闇鍋 in 幻想郷   作:触手の朔良

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ちょっと試験的な文章になっています。
【】内で区切られた文章へと飛んでください。いえ、普通に上から読んで頂いても構わないんですけども。


7A話 ウィッチラブ

「はふぅ……」

 パチュリーは本を閉じ目を瞑り、心地良い読了感に身を委ねていた。

「中々面白かったわね」

「ぬわぁにが面白かったわね、ですか! 百歳越えたババアちゃんがカワイ子ブリッ子してげふぅ!」

 小悪魔が間髪入れずに茶々を入れると、瞬間顔面から本が生えた。総ページ千超えの辞典である。パチュリーの見事なコントロールに惜しみない賞賛を送ろう。

「……全く、失礼な子ね」

 小悪魔が倒れるのとほとんど同時、パチュリーはソファーへ身を沈めた。

 つい先程まで、自分の心を楽しませていた本の表紙を撫ぜる。

 咲夜が赤い糸だ何だと云うから、久々に恋愛小説を手にとってみたわけだが。

「はぁ……。私もこんな恋がしてみたいわね」

 その、普段は溜め息ばかり吐いている唇から、熱を含んだ吐息が溢れる。

 朱の差した頬、潤んだ瞳。その横顔は正に恋に恋する少女といった風情である。

「まぁムリですよねパチュリー様には。だって年中図書館に籠もって出会いなんてげふぅ!!」

 復活をはたした小悪魔が、懲りずに合いの手を入れる。次の瞬間、彼女の顔面には二千ページ超えの大百科がめり込んでいた。

「……もうちょっとは気の利いた台詞を言えないのかしら、この使い魔は」

 実はパチュリー、こんな使い魔を喚び出すくらいには寂しがりであった。本人は頑なに認めないだろうが。

 そうしてもう一つ、実は結構な結婚願望の持ち主でもあった。それ故に――何で咲夜なのかしら?――小指を見つめては溜め息を吐いていた。

「いやぁでもやっぱりムリでしょう。何せパチュリー様が最後に男性と会話したぼぶふぅ!」

 小悪魔の辞書には懲りる、という言葉が無いのかもしれない。

 本、と呼ぶのすら冒涜的な厚みを持ったモノが小悪魔の顔面を潰した。試しに表題に目を通してみれば、『死霊秘本(ネクロノミコン)』と書いてある。そのような扱いでいいのか、七曜の魔女よ。

 盾としてはそこそこに役立つ使い魔ではあるが、寂しさを紛らわせるにはとんと役立たずである。

 パチュリーは盛大に溜め息を吐き、再び本の世界へ没頭しようとした。

 ドォン――! すぐ近くから、爆発音が響く。

 こんな時に、招かれざる客がやってきたようだ。

「小悪魔――」

 ソイツを追い払う為の装置は、未だ床の上で四肢を投げあられもない姿を晒していた。

 パチュリーは頭痛を覚えながらも、しょうがなくネズミ撃退の為に重い腰を上げる。

 まぁ、泥棒退治にでも精を出せば、このモヤモヤとした気も紛れるかしら、ね……。

 

 

「こちらへ○○さん。お暗いので足元にはご注意を」

 門前で何やかんやと一悶着あったものの、アナタは咲夜に紅魔館の中を案内されていた。

 真昼だと云うのにカーテンが閉め切られ、館内は薄暗い。

 咲夜は霊夢をいない者として扱っているようだ。霊夢もまた、咲夜の指示になど従わず我が物顔で館内を進んでゆく。

 どこまで連れてゆくのだろうか? 玄関ホールを過ぎ階段を昇り、暫くの間無言で廊下を進んでいる。応接間、であれば大方入り口の近くに設置されてる筈だが……。

 アナタがそんな思考に囚われていると、遠くから爆発音が響いた。全くの同時に館が僅かに揺れる。

 何事だろうか? 不安を覚えたアナタは少女の顔を交互に見やる。完璧で瀟洒なメイドは渋面を作っているし、巫女もまた何とも言えない表情をしていた。共通点は、二人とも心当たりがある、と云う事だろう。

 三人の歩みが、廊下の真中で止まる。

 さて、困惑するアナタは彼女らの指示を待つしか出来ない。

「――! ――!」

「――ッ! ――――!」

 暫くすると、廊下の奥から何者かの声が聞こえる。好奇心に駆られたアナタは耳を研ぎ澄ませてみた。どうやら二つの声が激しく言い争っているようだ。

 しかし、その内容までは解らない。分かるのは、その声が段々と近付いているという事だ。

「――待ちなさい魔理沙!」

「おいおい! 待てと言われて――」

「待つ馬鹿はいないなんて、えぇ、おおよそ馬鹿のする返答よね!」

 最早聞き間違え様の無いぐらいに、二つの声はハッキリと耳に届いた。その内一つが知り合ったばかりの人物だった為、アナタは「おや?」と首を捻る。そんなんだからだろう。

「○○ッ!」

「○○さん!」

 反応が、遅れてしまったのは。

 霊夢と咲夜が声を張り上げたのはほぼ同時だ。

 そして間髪入れずに、廊下の闇から箒に乗った魔女が姿を見せた。

 魔理沙の瞳がアナタを認識すると、彼女の顔が驚愕に彩られた。

 アナタは――。

 

 ――【反応することが出来なかった】

 ――【慌てて伏せる】

 

 

 

 

 ――【反応することが出来なかった】 魔理沙好感度+1

 

「ちょっ!? どけえぇぇぇぇ――!?」

 魔理沙の叫びも虚しく、二人は正面から衝突した。

 その速度、衝撃を殺し切る事など不可能で、二人は組んず解れつ、絡み合い、転がり合った。

 そうして、最初の位置から十メートル程移動した所で、ようやく勢いが死んだ。

「いててて――」

 魔理沙の痛みを堪える声が、アナタの下から聞こえる。そう、下である。

「まったく……。何でこんなところにいるんだ、ぜ――?」

 アナタは、丁度魔理沙を組み敷いているような体勢になっていた。押し倒した、と言い換えても良い。

 すぐ目と鼻の先には、少々男勝りな、されど十二分な乙女心を所有している少女の顔がある。意外にも長い睫毛。少し栗色に近い猫っ毛な金髪。不安に揺れる瞳。

 アナタの目の前には、怯える少女の姿があった。

 それより何より重大な事がある。

 ……アナタの手の位置だ。

 片方の手は、あぁ、問題ないとも。床に手を付き、少女を押し潰さぬようにアナタの身体を支えている。

 もう一方の手は、言わずもがな、お約束というヤツである。

 もみもみ――。

 アナタは目の前の状況が信じられず、思わず確認する様に指を動かしてしまった。薄くとも柔らかい、少女特有の感触が、これが現実なのだと思い知らせてくる。

 少女(まりさ)の表情が一気に険しいものへと変わった。

 乾いた、音が響く。

 アナタは頬に、灼けつく様な痛みを覚えた。

 目の前には、瞳に涙を(たた)え、腕を振り抜いた魔理沙の姿が。

「バカ野郎!」

 呆けているアナタの腕の中で、魔理沙は藻掻きすり抜けると、それだけ叫んであっという間に姿を消してしまった。入れ替わりに現れたのが、息せき切ったパチュリーだった。

 アナタに残ったのは魔理沙の落とした本と、霊夢と咲夜の冷たい視線だけ。

 ――【※】

 

 

 

 

 ――【慌てて伏せる】 パチュリー好感度+1

 

「ちょっ!? どけえぇぇぇぇ――!?」

 考えるよりも早く、反射的に伏せる。

 魔理沙の叫びがドップラー効果を残し、頭上を通り抜けていった。

 ……何だったのだろう?

 アナタは身を起こし、身体についた埃を払った。

 そう、魔理沙という一難を避けた事で油断してしまったのだ。失念してしまったのだ。

 叫び声が、二つだった事を。

「むきゅうぅぅぅ――!?」

 へ? と、聞き慣れない叫びにアナタは呆然と振り向く。

 眼前に紫色の少女の姿があった。少女の表情もまた、アナタ同様に驚きに染まっている。とても躱す事など出来そうもない。

 ドン! 強い衝撃が胸と、一寸遅れて背中を襲う。

 押し倒されたのだと、直ぐに気付いた。さて、少女一人を受け止められ無かった貧弱を嘆くべきか、はたまた少女を下敷きにせずに済んだ事を喜ぶべきか。

 兎も角、起き上がろうとするも、覆い被さる少女のおかげで中々上手くいかない。というかだ――。

「むきゅぅ……!」

 恐る恐る、瞼を開ける。目と鼻の先、少女の顔が入った。目の下にある隈からちょっと不健康な印象を受けるものの、美少女と、形容するのに些かも過不足無い顔立ちである――ってそうじゃない。

 近い、少女の顔が。近すぎる。互いの吐息が、やけに五月蝿く感じられるぐらいの正面に、少女の顔が接していた。

 何かの間違いでふっと、少女の背が押されでもしたら、過ちを犯してしまうぐらいに距離が、近い。どころか迂闊に動いただけでも触れてしまうんじゃないのか……?

 胸に覆い被さる、彼女の体温。柔らかい感触。アナタは、相手に自分の心音が聞こえないか、思わず心配になってしまう。

 対してパリュリーの混乱は(アナタ)の比ではなかった。

(ななな、なんで(おろこ)(ひろ)がいるのよぉ~~っ!?)

 心の中の言動が、噛んでしまうほどである。

(てて、っていうか近いちかい近過ぎるわよっ!)

 自分のふにゃふにゃとした肉体と異なる、硬い筋肉。さして鍛えているものでもないが、根本として有り様の異なるソレに動かない図書館の脳みそは沸騰寸前だった。

(こ、こんな時はどうすればっ!? えぇっと、『恋愛辞典五十六頁第二章、男の人の気を惹く為』には確か――!?)

 こんな時でも本で得た知識に縋ろうとする辺り、感心するべきか呆れるべきか。

 パチュリーが脳内の記憶を手繰り何とか状況の打破を試みようとすると――。

 突然、己の身体が宙に浮いた。いや、正確に言えば床との間、支えとして合った男の身体が前触れ無く消え失せたのだ。

「むっきゅん!?」

 二十センチにも満たない空間を、パチュリーは重力に引かれるがまま落ちた。突然の出来事に勿論、防ぐ手立てもなく思い切り鼻をぶつける事になった。

 では、アナタは一体どこへ消えたのだ?

 アナタは、突如切り替わった視界の景色に戸惑いを隠せない。視界いっぱいに広がる美少女から、変哲の無い廊下の景色。そうしてすぐ隣には、不機嫌を隠そうともしない咲夜の姿があった。

 彼女はアナタの身体に付いた埃を払う。やけに力の篭った加減で。ちょっと痛い。

 そうして最後にギロリと睨まれてしまった。アナタは己の不可抗力を訴えようとしたが、このような状態の女性に理屈は通じないと諦め、軽蔑の視線を甘んじて受け入れる事にした。

 ふと、己が倒れ込んでいたすぐ近くに、一冊の本が落ちているのを発見した。

 おそらく魔理沙が、急制動した時に落としていったのだろう。

 アナタは何気なくそれを手に取り、表紙の埃を払った。

 ――【※】

 

 

 

 

 ――【※】

「コホン。……本を取り戻してくれたのね」

 気まずい沈黙を断ち切るよう、パチュリーと名乗った少女はコホンと一つ咳き込み、努めて冷静さを装い切り出した。

 そうしてアナタは手の中の本がパチュリーのものだと察する。

 それがどうして魔理沙が持っていたのだろうか、いや深くは考えまい。

 あんなに必死になって追い掛けるのだ。きっと大切な本なのだろう。

 アナタは手ずから丁寧に本を返した。パチュリーの頬に朱が差す。

「あ、ありがとぅ……」

 感謝の言葉は語尾にいく程小さくなり、最後には聞き取れないぐらいか細いものとなっていった。

 特に自分が、何をしたという訳でもないが、ここは素直に受け取っておこう。

 ――どういたしまして。

 やんわりと微笑みながら返答する。パチュリーは耳まで赤くして俯いてしまう。

 そうして渡された本を大事に抱えて、慌てた様子で走り去ってしまう。声を掛ける暇もない。

 ろくすっぽ自己紹介も出来ずに、パチュリーは消えてしまった。

 彼女の行動がいまいち腑に落ちず、アナタは二人の少女に答えを求めた。

 ――どうしたんだろう?

 霊夢と咲夜は互いの顔を見、頷き、アナタを挟むように身を寄せてきた。

 ほとんど同時に両脇腹を抓られて、アナタは痛みに飛び跳ねた。理不尽!




好感度状況

霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆(★)
アリス:★★★
文:☆
咲夜:★★
美鈴:★
パチュリー:★(★)


これが今後の展開にどのような影響を与えるのでしょうか、ゴクリ……?
いえ、あんまり深く考えて無いので、もしかしたら無かった事になるかもです。
影響を、与えるんですかねぇ……?

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