんな二人を見送り、慧音は自問する。何故、と。

(何故私は、○○を呼び止めたのだ?)

 そうなのだ。最初○○が霊夢の元へと行こうとした時、彼を呼び止めたのは彼女の意思では無かったのだ。なんとなく、そうなんとなく意味も無く呼び止めてしまったのだった。

「何故、私は――」

 疑問は遂に口を吐いて出る。

 ――あんな事を口走ってしまったのだ。

 考えても考えても答えは出ず、ただ自分に問う度、心の中で○○の存在が大きくなる感じがした。

「慧音さん?」

「……阿求か?」

 己の名前を呼ばれ慧音の意識は現実に引き戻される。

 そこには屋敷の主である少女の姿があった。

「どうしたんです、このような軒先で。呆けておいででしたよ?」

 やんわりと微笑む阿求の姿はどこか儚げで、深窓の令嬢の様な印象を受ける。しかし深い付き合いのある慧音には、彼女がそのようなか細い少女では無い事を知っている。同時に、そんな印象を与える原因もまた、知っていた。

 稗田の使命。人里の重鎮。その小さな双肩に、不釣り合いな重荷を負っている彼女には敬意の念を抱かざるを得ない。

「慧音さん?」

「あぁ、いや。博麗の巫女が訪ねてきていたぞ」

「霊夢さんが? 珍しいですね」

「あぁ、珍しいことだ。更に、だ。これを聞いたら驚くこと受け合いだぞ」

「まぁ。何かしら?」

 博麗の巫女が男を連れていただなんて、天狗が知れば異変だと騒ぐかもしれない。それぐらいに珍事であった。

 この小さい友人が一体どのような表情で驚くのか、想像するだけで笑みが零れてしまいそうだ。

「……それにしても、悪いことをしたなぁ」

 阿求に聞こえぬよう、慧音は小さく呟いた。

 これでは行き違いになってしまったな。と慧音は苦笑して頭を掻いた。




好感度状況

霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆☆
アリス:★★★
文:☆
咲夜:★★
慧音:★

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